IDESコラム vol. 32「咳エチケットには、世界と未来を変える力がある。」

感染症エクスプレス@厚労省 2018年12月14日

IDES養成プログラム2期生:船木 孝則

 皆様こんにちは。IDES2期の船木孝則です。
 気がつけば師走も半ばに差し迫り、今年も残るところ約2週間となりました。私も地元に帰省できるように、ギアを上げて業務に当たっております。

 皆様も年末年始には、クリスマスやお正月といったイベントがたくさんあります。最も多くの方が参拝するとされる明治神宮では、お正月三が日で300万人以上の方が訪れます。来年2019年にはラグビーワールドカップが、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。最近では、2025年に大阪万博の開催が決定し、様々な国際的イベントが目白多しですね。私も参加したいと思っています。
 実は、これらのイベントように、特定の期間に、特定の場所に、沢山の人々が集まることを「マスギャザリング」と表現されています。この「マスギャザリング」で注意が必要なことのなかに、感染症の拡大があります。

 この「マスギャザリング」は、日本集団災害医学会によると、「一定期間の中で限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と定義されています。多人数の定義については、少なくとも1,000人とするものから25,000人以上とするものまで様々です。集まる目的や地域、期間、季節、屋内か屋外か、国際的なイベントかどうかなどにより、その規模や特徴は異なりますが、こうした特殊な環境では、通常の社会生活と比較して感染症が流行しやすい状況にあるということは、ご理解いただけるかと思います。

 これまでのマスギャザリングに伴う感染拡大では、インフルエンザや髄膜炎菌感染症、ノロウイルス感染症のアウトブレイクの発生が報告されています。こうした感染症がひとたびイベントで起こり、周りの人にうつしてしまうと、感染症は、イベントに参加した方が元の社会生活環境に戻った状況で拡がってしまうといった連鎖的な感染拡大を起こすリスクがあります。特に国際的なイベントの場合、日本では稀な感染症が入ってくるリスク、逆に日本から感染症を持ち出してしまうリスクもあります。航空機や新幹線など、交通網が数十年前と比べると格段に発展した現代社会においては、感染症の伝播は、もはや他人事では済まされない問題となっています。

 感染症の原因となる微生物はその大半が、目では見えません。ですので、皆様がいつの間にか、インフルエンザなどの感染症を他人に対して拡散するという意味で「インフルエンサー」になっているかもしれません。感染症の「インフルエンサー」にならないためには、「かからない」、かかっても「他人にうつさない」ことが重要です。感染症をうつさないことで、救える命もあります。

 長きにわたる人類の経験や研究から、我々は「予防」する手段や知恵を獲得してきました。「予防接種」はその代表例ですが、それ以外にもできることはあります。コマメな「手洗い」や「咳エチケット」、十分な休養、バランスの良い規則正しい食事などです。
 厚生労働省では、こうした予防手段の啓発のために、マメゾウくん・コマメちゃんと各地のキャラクターのコラボレーションポスターを作成したり、「進撃の巨人」とのコラボレーション企画し、「咳エチケット」に関する啓発ツールを作成したりしています。
 最近、電車通勤をしていて、袖で鼻と口をおおって咳・くしゃみをする方をよく見かけるようになった気がします。咳エチケットを啓発している我々としては、非常に嬉しく思っております。

 皆様には、年末年始に、帰省したり、イベントなどに参加される前に、今一度、感染症に「かからない」、かかっても「他人にうつさない」よう、咳エチケットなどの感染症対策を徹底していただけますことを切に願っています。
 ワールドカップでゴミ拾いをする日本のサポーターの姿勢が、世界から賞賛されたように、今度は、咳エチケットをしっかり行う日本人で、海外からくる方々を驚かせてみませんか?


参考
1.Communicable disease alert and response for mass gatherings -Key consideration- (June 2008)
https://www.who.int/csr/Mass_gatherings2.pdf#search='WHO+mass+gathering+2008'
2.国際的なマスギャザリング(集団形成)における疾病対策に関する研究
https://plaza.umin.ac.jp/massgathering/index.html
3.Travelers’ health (CDC)
https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/advising-travelers-with-specific-needs/travel-to-mass-gatherings
4.咳エチケット
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
5.インフルエンザ対策啓発ツール
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/keihatu.html

(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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