IDESコラムvol.82「時間・空間・社会を軸に感染症を考える」
2024年11月22日
IDES養成プログラム10期生:目時史衣
IDES10期生の目時史衣(めとき ふみえ)です。2024年4月よりIDESに所属し、国内研修をしています。
IDESになる前は、消化器外科・救急の分野で臨床医をしていました。今まで災害での健康危機には取り組んできましたが、感染症での健康危機は私にとって新しい分野であり、刺激的な日々を送っています。このコラムは、ハロウィンが終わり、クリスマスのイルミネーションが目立つようになった時期に書いています。地方に足を運べば稲刈りを終えた田んぼに霜が降りるようになっており、IDESになってから月日が経っていることに気づかされます。
大枠では、臨床でも公衆衛生分野でも、何らかの問題をみつけて解決するプロセスになりますが、新しい分野では、従来の思考回路ではピンとこないことが多々あります。その理由を、問題を分類しながら少し考えてみました。
最初に、時間を軸にして問題を分類してみます。1分1秒が大切になる状況は手術中や救命救急センターでの診療中で扱われます。一方、AMR(Antimicrobial Resistance:薬剤耐性)は、現時点だけをみるのでなく未来を見据えた対策をしており(対策がない場合、2050年にはAMRによる年間死亡者数が1000万人となり、がんの死亡者数を超えると言われています)、その対策自体も2016-2020アクションプラン、2023-2027アクションプランというように年単位の対策が行われています。
次に、空間を軸にして問題を分類します。基本的に病院では医療圏をもとにカバーしているエリアが示されると思います。また、一臨床医では、患者一人ひとりを診ることになり、そもそも空間という認識を持たないこともあると思います。一方、感染症における公衆衛生では普段の自分の生活圏を越えた空間の認識が必要です。ある地域・国ではよくある感染症でも、別の地域・国では未知の感染症であるため、同じ疾患でもリスクが異なり、また、それにより、対応を変える必要があります。例えば、世界には麻疹患者が相当数いる国もありますが、日本は2015年に世界保健機関西太平洋地域事務局より排除状態にあることが認定されているため、1例でも麻疹の報告があると対応が必要になります。
社会を、最小単位を個人、そして最大単位を全人類と考えると、それも感染症を考える上で重要な軸になると考えます。臨床では個人を単位とした問題を扱いますが、公衆衛生では全人類を対象にする場合もあります。そして、個人と全人類との間に、特定の集団が存在すると考えます。大きくは年齢や人種、性別、また、職業や既往、さらに嗜好などでも分類されます。一部の集団の人が罹患しやすい感染症もあるため、それぞれの集団をより理解した取り組みが必要になります。また、一部の集団の人が罹患しやすいと思われていた感染症が、その集団以外に拡がることもあり、その都度、疾患と「社会の単位の軸」の関係性を意識して対応することが重要です。
個人的には、時間・空間・社会を軸として問題を分類すると、扱う問題が世の中のどこで重要視されているのか客観視できるため、各問題の輪郭が見えてくるような気がしています。さらに、問題の大きさ(起こった場合のインパクト)や歴史・文化などの背景の深みを追加したり、各問題を軸のどの位置より眺めるかを変えたりすることで、問題の輪郭がはっきりしてくるのではないかと考えています。一つの問題を日本から世界に向けた視点で見れば大きな問題と捉えられることも、日本国内に向けた視点で見れば小さな問題に捉えられることもあるように、視点の方向を変えることで、重要度が異なることがあるからです。
今回は、感染症における公衆衛生に新しく取り組んだ際の思考について、個人的に分析してお伝えさせていただきました。街を歩く人々の日常を、健康危機から守るためにも、今後もIDESプログラムで学びを深め、俯瞰した問題抽出・解決のアプローチを身につけていきたいと思います。
参考文献
1.厚生労働省におけるAMRの取組
2.薬剤耐性(AMR)対策について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
3.医療圏、基準病床数、指標について
4.麻しんについて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
IDESになる前は、消化器外科・救急の分野で臨床医をしていました。今まで災害での健康危機には取り組んできましたが、感染症での健康危機は私にとって新しい分野であり、刺激的な日々を送っています。このコラムは、ハロウィンが終わり、クリスマスのイルミネーションが目立つようになった時期に書いています。地方に足を運べば稲刈りを終えた田んぼに霜が降りるようになっており、IDESになってから月日が経っていることに気づかされます。
大枠では、臨床でも公衆衛生分野でも、何らかの問題をみつけて解決するプロセスになりますが、新しい分野では、従来の思考回路ではピンとこないことが多々あります。その理由を、問題を分類しながら少し考えてみました。
最初に、時間を軸にして問題を分類してみます。1分1秒が大切になる状況は手術中や救命救急センターでの診療中で扱われます。一方、AMR(Antimicrobial Resistance:薬剤耐性)は、現時点だけをみるのでなく未来を見据えた対策をしており(対策がない場合、2050年にはAMRによる年間死亡者数が1000万人となり、がんの死亡者数を超えると言われています)、その対策自体も2016-2020アクションプラン、2023-2027アクションプランというように年単位の対策が行われています。
次に、空間を軸にして問題を分類します。基本的に病院では医療圏をもとにカバーしているエリアが示されると思います。また、一臨床医では、患者一人ひとりを診ることになり、そもそも空間という認識を持たないこともあると思います。一方、感染症における公衆衛生では普段の自分の生活圏を越えた空間の認識が必要です。ある地域・国ではよくある感染症でも、別の地域・国では未知の感染症であるため、同じ疾患でもリスクが異なり、また、それにより、対応を変える必要があります。例えば、世界には麻疹患者が相当数いる国もありますが、日本は2015年に世界保健機関西太平洋地域事務局より排除状態にあることが認定されているため、1例でも麻疹の報告があると対応が必要になります。
社会を、最小単位を個人、そして最大単位を全人類と考えると、それも感染症を考える上で重要な軸になると考えます。臨床では個人を単位とした問題を扱いますが、公衆衛生では全人類を対象にする場合もあります。そして、個人と全人類との間に、特定の集団が存在すると考えます。大きくは年齢や人種、性別、また、職業や既往、さらに嗜好などでも分類されます。一部の集団の人が罹患しやすい感染症もあるため、それぞれの集団をより理解した取り組みが必要になります。また、一部の集団の人が罹患しやすいと思われていた感染症が、その集団以外に拡がることもあり、その都度、疾患と「社会の単位の軸」の関係性を意識して対応することが重要です。
個人的には、時間・空間・社会を軸として問題を分類すると、扱う問題が世の中のどこで重要視されているのか客観視できるため、各問題の輪郭が見えてくるような気がしています。さらに、問題の大きさ(起こった場合のインパクト)や歴史・文化などの背景の深みを追加したり、各問題を軸のどの位置より眺めるかを変えたりすることで、問題の輪郭がはっきりしてくるのではないかと考えています。一つの問題を日本から世界に向けた視点で見れば大きな問題と捉えられることも、日本国内に向けた視点で見れば小さな問題に捉えられることもあるように、視点の方向を変えることで、重要度が異なることがあるからです。
今回は、感染症における公衆衛生に新しく取り組んだ際の思考について、個人的に分析してお伝えさせていただきました。街を歩く人々の日常を、健康危機から守るためにも、今後もIDESプログラムで学びを深め、俯瞰した問題抽出・解決のアプローチを身につけていきたいと思います。
参考文献
1.厚生労働省におけるAMRの取組
2.薬剤耐性(AMR)対策について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
3.医療圏、基準病床数、指標について
4.麻しんについて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
- 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
- IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。