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まとめ
第Ⅰ部 労働経済の推移と特徴
2023年の我が国の経済は、年前半は外需が好調だったことに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の位置づけが5類感染症に移行し、経済社会活動の正常化が進み、インバウンド需要の回復やサービス消費の持ち直しがみられたことで高い成長が実現した。一方、年後半は、賃金上昇が物価上昇に追い付いていない中、消費が力強さを欠くなど、マイナス成長がみられた。企業の倒産件数には増加がみられ、人手不足関連倒産は過去最高となった。消費者物価指数は上昇に落ち着きがみられたが、総雇用者所得は減少傾向となる中、総消費動向指数は横ばいで推移した。
雇用情勢については、経済社会活動が活発化する中で、求人が底堅く推移し、改善の動きがみられた。求人の回復基調に落ち着きがみられたものの、女性や高齢者を中心に労働参加が着実に進展しており、正規雇用労働者数は9年連続で増加していることに加え、より良い条件を求める転職も活発化している。ただし、企業の人手不足感は全ての産業で高まっており、少子高齢化に起因する我が国の労働力供給制約がある中、経済社会活動の回復等に伴う人手不足の問題も再び顕在化している。
労働時間については、働き方改革の取組の進展等を背景に、長期的には減少傾向で推移する中、総じて前年から横ばいとなり、一般労働者では微増、パートタイム労働者では微減であった。産業別にみると、「運輸業,郵便業」については、一般労働者、パートタイム労働者ともに、労働時間が長く、特に、一般労働者の所定外労働時間が長い。加えて、一般労働者においては「宿泊業,飲食サービス業」、パートタイム労働者では「製造業」で、労働時間が長い。
賃金について、現金給与総額は所定内給与、特別給与の増加により、3年連続で増加している一方、実質賃金は物価高により減少した。一般労働者については、特に所定内給与と特別給与の増加がみられ、所定内給与については、2023年の春季労使交渉での賃上げなど、特別給与については、経済社会活動の活発化に伴い、経常利益拡大等がみられたことなどから、増加したものと考えられる。パートタイム労働者の現金給与総額については、最低賃金の引上げや同一労働同一賃金の取組の進展等による所定内給与の増加から、大幅な増加となった。また、産業別現金給与総額では、「運輸業,郵便業」「宿泊業,飲食サービス業」等で増加がみられた。
このように、2023年の労働経済は、経済社会活動の活発化に伴い、緩やかな回復がみられた一方で、物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状況にあり、引き続き、物価を上回る賃上げが望まれる状況にある。また、女性や高齢者を中心に労働参加が着実に進んでいるが、企業の人手不足感が全ての産業で高まっており、引き続き、動向を注視していく必要がある。
第Ⅱ部 人手不足への対応
第1章 人手不足の背景
これまでの人手不足局面とその背景
過去半世紀でみると、①1970年代前半、②1980年代後半~1990年代前半、③2010年代以降の3期間で人手不足が生じている。人手不足の背景には、需要増加、労働時間短縮、サービス産業化の進展等が複合的に影響している。特に、2010年代以降では、企業の付加価値が増加し欠員率が緩やかに高まる中で、充足率がこの半世紀で最も低い水準まで低下しており、人手不足が「長期かつ粘着的」に生じている可能性がある。今後も続く高齢化により人手不足も進む可能性がある中、生産性や労働参加率の向上が必要である。
2010年代以降の人手不足の現状
2013年以降の労働力需要と労働力供給の差である「労働力需給ギャップ」を労働時間でみたところ、労働力需要の増加に伴い、2017年以降、一時期を除き、2023年に至るまでマイナス基調で推移しており、こうした労働力不足の傾向は広い産業・職業においてみられた。
人手不足が広がる中、大企業への転職が活発化しているものの、産業間・職種間での労働移動は活発化していない。職業紹介機関におけるマッチング効率性については、ハローワークも有料職業紹介事業所も低下しており、その背景として、求職者の年齢層の変化や希望する条件の変化等、人手不足に起因する様々な労働市場における変化が考えられることを指摘した。また、我が国では、名目賃金が3年連続で増加しているが、欠員率に対する賃金上昇率の感応度が高いことから、今後の欠員率の高まりに応じて、高い賃金上昇率を実現していく可能性があると考えられる。
第2章 人手不足への対応
誰もが活躍できる社会の実現
我が国における潜在労働力の状況については、様々な事情により就業希望のない無業者は3,000万人となっているが、就業希望はあるが求職活動をしていない無業者は460万人、長期無業者は100万人となっている。追加的な仕事の希望がある労働者もいるため、働きたい人の希望をかなえるよう、働き方改革や仕事と生活の両立支援を推進し、副業・兼業を進めるとともに、「年収の壁」への制度的な対応などの支援が重要であることを確認した。
誰もが活躍できる社会の実現に向け、近年、就業者の増加が著しい女性、高齢者、外国人について、就労を取り巻く現状やそれぞれの課題を示しつつ、今後の望ましい方向性等についてマクロの観点から分析した。それぞれの分析結果は以下のとおりである。
- (1)女性のパートタイムの割合は国際的にみて高いが、近年、正規雇用比率は若い世代を中心に育児休業の利用も背景に上昇している。一方、非労働力・失業からの移行(再就職等)は引き続き非正規雇用が中心であり、キャリアの一時的な中断が女性の職業人生の選択肢を狭めないよう、正規雇用として復帰できる環境や支援の充実が必要。
- (2)高齢者の就労は国際的に高い水準にあるが、60歳における「就業率の崖」ともいえる差があった。この20年間で、定年年齢の延長などにより、その差をおおむね解消できたが、60歳以降において、非正規雇用比率が高いことや、65歳以降に新たな「就業率の崖」が生じている。年齢に関わらず働ける職場環境が重要。
- (3)外国人労働者を雇用する事業所は全国に広がっている。労働市場は国際化しており、我が国と送出国との賃金差は縮小し、他の受入国との賃金差は拡大している。ハローワークの求人の分析によると、外国人労働者に「選ばれる国」となるため、賃金はもとより休日日数などを含めた総合的な処遇の向上が重要。
介護分野における人手不足の状況と取組の効果
(公財)介護労働安定センターの事業所向けアンケート等から、介護分野における人手不足について分析した。2015年以降の介護事業所の人手不足の状況については、都市部や大規模な事業所において人手不足感が強くなっており、入職率の低下が離職率の低下を上回る傾向にある。人手不足が「長期かつ粘着的」であることを踏まえると、まずは離職率を下げていくことが重要であることを指摘した。
人手不足緩和に効果的な取組としては、事業所の人手不足の程度によって効果は異なるものの、総じて「介護事業所における平均的な水準以上の賃金水準」「職員の相談体制の整備」「定期的な賞与の支給」「ICT機器の整備」があげられることを分析した。さらに、
- 人手が「大いに不足」している事業所では、「介護福祉機器の整備」により職員の身体的な負荷を軽減すること
- 人手が「不足」している事業所では、「相談体制の整備」等、労働環境を改善すること
- 人手が「やや不足」している事業所では、相場よりも高い賃金や賞与の支給等により、求職者や今いる労働者に対して、より魅力的な労働条件を示すこと
が重要となることを明らかにした。
小売・サービス分野における人手不足の状況と取組の効果
(独)労働政策研究・研修機構による事業所向けのアンケート調査等を用いて、小売・サービス分野における人手不足について分析した。小売・サービス分野の人手不足は、正社員の方がパート・アルバイトよりも深刻であること、人手不足事業所ではそれ以外の事業所よりも、離職率が高く、離職防止に効果的な賃金や有給休暇、時間外労働等の労働環境の整備にまずは取り組むべきことを指摘した。
人手不足緩和に効果的な取組としては、正社員については、①事務やバックヤードでの業務負担を軽減する取組、②多様な働き手が活躍できる環境の整備、③仕事の内容やスキルを評価して給料に反映させる仕組みの整備があげられることを指摘した。ただし、パート・アルバイトについては、こうした取組による人手不足の緩和に与える影響を確認できなかった。