健康・医療5種混合ワクチン
5種混合ワクチンによって、ポリオ、百日せき、破傷風、ヒトインフルエンザ菌感染症(Hib感染症)、ジフテリアのような重篤な疾患の予防ができます。生後2か月から初回の接種を行い、一定期間を経て追加の接種を行います。
疾病の性質
ジフテリアの概要
ジフテリアはジフテリア菌により発生する疾病です。その発生は最後に報告されたのが、1999年であり稀になりましたが、かつては年間8万人以上の患者が発生し、そのうち10%程度が亡くなっていた重要な病気です。
主に気道の分泌物によってうつり、喉などに感染して毒素を放出します。この毒素が心臓の筋肉や神経に作用することで、眼球や横隔膜(呼吸に必要な筋肉)などの麻痺、心不全等を来たして、重篤になる場合や亡くなってしまう場合があります。
※より詳しい情報については下記リンクをご参照ください。
ジフテリアとは(NIID)
ジフテリアにかかった場合、一般に10%程度の方が亡くなってしまうといわれています。また、特に5歳以下や40歳以上の年齢の場合は重くなりやすく、最大で20%の方が亡くなってしまうといわれています。
破傷風の概要
破傷風は、破傷風菌により発生し、かかった場合に亡くなる割合が非常に高い病気です。以前は新生児の発生もみられましたが、近年は30歳以上の成人を中心に患者が発生しています。
主に傷口に菌が入り込んで感染を起こし毒素を通して、さまざまな神経に作用します。口が開き難い、顎が疲れるといった症状に始まり、歩行や排尿・排便の障害などを経て、最後には全身の筋肉が固くなって体を弓のように反り返らせたり、息ができなくなったりし、亡くなることもあります。
※より詳しい情報については下記リンクをご参照ください。
破傷風とは(NIID)
百日せきの概要
百日せきは百日咳菌によって発生します。名前のとおり激しい咳をともなう病気で、一歳以下の乳児、とくに生後6か月以下の子どもでは亡くなってしまうこともあります。
主に気道の分泌物によってうつり、咳のために乳幼児では呼吸ができなくなるために全身が青紫色になってしまうこと(チアノーゼ)やけいれんを起こすことがあります。また、窒息や肺炎等の合併症が致命的となることがあります。
百日せきにかかった場合、一般に0.2%(月齢6か月以内の場合は0.6%)のお子さんが亡くなってしまうといわれています。また、肺炎になってしまうお子さんが5%程度(月齢6か月以内の場合は約12%)いるとされており、その他けいれんや脳炎を引き起こしてしまう場合もあります。
※より詳しい情報については下記リンクをご参照ください。
百日せきとは(NIID)
ポリオ(急性灰白髄炎)の概要
ポリオ(急性灰白髄炎)は脊髄性小児麻痺とも呼ばれ、ポリオウイルスによって発生する疾病です。名前のとおり子ども(特に5歳以下)がかかることが多く、麻痺などを起こすことのある病気です。
主に感染した人の便を介してうつり、手足の筋肉や呼吸する筋肉等に作用して麻痺を生じることがあります。永続的な後遺症を残すことがあり、特に成人では亡くなる確率も高いものとなっています。
※より詳しい情報については下記リンクをご参照ください。
ポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)とは(NIID)
ポリオウイルスに感染した場合、弛緩性麻痺を起こす割合は1%以下とされていますが、麻痺性の急性灰白髄炎を発症した場合には、一般に2~5%のお子さんが亡くなってしまうといわれています。また、特に成人の場合は重くなりやすく、15~30%の方が亡くなってしまうといわれています。
Hib感染症の概要
Hib感染症は、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Haemophilus influenza type b)という細菌によって発生する病気で、そのほとんどが5歳未満で発生し、特に乳幼児で発生に注意が必要です。
主に気道の分泌物により感染を起こし、症状がないまま菌を保有(保菌)して日常生活を送っている子どもも多くいます。この菌が何らかのきっかけで進展すると、肺炎、敗血症、髄膜炎、化膿性の関節炎等の重篤な疾患を引き起こすことがあり、これらを起こした方のうち3~6%が亡くなってしまうといわれています。また、特に髄膜炎の場合は、生存した子どもの20%に難聴などの後遺症を残すといわれています。
※より詳しい情報については下記リンクをご参照ください。
Hib感染症とは(NIID)
ワクチンの効果
1つのワクチンで5つの感染症を予防する効果が期待できます。それぞれの感染症に対する効果として知られているのは、以下の通りです。
- ポリオに対して、ワクチン接種により、99%の方が十分な抗体を獲得すると報告されています。
- 百日せきの罹患(りかん)リスクを、ワクチン接種により、80~85%程度減らすことができると報告されています。
- 破傷風に対して、ワクチン接種により、100%近い方が十分な抗体を獲得すると報告されています。
- ジフテリアに対して、ワクチン接種により、罹患リスクを95%程度減らすことができると報告されています。
- Hibによる髄膜炎や髄膜炎以外の侵襲性感染症を減少する効果が期待できます。Hibワクチンは我が国を含め世界の多くの国々で現在使用されており、その結果、Hibによる髄膜炎症例は激減しています。2008-2010年とHibワクチン定期接種化後の2014年を比較すると、インフルエンザ菌髄膜炎の5歳未満人口10万人あたり罹患率が、7.7から0.0に100%減少し、インフルエンザ菌による髄膜炎以外の侵襲性感染症の罹患率が5.1から0.5に90%減少しました。
接種の対象者とスケジュール
2024年度以降、5種混合ワクチンを主に用いることとしています。
5種混合ワクチンを用いる場合
- 初回接種:生後2~7か月に至るまでの期間を標準的な接種期間として20日以上(標準的には20~56日まで)の間隔をおいて3回接種します。
- 追加接種:初回接種終了後6か月以上(標準的には6~18か月まで)の間隔をおいて1回接種します。
4種混合ワクチンを用いる場合
- 初回接種:生後2~7か月に至るまでの期間を標準的な接種期間として20日以上(標準的には20~56日まで)の間隔をおいて3回接種します。
- 追加接種:初回接種終了後6か月以上(標準的には6~18か月まで)の間隔をおいて1回接種します。
単味のHibワクチンを用いる場合
Hibワクチン単味を用いた場合は以下のようなスケジュールで実施します。(1)が標準的なスケジュールです。なお、細かいルール等の詳細については母子健康手帳、自治体または接種を受ける医療機関に確認してください。
(1)初回接種開始時に生後2~7か月のお子さん
- 初回接種:生後12か月までに、27日以上(標準的には27~56日まで)の間隔をおいて3回接種します。
- 追加接種:初回接種が終わった後、最後の接種から7か月以上(標準的には7~13か月まで)の間隔をおいて1回接種します。
(2)初回接種開始時に生後7~12か月のお子さん
- 初回接種:生後12か月までに、27日以上(標準的には27~56日まで)の間隔をおいて2回接種します。
- 追加接種:初回接種が終わった後、最後の接種から7か月以上(標準的には7~13か月まで)の間隔をおいて1回接種します。
(3)初回接種開始時に1~5歳のお子さん
- 1回接種します。
使用するワクチン
2024年4月以降、1期では5種混合ワクチンを用いた接種をします。
5種混合ワクチンとは、ジフテリアワクチンを、百日せき・破傷風・不活化ポリオ・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)の各ワクチンと混合したワクチンです。
ワクチンの安全性
国内で行われた5種混合ワクチンの臨床試験において報告された、頻度の高い副反応は以下のとおりです。
阪大微研製のワクチンでは、皮下注射の場合は発熱(37.5℃以上)が57.9%、接種部位の紅斑が78.9%、接種部位の硬結が46.6%、および接種部位の腫脹が30.1%でした。
KMバイオロジクス製のワクチンでは、皮下注射の場合は接種6日後までに発現した発熱が65.2%、接種部位の紅斑が75.7%、接種部位の硬結が51.0%、および接種部位の腫脹が38.1%でした。
また、5種混合ワクチンの臨床試験における発熱の頻度が他のワクチンより高いことについては、審議会(※)において、他のワクチンとの同時接種の影響があり得る等の指摘がありますが、5種混合ワクチンに係る安全性について大きな懸念は指摘されておりません。
なお、5種混合ワクチンの、その他の副反応に関する情報については、添付文章等をご確認ください。
(参考)
ゴービック添付文書(PMDA)
クイントバック添付文書(PMDA)
※審議会資料(P42、43)
接種を受けられない方
以下の方は、接種を受けることができません。
- 5種混合ワクチンの成分によってアナフィラキシーを起こしたことがある方
また、以下のような場合は接種を受けることができませんので、治ってから受けるようにしてください。
- 発熱している。
- 重篤な急性疾患にかかっている。
接種に注意が必要な方
以下の方は、接種にあたって注意が必要なので、あらかじめ医師に相談してください。
- 心臓、腎臓、肝臓、血液の病気や発育障害がある方
- これまでに、予防接種を受けて2日以内に発熱や全身の発疹などのアレルギー症状があった方
- けいれんを起こしたことがある方
- 免疫不全と診断されている方や、近親者に先天性免疫不全症の方がいる方
- 5種混合ワクチンの成分でアレルギーを起こすおそれのある方
Q&A
※がついたタイトル部分を押下で回答が閲覧できます。
5種混合ワクチン
2024年9月30日版
ワクチンについて
Q1 5種混合ワクチンは、どのようなワクチンですか?
5種混合ワクチンとは、ジフテリアワクチンを、百日せき・破傷風・不活性ポリオ・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)の各ワクチンと混合したワクチンです。2024年4月から定期接種での使用が可能となりました。
Q2 5種混合ワクチンの接種によってどのような症状(副反応)が起こる可能性がありますか?
国内で行われた5種混合ワクチンの臨床試験において報告された、頻度の高い副反応は以下のとおりです。
●阪大微研製のワクチンでは、皮下注射の場合は発熱(37.5℃以上)が57.9%、接種部位の紅斑が78.9%、接種部位の硬結が46.6%、および接種部位の腫脹が30.1%でした。
●KMバイオロジクス製のワクチンでは、皮下注射の場合は接種6日後までに発現した発熱が65.2%、接種部位の紅斑が75.7%、接種部位の硬結が51.0%、および接種部位の腫脹が38.1%でした。
また、5種混合ワクチンの臨床試験における発熱の頻度が他のワクチンより高いことについては、審議会(※)において、他のワクチンとの同時接種の影響があり得る等の指摘がありますが、5種混合ワクチンに係る安全性について大きな懸念は指摘されておりません。
なお、5種混合ワクチンの、その他の副反応に関する情報については、添付文書等をご確認ください。
(参考)
ゴービック添付文書(PMDA)
クイントバック添付文書(PMDA)
※審議会資料(P42、43)
接種スケジュールや接種方法
Q3 5種混合ワクチンの接種を行ったほうがよいのはどんな人ですか?
接種の対象者は、生後2か月以上生後90か月(7歳6か月)に至るまでの小児です。
Q4 5種混合ワクチンで実施する場合の、標準的な接種回数、接種スケジュール、接種方法を教えてください。
5種混合ワクチンを使用する場合は、以下を標準的な接種回数、接種スケジュール、接種方法としております。
- 初回接種として、生後2か月以上7か月未満の方に対して、3週間から8週間の間隔で3回皮下または筋肉内に接種するものとし、1回につき接種量は0.5mLです。
- 追加接種として、3回目の接種後6か月から18か月の間隔で1回皮下または筋肉内に接種するものとし、接種量は0.5mLです。
なお、5種混合ワクチンから可能となった「筋肉内注射」の接種する部位については、各社の5種混合ワクチンの添付文書における「薬剤接種時の注意」において、「通常、1歳未満の者には大腿前外側部、1歳以上の者には大腿前外側部または上腕三角筋中央部とし、臀部には接種しないこと。」等と記載されています。
Q5 5種混合ワクチンを、他のワクチンと同時接種できますか?他のワクチンとの接種間隔は?
医師が必要と認めた場合に限り行うことができます(なお、本剤を他のワクチンと混合して接種してはなりません)。
また、他のワクチンを接種する際の接種間隔について、日数制限は設けておりません。
Q6 生後7か月を超えて、5種混合ワクチンを用いてHib感染症に対する予防接種を初めて希望した場合、接種方法はどうなりますか?
5種混合ワクチンを使用する場合とHib単味ワクチンを使用する場合では接種方法が異なり、5種混合ワクチンでは生後7か月を超えても接種回数を減らす必要はありません。
ポリオ
2024年9月30日版
感染症について
Q1 ポリオってどんな病気ですか?
・ポリオは、人から人へ感染します。
ポリオは、ポリオウイルスが人の口の中に入って、腸の中で増えることで感染します。増えたポリオウイルスは、再び便の中に排泄され、この便を介してさらに他の人に感染します。成人が感染することもありますが、乳幼児がかかることが多い病気です。
・ポリオウイルスに感染すると手や足に麻痺があらわれることがあります。
ポリオウイルスに感染しても、多くの場合、病気としての明らかな症状はあらわれずに、知らない間に免疫ができます。
しかし、腸管に入ったウイルスが脊髄の一部に入り込み、主に手や足に麻痺があらわれ、その麻痺が一生残ってしまうことがあります。
麻痺の進行を止めたり、麻痺を回復させるための治療が試みられてきましたが、現在、残念ながら特効薬などの確実な治療法はありません。麻痺に対しては、残された機能を最大限に活用するためのリハビリテーションが行われます。
Q2 日本ではもうポリオは発生していないのに、ポリオワクチンの接種が必要なのですか?
・予防接種によってポリオの大流行を防ぐことができました。
日本では、1960(昭和35)年に、ポリオ患者の数が5千人を超え、かつてない大流行となりましたが、生ポリオワクチンの導入により、流行はおさまりました。1980(昭和55)年の1例を最後に、現在まで、野生の(ワクチンによらない)ポリオウイルスによる新たな患者は出ていません。
・今でも、海外から、ポリオウイルスが国内に入ってくる可能性があります。
海外では、依然としてポリオが流行している地域があります。パキスタンやアフガニスタンなどの南西アジアやナイジェリアなどのアフリカ諸国です。
ポリオウイルスに感染しても、麻痺などの症状が出ない場合が多いので、海外で感染したことに気が付かないまま帰国(あるいは入国)してしまう可能性があります。症状がなくても、感染した人の便にはポリオウイルスが排泄され、感染のもととなる可能性があります。
・ポリオに対する免疫をもつ人の割合が減ると、流行する危険があります。
仮に、ポリオウイルスが日本国内に持ち込まれても、現在では、ほとんどの人が免疫を持っているので、大きな流行になることはないと考えられます。シンガポール、オーストラリアなど、予防接種の接種率が高い国々では、ポリオの流行地からポリオ患者が入国しても、国内でウイルスが広がらなかったことが報告されています。しかし、予防接種を受けない人が増え、免疫を持たない人が増えると、持ち込まれたポリオウイルスは免疫を持たない人から持たない人へと感染し、ポリオの流行が起こる可能性が高まります。
ワクチンについて
Q3 ポリオの予防接種はどのようなワクチンで行いますか?
以前は生ポリオワクチンを使用して定期接種を実施していましたが、2012年9月から、不活化ポリオワクチンを使用して定期接種を実施しています。
不活化ポリオワクチンについては、単味の不活化ポリオワクチン、4種混合ワクチンまたは5種混合ワクチンを使用することができます。5種混合ワクチンは、百日せき・ジフテリア・破傷風・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)の各ワクチンと不活化ポリオワクチンを混合したワクチンであり、2024年4月から定期接種での使用が可能となりました。
接種スケジュールや接種方法
Q4 5種混合ワクチンで可能となった筋肉内注射とはどのような接種方法ですか?
筋肉内注射とは、ワクチンなどの医薬品を皮下脂肪の奥にある筋肉内に直接注射する方法のことを指します。接種する部位については、各社の5種混合ワクチンの添付文書における「薬剤接種時の注意」において、「通常、1歳未満の者には大腿前外側部、1歳以上の者には大腿前外側部または上腕三角筋中央部とし、臀部には接種しないこと。」等と記載されています。
Q5 不活化ポリオワクチンを、他のワクチンと同時接種できますか?他のワクチンとの接種間隔は?
医師が特に必要と認めた場合は同時接種可能です。
また、他のワクチンを接種する際の接種間隔について、日数制限は設けておりません。
Hib感染症
2024年9月30日版
感染症について
Q1 ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)について教えてください。
ヘモフィルスインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、通性嫌気性グラム陰性桿菌ですが、フィラメント状・球菌状なども呈し、多形性を示します。芽胞や鞭毛を持ちません。菌を被う莢膜多糖体の有無により有莢膜株と無莢膜株に分けられ、有莢膜株はa-f型の6血清型に分類されます。
一般に有莢膜株の方が無莢膜株に比べ病原性が強く、その中でも特にb型(Hib)株がもっとも病原性が高いとされ、乳児や小児の敗血症や髄膜炎、急性喉頭蓋炎などの侵襲性感染症の起因菌となることが多いことが知られています。
Hibは、ヒト以外の動物では自然宿主はなく、自然界から検出されることはほとんどありません。
Q2 Hibによる感染症について教えてください。
Hibが引き起こす侵襲性疾患は多くの器官におよびます。Hib感染症による侵襲性疾患には菌血症、髄膜炎、急性喉頭蓋炎、化膿性関節炎、骨髄炎、心外膜炎などがありますが、侵襲性感染症とは通常無菌とされている血液、関節内液、髄液などから細菌が検出される感染症であり、肺炎は含まれません。なお、潜伏期間は内因性感染が多いため不明です。
わが国において、Hibワクチンの定期接種等が実施される以前では、細菌性髄膜炎において同定可能であった起因菌は、頻度の差があれ、ほとんどの年齢でHibが第一位を占めていました。髄膜炎の多くは発熱で始まり、けいれん、意識障害へと進行し、抗菌薬治療にも関わらず死亡することがあります。また、一部は、突然のショック症状や意識障害で発症し短期間で死亡に至ることもあります。菌血症の多くは発熱を主症状とする潜在性菌血症(occultbacteremia)として発症し、他の侵襲性感染症の前病態とされています。Hib菌血症は肺炎球菌による菌血症に比較して高率に髄膜炎などとの合併や続発がみられます。
急性喉頭蓋炎は高熱、咽頭痛で発症し、嚥下困難、流涎がみられます。顎の挙上、開口および前傾姿勢が特徴とされ、急激に進行する気道閉塞による死亡も多いとされています。
Q3 Hibによる感染はどのように拡がりますか?
Hibはヒトーヒト感染をする細菌であり、感染経路は、保菌者からの気道分泌物の吸引による飛沫感染または直接接触による感染です。
Q4 Hibによる感染症にはどのような疫学的な特徴がありますか?
Hibは、乳児や小児の敗血症や髄膜炎、急性喉頭蓋炎などの侵襲性感染症の起因菌となることが多いことを知られています。Hibワクチンの定期接種等が実施される以前の2008年と2009年に10道県で実施されたわが国で最も大規模なサーベイランス報告では、Hib髄膜炎の発症頻度は5歳未満小児人口10万人あたり7.5~8.2、全国で年間403~443例とされ、非髄膜炎の侵襲性細菌感染症(多くは菌血症)の頻度は、5歳未満小児人口10万人あたり3.7~5.4、全国で年間203~294例とされていました。ただし、全国報告ではないことや抗菌薬の前投与による起因菌不明例もあるため、過小評価している可能性もあります。また、Hibワクチンの定期接種等が実施される以前には、分離同定された細菌性髄膜炎の起因菌としては、インフルエンザ菌と肺炎球菌が多く、5歳以下ではインフルエンザ菌による髄膜炎症例が60~70%と報告されていました。Hib髄膜炎の死亡率は、0.4~4.6%であり、聴力障害を含む後遺症率は11.1~27.9%とされていました。
2013年にHibワクチンが定期接種化された後のデータでは、小児のHibによる侵襲性感染症例は顕著に減少しています。10道県で実施されたサーベイランス報告では、Hibワクチン導入後の2014年には、Hibを含めたインフルエンザ菌による髄膜炎罹患率は0となりました。
Q5 Hibによる感染症のハイリスク群について教えてください。
Hibによる感染症は、B細胞による免疫が未発達で、さらに経胎盤移行した抗体が減退する生後4か月から18か月の乳幼児に多いことが知られています。国立感染症研究所によるHib感染症発生データベースによると、Hibワクチンが定期接種化される前の2009年5月-2010年1月までの9か月間に登録された200症例において、0歳が36%、1歳が31%、2歳が17%、3歳、4歳がそれぞれ6.5%、5歳が2%で、0-2歳までで84%を占めていました。
また、先天的あるいは後天的な免疫不全症例では、Hib感染症に罹患しやすいことがわかっています。
ワクチンについて
Q6 Hib感染症の予防に使用するワクチンはどのようなワクチンですか?
現在、わが国で接種されているHibワクチンは、乾燥ヘモフィルスb型ワクチン(破傷風トキソイド結合体)です。Hibワクチンの抗原は、莢膜多糖であり、B細胞が未熟な乳幼児では免疫原性が低いため、破傷風トキソイド(キャリア蛋白)との結合体がワクチンとして使用されます。Hibワクチンについては、単味のHibワクチンまたは5種混合ワクチンが使用できます。5種混合ワクチンは、百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオワクチンの各ワクチンとHibワクチンを混合したワクチンであり、2024年4月から定期接種での使用が可能となりました。
Q7 Hibワクチンにはどのような効果が期待できますか?
Hibによる髄膜炎や髄膜炎以外の侵襲性感染症を減少する効果が期待できます。Hibワクチンは我が国を含め世界の多くの国々で現在使用されており、その結果、Hibによる髄膜炎症例は激減しています。米国CDCによれば、1990年代からHibワクチンを定期的に使用したことにより、5歳未満の子どものHib感染症は99%減小し、10万人に1人より小さい発生率になったと報告されています。また、我が国においても、2008-2010年とHibワクチン定期接種化後の2014年を比較すると、インフルエンザ菌髄膜炎の5歳未満人口10万人あたり罹患率が、7.7から0.0に100%減少し、インフルエンザ菌による髄膜炎以外の侵襲性感染症の罹患率が5.1から0.5に90%減少しました。
Q8 Hibワクチンの接種を行ったほうがよいのはどんな人ですか?健康な小児でも接種は必要ですか?
接種の対象者は、生後2か月以上60か月(5歳)に至るまでの小児です(5種混合ワクチンを使用する場合は生後90か月(7歳6か月)に至るまで接種可能)。健康な小児であってもヘモフィルスインフルエンザb型(Hib)感染症を発症するリスクがあることから、接種することが勧められます。
Q9 Hibワクチンの効果はどのくらい持続しますか?
ワクチンの効果の持続期間は、集団免疫効果や自然ブースター効果などのため正確に求めることは難しいですが、Hib単味ワクチンの知見として、6年後までは予防効果が高く保たれるという報告や、8年間持続するという報告があり、これらのデータから、0歳~1歳時に接種した場合、少なくともヘモフィルスインフルエンザb型(Hib)感染症のリスクが高い5歳未満までは効果が持続することが期待されます。
Q10 以前、Hibによる感染症にかかった人でも、Hibワクチンを接種したほうがいいですか?
年齢にもよると思いますが、B細胞が未発達な年齢では、Hib感染により十分な抗体上昇は期待できません。したがって、Hibによる感染症に罹患した方でも、Hibワクチンの接種は意義があると考えられます。
Q11 Hibワクチンの成分を含む5種混合ワクチンの接種によってどのような症状(副反応)が起こる可能性がありますか?
国内で行われた5種混合ワクチンの臨床試験において報告された、頻度の高い副反応は以下のとおりです。
- 阪大微研製のワクチンでは、皮下注射の場合は発熱(37.5℃以上)が57.9%、接種部位の紅斑が78.9%、接種部位の硬結が46.6%、および接種部位の腫脹が30.1%でした。
- KMバイオロジクス製のワクチンでは、皮下注射の場合は接種6日後までに発現した発熱が65.2%、接種部位の紅斑が75.7%、接種部位の硬結が51.0%、および接種部位の腫脹が38.1%でした。
また、5種混合ワクチンの臨床試験における発熱の頻度が他のワクチンより高いことについては、審議会(※)において、他のワクチンとの同時接種の影響があり得る等の指摘がありますが、5種混合ワクチンに係る安全性について大きな懸念は指摘されておりません。
なお、5種混合ワクチンの、その他の副反応に関する情報については、添付文書等をご確認ください。
(参考)
ゴービック添付文書(PMDA)
クイントバック添付文書(PMDA)
※審議会資料(P42、43)
接種に注意が必要な場合
Q12 接種不適当者、接種要注意者はどんな人たちですか?
接種不適当者、接種要注意者は以下のようになっていますので、ご注意ください。
【接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)】
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、接種を行ってはいけません。
(1)明らかな発熱を呈している方
(2)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方
(3)本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな方
(4)上記に掲げる方のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある方
【接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)】
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態および体質を勘案し、診察および接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。
(1)心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を有する方
(2)予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた方および全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある方
(3)過去にけいれんの既往のある方
(4)過去に免疫不全の診断がなされている方および近親者に先天性免疫不全症の方がいる方
(5)本剤の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある方
Q13 アレルギーのある人にHibの予防接種はできますか?
「Q12接種不適当者、接種要注意者はどんな人たちですか?」をご参照ください。
接種スケジュールや接種方法
Q14 Hibの予防接種を5種混合ワクチンで実施する場合の、標準的な接種回数、接種スケジュール、接種方法を教えてください。
5種混合ワクチンを使用する場合は、以下を標準的な接種回数、接種スケジュール、接種方法としております。
- 初回接種として、生後2か月以上7か月未満の方に対して、3週間から8週間の間隔で3回皮下または筋肉内に接種するものとし、1回につき接種量は0.5mLです。
- 追加接種として、3回目の接種後6か月から18か月の間隔で1回皮下または筋肉内に接種するものとし、接種量は0.5mLです。
なお、5種混合ワクチンから可能となった「筋肉内注射」の接種する部位については、各社の5種混合ワクチンの添付文書における「薬剤接種時の注意」において、「通常、1歳未満の者には大腿前外側部、1歳以上の者には大腿前外側部または上腕三角筋中央部とし、臀部には接種しないこと。」等と記載されています。
Q15 Hibの予防接種を単味のHibワクチンで実施する場合の、標準的な接種回数、接種スケジュール、接種方法を教えてください。
単味のHibワクチンを使用する場合は、以下を標準的な接種回数、接種スケジュール、接種方法としております。
- 初回接種として、生後2か月以上7か月未満の方に対して、4週間から8週間(医師が必要と認めた場合は3週間)の間隔で3回皮下に接種するものとし、1回につき接種量は0.5mLです。
- 追加接種として、3回目の接種後おおむね1年の間隔で1回皮下に接種するものとし、接種量は0.5mLです。
Q16 生後7か月を超えて、Hibワクチンの接種を初めて希望した場合、接種方法はどうなりますか?
5種混合ワクチンを使用する場合とHib単味ワクチンを使用する場合では、接種方法が異なります。5種混合ワクチンでは、生後7か月を超えても接種回数を減らす必要はありませんが、Hib単味ワクチンを用いて接種する場合、接種開始が生後7か月以降となった際は、以下のように接種回数を減らす方法により接種を行うこととなります。
○接種開始年齢が生後7か月以上12か月未満の場合
- 初回接種:通常、2回、4~8週間の間隔で皮下に注射します(1回につき0.5mL)。ただし医師が必要と認めた場合には3週間の間隔で接種することができます。
- 追加接種:通常、初回接種後おおむね1年の間隔をおいて、1回皮下に注射します(0.5mL)。
○接種開始年齢が1歳以上5歳未満の場合・1回皮下に注射します。(0.5mL)
Q17 Hibのワクチン接種がその他ワクチンの接種の時期と重なった場合に、他のワクチンとの同時接種は可能ですか。また、他のワクチンの接種までに間隔を空ける必要はありますか?
医師が必要と認めた場合に限り行うことができます(なお、本剤を他のワクチンと混合して接種してはなりません)。
また、他のワクチンを接種する際の接種間隔について、日数制限は設けておりません。
関連通知
関連審議会・検討会
その他の定期接種ワクチンを年齢別に見る
相談窓口
厚生労働省は、インフルエンザをはじめとした感染症の一般的予防方法、流行状況や予防接種の意義、有効性、副反応等に関する国民の皆様の疑問に的確に対応するため、「感染症・予防接種相談窓口」を開設しています。
【感染症・予防接種相談窓口】
電話番号:0120-469-283(午前9時~午後5時 ※土日祝日、年末年始を除く)
※行政に関する御意見・御質問は受け付けておりません。
※本相談窓口は、厚生労働省が業務委託している外部の民間会社により運営されています。