IDESコラム vol. 49「ポリオ根絶につづけ!麻しん、風しん対策」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年8月16日

IDES養成プログラム5期生:匹田 さやか

 IDES5期の匹田です。4月はFETP(実地疫学専門家養成コース)の初期導入コースに5期生全員で参加しました。私は5,6月の国立感染症研究所での研修を経て、7月から省に在籍しております。
国立感染症研究所では、感染症疫学センターの先生方にお世話になりました。主に前半は、危機管理に必要なリスクアセスメントについて学び、後半はワクチンの普及や副反応報告、またサーベイランスについても勉強する機会をいただきました。
国立感染症研究所は新宿区にある戸山庁舎と武蔵村山市にある村山庁舎があり、毎日戸山庁舎で研修を受けましたが、1日だけ村山庁舎に足を運ぶことができました。村山庁舎のアウトリーチ活動の一環で、ワクチン世代の赤ちゃんの親御さんを対象にした、疫学センターの先生によるワクチン説明会に同席させていただいたためです。

 会場は民家でした。
 普段は就学前のお子さんとその保護者が自由に遊べるひろばで、ちょっとした子育ての相談もでき、お昼の時間には持ってきたお弁当を食べることもできるそうです。担当の方によると、この活動を始めてから、地域のワクチン接種率が顕著に改善したとの事でした。実は前日に「ワクチン忌避」の講演を聴きましたが、「ワクチンの普及に大切なのは、その地域のワクチンへの信用」という内容が印象的な講演でした。
このアウトリーチ活動は、参加者各々がひとつ決めた質問に、先生が答える形式でした。正しい情報を提供できるだけでなく、親御さんたちがワクチンに対して抱く疑問を知ることもできる、お互いに実りのある時間でした。
大切なこどもを守りたい気持ちは、親御さんも先生も同じで、先生がわかりやすく説明する機会があったから、この地域ではワクチンへの信用が得られ、接種率が上がったのだと実感しました。

 7月から省での勤務が始まり、WHOによる世界ポリオ根絶計画に関わらせていただいております。予防接種でこそ、ポリオという病名にはなじみがありますが、今日の日本でポリオの患者さんを診察する機会はとても少なくなりました。1960年初頭に生ワクチンが普及し、日本では1980年を最後に野生株のポリオ患者の発生はなくなりました。
ポリオウイルスは、口から体内に侵入し、咽頭や小腸粘膜で増殖します。感染しても90-95%は発症しませんが、4-8%でカゼのような症状を生じます。感染者の0.1%に手や足のだらんとした麻痺が現れ、一生残ってしまうことがあります(1)。日本では2012年に経口の生ワクチンではなく、予防注射による不活化ワクチンが定期接種化されました(2)。
生ワクチンは腸管内で分泌型IgA抗体を上昇させるため、ポリオの予防に非常に有効です。しかし、患者の発生がなくなった日本で、ポリオが流行する可能性はとても低く、また、ポリオ根絶に向けた最終的な取り組みとして、ポリオウイルスを含む材料の廃棄が推進されており(3)、現在は不活化ワクチンによる定期接種を行っています。

 過去にWHOにより根絶が宣言された病原体に天然痘があり、ポリオも根絶間近まで来ました。麻しん、風しんも根絶が可能と言われていますが、風しんについては現在日本国内でも感染が拡大しています。妊娠中、風しんに感染することで、おなかの中の赤ちゃんに先天性心疾患、白内障、難聴を生じてしまう、先天性風しん症候群が今年も発生しています。
今麻しん風しんワクチンを普及して感染拡大を阻止することで、麻しん、風しんもきっと、天然痘やポリオのように過去の病気になってくれるに違いないと信じています。

<参考:厚生労働省 風しんの追加的対策ページ>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index_00001.html

<注釈>
(1) http://idsc.nih.go.jp/disease/polio/yobou.html
(2) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/qa.html
(3) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/dl/topics_20151211.pdf

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で4年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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