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第2章 人手不足への対応
第1章で示したように、現在、多くの企業において人手不足が生じている状況にある。人手不足については、①人口減少による我が国全体の労働力のひっ迫といったマクロの問題と、②特定の産業や職業等に人手が集まらないというミクロの問題に大別される1。
第2章では、第1節において、我が国全体での潜在的な労働力の現状を確認するとともに、近年就業者の増加が著しい女性、高齢者、外国人について現状を分析しつつ、多様な人材の労働参加に向けた課題を示す2。第2節、第3節においては、深刻な人手不足に直面する産業のうち、社会生活機能の維持に重要であるエッセンシャルワーカーを含む介護分野と小売・サービス分野について分析する。分析にあたっては、(公財)介護労働安定センター3や、(独)労働政策研究・研修機構が実施した事業所向けのアンケート調査等を用いた。これらの分野において、企業が、人手不足の現状に対してどのように対処しているのか等を分析するとともに、人手不足の緩和に効果的な取組について、コラムにおいて事例の紹介も行いながら示していく。
第1節 誰もが活躍できる社会の実現
1.潜在労働力の状況について
人手不足にあたっては潜在的な労働力の労働参加だけではなく、一人当たりのアウトプット(労働生産性)を上昇させることが欠かせない
我が国では、長期的な人口減少が見込まれる中で、持続的な賃上げを実現するためには、少ない人数で付加価値を得られるよう、一人当たりのアウトプットである労働生産性の上昇が欠かせない。社会全体としてのサービスを維持するためには、誰もが参加しやすい労働市場の実現等を通じて、総労働力供給を増やすことが重要である。
まず、我が国の労働生産性について、国際的に比較してみよう。第2-(2)-1図(1)が示すように、我が国の時間当たりの実質労働生産性は、OECD諸国37か国の中でもおおむね中位程度となっている。同図(2)により、2013年時点で労働生産性が高い20か国(日本を含む。)をみると、うち11か国は、2013~2022年までの労働生産性の年平均成長率が我が国よりも高く、成長率の高い国と我が国の差が更に開いていることがうかがえる4。仮に労働生産性が十分あがらない状況において、労働力供給の増加だけが実現すれば、賃金を据え置いたまま雇用を増やすことで収益をあげることにより、結果として賃金の下押し要因となってしまう可能性がある。持続的な賃上げと人手不足への対応に同時に取り組むためには、労働生産性の着実な上昇が不可欠である。生産性の向上に向けては、人手で行っていた作業でのロボット・AI・ICT等の技術などの活用5、現場の知見をいかしたデータ分析の活用による高付加価値の商品・サービスの提供6等を進めていく必要があり、こうした生産性向上への企業の取組や人材育成が欠かせない。また、厚生労働省としても、生産性向上に資する設備投資等を行う中小企業への業務改善助成金の給付を行う7とともに、人材開発支援助成金や教育訓練給付の拡充8などによるリ・スキリング支援を行っており、引き続き、生産性向上に向けた必要な支援を行っていく必要がある。
就業希望のない無業者は3,000万人。理由は病気・けが・高齢のためが多く、59歳以下の女性では出産・育児・介護・看護・家事のためが多い
次に、労働力供給の増加についてみてみる。既にみたように、我が国において長期かつ粘着的な人手不足が生じており、広範な産業、職業、地域において労働力の供給不足が生じている。それでは我が国において労働力供給増加の余地はどれほどあるのだろうか。就業していない層を、①就業希望のない無業者、②求職活動はしていないが就業希望のある無業者、③求職者に大別して確認しよう9。
まず、最も人数の多い①就業希望のない無業者(在学者を除く。)についてみてみる。第2-(2)-2図で確認すると、2022年時点で約3,000万人近くが無業者であり、年齢に限らず総じて女性が多い。年齢別にみると、男女合わせて、60~69歳が440万人、70歳以上が2,100万人と大半を占めているが、59歳以下でも350万人ほどとなっている。就業を希望しない理由としては、「病気・けが・高齢のため」が、男女ともに60~69歳の5割弱、70歳以上の8割強と最も多い。無業者が就業を希望しない理由は、病気・けがや年齢が多いが、単に高齢であるからといって就業の希望をあきらめることとなっているのであれば、高齢化が進む我が国社会においては大きな損失である。作業内容の工夫や機器の活用を促す10など、年齢にかかわらず働くことができる社会づくりを進めていく必要がある。
一方で59歳以下の女性の約4割に当たる約100万人11が、「出産・育児・介護・看護・家事のため」に無業かつ就業希望なしとなっているが、同年代の男性は僅かにとどまる。育児や家事、介護の負担が女性に偏っていることが、女性の就労への希望を失わせている可能性が示唆される。育児・介護などの負担の軽減に向けた社会的支援を進めるとともに、男性が家庭内での責任を果たせるよう、柔軟な労働時間や休暇の取得促進など職場における環境づくりも重要となる12。
また、男女ともに「仕事をする自信がない」とする者が男女合わせて約70万人となっている。就労に関して自信が持てない無業者に対しては、地域若者サポートステーション13における支援やアウトリーチ型の自立支援等も重要であろう。こうした様々な支援を着実に実施していくことで、社会全体として、就労を阻害する要因を取り除くことが重要である。
就業希望はあるが求職活動をしていない無業者は460万人。59歳以下の女性は出産・育児・介護・看護のためが多い
次に、就業希望はあるが求職活動を行っていない無業者についてみてみる。第2-(2)-3図をみると、就業希望があるものの求職活動を行っていない無業者は約460万人となっている。年齢別にみると、59歳以下が多く、女性は200万人近くに及ぶ。求職活動を行っていない理由をみると、「病気・けが・高齢のため」が、高年齢層を中心に多く、男性では60万人程度、女性では70万人程度である。「出産・育児・介護・看護のため」は59歳以下の女性が60万人程度と最も多い。また、これらに比べると数は少ないものの、「仕事を探したが見つからなかった」「希望する仕事がありそうにない」「知識・能力に自信がない」と回答した者も男女・年齢階級別にそれぞれ数万人程度となっている。ハローワークでのマッチングにおける丁寧な相談支援、公的職業訓練などのリ・スキリングの支援を通じて、就業希望を求職活動につなげていくことが重要となるだろう。
求職期間が1年超に及ぶ長期無業者は約100万人。求職者(約320万人)の約3割を占める
最後に、求職者の状況についてみてみよう。第2-(2)-4図によると、無業の求職者は約320万人であり、59歳以下は約8割と、就業希望のない無業者と比較して若い層が多くを占めている。求職期間別にみると、59歳以下では、求職期間が1年以上の男性が約3割、女性でも約2割に達しており、失業期間が長期にわたる求職者が100万人近くいる一方で、求職期間が1か月未満の短期の求職者も男性で約3割、女性で約4割を占めており、求職の状況が二極化している可能性がある。長期の求職者の割合は60~69歳、70歳以上では高い水準にあり、第2-(1)-28図でもみたとおり、年齢が高いと就業が難しい状況がうかがえる。
求職活動が長期となる事情は様々であることから、個々人の事情に応じた支援が必要となる。長期求職者については、ハローワークでの担当者制などによるきめ細かなマッチング支援14をするとともに、雇用保険を受給していない場合等には、求職者支援制度の活用を促す等の取組を進めることが重要である。
正規雇用労働者では労働時間を減らしたい者が、非正規雇用労働者は労働時間を増やしたい者が多い
ここまでは労働者数に着目したが、労働力供給を考える上では、労働時間も重要である。第2-(2)-5図(1)から、継続就業希望者15の労働時間の希望を正規・非正規雇用労働者別にみると、正規雇用労働者では、労働時間を「増やしたい」が約100万人、「減らしたい」が約650万人と減少希望が多い。非正規雇用労働者では様相が異なり、労働時間を「増やしたい」が約190万人に対し、「減らしたい」は約110万人となっている。
また、同図(2)から、追加就業希望者16についてみると、正規雇用労働者では約280万人、非正規雇用労働者では約180万人と、その合計は約460万人である。副業・兼業については、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版(令和5年6月16日閣議決定)」においても指摘されているとおり、追加的な就業の希望の実現だけではなく、成長分野への円滑な労働移動を図る端緒としても重要である。また、個別の企業の中にも、副業・兼業を労働者が社内では得られない経験を得ることができる成長の場として捉え、積極的に支援をしている例もみられる17。厚生労働省においても、「副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月8日改定)」を策定し、企業や労働者が、安心して副業・兼業に取り組めるよう、副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等について示しているところである。総じてみると、正規雇用労働者については、引き続き、働き方改革や、仕事と家庭の両立支援などを着実に進める一方で、追加的な就業の希望には、副業・兼業への支援も含めて、心身ともに無理のない範囲で生き生きと働けるような環境づくりに取り組む必要があるだろう。
また、労働時間の増加を希望する非正規雇用労働者には、労働時間が短時間にとどまらざるをえない障害を取り除いていく必要がある。短時間労働者が労働時間を抑制する要因の一つとしては、いわゆる「年収の壁18」の存在があげられる。「年収の壁」を意識せずに働けるようにすることで、労働時間又は年収が一定の水準を超えた場合には、厚生年金保険等の被保険者となり、将来的に受け取れる年金額が増加するほか、扶養にとどまるように労働時間を短くする就業調整が行われなくなることで、人手不足の緩和にも一定の効果があるものと考えられる。このため、パート・アルバイトで働く方の厚生年金保険や健康保険加入に併せて、手取り収入を減らさない取組として、手当等の支給や労働時間の延長を行うなどの収入を増加させる取組を行った事業主に対し、労働者一人当たり最大50万円の支援を行う19とともに、パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的にあがったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みを作る等の支援を講じているところである。引き続き、パート・アルバイトで働く方が「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりを後押ししていくことが重要である20。
2.女性の活躍推進について
女性の就業率は国際的にも遜色ない水準だが、パート比率が高い
我が国における女性の労働参加の状況について確認しよう。第2-(2)-6図(1)(2)は、25~54歳女性の就業率を横軸に、同年齢の女性のパート比率を縦軸にとり、OECD26か国における1995年のデータと2022年のデータをプロットしたものである21。
同図(1)により1995年についてみると、我が国における25~54歳女性の就業率もパート比率のどちらもおおむね平均程度で、日本の女性の就業率は63.2%と、当時高かったノルウェー(77.4%)、デンマーク(75.9%)、フィンランド(73.5%)等の北欧と比較して10%ポイント以上低い状況であった22。同図(2)により、2022年についてみると、世界的に女性活躍が進む中で、我が国の女性の就業率は79.8%と、ノルウェー(81.9%)、デンマーク(82.4%)、フィンランド(82.1%)等の北欧とほぼ遜色ない水準まで上昇している。一方で、パート比率については、世界的な低下と対照的に我が国は30%を超える水準にまで上昇し、OECD26か国中5番目に高い国となっている23。
我が国の女性の正規雇用は年齢があがるほど比率が下がる
第2-(2)-7図(1)から、年齢別に女性の正規雇用比率をみると2023年においては全ての年齢階級で上昇している。若い世代において特にその傾向がみられるものの、年齢があがると正規雇用比率が低下する傾向が引き続き見受けられる24。年齢と正規雇用比率の関係の背景には、2000年代頃までは出産等を機に退職した正規雇用の女性の多くが、復職にあたって家事・育児等への負担等から、パート・アルバイトを選ぶことも多いことが考えられる25。同図(2)から正社員の就業継続率をみると、2000年代では就業を継続した正規雇用の女性の割合は50~60%程度と半分程度であり、多くの正規雇用で働いていた女性が就業を断念したことが確認できる26。一方、2015~2019年に第1子を出生した正規雇用の女性では、80%超が出産後も就業継続し、このうち多くが育児休業を取得している27。
15~34歳の女性では、非労働力・失業からの正規雇用へ移行しやすくなっている
出産・育児によるキャリアの中断があったとしても、育児が一段落したときに正規雇用として復帰することができれば、年齢があがっても正規雇用の割合は下がらないと考えられる。第2-(2)-8図により年齢別に非労働力・失業から正規雇用、または非正規雇用への女性の移行確率28を比較すると、どの年齢層であっても、非労働力・失業から非正規雇用への移行確率が、正規雇用への移行確率よりも高く、非労働力・失業からの就業参加は、主に非正規雇用が中心であることが分かる29。特に15~34歳女性においてみられる非労働力・失業から非正規雇用への移行確率の大幅な上昇は、女性の就業率の上昇に寄与したものと考えられる。加えて、15~34歳、35~54歳の女性では、非労働力・失業から正規雇用への移行確率も上昇傾向を示しており、近年では、正規雇用へ移行しやすくなっていることがうかがえる。非労働力・失業からの就業の受皿の中心は依然として非正規雇用であるが、特に若い世代においては、正規雇用での就業可能性が高まっていることが確認できる。
女性フルタイム労働者のキャリア中断による賃金等の差は40代以降顕著になる
一般的に、日本の正社員の雇用慣行においては、勤続年数に応じて、社内で昇給・昇進を重ねていく30ことから、正社員として勤務した企業を退職することは、社内でのキャリアアップの機会を手放すことにつながるものと考えられる。第2-(2)-9図(1)は、企業規模(1,000人以上、100~999人、10~99人)別に、女性の①標準労働者(新卒から同一企業に勤め続けている者)31かつフルタイム労働者の賃金カーブと、②標準労働者以外のフルタイム労働者の2種類を示したものである。可能な限り条件を合わせて、大卒に限って比較すると、特に40歳以降において、標準労働者とそれ以外の労働者の間で賃金差がみられ始め、おおむね55~59歳で最大となっていることが分かる。日本型雇用慣行の下で特に大企業における年功賃金がみられる我が国では、同じ企業に勤め続けた方が、転職又は一時的なキャリアの中断後の再就職よりも、賃金が高くなる傾向にある。
同図(2)により、男女別に年齢階級別の標準労働者の割合をみると、総じてどの企業規模においても年齢があがるにつれて、その割合が下がっており、特に、30歳以降において、男女の差が大きくなっている。30代前後に結婚・出産等のライフイベントがあることが多いが、それにより離職するケースは女性の方が多いことが、標準労働者割合の差にも現れているものと考えられる32。
この30年において女性の労働参加は顕著に進んだが、パートタイム等の非正規雇用に偏る傾向が依然としてみられる。この背景には、2000年代頃までは出産を機に多くの女性が正規雇用としての就業を断念していたこと33、また、女性が再就職する場合には、家事・育児の負担等も踏まえて非正規雇用を選択せざるをえない環境にあることが考えられる。非正規雇用としての就業は、働く時間を柔軟に選択できる等のメリットがある反面、正規雇用との職責等の違いにより賃金が低く、教育訓練を受ける機会が乏しい等のデメリット34もある。さらに、正規雇用から一度退職してしまうと、いわゆる日本型雇用慣行のある中で、時間外労働を伴うことがある正規雇用として再就職するのは容易ではない可能性も示唆される。就業の「量」の面では、女性の就業率は着実に上昇してきたが、「質」の面では、パートタイム比率が引き続き高い状況にある。希望すれば正規雇用として就業できる環境整備が重要である。
引き続き、育児休業制度等の充実により、希望すれば正規雇用としての就業を継続できる環境を整備するとともに、キャリアの一時的な中断が女性の職業人生の選択肢を狭めないよう、正規雇用として復帰できる環境整備やハローワークでのマッチング支援を充実していく必要がある。あわせて、マッチング機能を強化するため、労働市場の見える化を図るとともに、有期雇用労働者等の正社員転換を促すため、キャリアアップ助成金35等を通じた支援を着実に講じていくことも重要である36。
3.高齢者の活躍推進について
我が国の高齢者の就業率は既に国際的にはかなり高い水準にある
次に、高齢者の労働参加の現状について確認しよう。第2-(2)-10図により、65歳以上の高齢者の就業率について、他のOECD諸国と比較すると、我が国は韓国・アイスランドに次いで高い水準にあり、国際的にみても高齢者の就業は進んでいることが確認できる37。同図(2)により長期的な高齢者の就業率の推移をみると、1970年代~2000年代までは低下傾向だったが、高年齢者雇用安定法38の改正による定年年齢の引上げ等もあり、2000年代後半で反転している。2023年には、60~64歳の就業率は70%を超え、65~69歳の就業率も50%超で、この半世紀で最高水準となった。70歳以上の就業率についても、2013年の13%から2023年には18%と、5%ポイント上昇している。
第2-(2)-11図により、60~64歳、65~69歳、70歳以上の三つの年齢層の雇用者と自営業者等39での就業率をみると、どの年齢層も雇用者での就業率が大きく上昇している。特に、高年齢者雇用安定法により雇用確保措置等が図られている4060~64歳については大きく上昇しており、足下では60%を超える水準に達している。一方で、自営・家族従業者等については、どの年齢層も一貫して減少しており41、近年の高齢者の就業は雇用者が占める割合が中心となってきていることがうかがえる。
高齢者のいわゆる「就業率の崖」の年齢は60歳から65歳へあがった
我が国の高齢者雇用の重要性は今後ますます高まってくる。総労働力の10%は65歳以上の高齢者が担っており42、今後高齢化とともに高まっていくことが予想される。高齢者雇用を考える上では、引退の契機となる企業の定年制度も重要である。ここでは、近藤(2014)を踏まえつつ、高年齢層の労働力供給の状況について子細に確認していこう。
近藤(2014)では、月単位で定義した55~64歳の年齢別就業率に対して、2006年の改正高年齢者雇用安定法43施行による高年齢者雇用確保措置の義務化が与えた影響を分析しており、施行前後において、定年の定めをする場合における下限とされた60歳近傍における就業率が上昇したことを示している。この研究と同様に第2-(2)-12図で、2004~2006年と2007~2009年の年齢別の就業率を比較した。同図(1)をみると、60歳前後における就業率が全体的に上昇していることが確認できる。ただし、2004~2006年、2007~2009年のいずれも、60歳0か月を境にして就業率が大きく低下しており、多くの企業が定年年齢として定める60歳を機に離職している状況がみてとれる。これらは、近藤(2014)でも指摘されたとおりの結果となっている。同図に示す2020~2022年の就業率をみると、55~69歳までのいずれの年齢においても就業率は総じて上昇しており、60歳0か月を境にした「就業率の崖」も解消されている。一方、新たな「就業率の崖」が65歳0か月を境に生じており、「崖」が60歳から65歳まで上昇してきたことが確認できる。
同図(2)により、2004~2022年までの59歳11か月と60歳0か月の就業率の差を比較すると、2004~2006年、2007~2012年、2013年以降で、差が徐々に解消され、2013年以降では、就業率の差がほぼみられなくなっていることが確認できる。2006年の改正高年齢者雇用安定法施行により、雇用確保措置の義務となる対象者の年齢が、2006~2013年度にかけて、65歳まで段階的に引き上げられてきたことや、2014年度以降に人手不足が深刻になっていったこともあいまって、高齢者の労働参加が進展したことが寄与したものと考えられる。
就業率の変化について、男女別にも確認しよう。第2-(2)-13図により、2004年、2010年、2016年、2022年の男女別に年齢ごとの就業率をみると、第2-(2)-12図で指摘した60歳から65歳への「就業率の崖」の移行は、男性のみ確認できる。女性については、2004年においても、60歳における就業率の低下はみられず、2004~2022年まで、ほぼ全ての年齢において大きく就業率が上昇しており、特に2010年以降に顕著である。こうしてみると、60歳で定年を迎える男性については、改正高年齢者雇用安定法による雇用確保措置の義務化が労働参加を促してきたことが分かる。一方で、女性については、出産・育児によるキャリアの中断後に非正規雇用として就業することが多いため、無期雇用を前提とする定年年齢の影響は、男性に比べると限定的だったことも分かる。
第2-(2)-14図では、2018~2022年における就業率を年齢ごとに正規雇用、非正規雇用、その他(自営業等)の三つに分解した。60歳を境に、男女ともに正規雇用での就業率が低下し、非正規雇用での就業率が大きく上昇している。
第2-(2)-15図(1)(2)から、連続する2か月間について、正規雇用から正規雇用への移行確率(正規雇用の継続確率)、正規雇用から非正規雇用への移行確率を年齢別に確認すると、60歳を境にして、正規雇用の継続確率が低下する一方で、正規雇用から非正規雇用への移行確率が高まっている。60歳を境にした就業率の差はみられなくなったが、雇用の「質」には差があることがうかがえる。
さらに、同図(3)(4)により、正規雇用、非正規雇用それぞれからの失業・非労働力への移行確率をみると、正規雇用から失業・非労働力への移行確率は65歳を境に大きく上昇している。非正規雇用から失業・非労働力への移行確率については、正規雇用よりも高い傾向があり、65歳以上は一段と高くなっている。
年齢と雇用形態によって整理すると、以下のようになる。
- ①正規雇用で働く高年齢者は、60代前半から徐々に非正規雇用へと移行していく。
- ②非正規雇用として就労している高年齢者は失業・非労働力へと移行しやすく、65歳を境に大きく移行確率が上昇する。
- ③65歳以上は、正規雇用も非正規雇用も失業・非労働力への移行確率が上昇し、非正規雇用から失業・非労働力への移行確率の上昇が特に顕著である。
このように、雇用の「質」の変化が60歳以降で徐々に生じている中で、雇用の「量」の変化も65歳以上において現れはじめ、結果として65歳前後において「就業率の崖」が生じているものと考えられる。
この20年間で、男性において顕著に生じていた60歳における「就業率の崖」をおおむね解消できたが、足下では、65歳を境に新たな「崖」が生じている。男女ともに健康寿命が70歳を超えていること44や、65歳を超えた高齢者の就労希望が他国と比較しても高いこと45、中高年層の賃金のフラット化が進んでいること46等を踏まえれば、65歳を超えても意欲のある高齢者が、能力を十分発揮して、適切な待遇において生き生きと就労できるよう、必要な支援等を講じていく必要がある47。
特に、高齢者の体力や身体機能は個人差があり、疾病やけがのリスクだけではなく、若年層に比べて、転倒や墜落・転落などの労働災害のリスクが高く、休業も長期化しやすいことも知られている。働く高齢者の特性や業務の内容等の実情に応じた施設・装置の導入や作業内容の見直しなどの配慮により、全ての労働者が働きやすい職場環境づくりにも積極的に取り組むことも重要となる48。人生100年とも言われる時代を迎え、雇用・労働の面においても、希望する高齢者が年齢にかかわりなく生き生きと働ける環境の整備が今後も求められるだろう。
4.国際化する我が国の労働市場
OECD諸国では外国人の流入が続いている
OECD諸国がどの国も急速な高齢化に直面している49中、多くの国で労働力不足は大きな課題となりつつある。例えば、第2-(2)-16図(1)により、OECD諸国の失業率を長期的にみると、リーマンショックや感染症の拡大による影響で一時的には上昇しているものの、就業率が高い世代が減少していること等を背景に長期的には低下傾向で推移している。失業率の低下は、企業にとっては労働力確保が難しくなっていることを示しており、人手不足が長期的な課題となりつつあることを示している。こうした中で、多くのOECD諸国において外国人の流入が増加している。同図(2)は、2013年と2019年50における人口に占める外国人の流入率であるが、外国人の流入は多くの国で増加している51。我が国で働く外国人の数は、OECD諸国の中では低い水準にあるが、第1-(2)-13図のとおり近年大きく増加し、人口に占める割合も上昇している。
我が国の専門的人材の受入れは進展している
我が国の政府は外国人労働者についてどのように考えてきたのであろうか。1999年に閣議決定された第9次雇用対策基本計画(平成11年8月13日閣議決定)においては、「我が国の経済社会の活性化や一層の国際化を図る観点から、専門的、技術的分野の外国人労働者の受入れをより積極的に推進する」としている一方で、単純労働者の受入れについては、「国内の労働市場に関わる問題を始めとして日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすとともに、送り出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠」としている。外国人労働者の受入れについての基本的な考え方は、「単に少子・高齢化に伴う労働力不足への対応として外国人労働者の受入れを考えることは適当でなく、まず高齢者、女性等が活躍できるような雇用環境の改善、省力化、効率化、雇用管理の改善等を推進していくことが重要」とされている52。
我が国では、こうした考え方に基づき、これまでも専門的人材の受入れを積極的に進めてきた53。例えば、2012年から、高度外国人材の受入れを促進するため、高度外国人材に対しポイント制を活用した出入国在留管理上の優遇措置を講ずる制度を創設している。さらに、2018年には、深刻化する人手不足への対応として、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるため、在留資格「特定技能1号」及び「特定技能2号」が創設54され、2019年4月から運用が開始されている。第2-(2)-17図は、特定技能1号・2号の在留者の推移を国籍別にみたものであるが、2019年に創設されて以降、ベトナムを中心として、フィリピン、中国、インドネシア等から多く来日し、2023年12月には約20万人が特定技能1号・2号として就業55している。
このほか、我が国で培われた技能、技術又は知識の移転による「人づくり」に寄与することを目的とする「技能実習制度」が1993年に創設されているが、本制度は、2024年の法改正により発展的に解消され、新たに人材育成及び人材確保を目的とする「育成就労制度」が創設されることとなった。
我が国と送出国との賃金差は縮小、他の受入国との賃金差は拡大
我が国で就労する外国人数は増加する一方で、送出国である東南アジアの国々との賃金差は縮小傾向にある。第2-(2)-18図(1)は、日本への主な送出国であるブラジル、中国、インドネシア、ミャンマー、ネパール56、ペルー、フィリピン、ベトナムと日本の平均賃金の比率の推移を示している。ここでは、他国との賃金水準を比較するため、購買力平価(PPP)を用いてドル換算した賃金を用いている57。同図(1)から、送出国についてみると、送出国の平均賃金が上昇する一方で、我が国ではおおむね横ばいであった結果、我が国に対する各国の平均賃金の比率は2013~2021年にかけて、どの国においても上昇している。加えて、同図(2)から、他の受入国である、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、韓国と日本の平均賃金比をみると、長期的には差が拡大傾向にある。我が国において長期的に賃金上昇が停滞した結果、諸外国との賃金差が拡大しているため、外国人労働者にとって、我が国の賃金が相対的に見劣りしてしまう可能性がある。
送出国との賃金水準の差が縮まり、受入国との賃金水準の差が広がる中、我が国の賃金をしっかりと増加させていくことは、外国人労働者に「選ばれる国」であるためにも重要な要素の一つであると考えられる。
外国人を雇用する事業所は増加傾向、沖縄県では2009~2023年の間に5倍に増加
我が国において外国人を雇用している事業所数は大きく増加している。第2-(2)-19図(1)により、外国人を雇用する事業所(以下「外国人雇用事業所」という。)数の推移をみると、2023年には30万事業所を超えており、東京都・神奈川県・愛知県・大阪府以外の43道府県でも、2009年と比べて3倍程度まで増加している。同図(2)において、2009年から2023年までの外国人雇用事業所数の変化を都道府県別にみると、秋田県や岐阜県でも2倍程度、沖縄県では5倍程度まで事業所数が増加している。都道府県間の違いはありつつも、全国的に外国人雇用事業所数が大きく増加していることが確認できる。
外国人の応募を増やす最も大きな要素は募集賃金、120日以上の休日日数も応募を増やす可能性
最後に、ハローワークのデータを用いて、外国人労働者が応募しやすい求人等について分析しよう。ここでは、2023年中に登録された新規求職者及び新規求人の行政記録情報を用いて、外国人の求人の紹介58や求職の状況について確認する。
まずハローワークにおいて受け付けられた求人や紹介について、第2-(2)-20図から、フルタイム求人59の月額賃金(下限)、残業時間、年間休日日数の分布と被紹介割合を確認する。同図(1)~(3)により、求人の分布をみると、月額賃金については15~17.5万円を提示する求人の割合が30%程度と最も高く、15~20万円が過半を占めている。また、残業については月当たり10~20時間、休日日数については年間100~110日と120~130日としている求人の割合が高い。同図(4)~(6)により、求人の被紹介割合をみると、まず、月額賃金が高いほど被紹介割合が高くなるわけではないことが分かる。これは、厚生労働省(2023)で指摘したように、求職者はそれぞれのライフステージ等に応じて、休日や残業等の賃金以外の要素も考慮しながら、求職活動を行っていることが背景にあると考えられる。一方で、残業時間については、10~20時間であれば40%程度である被紹介割合が、20~30時間では30%程度、30時間以上では20%程度まで低下しており、残業時間が20時間を超えると、求職者に応募されにくい傾向がみてとれる。休日日数については、年間120~130日、130日以上では被紹介割合が60~70%程度となっており、休日日数が多いと、求人に多くの求職者が応募している傾向が確認できる。
次に、第2-(2)-21図では、フルタイム求人の月額賃金(下限)、残業時間、年間休日日数のそれぞれについて、応募した求職者60の分布を表したものであり、求職者全体及び外国人が、それぞれどのような条件の求人に応募しているかを示している。
同図(1)をみると、求職者全体が応募した求人のうち、月額賃金が15~17.5万円の求人の被紹介件数は30%程度、15~20万円では過半を占めていることが分かる。一方で、外国人については、月額賃金が20~22.5万円、22.5~25万円、25万円以上の求人に応募した求職者の割合が求職者全体の傾向と比べても高く、外国人は他の求職者と比較しても、賃金を重視して求職活動を行っている者が多い61ことが確認できる62。同図(2)は月の残業時間についてみたものである。求職者全体では、総じて、残業なしや20時間未満の求人への応募が多く、20時間超は応募が少ない傾向がみられるが、外国人については20時間超の比較的長い残業時間の求人でも応募している割合が高い63。ただし、同図(3)の休日日数についてみると、求職者全体と外国人の両方において、休日日数が120~130日の求人では応募する求職者の割合が50%程度と最も高くなっており、外国人もその多くが、120日以上の水準を求めていることがうかがえる64。
このように、被紹介(応募)割合は、賃金や残業、休日日数等様々な求人条件によって影響を受けることがうかがえる。ただし、一つひとつの求人条件をみただけでは、それがどの程度求職者の応募等に影響を与えるのか、確たることはいえない。このため、「それぞれの求人条件が、労働者の応募確率をどの程度上昇させるか」をロジスティック回帰分析により推計した65。第2-(2)-22図は、フルタイム・パートタイム別の推計の結果を、求職者計、外国人別にグラフで示したもの66である。なお、外国人については、求職者に占める割合が全体の求職者の3%弱であることから、仮に労働条件を変更したとしても、実際に外国人が応募する確率は小さいため、効果を示す値は小さくなっている。
同図(1)(2)により、フルタイム求人において、求人条件等が被紹介確率に与える影響をみると、求職者計については、下限賃金(月給)が高く、ボーナスあり、完全週休二日という条件があると、被紹介確率にプラスに寄与している一方で、残業があると被紹介確率は低下している67。外国人については、求職者計と比較して、賃金が与える影響が他の要素と比較して大きくなっており、様々な要素を考慮してもなお、賃金がその応募を促すモチベーションとなっていることが分かる68。
同図(3)(4)から、パートタイム求人についてみると、求職者計では下限賃金(時給)がマイナスに寄与しており、賃金以外の要素として、ボーナスありや完全週休二日といった条件が影響を及ぼしている69ことが分かる。ただし、こうした中にあっても、外国人については、下限賃金(時給)が他の要素と比較して大きくプラスとなっており、パートタイム求人についても、フルタイム求人と同様の結果であることが分かる70。
こうしたハローワークのデータによる分析を踏まえると、外国人については、賃金が求人に応募する重要な要素の一つとなっており、休日日数についても応募を増やす要素となっていることが確認できる。外国人労働者に「選ばれる」観点から、賃金はもとより休日日数などを含めた総合的な処遇の向上が重要といえよう。
日本企業が採用の際に外国人労働者の能力で重視するのは「日本語能力」
外国人が日本で就労するにあたって、最も企業に重要視されているのが日本語能力である。2012年度に経済産業省委託事業として行われた「日本企業における高度外国人材の採用・活用に関する調査」によると、採用の際に重視することとして、70%の企業が「語学力(日本語)」をあげている。また、2019年に日本総合研究所が行った「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」においても、「採用にあたって考慮すること」として、「人物、人柄」(69.3%)に並んで、「日本語能力」(68.6%)があげられている。このように、企業が外国人を雇用するにあたって、「日本語能力」を重視していることがうかがえる。
「日本語能力」を測る試験としては、国際交流基金と日本国際教育支援協会によって行われている日本語能力試験(JLPT)がある71。第2-(2)-23図(1)により、日本語能力試験の受験者数の推移をみると、感染拡大前の2017~2019年は100万人を上回り、2020年には感染症の拡大により第1回試験が世界的に行えなくなったこと等から大きく落ち込んだものの、2022年では90万人程度となるなど、長期的に大きく増加傾向にある。ただし、同図(2)から、多くの企業が求める水準72であるN1、N2と、それ以外のN3~N5に分けて受験者数の推移をみると、N1、N2は長期的にはそれほど増加しておらず2022年において2011年の水準よりも低くなっているが、N3~N5は感染拡大により減少したものの、2022年において2011年の2倍超となっている。日本語学習者の裾野が広がっていることがうかがえる一方で、企業が求める日本語能力の水準に達する者の数が、長期的にはそれほど増加していないことを示している。ただし、最近では、各自の専門性を評価して、必ずしも日本語能力にとらわれない採用活動を行い、多くの優秀な人材採用を行っている事例もみられる73。企業側が求める日本語能力について、業務の性質などに応じて柔軟に検討することにより、採用できる人材の幅も広がることが考えられる。
また、外国人への日本語習得支援として、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和5年度改訂)74」においてまとめられているとおり、都道府県等が行う日本語教育を強化するための総合的な体制づくりの推進や、ICT技術等を活用した日本語教育の充実等に引き続き取り組んでいくことも重要である。
外国人労働者に「選ばれる国」に向けて
これまで指摘したように、我が国と送出国の賃金差は縮小傾向で推移している一方で、外国人労働者を受け入れている他国においては賃金の伸びが大きい。このことを踏まえれば、賃金等の基本的な労働条件を整えることは、我が国が外国人労働者に「選ばれる国」となるために重要な要素の一つであると考えられる。ただし、ハローワークのデータから明らかとなったように、外国人は賃金のみで就職先を決定しているわけではなく、労働者としての権利や人権が適正に保護されることや、外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みなど、外国人の処遇が総合的に確保され、働きがいのある国となっていくことが必要である。
2024年の法改正により、技能実習制度を発展的に解消して、新たに人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度を創設することとしたが、育成就労制度は、特定技能1号水準の人材を育成するための制度として、受入れ対象分野を特定技能制度と原則一致させるとともに、転籍制限の緩和、受入れや送出しを適正化するための施策を講じることとしており、我が国が外国人労働者に「選ばれる国」となることに貢献することが期待される。
また、近年日本で留学する外国人75が大きく増加しており、特に、大学等の高等教育機関への留学も増加している。留学生の卒業後の日本での滞在率は他国と比べても高い水準にあり76、留学生にとって、日本は言葉や生活文化が異なっていても、最も身近な国の一つであるといえるだろう。企業にとって新卒採用での人材確保が難しくなる中、留学生は高度に専門・技術的な外国人材のいわば「候補者」ともいえる存在である。留学生にとって日本企業が卒業後の有力な選択肢の一つとなるよう、企業は、仕事の特性や専門性を踏まえながら、外国人に求める日本語能力についても再検討するとともに、外国人への日本語習得支援の取組も引き続き推進し、「日本語能力」に関する企業と外国人労働者のギャップを解消していくことも必要であろう。
コラム2–7 アイルランドにおける労働生産性について
第2-(2)-1図でみたとおり、アイルランドにおける労働生産性(生産性)77の水準は他のOECD諸国と比較しても飛び抜けて高く、またその成長率も年平均6%強と極めて高い水準となっている。なぜアイルランドは、これほど生産性の水準や成長率が高いのであろうか。
この背景には、アイルランドにおける多国籍企業の生産性が高く、近年大きく成長していることがある。コラム2-7-①図(1)から、生産性を国内企業等78と、多国籍企業79に分解してその推移をみる80と、国内企業等における生産性はおおむね50ユーロ程度であり、2011~2023年にかけてほとんど成長していない。一方で、多国籍企業における生産性は、2011年時点でも200ユーロ弱、2022年には450ユーロ近くまで上昇し、アイルランド全体の生産性をけん引していることが分かる。
さらに、同図(2)から、アイルランド国内の多国籍企業における労働力供給量の占める割合をみると、2011年の10%弱から、2023年には14%程度まで上昇している。生産性の高い多国籍企業に属する労働力の増加の構成効果も、生産性の向上に寄与しているものと考えられる。
一方で、コラム2-7-②図(1)から、国内企業等と多国籍企業における時間当たり賃金の推移をみると、多国籍企業における賃金水準が総じて2~3割ほど高く、また大きく上昇している。国内企業等についても、生産性はそれほど伸びていないが多国籍企業の賃金水準にけん引される形で、賃金水準は上昇している81。ただし、多国籍企業の時間当たりの生産性が、国内企業等の約8倍であることを踏まえると、賃金水準の差は生産性の差ほどではない。この結果として、アイルランドの生産性は他国に比べ飛び抜けて高い一方で、同図(2)が示すように、年収については、アイルランドはOECD諸国の中でおおむね中の上程度の水準にとどまっている。
アイルランドにおける生産性がOECD諸国の中でも飛び抜けて高い背景には、製薬やIT関連産業などの極めて高い生産性を誇る多国籍企業が集積するというアイルランド特有の事情があることがうかがえる。このため、必ずしも日本に直接的に参考となるものではないと考えられるが、アイルランドにおける多国籍企業の高い生産性に伴う(生産性の水準ほどではないものの)高賃金が、国内労働力の変化を通じて与える国内企業の賃金への影響は、賃金上昇のメカニズムの一つとして、重要な事例であると考えられる。
コラム2–8 社会的規範(Social Norms)と女性の労働参加について
第2-(2)-6図でみたように、OECD諸国における女性の労働参加率は、日本も含めて大きく上昇している。ただし、コラム2-8-①図にあるように、25~54歳では、非労働力人口比率やパート比率は全ての国で女性の方が高くなっており、女性の労働参加が進む中にあっても、依然として労働参加や働き方には男女差がみられる。
男女間における労働参加の違いの背景には、出産・育児の負担の在り方等、様々な要因があるものと考えられるが、そのうちの一つとして、社会的規範(Social Norms)82が影響しているのではないかという指摘がある。例えば、Goussé, Jacquemet and Robin (2017) は、イギリスのデータを用いて、「母親が就労することで就学時に悪影響がある」「夫は稼ぐべき、妻は家にいるべきである」といった質問事項から、本来把握することが難しい社会的通念を指数化し、本指数を用いて女性の就労等への影響を分析している。本研究によれば、指数の水準が比較的高い(比較的「保守的な」考え方を持つ)夫婦においては、妻の就業時間が短く、家事等の無償労働時間が長いことを紹介している83。さらに、Bertrand, Kamenica and Pan (2015)は、アメリカにおける夫婦間の賃金分布から、夫が妻よりも収入が高い家計の割合と比べて、その逆の家計の割合は圧倒的に低いこと等のデータを示した84上で、「妻が夫よりも高い収入を得ること」に対して不快に思うような社会的通念の存在を指摘し、これが、結婚率の低下や、女性の就業抑制等に影響している可能性があることを指摘している85。
我が国においても、このような社会的通念が女性の就業に影響を与えているのであろうか。大阪商業大学が2017年、2018年に行った「「第11回生活と意識についての国際比較調査」特別調査「文化と国際化についての調査」」(JGSS)を用いて、夫による妻の就業への考え方と妻の就業状態の関係をみたものが、コラム2-8-②図である。これによると、夫が「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考えに賛成であるほど、妻の就業率が低く、労働時間も短くなっている。また、夫が「妻にとっては、自分自身の仕事よりも、夫の仕事の手助けをする方が大切である」という考えに賛成であるほど、妻の就業割合が低く、労働時間が短くなる傾向もみてとれる。
妻の就業に与える影響は、夫の考え方によってのみ生じるわけではないため、同調査を用いて、夫の年齢、同居する子どもの有無、夫の収入、居住地、妻の学歴等をコントロールした上で、夫の考え方が妻の就業に与える影響について推計した。これによると、夫が「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」「妻にとっては、自分自身の仕事よりも、夫の仕事の手助けをする方が大切である」のどちらかに、「どちらかといえば賛成」又は「賛成」と回答している場合には、妻の就業確率が有意に低下している。また、この場合、仮に妻が就業していても、労働時間が有意に減少することが確認された86。
この結果を踏まえると、我が国においても、女性の就労に関して否定的な考えを夫が持つ場合、妻の労働参加の低下や、労働時間の縮減が生じている可能性が示唆される。
一方、結婚や女性の就労に対する社会の意識も変化している87。55歳未満の既婚女性に対して国立社会保障・人口問題研究所が定期的に行っている「出生動向基本調査」では、「結婚したら、家庭のためには自分の個性や生き方を半分犠牲にするのは当然だ」「結婚後は、夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」「少なくとも子どもが小さいうちは、母親は仕事を持たず家にいるのが望ましい」といった質問に対して、「全く賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した割合をみると、いずれの項目についても、1992年から長期的に低下傾向を示しており、直近の2021年は最低水準となっている。
これまでみたように、本来、就労は本人の希望によって選択されるべきものであるものの、実際には、本人だけではなく、夫の「働くこと」に対する考え方や意向等が、実際に妻の選択に影響を及ぼしている可能性がある。このような異性に対して期待する役割については、性別に関する無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス88)から生じている可能性があり、こうしたバイアスによって女性のみが就労の機会を失うことは、個人だけではなく、我が国にとっての社会的損失でもある。このため、厚生労働省としても、アンコンシャス・バイアスの解消に向けて、企業の経営者や人事労務担当者に対するセミナー等を実施している。多様性と公平性と包摂性を持った活力ある我が国の経済・社会を実現するため、引き続き、女性の自由な就業を阻むような意識を解消する粘り強い取組が必要だろう89。
コラム2–9 地方の中小企業におけるDX推進の取組について
人手不足の解消に向けた対策の一つである生産性の向上にあたっては、DXの推進が重要となる。本コラムでは、地方の中小企業において、自社人材でDXを推進している株式会社フジワラテクノアートの取組について紹介していく。
株式会社フジワラテクノアート
株式会社フジワラテクノアートは、2023年に創業90周年を迎えた醸造機械・プラントメーカーである(従業員数150名(2024年4月時点)、本社:岡山市北区)。これまでも経済産業省の「DXセレクション202390」でグランプリを受賞するなど、DX推進の取組で注目されている。
同社は2017年に、2050年を見据えた「開発ビジョン2050(「醸造を原点に、世界で『微生物インダストリー91』を共創する企業」)」を策定した。ビジョン策定の背景には、全自動製麹装置において国内シェア8割を達成しているものの、現状に満足し、技術イノベーションの努力を怠れば、すぐさま衰退してしまうとの経営陣の危機感があったという。同社は2019年より、ビジョン実現のために、これまで「個人の経験やノウハウ」に頼っていた業務について、そのプロセスや生産管理の状況を可視化するとともに、営業や生産に関するデータの収集・抽出・分析を通じて、業務の効率化と高度化を実現することが不可欠として、全社でDXを推進している。DX推進の中心を担う「DX推進委員会」は部門横断で役員も参加しており、毎月定例会を実施している。定例会では「全社最適」を合言葉に、自由闊達な議論を行っているという。
DX推進委員会は各部門へのヒアリングによる現状業務の把握と可視化から着手し、あるべき姿に照らして抽出した約100項目の課題について、開発ビジョンに向けたDXの観点から優先順位付けを行った後、デジタル化計画の策定を行った。同取組を進める前は紙や表計算ソフトでの管理を主としていたが、デジタル化計画に基づき、2019~2023年までに21個のITツール・システムを導入・活用してきた。基幹システム等の刷新にあたっては、各システムの連携やアップデートへの対応を容易にするため、カスタマイズは極力行わずパッケージに業務を合わせる方針とし、提案依頼書の作成からシステム選定・導入までを自社主導で行った。基幹システム等の刷新により、業務プロセスや原価、進捗の可視化を実現し、効率的な製造につながっている。
仕入先への発注方法を従来のFAX・郵送等からオンラインに切り替えたことで、月400時間の工数削減やペーパーレスを実現した。発注方法のオンライン化にあたっては、これまでの発注方法を変えることに難色を示す会社もあるのではないかという懸念があったが、協力会社の9割以上から賛同を得た。また、社内だけでなく協力会社に対しても情報セキュリティセミナー等を実施しており、協力会社とのセキュリティ協力体制を構築している。さらに、社員自らが必要性を感じ自主的に学習した結果、2018年には1名だったデジタル人材92が2023年には延べ21名まで増加し、DXの内製化に成功している。DX推進委員長によると、「基幹システム等の刷新にあたり、メンバーは現状把握と課題検討、システム選定時から委員会に参加していたため、DXを自分事として捉えることができていた。そして、システム構築を最後まで成し遂げたことで、スキル向上につながった」と語っている。
DX推進にあたっては、その必要性を疑問視する声も社内にあったが、DXは開発ビジョン2050を達成するために必要な手段であることを説明し、理解が深まった側面もあったという。また、ベテラン社員の疑問に答える際には、きめ細やかなサポートを行った。そして、同社では人事制度等様々な取組について積極的に社内アンケートを実施してきたが、DXにおいても新システム導入及び運用について社内アンケートを行い、結果を公開した上で対応を決定していったという。
加えて、同社は働きやすい環境整備や、働きがいのある職場づくりにも力を入れており、新卒3年以内の離職率ゼロを実現している。例えば、社員の関係性の質を高めるための取組として、メンター制度や社内懇親会、社員の家族も参加する祭り等を実施している。また、エンゲイジメント向上の取組として、毎月全社員で集まって顧客案件等を共有しているほか、社員食堂では取引先企業の製品である日本酒や焼酎の瓶をディスプレイしたり、味噌や醤油等を使ったメニューを提供したりすることで、仕事の成果を実感・共有できる空間を提供している。
同社のDX推進委員長は、「製品製作・メンテナンスや新規開発等では、社員一人ひとりが持つ知識やノウハウが重要となる。より良いサービスを提供できるよう、個々の経験を組織の資源とするナレッジマネジメントを進めていきたい」と述べている。
同社は経営にDXを組み込み、ビジョン実現に向けて、各部署の「あるべき姿」を明確にしてきた。さらに、社員一人ひとりが5か年ビジョンを設定して自分事として捉えることで、社内人材でスピード感を持ってDXを推進し、業務を効率化することに成功した。こうした成功の背景には、お互いの仕事や顔の見える関係の中で培われてきた社員同士の密な関係や、DXの推進にあたって部門横断的に丁寧な議論を重ねたことがあると考えられる。同社の事例は、今後、同様にDXを推進しようとしている地方の中小企業にも参考となる取組であるといえよう93。
コラム2–10 職場のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンに向けて
~20か国以上の国籍のドライバーが活躍するタクシー会社での取組について~
タクシー業界では、新型コロナウイルス感染症(以下、本コラムにおいて「感染症」という。)の5類感染症への移行により、外出機会やインバウンドが増加したことから、感染拡大期に減少していた客足も回復しつつある。また、高齢化が進む中、福祉タクシーといった要介護・要支援高齢者等の公共交通機関の利用が困難な方への移動サービスとしての需要も増えており、タクシー運転手の人材確保が社会的にも重要性を増している94。
こうした中で、外国人ドライバーの活用を進める動きがある95。本コラムでは、人種、国籍、宗教等の多様な属性や個性を尊重する中で、外国人ドライバーについても、定着・活躍へとつなげている、日の丸交通株式会社の取組を紹介していく。
日の丸交通株式会社
日の丸交通株式会社は、1950年に創業した「日の丸自動車株式会社」に端を発し、タクシー事業をメインとしつつ、バス事業や教習所事業等も行っていたが、1991年に事業ごとに分離独立し、「日の丸交通株式会社」がタクシー事業を受け継いだ(連結従業員数2,341名(2024年4月時点)、本社:東京都文京区)。
同社は「GO DRIVERSITY.(ゴー・ドライバーシティ)」96を社是に掲げ、ダイバーシティ施策を進めている。これまでに女性・外国人・性的マイノリティ・夢追人97ドライバーの積極的な採用を進めてきたという。さらに、2022年からは障害者ドライバーの採用も始めている。
同社は、2014年から人手不足への対応と多様性を推進するため女性活躍を進めてきたが98、2020年の東京オリンピック・パラリンピックによるインバウンド等の需要増加により、人手不足が一層深刻になっていくという当時の見通しの中で、外国人の採用にも積極的に取り組むようになった。外国人の雇用が進むきっかけとなったのは、2017年にあるエジプト人を採用したことだったという。当該社員は、こどもの頃から日本の漫画が好きで、独学で日本語を勉強しており、日本語での会話も特段差し支えなかった。また、一緒に働いてみて、勤務態度や人柄が良好だったこともあり、社内で外国人雇用に対する理解を得るきっかけになったという。その後、外国人ドライバーの採用や育成を積極的に行った結果、同社には29か国116名もの外国人が在籍している(2024年4月時点)。こうした外国人ドライバーを多く雇用しているという同社の強みをいかし、いずれは、観光客と同じ国のドライバーが案内するといった、乗客のニーズに幅広く応えるサービスへとつなげていきたいと、同社の採用部部長は展望を語る。
実際に外国人の活用を進めるにあたって、様々な工夫を行ってきており、例えば、募集において多様なツールを使っている。ハローワークへの相談をきっかけに、自社ホームページでの会社のアピールを始めたほか、外国人向けの求職活動フェアやWEBサイト(Gaijin Pot)、SNSも活用している。SNSで知り合った同じ国籍同士のつながりから採用に至った例もあるという。また、最近では、同社の外国人ドライバーの活躍について、TVや新聞記事でも取り上げられるようになり、それを見て応募する人も少なくないという。国籍・人種等様々な方が所属していることが伝わり、安心して応募してもらえているのではないかと、同社の採用部部長は語る。
採用後の働きやすい環境づくりにも力を入れる。それぞれの個性に会社が合わせていくことも大切だとする同社では、文化や個性を尊重すべく、例えば、ムスリムの従業員が一日に複数回行う礼拝に対応できるよう、従業員にも相談しながら、研修所に礼拝の場所を確保している。そのほか、同社では、社内規定において身だしなみに関する規定が多くあったが、例えば、国によっては、宗教的・文化的に生活規範とされる男性の髭について、マスクで隠せる範囲であれば可とするなど、文化の尊重と接客業における規則とをすりあわせる努力を重ねている。また、個人のファッションを認める観点から、日本人社員も対象に含めて、髪色の自由化を試験的に始めたところであるが、髪色よりも言葉遣いや接客態度が重視されているようであり、今のところ、乗客からのクレーム等も特段無いという99。
外国人の雇用においては、「言葉の壁」を無くしていくことも重要であり、同社ではそのために、営業所内の掲示物(重要な通達等)に英語を併記することで、できる限り、支障なく正確に情報が伝わるように配慮している。また、免許取得の試験対策100においては、乗務経験のある外国籍研修教官による英語での説明を受けられるようにした。日本語の説明だけでは十分に伝わりづらかった、問題文や交通法規で使われる言葉の意味101やニュアンス等も、英語を母語とする従業員に伝わりやすくなり、外国人が間違えやすい問題への対策もできるようになった。
同社は感染症を契機に普及した配車アプリを活用して、乗客のニーズを見える化することで、実車率を向上させている。アプリを使うことで、経験の少ない若手や外国人のドライバーでも、多くの乗客を乗せて走ることができ、より高い収入を望めるようになることで、人材の定着や新卒等若手の採用にも貢献しているという。
採用部部長は、「実際に一緒に働いてみて、相手の文化や価値観の違いに気づくことも多い。この先も、皆が働きやすいように、それぞれの個性に合わせた取組を続けていきたい」と述べている。
外国人ドライバーを受け入れてきた同社は、従業員それぞれの多様性を認め、従業員が働きやすくなるような取組を柔軟に講じている。外国人労働者の受入れにあたっては、同社の事例のように、一人ひとりの文化的な背景や個性を尊重して丁寧に対話を進め、固定観念にとらわれず、現状に合わせて規則等を変えていくことが求められてくるだろう。
第2節 介護分野における人手不足の状況と取組の効果
介護分野の人手不足は年々深刻化
第Ⅱ部第2章第1節においては、誰もが活躍できる社会の実現に向け、女性、高齢者、外国人の就労を取り巻く現状や今後の望ましい方向性等についてマクロの観点から分析した。第2節・第3節では、産業に着目したミクロの観点からの分析を行う。ここでは、人手不足が深刻であり、かつ、国民生活に密着している分野として、介護分野と小売・サービス分野に着目102して、それぞれの分野における事業所等への調査を活用して分析を行い、これらの分野での人手不足の緩和に効果的な取組を紹介していく。
まず、介護分野103については、(公財)介護労働安定センターが毎年実施している「介護労働実態調査104」のうち、2015~2022年のものを用いて分析する。まず、人手不足の状況について確認しよう。第2-(2)-24図に、法人規模別105・地域別の介護職員等の人手不足D.I.を示しているが、これは「人手が過剰である」と回答した事業所の割合から、「人手が不足している」と回答した事業所の割合を差し引いたものである106。これによると、総じて、人手不足が強い傾向にあり、法人規模別にみると、100人以上の大きい事業所において人手不足感が強いことが分かる。法人規模が100人未満の事業所の人手不足感は若干弱いものの、2015年の水準よりもマイナス幅が広がっており、100人以上規模事業所の人手不足感の水準に近づいていることが分かる。また、地域別にみると、「政令指定都市、東京23区」の方が「それ以外」の地域と比べて介護事業所における人手不足感は強くなっている。全体の求人数が多く、相対的に賃金が高い産業や職種とも競合しやすい都市部において人手不足感が強いことがうかがえる。
人手不足となっている事業所の割合が高まる中、事業運営上の問題点として、「人手不足」をあげる事業所の割合も高まっている。第2-(2)-25図は、介護保険の指定介護サービス事業を運営する上での問題点を示している。調査の質問では、各事業所で最大三つの回答をあげるようにしているが、「良質な人材の確保が難しい」は2022年では8割近くと他を引き離しており、人手不足は事業運営上の最重要課題であることが分かる。加えて、「今の介護報酬では、十分な賃金を払えない」「サービス提供に関する書類作成が煩雑で、時間に追われている」「教育・研修の時間が十分に取れない」等、人手不足に関連する問題点をあげる事業所が多い。ただし、これらのうち、「今の介護報酬では、十分な賃金を払えない」をあげる事業所割合は2015年よりも低下している107。介護職員の賃上げについては、処遇改善加算108の充実や生産性向上支援等の取組を講じてきたところであり、こうした取組等の効果がみられる。
介護事業所の入職率・離職率はともに低下傾向
介護事業所における入職率と離職率についても確認してみよう。第2-(2)-26図をみると、全ての地域・法人規模において、長期的に入職率も離職率も低下していることが分かる109。離職率の低下については、各事業所での人材流出防止のための取組の進展が背景にあるものと考えられる110が、同時に入職率も低下している。法人規模別にみると、離職率の水準は大きく変わらないものの、入職率は法人規模100人未満の事業所で高い一方で、100人以上で低い傾向がみられる。こうした入職率の低さが、法人規模100人以上における深刻な人手不足感につながっているものと考えられる。地域別にみると、「政令指定都市、東京23区」ではその他の地域と比較して入職率も離職率も高くなっている。
人手不足の深刻化の背景は、離職率の低下より速いペースで入職率が低下したこと
人手不足と入職率・離職率との関係について確認しよう。第2-(2)-27図(1)(2)により、全体的に人手不足を感じている事業所について、人手不足の程度と入職率・離職率の関係をみると、入職率が高い事業所や、離職率が低い事業所ほど、人手不足感が比較的弱い傾向にあることが分かる。ただし、人手不足の程度による差は入職率ではあまりみられず、大きく異なるのは離職率である。同図(3)には、入職率から離職率を差し引いた「在籍者増加率」を横軸に、介護職員等の人手不足D.I.を縦軸に示している。2015~2022年の法人規模別・地域別の数値をプロットして、その関係をみると在籍者増加率が高くなるほど、人手不足感が弱くなる傾向がみられる。なお、決定係数が低いが、これは法人規模による差異が大きいことから生じているものであり、法人規模等を調整する111と、決定係数は0.75程度となっており、在籍者増加率が人手不足を緩和する方向に寄与していることが分かる。これらを踏まえると、人手不足事業所においては、入職率は高いものの、離職率も高いため、結果として人手不足を解消できていないことがうかがえる。この背景には、採用を増やしても、教育や研修の時間を十分に確保できず、その結果、人材の定着や技能の蓄積が促されず、それが更に人手不足感を強め、離職を招くという悪循環になっている可能性がある112。
以上の結果を総合的に考えると、介護分野においては、ここ約10年間において、離職率の低下が進んでいる中で、入職率も低下している。ただし、離職率は依然として15%程度であり、そのうち、1年以内の短期離職者が3~4割程度を占めることを踏まえれば、引き続き、離職率低下に向け、人材の定着を図るための取組を着実に進めていく必要がある113。第Ⅱ部第1章でもみたとおり、我が国における人手不足が全産業的に深刻化しており、かつ「長期かつ粘着的」になっている状況にあることを踏まえれば、新たな入職者の確保に努めつつ、同時に既存の人材の定着を図ることで、必ずしも入職が多くない中にあっても人手不足を少しずつ解消していくという好循環へと転換していくことが必要である114。
介護分野の人手不足事業所では相対的に賃金が低い
それでは、どのような取組が人手不足感を弱めるだろうか。以下、足下の取組や効果を確認するため、2020~2022年の「介護労働実態調査」のデータを用いて分析していく。ここでは、訪問介護員や介護職員に限らず、全体的に人手不足を感じている事業所(以下「人手不足事業所」という。)と、人手が「適正」あるいは「過剰」としている事業所(以下「人手適正・過剰事業所」という。)に分けて分析を行う。
まず、賃金と人手不足の関係について確認しよう。第2-(2)-28図は、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所の「事業所賃金比」の分布とその比較である。「事業所賃金比」は、当該介護事業所の支払っている賃金額が、他の介護事業所と比較してどの程度であるかを示す指標として定義している115。「事業所賃金比」が1を超えていれば、他の事業所と比較して高い賃金を支払っており、1を下回っていればその逆であることを示している。
同図(1)で「事業所賃金比」の分布を比較すると、「0.9~1.0」が最も多いが、「人手不足事業所」は0.9以下の相対的に低い賃金比の事業所の割合が高く、「人手適正・過剰事業所」では1.0以上の相対的に高い賃金比の事業所の割合が高くなっている。同図(2)は、それぞれの賃金比ごとに、「人手適正・過剰事業所」と「人手不足事業所」の割合の差を示したものである。1.0以上の相対的に賃金が高い事業所の割合は、僅かではあるが、「人手適正・過剰事業所」が「人手不足事業所」を上回っており、相対的に高い賃金を支払っている事業所が多いことが分かる。
介護事業所の人手不足の緩和には、賃金のほか「相談体制の整備」や「ICT機器の整備」が効果的だが、不足感に応じた対策の検討が重要
最後に、どのような取組が人手不足緩和に寄与するのか、具体的に確認しよう。取組が事業所の人手不足感(「1.大いに不足」「2.不足」「3.やや不足」「4.適当」「5.過剰」の五つの選択肢)に与える影響を分析するため、厚生労働省(2019)と同じく、順序ロジット分析の手法を用いた。推計結果の概略は第2-(2)-29表のとおり116だが、これにより明らかになったことは以下の4点である117。
- 1.事業所の人手不足の程度によって、効果は異なるものの、総じて「介護事業所における平均的な水準以上の賃金水準」「相談体制の整備」「定期的な賞与の支給」「ICT機器の整備」は、人手不足緩和に効果があるものと考えられる。
- 2.人手が「大いに不足」している事業所には、「介護福祉機器の整備」に効果がみられ、職員の身体的な負荷を軽減することが重要であることが示唆される。
- 3.人手が「不足」している事業所には、「介護福祉機器の整備」による職員の負荷軽減に加えて、「相談体制の整備」等、労働環境の改善が重要と考えられる。
- 4.人手が「やや不足」している場合には、標準的な介護事業所よりも少なくとも10%程度高い賃金を支給することや、賞与を支給すること等、他の事業所との人材獲得競争の中で、求職者や今いる労働者に対して、より魅力的な労働条件を示すことが重要となる。さらに、「ICT機器の整備」等を通じた業務効率化に取り組むことも重要である。
介護者の身体的負担や事務負担の軽減に向けた事業所の取組への支援も重要
さらに、人手が「大いに不足」「不足」している場合に重要となる「介護福祉機器の整備」について、各取組の人手不足に対する影響を詳細に分析したところ、概して、入浴の補助に資するもの、車椅子のまま使用できるリフトや体重計等の効果が大きいことが分かった。入浴や立ち上がる際の介助は、介護者への身体的な負担が大きく、腰痛の原因ともなり得ることから、こうした機器の導入は、介護者の労働災害のリスクを軽減する観点からも重要といえよう。
また、人手が「やや不足」している場合に効果がある「ICT機器」等については、給与計算等を一元化するシステムや、情報共有システムを活用した他事業所との連携システム等、事務負担を軽減するような取組の効果が大きいことが明らかとなった。この背景には、実際に介護サービスを提供するにあたっては、利用者に対する直接的なサービスだけではなく、申し送りのための書類作成等、事務作業にも多くの時間を要することが考えられる。ICT機器の導入による事務負担の軽減は、より多くの労働時間を利用者への対応に振り向けることを可能にすることから、労働者のエンゲイジメントの改善や利用者の満足度の向上等にも寄与することが期待される。
このように、介護事業所を対象とした分析によれば、人手不足の程度に応じて効果のある対策に違いがあり、事業所ごとに必要な取組も異なることが示唆される。各事業所は、人手不足の原因となる課題を改めて整理し、その上で、人手不足の程度に応じて優先順位を決め、職員の身体的負担の状況や、労働環境等の改善等、効果的と考えられる取組を進めていくことが重要であろう118。政府においては、こうした経営上の支援のほか、機器の導入支援119、賃上げの原資となる介護報酬の確保120なども行っているところである。高齢者が安心してケアを受けられるような持続可能性のある社会保障の体制を確保していくためにも、介護分野における職場環境の改善等への支援を講じ、介護人材が離職することを防止していく必要がある。
コラム2–11 介護現場での分業制や夜勤専従制の導入について
高齢化に伴う要介護ニーズは近年大きく伸びており、2023年11月時点で要介護(要支援)認定者数は707.5万人だが121、65歳以上の高齢者数がほぼピークを迎える2040年度には872万人となる見込みだ122。この状況を支えるためには約280万人の介護職員を要し、2019年度時点で試算すると新たに約69万人が必要となり、その確保が課題となっている123。足下では、既に7割近くの介護施設が慢性的に介護職員の不足を感じており124、状況は深刻である125。
本コラムでは、直接業務と間接業務の分業126や夜勤専従制の導入等の新しい労働条件や働き方改革を進めて働きやすい職場環境づくりを進めるとともに、キャリアアップ制度や職員との密接なコミュニケーションによって人材の定着へとつなげている、株式会社ウェルフェア三重の取組を紹介していく。
株式会社ウェルフェア三重
2002年創業の株式会社ウェルフェア三重は、三重県伊勢市を中心に、グループホーム、有料老人ホーム等を運営している(従業員数114名(2024年4月時点)、本社:三重県伊勢市)。同社は、独自の働き方改革として、①直接業務と間接業務の分業制の導入、②「週休3日・夜勤専従・10時間勤務」の導入127、③ICTを活用した業務の効率化(スマートフォンを使った介護記録の電子化やインカムの活用)に取り組んでいる。
まず、直接業務と間接業務の分業について紹介しよう。介護の業務は、入浴や食事の世話等の「直接業務」だけではなく、掃除・洗濯・シーツの交換等の「間接業務」も多くを占め、通常これらは同一のスタッフが行っているが、同社では、2016年に分業することとした。これにより、介護職員が直接業務に専念できるだけではなく、間接業務を就労支援施設の利用者である障害者やシルバー人材センターの高齢者等に担っていただくことで、間接業務の質が以前に比べて向上しただけではなく、こうした方々が活躍できる環境を整えることができた。分業制導入前は、介護職員が利用者に用事を頼まれて掃除・洗濯を中断せざるを得ず、利用者の家族から「掃除・洗濯が行き届いていない」とのクレームを受けることが多かった。導入後は、介護職員が直接業務に特化することで、利用者と向き合う時間が増え、利用者からは「分業前は職員が忙しそうで遠慮したが、今は色々な頼み事がしやすくなり、より快適に暮らせるようになった」といった声があるという。このように「利用者の思いを酌み取る」という介護の本質を職員が気づけるようになったことが、制度導入の一番の効果だと担当者は語る。
次に、「週休3日・夜勤専従・10時間勤務」の導入である。同取組は、同社の鈴鹿市の施設において行われているが、同施設の周辺地域は同業他社の施設が多いため、人手不足の状況にあった。新聞広告やハローワーク等での求人に応募がない中、退職者が重なり、2018年に事業の運営が厳しくなったことが新たな労働条件を導入するきっかけとなった。半年間の準備を経て導入した「週休3日・夜勤専従・10時間勤務」は介護業界では先駆的な取組でインパクトが大きかったため、導入直後は2名の募集に対し、7名もの応募があり、採用の増加へ結びついた。さらに、元々在籍していた職員へも良い影響があった。職員のライフスタイルに合わせて日勤・夜勤を選択できることでプライベートの充実につながったり、勤務時間が規則的になったことで、病欠も年間で8割近く減ったりしたという。
取組はどれも成功したが、導入当初は社員の抵抗感や不安感が大きかったという128。このため、専属のキャリアコンサルタントによるカウンセリングも導入している。職員の希望もより明確になり、職員自身が能動的に働き方を選択できるようになったことは、その後の成功につながった。また、当時の施設管理者が「取組は必ず成功する」という強いイメージを持って推し進めたことで、社員も目指す方向がぶれることなく、皆が同じ方向を向いて進むことができたという。
職員のキャリアアップにも力を入れている。先述のキャリアコンサルタントの導入のほか、2014年7月には、個の能力向上で質を高めてサービスを還元することを目的として研修教育機関「ウェルフェアアカデミー」を設立した129。独自の社内検定制度は介護技術の水準に応じて1~6級まで段位があり、段位取得は賞与へも還元される仕組みになっている130。研修の効果として、資格取得に対するモチベーションの高まりや、介護現場における事故の発生率低下につながっているという。資格取得の支援制度として、介護福祉士の研修費用負担制度も設けられており、受験費用のほか、合格祝い金、参考書への補助といった支援等を受けることができ、受験する職員はほぼ全員利用しているという。
職員の課題解決のケアにも取り組んでいる。上司との面談を半年に1回実施しているほか、メンタルヘルス相談窓口の設置やセルフ・キャリアドックにも取り組む。このような相談の機会は、職員が感じている課題やその対処法を客観的に考えるきっかけとなり、全体の離職率低下につながっているという。ある年は1年を通して離職希望者に積極的に働きかけたところ、そのうちの約70%が離職を思いとどまったという。
超高齢社会に突入している日本において、エッセンシャルワーカーである介護職員の不足は、被介護者の日常生活に支障をきたすだけではなく、その家族への影響も含めて社会問題となっている。同社において行われている、分業によって障害のある人や高齢者等が活躍できる環境を整えること、職員とのコミュニケーションを大切にしながら働きやすい職場づくりを進めていくことによる成果は、介護人材だけではなく、利用者がより良い介護を受けるきっかけにもなる。人材確保に取り組む介護業界の検討の一助となり得るケースといえよう。
第3節 小売・サービス分野における人手不足の状況と取組の効果
人手不足を感じる企業は半数以上。正社員の長期的不足が深刻
前節においては、介護事業所における人手不足の現状や、人手不足緩和に効果的な取組等を分析した。本節では、生活に密接に関わる小売・サービス分野131に焦点を当てて分析を行うこととする。分析にあたっては、厚生労働省からの要請に基づき、(独)労働政策研究・研修機構が2024年に実施した「人手不足とその対応に係る調査(事業所調査)132」を用いる。
まず、第2-(2)-30図(1)により、2023年12月末時点の人手不足の状況をみると、「人手不足133」と回答した事業所(以下「人手不足事業所」という。)の割合は、正社員、パート・アルバイトともに5割を超えている。一方、人手が「適正」であると回答した事業所は4割程度であり、「適正」よりも「不足」と回答した事業所の方が多い。
次に、同図(2)により、人手不足事業所における不足状況の見通しを確認する。調査では、人手不足事業所のうち、正社員、パート・アルバイト別に、一過性の不足(数年程度で解消する一時的な不足)か、構造的な不足(当面解消しない不足)かを確認している。パート・アルバイトが不足している事業所については、「構造的な不足」とする事業所は半数程度にとどまるが、正社員不足の事業所のうち、「構造的な不足」とする事業所は7割近くに及ぶ。正社員の人手不足については、多くの小売・サービス分野の事業所にとって、当面解消する見込みがない「構造的な不足」と認識されていることが分かる。同図(3)により、従業員の不足度134をみると、正社員、パート・アルバイトともに、ほとんどの事業所で、「不足感なし」か「10%未満」であるが、「10%以上」正社員が不足する企業も2割超となっており、正社員の不足に直面する事業所が一定程度存在していることが分かる135。
総じてみると、小売・サービス分野においては、半数以上の事業所が「人手不足」を感じている。特に、正社員については、多数の事業所が「当面解消する見込みがない」と考えており、その不足度も高い事業所が多く、パート・アルバイト以上に深刻な人手不足に直面していることがうかがえる。
小売・サービス分野の人手不足には離職率が大きく影響
人手不足の要因を確認するため、事業所を正社員、パート・アルバイト別に「人手不足事業所」と「人手適正・過剰事業所136」に分けて、それぞれの傾向や特徴を分析していく。
まず、第2-(2)-31図から、人手不足事業所と、人手適正・過剰事業所における入職率と離職率の関係をみてみよう。ここでは、過去6か月における正社員とパート・アルバイトの入職率及び離職率の分布を示している。総じてみると、人手不足事業所の方が、入職率、離職率ともに高い傾向にあり、職員の入れ替わりが多いことが分かる。
同図(1)から、正社員の入職率の分布についてみると、人手適正・過剰事業所において、「入職者はいない」と回答している割合が人手不足事業所よりも10%ポイント程度高くなっているものの、両者で大きな差はみられない。一方で、同図(2)から、正社員の離職率の分布についてみると、人手適正・過剰事業所の方が「離職者がいない」割合が25%ポイント近く高いことが分かる。これらから考えると、正社員の不足は、入職よりも離職によって差が生じやすいことや、労働者の定着度が高く離職が少ない事業所は、欠員補充のための新たな募集の必要性もなく、人手不足となりにくいことが示唆される。
同図(3)(4)からパート・アルバイトの状況についてみると、状況がやや異なる。「入職者はいない」「離職者はいない」とする割合は、人手適正・過剰事業所では、正社員の場合と大きな差がなく、パート・アルバイトにおいても定着度が高い状況がうかがえる。一方、人手不足事業所は、「入職者はいない」が2割程度にとどまっており、パート・アルバイトの入職率も離職率も、人手適正・過剰事業所よりも顕著に高い。人手不足事業所と人手適正・過剰事業所を比べると、パート・アルバイトでは、正社員に比べても、差が大きいことがうかがえる。
こうしてみると、人手不足の解消に向けては、入職率をあげること以上に、労働者が定着するような環境づくり等を通じて、人材の定着を図ることが重要であることが分かる。
小売・サービス分野の人手不足には労働環境が密接に関係
さらに、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所について、労働条件の違いを確認しよう。第2-(2)-32図(1)から、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所の賃金分布についてみると、正社員、パート・アルバイトともに、相対的に賃金が高い層の占める割合は、人手適正・過剰事業所の方が高くなっており、適正な人員を確保するため、高い賃金を支払っている事業所が多いことがうかがえる。次に、同図(2)から、有給休暇取得割合137についてみると、正社員では、人手不足事業所、人手適正・過剰事業所ともに「20~40%未満」が最多である138。ただし、人手不足事業所は、有給休暇取得割合が「0~20%未満」が2割近くで、人手適正・過剰事業所を上回っており、人手不足の中、正社員が休暇を取りにくい環境となっていることがうかがえる。同図(3)から、時間外労働についてみると、正社員では「10~20時間未満」、パート・アルバイトでは「10時間未満」の水準を境に、総じて人手不足事業所の方が高く、人手不足事業所では、時間外労働が長い傾向があることが分かる139。
以上から、人手不足と時間外労働の長さの因果関係には留意が必要であるものの、人手不足事業所は、賃金水準や有給休暇取得割合が低く、時間外労働が長い傾向にあると考えられる。
ICTや機械化への投資は人手不足の解消よりも業務効率化に効果
第2-(2)-33図により、ICTや機械化への投資による人手不足への効果を確認しよう。同図(1)(2)は、正社員、パート・アルバイト別に、ICTや機械化への投資の実施状況をみたものであるが、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所において総じて大きな違いはみられない。
また、同図(3)により、ICTや機械化への投資の効果についてみると、どの取組も業務効率の向上につながったとする事業所がおよそ7~9割であるが、人手不足の解消効果があると回答した事業所はおよそ3~7割とばらつきがある。ICT投資は、人手不足事業所、人手適正・過剰事業所ともに同様に取り組んでおり、人手不足の解消にも一定程度寄与しているものと考えられるが、事業所では、業務効率化により効果を感じていることがうかがえる。
人手を確保している事業所は、賃金制度を見直している事業所が多い
次に、第2-(2)-34図から、労働条件の整備の状況をみると、人手適正・過剰事業所は「深夜営業の縮小(労働時間の短縮)」以外の項目で、人手不足事業所を上回っていることが分かる。特に「職務給の導入・充実」「資格給の導入・充実」は、人手不足事業所と比べて高くなっており、個々人の職務やスキルを評価する処遇体系を見直すことも、人材確保に資する可能性が示唆される。
人手不足事業所は、「募集賃金の引上げ」等、あらゆる人材確保の取組に積極的
人材確保の取組について確認しよう。第2-(2)-35図は、採用経路の多様化や正社員登用制度の導入等、人材確保・採用の取組について、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所に分けた実施率を示したものである。正社員、パート・アルバイトともに、ほとんどの項目で、人手不足事業所の実施率が、人手適正・過剰事業所を上回っており、人材の確保に向けて様々な取組に努力する姿がうかがえる。第2-(2)-31図において、人手不足事業所において入職率が高い傾向であることを確認したが、採用においては、人手不足事業所における積極的な取組が、新たな人材の確保に奏功していることがうかがえる。
ただし、既にみたように人手不足事業所では入職率とともに離職率も高く、また労働環境が総じて悪いといった現状もある。人手不足緩和に向けては、採用経路の多様化等の人材確保に努めるとともに、まずは着実な賃上げ、時間外労働の減少、有給休暇を取得できる職場環境づくりに取り組み、研修や労働環境の整備等140を通じて、人材の定着を図ることが重要であると考えられる141。
小売・サービス分野における人手不足の緩和には賃上げや時間外労働の削減等が重要
最後に、どのような取組が小売・サービス分野における人手不足緩和に寄与するのか、具体的に確認しよう。事業所の人手不足感(「1.不足感はない」「2.5%未満」「3.5~10%未満」「4.10~15%未満」「5.15~20%未満」「6.20~25%未満」「7.25%以上」の7つの選択肢)に対して様々な取組が与える影響を分析するため、厚生労働省(2019)及び第2-(2)-29表と同じく、順序ロジット分析の手法を用いた。推計の概略は第2-(2)-36表のとおりだが、これにより明らかになったのは以下の4点である142。
- 1.正社員、パート・アルバイトともに、事業所の平均的な労働者一人当たりの賃金が、正社員で月給20万円以上、パート・アルバイトで時給1,500円以上143であれば、人手確保に一定のプラスの効果がある。
- 2.月20時間を超える時間外労働は、人手確保にマイナスの効果がある。
- 3.正社員については、賃金(月給)に加えて、有給休暇の取得、研修や労働環境の整備、給与制度などの労働条件の整備も人手不足緩和に効果がある。パート・アルバイトについては、ICT等の省力化投資、研修や労働環境の整備、労働条件の整備、事業運営の改善等の取組が人手不足を緩和させるといった傾向はみられない。
- 4.人材確保・採用の取組については、正社員、パート・アルバイトともにプラスの効果が確認できないが、これは人手不足事業所ほど、人材確保・採用に積極的な傾向が表れているものと考えられる。
人手不足緩和に向けて、賃上げや時間外労働の削減、ICT投資、労働環境の整備等の様々な取組を講じて、まずは、今働いている人材の流出を防いでいくことが効果的であると考えられる。
さらに、正社員、パート・アルバイト別に個別の取組の効果についても推計したところ、正社員については、①事務やバックヤードでの業務負担を軽減する取組144、②多様な人材が活躍できる環境の整備145、③仕事の内容やスキルを評価して給料に反映させる仕組みの整備146が、小売・サービス分野における人手不足緩和に効果がある可能性が確認された。ただし、パート・アルバイトについては、これらの取組が人手不足の緩和に与える影響を確認できなかった。この背景には、本分析で扱った以外の要素として、例えば勤務日や勤務時間の柔軟性、居住地と職場の近接性等が影響している可能性がある147。
小売・サービス分野において、賃上げやICTの導入など、人手不足の対策として有効と分析したような各種の取組を講じるためには、生産性を着実に向上させ、その原資となる利益を確保していくことが必要である。政府としては、働き方改革支援センター等を通じた経営相談や価格転嫁に向けた取組への支援のほか、業務改善助成金による生産性向上に向けた支援等を行っているところであり、引き続き、小売・サービス分野においても、人手不足への対策として、生産性向上や賃上げに向けた支援を行っていくことが重要である。
コラム2–12 新たな付加価値創出に向けた人材確保・育成に向けて~IT業界での取組について~
社会全体でデジタル経済の拡大が急速に進む中、IT人材の不足が課題となっている148。
本コラムでは、長期的に働き続けられるような職場環境を整備し人材定着を図ることに加えて、採用対象を首都圏の経験者に限らず、新卒や地方在住者等に広げることで、新規IT人材の採用を進めて人材確保につなげている株式会社メンバーズの取組を紹介していく。
株式会社メンバーズ
株式会社メンバーズは1995年に創業し、企業のDX現場支援を展開している(従業員数2,833名(2023年12月末時点)、本社:東京都中央区)。
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。以下「女性活躍推進法」という。)149が全面施行された2016年に、同社は優秀な人材確保のために「長期的な企業の成長・発展のために男女関係なく全社員が長期的に働き続けられる職場づくり」を目指し、3か年計画の「みんなのキャリアと働き方改革150」と、その一環として女性活躍推進計画「Womembers Program(ウィメンバーズ・プログラム)151」をスタートさせた。取組開始前の2015年度では「残業時間(月平均)が28.1時間、女性管理職比率が14.9%」であったが、2018年度には「残業時間15時間以内、女性管理職比率30%以上」及び「年収20%アップ」の全目標数値を達成した。そして、全体の離職率は2023年時点で9%ほどにまで低下した152。
「残業時間の削減」においては、社員や顧客の理解を得ることから始めた。社員に向けては、「残業代減少に対する不安」を解消するために、まず会社がベースアップの実施を約束した。また、社員が客先へ常駐することもある等、密接な関係にある「顧客」には、事前に本取組への理解・協力に関する依頼状等を送付して理解を求めた。こうした取組を通じて、改革開始前は夜中でも顧客への即時のレスポンスが当たり前だった風潮が、今ではプライベートの時間も尊重できるようになる等、社員や顧客の意識も変わった。取組にあたっては、社員から構成される「時短推進委員会153」が主導となったが、特に効果があったのは、評価要素「生産性向上目標」と給与要素「生産性向上手当」を組み込んだことだという。この評価と手当は、チームでの残業の削減効果や業績・予算の達成を評価して支給するものである。この結果、業務を属人化させず、チームで負担を分散させることで、一人の社員に負担が集中することによる残業を防ぐことができた。
また、「Womembers Program(ウィメンバーズ・プログラム)」においては、ベビーシッター利用補助制度や在宅勤務制度等、多様なワークスタイルの確立を支援する制度を拡充させる中、特に育児休業の取得を強く推奨することで、男性の取得率は68.2%(2023年12月末時点)、平均取得日数は108日と高い水準154を達成し、令和4年度「なでしこ銘柄」や2016年には「くるみん」の認定も受けた155。こうしたことにより、特に新卒女性のエントリーが増加し、女性の採用数が男性の採用数を上回る年もあるという。
IT人材の需要の高まりにより「首都圏在住のIT経験者」の中途採用が年々難しくなる中、入社後の「育成」を前提として156、ITのスキルや経験値を持たない新卒や地方人材等を新たな採用対象として開拓も進める。
新卒採用は2013年度には29名であったものが、直近2024年度では411名まで増加しており、全社員の7割弱を20歳台が占める157。採用を拡大できた背景には、求められるITスキルの時代による変化もあるという。かつてはゼロベースからシステムを開発する技術的なスキルが必要だったが、様々なITのツールが誕生した昨今では「いかに既存のツールを使いこなして、顧客のニーズに合わせて付加価値を付けた開発ができるか」というビジネスの観点も重要になっており、いわゆる文系学部の出身者の資質がいかされる場面も多いという。
同社では、東京本社のほかに、東日本大震災の復興支援を目的として設けた宮城県仙台市の拠点など、全国に11か所の拠点を展開しており、介護等の家庭の事情等、様々な理由で地方に在住しながら働くことを希望する人材について中途採用を行っている。同社では従来、首都圏在住者と地方在住者が混在したチーム構成となっていることから、テレワークを推進するとともに、2016年から給与体系の全国一律化を実施している。働く場所の垣根を無くすことで、会社にとっては優秀な人材の確保に、地方の社員にとっては経済的基盤の充実につながっている。
同社は、積極的な採用を進めると同時に、採用後の人材育成にも力を入れており、2022年度には、研修等に支出した費用の平均額は社員一人当たり16万円となっている。特に研修の比重が高くなっているのは、①母数の多い入社3年目までの若手の階層研修158、②経営人材の育成研修、③社内カンパニーごとの特化技術取得のための研修であり、②の研修では、一律な研修を用意するのではなく、個人がそれぞれ必要とする研修をカスタマイズして受講し、会社は経費を補助するという形態を取っている。社内カンパニーの成立をモデルとして、ビジネススクールの講座等で理論を学びつつ、事業のアイディア創出の実践を行っている。また、AI等の新しい領域についても社員がスキルを学んで展開させていくことが重要と考え、現場の仕事を離れて、新しい技術を身につける場を設けているという。
新卒採用数の増加が進む同社では、20歳台の若手を中心に構成されており、会社の成長につなげていくためにも個人の成長を支えていく考えだ。同社の代表は、新卒と中途の全体の構成比率を調整しつつも、引き続きIT経験値がない人材の活躍を拡充していきたいと語る159。
現代のIT業界においては、技術面もさることながら、新規ビジネスや付加価値の創出も重要となる。同社のように、様々な人材を取り込み、働きやすい環境をつくり、それぞれの人材の成長を促していく仕組みを持つことが、人材確保・定着、ひいては企業の発展に重要となってくるだろう。
コラム2–13 ゲーム業界での人材の定着促進に向けた取組について
ゲーム業界においては、ゲームプログラマー等の人材獲得競争が激化している。本コラムでは、女性活躍への支援やベースアップ等により、高い人材の定着率を維持しているコーエーテクモグループの取組について紹介していく。
コーエーテクモグループ
コーエーテクモグループ(連結従業員数2,531名(2024年3月時点))は、主に歴史を題材としたゲームソフトの開発等に強みを持つ、株式会社コーエーテクモゲームスを中心に構成された企業グループである。
プログラマーを中心に、男性が多い161ゲーム業界の中で、同グループはこれまでも同業他社に先駆けて、1990年代前半に「ルビーパーティー」という女性向けのチームとブランドを立ち上げるなど、女性のクリエイターも積極的に採用してきた。このような歴史や経緯を経て、同グループはダイバーシティを推進するため、女性活躍やワーク・ライフ・バランスを推進する取組を積極的に進め、働きやすい環境を整備している。例えば、こどもが小学3年生になるまで利用できる時短勤務制度や、リモートワーク・フレックスタイム制の導入など、様々なワークスタイルの実現を可能とする環境を整備している。育休制度については、制度対象者に積極的な情報発信や声かけを行うとともに、取得の希望がある社員にはその上司に人事部から説明するなどのケアも実施していることから、2023年度の育休取得率は女性が100%、男性が64.9%と高い水準になっている。また、社員が安心してこどもを生み育てられる環境を整備するため、出産祝金制度を導入している。この制度では、第3子以降は1人につき200万円を支給するなど、社員の出産・育児に関する経済的負担の軽減を図っている。
また、同グループが一部支援をしている社員主体のワーキングペアレントコミュニティ「ペンギンの会」は、子育てや働き方等をテーマとした食事会や同業他社との交流会を定期的に開催している。こどもをもつ社員の情報交換の場となっているほか、同グループ人事部が「ペンギンの会」から様々な意見を聞き取り、人事制度の検討に役立てているという。
女性マネジャー育成も積極的に推進している。具体的には、勤務時間にかかわらない公平な評価・処遇の実施と、昇進・登用に際しての実力本位での平等な機会の確保に努めている。同グループの女性比率は約20%、女性管理職比率は7.8%となっているが、女性が約45%を占めるCG部門では、女性リーダー比率は約36%となっている(2023年度時点)。
複線的なキャリア形成を推進するため、外部研修や社内講演会、通信教育等の様々な学びの場を用意している。社内講演会では、登壇者である社員が自身の経験をもとにステップアップのための具体的なアドバイスを話すことで、次世代の社員たちのモチベーションやスキルアップの促進につなげている。同グループ人事担当者は、「内容は特に制限しておらず、ざっくばらんな内容となっており、社員にとって「活きる」研修になっていると感じている」と述べている。加えて、マネジメント系の単線的なキャリアアップだけでなく、エキスパート職群を設けることで、複線的なキャリアアップ経路も用意しており、誰もが活躍できる環境づくりに努めているという。
さらに、国籍にかかわらず、新卒、中途問わず、グローバルな志向を持つ人材の採用を推し進めており、2023年度の同グループの採用に占める外国籍社員比率は14.2%となっている。同グループでは、福利厚生制度の一つとして社員寮があるが、保証人が不要で賃料も安いため、外国籍社員からは就職に際し安心感があったという声もあるという162。
上記のような人事施策に加え、同グループは2023年6月より、約7.7%の賃上げを行った。これまでも経営基本方針の一つである「社員の福祉の向上」の実現という観点から社員の年収アップに積極的に取り組んできたが、昨今のゲーム業界における人材獲得競争の激化へ対応するため、このような高い水準のベースアップを実施したという。さらに、8年連続のベースアップとなる2023年度には、物価の上昇を加味したほか、業界をけん引する企業となるという思いがあったという。
これらの取組により、同グループの離職率は5.1%(2023年度時点)と、高い人材定着率を維持している163。同グループの人事担当者は、「長く働ける環境を整え、多様な人材がいつまでもパフォーマンスを発揮しながら、キャリアを全うできる会社にしたいという「野望」がある」と語っている。同グループの取組は、多様な人材が長く働き続けられる環境をつくりながら、高い成長を実現しており、今後積極的に人材の定着促進を進めていこうとする企業にとってモデルとなる取組であるといえよう。
第4節 小括
本章では、人手不足解消に向けて必要な取組等を確認した。第1節では、人口減少により、我が国全体の労働力がひっ迫しているというマクロの問題に対しては、まずは生産性の向上に引き続き取り組んでいくとともに、女性、高齢者、外国人の多様な労働参加を促すことが重要であることを指摘した。特に、女性については、就業率からみた労働の「量」は国際的にも遜色ない水準となっているものの、その多くがパートタイム等の非正規雇用における就業であり、今後は、正規雇用転換等を通じた「質」の改善に取り組むことが重要であることを指摘した。高齢者については、国際的にみても就業が進んでいるものの、依然として65歳を境に「就業率の崖」が生じている状況にあることから、希望に応じて65歳を超えて就業できる環境整備が重要であることを指摘した。さらに、日本で働く外国人や外国人を受け入れる事業所は大きく増加しているものの、送出国との賃金差が縮まる中で、国内賃上げ等に引き続き取り組み、日本が「選ばれる国」になることが重要であることを述べた。
人口が減少していく我が国においては、これまで以上に一人ひとりの労働者が貴重な存在となる。引き続き、人材開発支援助成金や教育訓練給付の拡充などによるリ・スキリング支援を通じ、生産性向上に向けた必要な支援を行っていく必要があるだろう。さらに、経済社会活動を活性化していくためには、様々な人材が社内で活躍する「組織の多様性(ダイバーシティ)」が重要となるだろう。女性、高齢者、外国人、障害のある人など、様々なバックグラウンドを持った人材が同じ職場で働けるようにすることにより、会社の持続的な成長・発展につながるような新たな付加価値を生む可能性もある。このためには、女性、高齢者、外国人等の多様な人材を受け入れるだけではなく、それぞれの労働者がその強みをいかしていけるような職場づくりが重要となる。例えば、残業前提の勤務や転勤などの広範な人事異動を前提とした無限定な働き方を見直し、多様で柔軟な働き方を確立することなど、あらゆる属性の就業希望者の労働参加が可能となり、能力を発揮する機会を確保できるような取組を進めていく必要があるだろう。また、多様な労働者が自らの能力に応じてやりがいをもって働けるよう、企業自体も個々人に寄り添ったマネジメントに変化していくことも重要である。
加えて、第2節、第3節においては、それぞれ介護分野、小売・サービス分野に着目して、人手不足の緩和に効果的な取組を分析した。介護分野においては、人手不足が深刻な場合には、介護福祉機器の整備による職員の身体的負担の軽減や、労働環境等の改善を図ることが重要である一方、やや不足している場合には比較的高い賃金水準を確保することやICT活用が人手不足対応に資するなど、人手不足の状況に応じて、必要な対応が異なることが示唆された。また、小売・サービス分野においては、正社員、パート・アルバイトともに、賃上げを着実に行い、高い水準の賃金を提示すること、時間外労働を削減することが重要であることを確認した。さらに、正社員については、有給休暇の取得や、研修や労働環境の整備、給与制度などの労働条件の整備も重要であることを確認した。
女性、高齢者、外国人等の多様な労働参加を促していくことに加え、介護分野や小売・サービス分野等の人手不足が深刻な分野において、その人手不足の背景等も踏まえながら、人材確保の取組を支援していくことが重要である。
注釈
- 1地域での人手不足に関連した分析については、コラム2-4を参照。
- 2このほか、障害者雇用に関する分析については、コラム1-1を参照。
- 3(公財)介護労働安定センターは、介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成4年法律第63号)に基づく指定を受けた法人である。
- 4アイルランドの労働生産性が飛び抜けている背景には、アイルランドにおける多国籍企業が生産性を引き上げていることがある。アイルランドにおける多国籍企業と国内企業における時間当たりの付加価値額をみると、多国籍企業では414ユーロである一方で、国内企業では55ユーロにとどまり、極めて大きな差があることが分かる。詳細はコラム2-7を参照。
- 5厚生労働省(2022b)においては、ICTによる妊産婦・胎児の遠隔での集中的なモニタリング、障害福祉分野でのロボットの活用、AIによるケアプランの作成等を取り上げ、ロボット・AI・ICT等は、医療・福祉分野における業務効率化及び安全性の向上や労働環境の改善に寄与する可能性がある旨を指摘している。
- 6厚生労働省(2023)では、データを活用した商品づくりやサービスの提供を行っている例として、株式会社ワークマン、有限会社ゑびや・株式会社EBILABを紹介している。
- 7厚生労働省では、「働き方改革推進支援助成金」及び「業務改善助成金」を活用して生産性を向上させ、労働時間の削減や賃金上昇につながった好事例として、「生産性向上のヒント集」を公表している。
- 8人材開発支援助成金とは、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度である。また、教育訓練給付制度とは、働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給される仕組みである。
- 9第Ⅱ部第1章では、労働力や労働時間の状況について、主に総務省「労働力調査」を用いて分析したが、第2章第1節「1.潜在労働力の状況について」では、主に総務省「就業構造基本調査」を用いている。雇用関係統計の主な違い等については付注4を参照。
- 10厚生労働省においては、令和2(2020)年度から、高年齢労働者にとって危険な場所や負担の大きい作業を解消する取組等に対し、エイジフレンドリー補助金として最大100万円の補助を行っている。
- 11就業を希望しない59歳以下の女性は約260万人おり、この4割に相当する約100万人が、非就業希望理由として、「出産・育児・介護・看護・家事のため」をあげている。
- 12例えば社会的規範(Social Norms)が女性の労働参加に影響を与えているという研究もある。詳細はコラム2-8を参照。
- 13地域若者サポートステーション(愛称:「サポステ」)は、働くことに悩みを抱えている15~49歳までの者を対象に、就労に向けた支援を行う機関であり、厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがある民間団体などが運営している。
- 14ハローワークにおいては、専門のキャリアコンサルタントによる相談・助言を通じたジョブ・カードの作成支援も行っている。ジョブ・カードは、本人の関心事項、強み、将来取り組みたい仕事等や、これまでの職務経験・資格等をまとめたものであり、「生涯を通じたキャリア・プランニング」及び「職業能力証明」のツールとして、求職活動、職業能力開発などの各場面において活用できるものである。ハローワークでは、職業相談・紹介を行う際に、ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを行っている。
- 15現在就いている仕事を今後も続けていきたいと思っている者のうち、「追加就業希望者」に該当しない者をいう。
- 16現在就いている仕事を続けながら、別の仕事もしたいとしている者をいう。
- 17石山(2023)は、自らの組織や職場に当たるホームと、これまでの経験が通用しない分野に当たるアウェイの境界を越境して学ぶことを「越境学習」と定義しており、越境学習をすることは、①意義のある目的を見つけやすくなる、②アウェイの場で多世代かつ多様な人材と対話をすることで、年齢・地位・役職にとらわれないコミュニケーションができるようになる、③アウェイで葛藤を経験し自己調整できるというメリットがあることから、シニアにとっても有益であるとしている。
- 18国民年金第3号被保険者及び健康保険の被扶養者として社会保険料負担がなかった者が、社会保険への加入や被扶養者でなくなることで社会保険料負担が発生すること等により、手取り収入が減少する年収の基準をいう。具体的には、年収106万円以上で厚生年金保険・健康保険に加入し、年収130万円以上で国民年金第1号被保険者への種別変更や国民健康保険への加入することがあげられる。この際の手取り収入の減少を避けるため、就業調整を行っている労働者が一定程度存在する。
- 192026年3月31日までの時限措置として、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が創設された。なお、同コースは、2023年10月よりキャリアアップ計画届の受付を開始している。
- 20一方で、厚生労働省(2023)のコラム2-11においては、最低賃金の着実な引上げにより時給が上昇する中で、「年収の壁」を超えて働く者が増加していることを指摘している。
- 21付2-(2)-1図では、1995~2022年までの就業率とパート比率それぞれの各国における変化を散布図として示している。
- 221995年当時、OECD26か国の中で最も女性の就業率が高かったのはアイスランド(84.2%)であった。
- 23日本においてパート比率が上昇した背景としては、例えばAsano et al.(2011)は、産業構造の変化が影響した可能性を指摘している。また、Mizobata(2024)は、正規雇用と非正規雇用間の移行が遅いことが、高い非正規雇用比率の背景にあることを指摘している。一方で、Gaston and Kishi(2007)が、女性が労働参加するにあたって柔軟な働き方を望んだことが、非正規比率上昇の背景にあることを指摘している。このように、日本におけるパート比率の上昇には、複合的な要因が寄与したものと考えられる。
- 242023年時点において、非正規雇用労働者の72%は週35時間以下の労働時間であり、パートタイム労働者に該当すると考えられる。
- 25家庭内での家事・育児負担が女性に過度に偏っていることも、子育て中の女性がパートタイム労働を選ぶ一因であると考えられる。付2-(2)-2図により、子どもの有無別に、夫と妻の家事・育児時間をみると、共働きであっても、家事・育児に費やす時間は、1日当たり、妻の方が、子どもがいない場合には150分程度、いる場合には230分程度長い。家事・育児時間の差の多くは労働時間の違いによるものであり、子どもがいない場合には120分程度、いる場合には210分程度、夫の労働時間(通勤時間等を含む)が長いが、余暇時間も夫の方が30~40分程度長く、相対的に女性の方が自らの余暇を削って家事・育児や仕事に時間を割いている傾向があることがうかがえる。
- 26なお、付2-(2)-3図(1)が示すように、2013~2023年にかけて、末子の年齢が3歳以下の世帯であっても、母親の就業率は70%程度まで上昇している。ただし、同図(2)から、パートタイム労働者比率をみると、子育て世帯ほど比率が高く、特に3歳までの子がいる世帯でこの傾向が顕著である。
- 27育児休業を利用した就業継続の割合は、1985~1989年には10%程度であったものが、2000年代には30~40%、2010~2014年には63%と大きく上昇しており、育児休業を利用した就業継続率と並行して就業継続率が上昇していることを踏まえれば、育児休業制度の普及が、特に正規雇用の女性の就業継続に大きな効果を発揮していることがうかがえる。
- 28総務省「労働力調査(基本集計)」が2か月連続で同一サンプルを調査していることを利用して、1か月目から2か月目への雇用形態が変化する割合を「移行確率」と定義している。
- 29非労働力・失業から正規雇用への移行確率は2014~2021年までほぼ横ばいであるが、同期間において、15~24歳(在学中を除く)女性の正規雇用者数は18万人(111万人→129万人)増加している。この背景には、付2-(2)-4図が示すように、正規雇用から非正規雇用への移行確率が低下した(正規雇用を辞めなくなった)ことがある。
- 30日本型雇用慣行の特徴等については、濱口(2021)を参照。
- 31標準労働者とは、学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者であり、具体的には、年齢から勤続年数を引いた数が、最終学歴「中学」の場合は15、「高校」の場合は18、「専門学校」「高専・短大」の場合は20、「大学」の場合は22又は23、「大学院」の場合は24又は25となる者をいう。
- 32一方で、付2-(2)-5図が示すように、同じ標準労働者に限ってみても、男女間の賃金差は存在している。男女間の賃金格差の詳細については、内閣府(2023)や厚生労働省(2022c)を参照。なお、この背景には、山口(2021)で指摘されているように、長時間労働等への対応等が明らかに出世のしやすさに影響していることや、コース別人事管理の存在等があると考えられる。
- 33育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)に基づく育児短時間勤務制度の整備が事業主の義務となったのは2009年からである。
- 34厚生労働省(2023)においては、非正規雇用労働者では、正社員と比べて、手当や教育訓練を受けられる割合が低いことを示している。
- 35キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員転換、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成するものである。
- 36妊娠前にパートタイム労働者だった者の就業継続率は2015~2019年において40%程度(育児休業を利用した就業継続率は約20%)と正社員と比べると30%ポイント以上低く、パートタイム労働者については、特に希望に応じて就業継続が可能な環境整備が重要である。なお、2022年4月1日より、育児・介護休業法における有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件が廃止されている。
- 37なお、付2-(2)-6図により、60~64歳、65~69歳、70~74歳の3区分ごとに就業率を比較すると、どの年齢区分においても、我が国は最も高い国のグループに位置している。
- 38高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)。
- 39自営業主に加え家族従業者等を含む。
- 40高年齢者雇用安定法の過去の改正については付2-(2)-7表を参照。
- 41付2-(2)-8図が示すように、自営業者の方が働き方や働く時間が比較的柔軟であるため、高齢者にとっては就業しやすい一面がある。このため、自営業比率が高かった1970年代における就業率は、2023年と比較しても高い水準にあったものと考えられる。
- 42総労働力供給に占める65歳以上割合の推移は付2-(2)-9図を参照。
- 43高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第103号)。
- 44厚生労働省(2022b)によれば、2019年における男性の健康寿命は72.68歳、女性は75.38歳となっている。
- 45他国と比較した高齢者の就業意欲については、付2-(2)-10図を参照。日本では、「収入の伴う仕事をしたい」と回答している高齢者の割合が、65~69歳では50%程度、70~74歳でも40%程度であり、アメリカ、ドイツ、スウェーデンと比較しても高い。
- 46勤続年齢別の賃金カーブについては厚生労働省(2023)を参照。
- 47なお、2021年4月1日以降、高年齢者雇用安定法に基づき、70歳までの就業確保措置の努力義務化が講じられたところである。
- 48厚生労働省では、2020年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)を策定し、高齢者を雇用する事業者や労働者に求められる取組を具体的に示すとともに、高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備・装置の導入等に対して補助を行うエイジフレンドリー補助金を設けている。また、中小規模事業場に対し、労働災害防止団体が安全衛生に関する知識・経験豊富な専門職員を派遣し、高年齢労働者対策を含めた安全衛生活動支援を無料で行っている。
- 49OECD諸国における65歳以上が人口に占める割合の変化は付2-(2)-11図を参照。
- 50感染症の影響で一部の国においては外国人労働者の入国が制限されたことから、ここでは感染拡大前の2019年のデータを用いた。
- 51OECD(2023)においては、人手不足をうけ、外国人労働者の永住者がOECD諸国で増加していることを指摘している。
- 52さらに、出入国在留管理基本計画(平成31年4月法務省)においても、我が国の経済社会の活性化に資する専門的・技術的分野の外国人については、「積極的に受け入れていく必要があり、引き続き、在留資格の決定に係る運用の明確化や手続負担の軽減により、円滑な受入れを図っていく。」とされている。また、同計画においては、専門的・技術的分野とは評価されない分野の外国人の受入れについて、「ニーズの把握や受入れが与える経済的効果の検証はもちろんのこと、教育、社会保障等の社会的コスト、労働条件など雇用全体に及ぼす影響、日本人労働者の確保のための努力の状況、受入れによる産業構造への影響、受け入れる場合の適切な仕組み、受入れに伴う環境整備、治安など、幅広い観点からの検討が必須であり、この検討は国民的コンセンサスを踏まえつつ行われなければならない。」とされている。
- 53高度人材受入れの経緯等については、大石(2018)を参照。なお、大石(2018)は日本における高度人材が少ないことや流出していることを指摘しているが、是川(2022)は、日本の高度人材外国人の受入れ規模はOECD加盟国中最も高い水準であること、日本での受入れ規模が小さく見えるのは家族、人道分野での受入れが少ないことに起因すること、留学生の卒業後の滞在率でみると日本は高い水準にあること等を指摘し、日本が高度人材外国人に「選ばれない国」であるという主張は必ずしも適当ではないとしている。
- 54「特定技能1号」とは、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格であり、在留期間は1年を超えない範囲内で法務大臣が個々の外国人について指定する期間ごとの更新(通算で上限5年まで)とされている。一方で、「特定技能2号」は、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格であり、在留期間は3年、1年又は6か月ごとの更新であるが、更新回数に制限はない。また、「特定技能2号」では、要件を満たせば家族(配偶者、子)の帯同も可能である。在留資格「特定技能」については、2024年3月、受入れ対象分野として新たに自動車運送業や鉄道などの4分野を追加等すること、当該4分野を含む各受入れ対象分野の2024年度から向こう5年間の特定技能1号の受入れ見込数を閣議決定した。受入れ見込数の総数は、2023年度末までの5年間の受入れ見込数(34万5,150人)の約2.4倍となる82万人となった。
- 552023年12月末時点での受入れのほとんどは特定技能1号であり、特定技能2号による在留者数は同月時点で37人である。
- 56ネパールのみILOSTATにおいて平均賃金のデータが取得できない。
- 57なお、実際には、外国人労働者が日本で得た賃金を送出国へ送金する場合、その時点における為替の影響を受けることから、送出国と日本間における為替、あるいは、他の受入国と送出国間の為替によっても、外国人労働者にとって就業する場所の選択に影響を与える可能性があることに留意が必要。
- 58ハローワークに受け付けられた求人は、備え付けられた端末やハローワークインターネットサービス等を通じて本人が検索して見つけるか、本人の希望条件等を踏まえつつ、ハローワークより求職者が企業に「紹介」され、企業における書類選考や面接等の手続きに移る。今回の分析は、ハローワークにおいて記録された「紹介」の情報を活用することで行っている。なお、同じく「紹介」の状況を分析したものとしては、厚生労働省(2023)がある。
- 59パートタイム求人の結果については、付2-(2)-12図を参照。
- 60求職者は複数の求人に応募しうるため、重複を含む。
- 61是川(2021)においては、全体としてみると、外国人労働者の賃金水準は日本人よりも低い傾向がみられるが、その程度は在留資格によって異なっていることを示している。特に、「定住者」「永住者」については、日本での居住期間の長期化に伴い、「緩やかな経済的同化」を経験していると指摘している。また、永吉(2022)は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の個票データを用いて、①「専門・技術」の外国人労働者と日本人労働者の賃金格差は、年齢と勤続年数の違いから生じていること、②他の在留資格の外国人労働者と日本人労働者の格差は、外国人が、非正規雇用や中小企業など相対的に賃金の低い立場で雇用されていることと強く関連していることを指摘している。
- 62女性、高齢者(2023年中に65歳の誕生日を迎える1958年生まれと、それ以前に生まれた者を「高齢者」と定義している。)の被紹介分布については付2-(2)-13図を参照。これをみると、女性では、高齢者と比較しても、15~17.5万円の求人の被紹介件数の割合が高い等の特徴がある。
- 63出入国在留管理庁が2023年に委託事業として実施した「令和4年度 在留外国人に対する基礎調査」によると、「現在仕事をしている」外国人の仕事における困りごととして、「労働時間が長い」(9.8%)や「休みが取りにくい」(9.7%)ことがあげられており、必ずしも外国人が長時間労働をいとわないわけではない。なお、同調査においては「給料が低い」が35.7%と「特にない」(42.7%)の次に高い。
- 64厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、令和4(2022)年1年間の1企業当たり平均年間休日総数は110.7日であり、前年より増加している。また、企業規模別にみると、「1,000人以上」が116.3日、「300~999人」が115.7日、「100~299人」が111.6日、「30~99人」が109.8日となっている。
- 65ここでは、求人に対して「少なくとも1件以上応募がある確率」を推計している。このため、1件の求人において、募集する人数が多ければ応募がある確率も上昇するが、この点については、募集人数のダミー変数を設定することでコントロールしている。
- 66詳細な推計結果については付2-(2)-14表を参照。
- 67ただし、付2-(2)-15図が示すように、こうした効果は求職者の属性によって異なっている。例えば、下限賃金(月給)が高いと、女性による当該求人への被紹介確率が低下してしまっている。また、高齢者については、女性と比べると、残業や完全週休二日よりも比較的賃金が大きな要素となっている。女性において、賃金が高いほど被紹介割合が低下する背景としては、厚生労働省(2023)で指摘しているとおり、女性の多くが比較的求人賃金が低い事務職を希望しており、実際に観測される女性の希望賃金も低い水準となっていることが影響している可能性がある。
- 68外国人について、ボーナスの効果が小さい背景には、各国においてボーナスの在り方が異なっていることが影響している可能性がある。例えば、フィリピンでは13か月給与として、1か月分の給与を支給することが法定されているほか、インドでは、月額賃金が一定以下の場合に、従業員に対して賞与の支払い義務があるなど、国によって取扱いが大きく異なっている。詳細は、日本貿易振興機構(JETRO)のHPを参照。
- 69パートタイムにおける賃金と被紹介確率の逆相関の関係は、厚生労働省(2023)においても示されている。なお、同白書においては、パートタイムで賃金がプラスに寄与していない背景としては、パートタイムを志向する労働者の働きやすさへの希望と高賃金の求人の間におけるミスマッチが存在している可能性が考えられることを指摘している。
- 70中村ほか(2009)では、外国人を雇用している事業所とそれ以外の事業所を比較し、外国人を雇用している事業所において、高卒の労働者の初任給が高くなる傾向を示している。
- 71日本語能力を測る試験については、日本語能力試験を含め20程度の試験が存在しているが、文化庁が2020年12月~2021年1月に実施した「日本語の能力判定に係る試験等一覧に掲載する情報に関する調査」によれば、年間およそ100万人が受験し、世界的に実施(2023年においては92の国・地域で実施)されている日本語能力試験(JLPT)は最も大規模な試験である。同試験は、「幅広い場面で使われる日本語を理解することができる」N1から、「基本的な日本語をある程度理解することができる」N5まで、五つのレベルに分かれている。
- 72東北大学が2020年に行った「グローバル人材の育成・採用に関する調査2020」によると、「外国人留学生の採用にあたって求める日本語能力」について、「日常会話レベル」「業務上の文書・会話レベル」がそれぞれ35%、38.5%と高くなっている。また、2023年に(株)リクルートの研究機関である就職みらい研究所が公表した「外国人学生の採用状況等について」によれば、外国人学生に求める「採用する際に最低限必要な日本語能力」として、N1相当をあげる企業が56.5%、N2相当をあげる企業が31.4%となっている(ここでいう企業は外国人学生採用実施企業である)。
- 73経済産業省は、外国人材の採用や登用で得られるメリットを紹介しており、その中で「高度外国人材活躍企業50社」の好事例を公開している。
- 74令和5(2023)年6月9日「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」決定。
- 75我が国における外国人留学生の推移については、付2-(2)-16図を参照。
- 76是川(2022)によると、OECD「International Migration Outlook」で示す2019年の日本の留学生の卒業後の滞在率は36.9%であり、国際的に高い水準にあるとしている(2008年、2009年において最も高かったカナダの水準よりも高い水準にある)。
- 77アイルランド中央統計局(Central Statistics Office)においては、労働生産性(Labour Productivity)は、総付加価値(Gross Value Added)を総労働投入(Labour Hours Worked)で除したものと定義されている。
- 78Economic sectors dominated by domestic and other enterprises.
- 79Economic sectors dominated by foreign-owned multinational enterprises.
- 802023年は2023年第Ⅰ四半期~第Ⅲ四半期の平均値。
- 81この結果、GVAに占める総報酬(Labour Compensation)の割合は、国内企業等においては、2011~2023年にかけて、47%から59%まで上昇している。一方で、多国籍企業における同割合については、同期間で14%から9%まで低下している。
- 82本コラムでいう社会的規範とは、いわば、女性が働くことに対して社会的に共有された通念を指す。
- 83本研究では、指数化された社会的規範(Social Norms)をモデルに組み込むことで、男女間の賃金差がない場合等の様々な仮想的な条件が、女性の労働参加等に及ぼす影響等を分析している。これによると、仮に全ての世帯が「革新的」な考えを持つ場合には、特に女性の労働時間と男性の家事時間を大きく増加させることから、本研究では、社会的規範(Social Norms)は女性の労働参加等に大きな影響を及ぼしている可能性を指摘している。
- 84なお、同様の事象はイギリスでも観測されることが、Goussé, Jacquemet and Robin (2017)において指摘されている。
- 85さらに、妻が夫よりも稼ぐ家計においては、夫の不快感を軽減するために妻がより多くの家事を担う傾向にあること、そうした家計では離婚しやすい傾向があること等も指摘している。
- 86推計結果は、付2-(2)-17表を参照。
- 87Goussé, Jacquemet, and Robin (2017)においては、推計した指数が経年的に低下していることから、イギリスにおいて、比較的「保守的」ではなく「革新的」な考え方が広がっていることを示している。また、アメリカにおいても、Fernández(2013)は、女性の労働力率が「仮に夫が妻をサポートできる場合には、結婚している女性が仕事をしてお金を稼ぐことに賛成か」という質問に対して、「賛成」と回答している割合が高まるとともに、女性の就業率が上昇している傾向がみられることを紹介している。
- 88アンコンシャス・バイアスの概略については、牧野(2023)を参照。
- 89社会的規範(Social Norms)は、特にアジアの高所得国における少子化に強く影響を及ぼしているのではないかという指摘もある。例えば、Anderson and Kohler (2013)は、出生率が1.0を下回り、少子化が急速に進んでいる韓国に着目して、女性が家事や育児を多く担うべきという社会的規範と、1997年の経済危機を契機とした「妻も働く方が良い」という考えの広がりから、女性が家事負担と子育ての負担、さらに、仕事の負担を負うこととなった結果、結婚への忌避や、こどもを多く持つことへの抵抗が強まっていることを指摘している。さらに、同論文では韓国における教育費(塾等への投資)が大きいことが出生率に悪影響を与えている可能性を指摘しているが、この点について、Kim, Tertilt, and Yum(forthcoming)は、heterogeneous-agent modelを用いた分析により、(周りの親よりも高い教育を施したいと親が考える傾向がある)韓国における教育費の高さが、本来の水準よりも28%程度出生を押し下げている可能性があることを指摘している。
- 90経済産業省は、中堅・中小企業等のDXのモデルケースとなるような優良事例の選定・公表を通じて、中堅・中小企業等におけるDXの推進並びに各地域での取組の活性化につなげていくことを目的として、「DXセレクション」を実施している。
- 91「微生物インダストリー」とは、麹菌等の微生物の潜在能力を引き出して高度に応用利用する産業分野を指す。
- 92ここでいう「デジタル人材」は、経済産業省「情報処理技術者試験」の資格を持っている、又は学習している、若しくは社内でサーバー運営等の実践をしている人と定義している。
- 93厚生労働省では、「職場における学び・学び直し促進ガイドライン特設サイト(https://manabi-naoshi.mhlw.go.jp/jirei/)」において、同社の取組事例を紹介しているほか、その他の中小企業におけるDX推進の取組など、労使一体となった学び・学び直しの取組事例を多数紹介している。
- 942024年4月より、適用を猶予されていた働き方改革推進法に基づく時間外労働の上限規制がタクシーの運転手にも適用されている(コラム1-2の脚注参照)。
- 95これまでタクシーやバスの運転に必要な二種免許の試験においては、日本語での受験しか認められておらず、言葉の壁が外国人採用のハードルとなっていたが、2024年春より、一部地域において外国語での受験が可能となるなど、外国人が二種免許取得に挑戦しやすい環境の整備が進んできており、今後外国人の人材確保が進むことが期待されている。
- 96DRIVERSITYは、Drive「運転」とDiversity「多様性」を合わせた造語。2019年6月から同社是を掲げている。
- 97「夢追人(ゆめおいびと)採用」とは、日の丸交通株式会社のホームページ(中途採用サイト「夢追人募集」)によると、週休三日制や長期休暇の取得を可能とするなど、シフトや就業時間を考慮した働き方ができる採用枠をいう。同社によると、タクシー業務と夢をかなえるための業務以外の活動とを両立しやすくしているという。
- 98同社の女性ドライバーの人数は、1992年に一けただったところ、その後から急増し、1996~2006年までの間には80~90名台を維持していたが、2006年より減少し2014年には40名台となった。2014年より本格的に女性採用に力を入れ始めてからは再び増加に転じ、2024年4月時点で164名が在籍している。
- 99外国人の中には瞳のメラニン色素が薄く、光に弱く眩しさを感じやすかったり目のダメージを受けやすかったりする場合があるため、目を守る観点から、サングラス(会社で許可したものに限る)の着用も認めている。
- 100ここでの試験とは、二種免許学科試験と地理試験を指している。ただし、地理試験は2024年3月に廃止となっている。
- 101運転免許の学科試験では、短い文章について○×式で正誤を回答する形式となっており、実地での指導とは異なり、短い問題文から文意を正確に理解して交通法規と照らし合わせることが必要となる。例えば、同社の担当者は「交通法規では「青信号は進むことができる」とされているため、「青信号は進まなければならない」という問題文がある場合、「必ず進む」という意味になるため×となる」ことをあげている。
- 102第2-(1)-20図でみたとおり、労働力需給ギャップという観点から人手不足の状況をみると、特に介護分野を含む「医療,福祉」や、サービス分野に該当する「卸売業,小売業」「宿泊業,飲食サービス業」において、足下の労働力需要が労働力供給を大きく上回っている現状である。
- 103社会全体で高齢者介護を支える仕組みとして2000年4月に創設された介護保険制度の利用者は在宅サービスを中心に増加しており、厚生労働省「介護保険事業状況報告」によれば、2000年4月には149万人であったものが、2020年4月には494万人と約3.3倍となっている。こうした介護サービス利用者の増加に伴い、厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」によると、介護職員数は2000年度には54.9万人であったものが、2022年度には215.4万人と約4倍に増加している。
- 104介護労働実態調査は、「事業所における介護労働実態調査」と「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の二つから構成されるが、本節では前者を用いて分析を行っている。「事業所における介護労働実態調査」においては、全国の介護保険サービスを実施する事業所から18,000事業所程度を無作為抽出にて選定し、そのうち各年8,000~9,000程度の事業所から回答を得ている。さらに、本調査では、各事業所で介護労働に従事する者32人を上限に、個別にその属性、賃金及び勤続年数等の記入を依頼しており、各年70,000~80,000人分の属性、賃金等についても集計している。
- 105ただし、法人規模が取得できない事業所については、事業所の全従業員数から分類している。
- 106人手不足D.I.の計算にあたっては、「訪問介護員」と「介護職員」に限定するため、「訪問介護員」についてのD.I.と「介護職員」についてのD.I.を別々に計算し、それぞれ回答数のウェイトを乗ずることで、算出している。
- 107法人規模・地域別に「今の介護報酬では、十分な賃金を払えない」を選択する事業所の割合をみると、特に100人以上規模事業所において低下している。付2-(2)-18図を参照。
- 108付2-(2)-19図は、人手不足を感じている事業所に限り、処遇改善加算を「算定していない」「算定している」「算定して基本給の引き上げの対応をした」の三つの事業所に分け、それぞれ離職率と、離職者に占める短期離職者(1年以内)の割合を比較している。これをみると、処遇改善加算を「算定していない」事業所よりも「算定している」事業所において、「算定している事業所」よりも「算定して基本給の引き上げの対応をした」事業所において離職率や短期離職者割合が低くなっており、処遇改善加算を受け、かつこれを原資として基本給を引き上げることで、人材流出の防止に一定の効果があるものと考えられる。
- 109「介護労働実態調査」において、入職率、離職率については、2015~2018年までは「訪問介護員」「介護職員」のみ、2019年以降は、これら二つに加えて「サービス提供責任者」についても調べているが、本節では経年比較を可能とするために、全ての年において、「訪問介護員」「介護職員」に限って分析している。
- 110付2-(2)-20図(1)から、従業員の定着状況において、「定着が低く困っている」と回答した事業所の割合をみると、どの法人規模・地域の事業所においても、ほぼ横ばいで推移しており、上昇傾向はみられない。また、同図(2)から、離職者に占める短期離職者(1年未満離職者)の割合をみると、全ての法人規模・地域において低下傾向で推移している。こうした状況を踏まえると、人材のリテンションについては、各事業所において取組が一定程度進んでおり、離職率が低下したものと考えられる。
- 111推計結果は付2-(2)-21表を参照。
- 112付2-(2)-22図により、事業運営上の問題として「教育・研修の時間が十分に取れない」と回答している事業所の割合をみると、どの法人規模・地域でも上昇している。また、第2-(2)-25図でみたように、「介護保険の指定介護サービス事業を運営する上での問題点」として、「介護従事者の介護業務に関する知識や技術が不足している」と回答した事業所の割合が2015~2022年にかけて高まっており、介護事業所が、人手不足の中で技能の蓄積に苦慮している状況がうかがえる。
- 113これらの比率は、厚生労働省「雇用動向調査」における2022年の全産業計の離職率約15%、離職者に占める勤続1年未満離職者割合の比率約30%と比較すると際立って高いわけではないが、製造業におけるこれらの水準がそれぞれ約10%、約21%であることを考えると相当程度高い水準にある。
- 114コラム2-11において紹介しているとおり、シルバー人材センターや障害者就労支援施設への間接業務の外部化を行うとともに、研修の充実を通じて人材確保を図っている介護事業所もある。
- 115「事業所賃金比」は、「介護労働実態調査」においては、事業所の平均賃金水準を直接的に把握できないため、一定の仮定を置いて、雇用する労働者の属性を調整した上で、事業所の賃金水準を推計して比較したものである。ただし、介護保険法に基づくサービスを行っている事業所の中における比較であって、他産業との比較ではないことに留意が必要である。試算の詳細は付注5を参照。
- 116推計結果については、例えば、人手不足のために賃上げに取り組んだ結果、賃金水準が高くなったということや、人手が不足しているので機器を多く導入した結果、機器を有しているほど人手不足の傾向がみられたというように、逆の因果関係が生じている可能性があり、その結果、一部の項目の符号がマイナスになっている点には留意が必要。
- 117分析の詳細や推計結果等については付注6を参照。
- 118(公財)介護労働安定センターでは、働きやすく働きがいのある職場づくり支援として相談支援等を行っており、こうした外部の機関による支援を活用することも有益であると考えられる。
- 119厚生労働省においては、地域医療介護総合確保基金を通じて、移乗支援、移動支援、排泄支援、見守り、入浴支援などの重点分野に該当する介護ロボットの導入や、介護ソフト、タブレット端末、業務効率化に資するバックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理等)等の導入、見守りセンサーの導入に伴う通信環境整備等への補助を行っている。また、令和6年度の介護報酬改定において、見守り機器等のテクノロジーの複数活用及び職員間の適切な役割分担の取組等、生産性向上に先進的に取り組む特定施設について、介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減が行われていることを確認した上で、人員配置基準を特例的に柔軟化している。
- 120令和6年度の介護報酬改定においては、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへとつながるよう処遇改善加算の加算率の引上げを行うこととされた。
- 121厚生労働省「介護保険事業状況報告の概要(令和5年11月暫定版)」。
- 122厚生労働省「第8期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」(2021年5月14日公表)。
- 123厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2021年7月9日)。過去の労働経済白書において、厚生労働省(2022a)では、同計画を引用しつつ、介護分野への労働移動や公共職業訓練における介護分野の訓練受講者の就職の状況について分析している。
- 124(公財)介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書」。
- 125第2-(2)-24図を参照。
- 126厚生労働省(2022b)では社会保障人材の確保について分析し、今後の方向性として、ケアの質の確保や職員の負担軽減を実現する取組の推進をあげており、医療現場でのタスク・シフトもその一つとして紹介している。
- 127かつては、日勤と夜勤の交代制で変則的な勤務だったが、日勤専従者と夜勤専従者に分けた。4週間単位の変形労働時間制を使用している。
- 128当初は「介護業務で10時間勤務が本当にできるのか」「現行のオペレーションを完全に変えることができるのか」「利用者に不利益は生じないのか」といった心配の声があったという。
- 129勤務時間内に研修を受けることができる。組織全体に関わる教育研修機関であることから、各施設の管理者等が運営に参画している。管理者から現場の意見を取り入れたり、定期的に実施している職員対象のアンケートの結果を分析したりして、研修の内容を検討している。介護技術だけでなく、プレゼンテーションや介護職員のストレスケア、利用者の多様化に対応することを目的とした「一般的な接遇」の研修等、バラエティに富んだ内容の研修を実施している。研修参加者は、事業所の他の職員に伝達研修を行い、事業所全体の人材育成を行う仕組みとなっている。
- 130社内検定制度は、2017年に開始したが、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で2020年に休止し、2024年4月時点で再開には至っておらず、再開の時期を検討しているところ。段位ごとの出題形式としては、1~2級は管理者向けの時事問題、3~4級がケアマネジャーの過去問からの出題、5~6級が介護福祉士の過去問からの出題となっており、資格取得のための試験勉強にもなり、相乗効果を生んでいる。また、受験資格の年齢制限を撤廃し、60歳以上も受験が可能となっている。
- 131調査対象業種は、「各種商品小売業」「織物・衣服・身の回り品小売業」「飲食料品小売業」「機械器具小売業」「その他の小売業」「宿泊業」「飲食業」「洗濯・理容・美容・浴場業」「その他の生活関連サービス業」「娯楽業」である。
- 132本調査は2023年12月末日時点の人手不足とその対応に関する実態を把握することを目的として、2024年2月に約9,000事業所を対象に行われたものであり、約2,700事業所から回答をいただいた。なお、小売・サービス分野の範囲として、「小売業」「飲食業」「宿泊業」及び「生活関連サービス業、娯楽業」のうち、従業員規模10人以上の「店舗・サービス施設」に限定している。
- 133事業所における従業員の過不足状況について尋ねた質問(「不足している」「やや不足している」「適正である」「やや過剰である」「過剰である」「該当者がいない」)に対し、「不足している」「やや不足している」と回答した事業所をいう。
- 134現在の従業員数に比べてどのくらい足りないかを尋ねている。例えば、20人働いているが1人足りないと感じるのであれば、1÷20=5%の不足となる。
- 135付2-(2)-23表においては、正社員、パート・アルバイトの人手不足状況についてクロス集計をして確認したものであるが、総じて、正社員が不足している事業所では、パート・アルバイトも不足している状況。
- 136事業所における従業員の過不足状況についての質問に対し、「適正である」「やや過剰である」「過剰である」と回答した事業所を合算。
- 137正社員、パート・アルバイト別の年次有給休暇の付与日数(繰越分を除く)に占める平均的な取得割合である。
- 138小売業、サービス業は、他の産業と比較しても有給休暇取得率が低い傾向がみられる。第1-(3)-6図を参照。
- 139付2-(2)-24図では、労働環境それぞれの条件ごとに人手不足事業所が占める割合を示している。
- 140付2-(2)-25図から、研修や労働環境の整備に関して実施している取組の数を集計し、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所を比較すると、人手適正・過剰事業所の方が積極的に取り組んでいることが分かる。
- 141ただし、付2-(2)-26図から、人手不足事業所と人手適正・過剰事業所に分けて、賃上げ率の分布をみると、正社員、パート・アルバイトともに人手不足事業所の方が高い傾向にある。賃金水準では、人手不足事業所は見劣りしているものの、賃上げについては、人手不足事業所において積極的な傾向がみられる。
- 142個別の取組の効果等の分析の詳細や、推計結果等については付注7を参照。
- 143ただし、付注7で分析しているように、パート・アルバイトについては、人手不足の緩和につながり得る時給の水準が極めて高く、時給1,500円を満たしているサンプル数は相当程度小さいことに留意。
- 144「業務用の調理ロボット・自動調理機械の導入」「社内用プログラムの導入・開発」「受発注データの一元管理・自動発注システムの導入」等、いわゆるバックヤードでの業務におけるICTの導入が、人手不足の緩和に寄与する可能性があると推計される。
- 145「年次有給休暇の取得促進」「身だしなみ基準の緩和(髪色、ピアス、ネイル等)」「託児環境の整備(既存託児所との契約等も含む)」といった取組が人手不足緩和に奏功していると推計される。
- 146「役割給の導入・充実」「資格給の導入・充実」が正社員の人手不足を緩和する可能性があると推計される。
- 147厚生労働省(2023)において行ったハローワークの求人データを用いた分析でも、募集賃金は、パートタイム求人の被紹介確率にプラスの効果をもたらしていない一方で、完全週休二日が被紹介確率を高める効果があることを確認した。
- 148厚生労働省「職業安定業務統計」によると、2023年の「情報処理・通信技術者」の有効求人倍率(パートタイムを除く常用)は、1.67倍。
- 149女性活躍推進法に基づき、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業生活における活躍に関する情報の公表が常用雇用者301人以上の事業主(国や地方公共団体、民間企業等。2020年4月以降は101人以上)に義務付けられた。
- 150様々な属性の社員で構成されたプロジェクトメンバーを中心に、全社アンケートやヒアリングを通じて社員の生の声を集め、キャリアや働き方に関する方針・目標や制度を作り上げたもの。(1)多様なキャリア・働き方をサポート・促進する、(2)長期を見通しやすい報酬制度・給与モデルを作るという方針の下に、残業時間50%削減、年収20%アップ(月額固定給25%ベースアップ)、(3)女性管理職比率30%を目標に掲げ、月額固定給の段階的な引上げを実現するため、平均残業時間50%削減等を目標に掲げた生産性向上の取組を推進するとしている。
- 151目標値として「女性管理職比率30%以上」「女性社員の入社推奨意向60%以上」「男性社員の両立支援制度利用50%以上」を掲げ、「女性社員の長期的なキャリア形成の支援強化」「ワーク・ライフ・バランスの実現」「多様なワークスタイルの確立」の3つのテーマごとに目標を設定し施策を実施した。本計画実施後も新たな取組として「初の女性執行役員2名を任命」「時短勤務制度の延長」「ワークスタイルをテーマとしたイベントの開催」を行った。
- 152取組前の2015年の離職率は14%程度。
- 153全員参加型経営を推進している同社では、社員によって構成される委員会活動が活発で、「時短推進委員会」もそうした活動の一つである。どの委員会も平均月1回で活動しているという。中でもMEMBERSWAY委員会は、会社をより良くする制度立案等を行っている。
- 154厚生労働省「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)によると、当該調査に回答した企業における男性の育休等取得率は46.2%、取得日数の平均は46.5日であった。
- 155「なでしこ銘柄」とは、経済産業省と東京証券取引所が合同で、女性活躍推進に優れた上場企業を選定したもの。中長期の企業価値向上を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介している。「くるみんマーク」とは、次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たし、子育てサポート企業として、厚生労働大臣の認定を受けた証。
- 156入社後に学べる環境があることは、入職の一つの動機にもなり得ているという。
- 157同社ではメンター制をとっており、新卒1年目の指導は主に2~4年目の社員が担っている。経験値がない若手メンターでは解決が難しい問題が出てきた場合には、人事部が介入してOJTを行っている。
- 1581年目の新卒社員においては実践の場として、NPOへ1~3か月間の常駐派遣を実施している。
- 159新卒採用の方針については、流動的となっており、本コラムの内容は2024年2月時点の状況に基づいている。
- 160株式会社コーエーテクモホールディングスは、株式会社コーエーテクモゲームス等を傘下に持つ持株会社であり、グループ会社の管理部門が集約されている。
- 161(一般)情報サービス産業協会「2022年版 情報サービス産業 基本統計調査」によると、日本のITエンジニアに占める女性比率は、23.2%となっている。
- 162出入国在留管理庁「令和3年度 在留外国人に対する基礎調査」の住居探しにおける困りごとをみると、「家賃や契約にかかるお金が高かった」(19.2%)が最も高く、次いで「国籍等を理由に入居を断られた」(16.9%)、「保証人が見つからなかった」(15.1%)が高くなっている。
- 163厚生労働省「令和4年 雇用動向調査結果の概要」によると、一般労働者の離職率は11.9%。