IDESコラム vol. 66「米国で危機管理トレーニングに参加して」

感染症エクスプレス@厚労省 2022年6月24日

IDES養成プログラム6期生:松澤 幸正

 感染症危機管理専門家養成プログラム2年目で、米国ワシントンD.C.にある米国保健福祉省(HHS; Department of Health and Human Services)事前準備・対策担当次官補局(ASPR: Office of Assistant Secretary of Preparedness and Response)に派遣されている松澤幸正です。

 今回は、米国における危機管理の仕組みについてご紹介したいと思います。
 
 米国では、危機対応は、自然災害からテロ、感染症に至るまで、あらゆる危機に対応する標準的な仕組みを用いるオールハザード・アプローチが採用されています。米国では、危機対策は基本的に州・地域で対応することとなっていますが、危機の規模が大きく、州・地域レベルで対応が困難と判断された場合には、連邦政府による支援が行われることとなります。この支援の仕組みを示すガイダンスとして、国家対応枠組(NRF; National Response Framework)が設定されており、連邦政府危機管理庁(FEMA; Federal Emergency Management Agency)はこのNRFの総合調整役となっています。

 今回、2022年4月、6月とFEMAの危機管理教育機関(EMI; Emergency Management Institute)にてトレーニングに参加しましたので、報告させていただきます。FEMA EMIは元々、FEMAスタッフ、連邦政府パートナー・州・地域の危機管理担当官、ボランティア団体等の初期対応者を教育するために創立された経緯があります。トレーニングセンターは、メリーランド州エミッツバーグという、ワシントンD.C. から車で1時間くらい離れた長閑な場所にあり、トレーニングは、基本的に数日間の合宿形式で行われます。

 初回は、「危機管理の基礎」というテーマで、自然災害や感染症、人的災害の中で、危機管理の5元素である、準備(Preparedness)、保護(Protection)、対策(Response)、緩和(Mitigation)、回復(Recovery)それぞれのフェーズにおいて、如何に対処していくかというディスカッションベースの研修でした。日本の机上研修と少し異なると感じられたのは、講師が概要を少し説明したのちに、研修参加者が自身の経験を伝えながら、参加者の知識・経験を皆で共有しながら課題を見つけて解決していくというスタイルであったからかもしれません。研修の最後においては、米国の市街地にて自然災害が発生した際、どのように地域の危機管理センターの職員が対応するかという実践演習が行われました。それぞれの参加者は、危機管理センターの中での役割が与えられます。私は医療従事者として、自然災害(このときは大地震でした)の中で、負傷者が発生した際にどの病院に運ぶか、また必要な医療資源は何か、地震に伴う水害に伴う感染管理が必要かの判断、誤情報への対応等、ほかの役割が与えられたチームメンバー(例えば、消防担当者や広報担当者)とともに、次々に出てくる医療的な課題に対して対応を考え、行動指針を記載していくというものでした。限られた時間の中で、時には同時に降りかかる課題への対応は、実際の現場を彷彿させ、とても緊張感のある演習となっておりました。同時に、別の役割を持ったチームメンバーの存在はとても大きく、危機管理においては、異なる経験を持った仲間の存在が大きな力になることを改めて感じさせられました。

 2回目は「災害の科学」というテーマでしたが、地震、津波、土砂災害、台風、火山噴火等の自然災害の原因、またCOVID-19を含む感染症や、化学、生物、放射線および核(CBRN; Chemical, Biological, Radiological and Nuclear)脅威の科学的性質や対処法について、こちらもスモールグループディスカッションを交えながら、知識を深めていくというものでした。危機管理官というものは、それぞれの災害についての幅広い知識を持った上で、実際には専門家(SME; Subject Matter Expert)とどのように連携をとっていくか、効率的なフォーカルポイントとなる重要性が説かれておりました。

 感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラムと名前のついたこの2年間のプログラムですが、2年目の派遣国際機関は、米国のHHS/ASPRを始め、英国健康安全保障庁(UKHSA)、世界保健機関(WHO)、欧州疾病予防・対策センター(ECDC)等、様々です。厚生労働省のIDES事務局では、日々、その国際的なつながりの中から戦略的に派遣先の開拓が行われています。業務・研修内容は、派遣先により性質は異なると思いますが、派遣先は何処であれ、そこで培った経験、得られた仲間は、感染症危機管理において、非常に貴重な財産になると確信しております。
 
 感染症危機管理の行政マネジメントの世界は、ますます重要度が高まっていますが、専門性を有した人材がまだまだ少ないのが現状です。少しでも関心をお持ちの方は、個別相談も行っておりますので、ぜひIDES事務局にご相談ください。
 
【参考資料】
HHS/ASPRの使命・優先事項:
https://aspr.hhs.gov/AboutASPR/WorkingwithASPR/BoardsandCommittees/Pages/Mission-and-Key-Priorities.aspx
NRF概要:
https://www.fema.gov/emergency-managers/national-preparedness/frameworks/response
FEMA EMI概要:
https://training.fema.gov/history.aspx
CBRN脅威についての解説:
https://asprtracie.hhs.gov/cbrn-resources
 
【IDES事務局】
 
URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ides/index.html
個別相談窓口:厚生労働省健康局結核感染症課 感染症危機管理専門家養成担当
kansensho@mhlw.go.jp
 


(編集:松下 愛美) 

  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

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