第1章 人手不足の背景

本章では、過去の人手不足局面を振り返りながら、2010年代以降続く我が国における人手不足の現状とその背景について分析する。第1節では、1970年代前半、1980年代後半~1990年代前半、2010年代以降の3期間における人手不足局面に着目し、これらの時期における人手不足の背景やその違い等について整理する。第2節では、特に2010年代以降の人手不足局面に着目し、欠員率が全産業的に高まっていることや、労働力需給ギャップが産業・職業をまたいで拡大していること等、足下での人手不足の状況をまとめる。加えて、2010年代以降に人手不足が生じる中で、企業規模間の労働移動が活発化していること、労働市場のマッチング効率性が低下している可能性があることを確認し、この背景として、求職者の希望する条件が変化している可能性を指摘している。さらに、人手不足が今後の賃上げをけん引する可能性があること等、人手不足に伴う様々な変化や影響を分析している。

第1節 これまでの人手不足局面とその背景

過去半世紀でみると、1970年代前半、1980年代後半~1990年代前半、2010年代以降の3期間で人手不足が生じている

「人手不足」を論じるにあたり、まずその定義を示したい。「人手不足」とは、企業の生産活動にあたって必要な労働力を充足できていない状況を指し1、この状況を判断するにあたっては、一般に、「有効求人倍率」や「完全失業率」が用いられる2。「有効求人倍率」とは、ハローワークで受け付けた「求人数」と求職を申し込んだ「求職者数」の比率3である。1を上回れば、企業が提出した「求人数」の総数が、登録された「求職者数」の総数を超えており、求職者一人に対して一つ以上の仕事の募集がある状態を示している。また、「完全失業率」とは、労働力人口に占める完全失業者の割合であり、働く意欲がある者のうち、仕事に就けておらず職探しを行っている者がどの程度か4を示す指標である。
 「有効求人倍率」は、求人の総数が求職の総数を上回っている(有効求人倍率が1を超えている)状況が人手不足の状態を表すが、ハローワークを経由したものに限られること等から、「完全失業率」も併せて確認する必要がある。完全失業者は、「非自発的な離職」「自発的な離職(自己都合)」「新たに求職5」の三つに大別され、その失業の要因によって解釈が大きく異なる。例えば、「非自発的な離職」は、景気後退等による企業活動の停滞に伴う解雇なども含まれるため、完全失業率が横ばいであっても、「非自発的な離職」が完全失業者に占める割合が上昇している状況は、生産活動にあたって必要な労働力を充足できていないとは評価しがたい6だろう。
 こうした点を踏まえ、第2-(1)-1図により、過去半世紀における我が国の「人手不足」の状況を確認してみよう。同図(1)により、有効求人倍率の推移をみると、おおむね1970年代前半、1980年代後半~1990年代前半、2000年代後半、2010年代半ば以降の4期間において、有効求人倍率が1倍を超えている。特に、1970年代前半には1.76倍と2倍に迫る水準まで上昇したほか、2010年代後半にも1.61倍と1倍を大きく超える水準となった。同図(2)により、完全失業率の推移についてみると、経年的に上昇傾向にあるものの、有効求人倍率とはおおむね逆の動きをしており、1970年代前半、1980年代後半~1990年代前半は1%ポイント程度、2010年代後半は2%ポイント強、それぞれ前後の期間に比べて低くなっている。同図(3)により、1984年以降の完全失業者に占める非自発的な離職割合をみても、完全失業率と同じく1980年代後半~1990年代前半及び2010年代後半において低下している。2000年代後半の非自発的な離職割合は低下しているものの高水準にとどまっている。同期間は1990年代後半以降続いた雇用環境の悪化の直後であり、2008年にリーマンショックが起こると、有効求人倍率や完全失業率、非自発的な離職割合等の雇用指標は軒並み悪化しており、2000年代後半の雇用情勢の改善は短期間だったことがうかがえる。
 企業の人手不足感についても確認してみよう。日本銀行「全国企業短期経済観測調査」による企業の雇用人員判断D.I.7をみると、1970年代前半、1980年代後半~1990年代前半、2000年代後半、2010年代以降の4期間において、D.I.がマイナスとなっており、人手が「不足」と感じている企業は、「過剰」と感じている企業の割合を上回っていることが分かる。ただし、2000年代後半は、他の3期間と比較するとD.I.のマイナス幅が小さい。
 これらの指標の長期的な推移を踏まえ、以下においては、傾向の異なる2000年代後半を除き、1970年代前半、1980年代後半~1990年代前半、2010年代以降8の3期間の人手不足について分析する9

1970年代前半の人手不足は超過需要が主因

まず、1970年代前半の状況については、1950年代から長期にわたる高度経済成長期の末期にあり、労働省(1973)が「景気が急速に上昇したため労働力需要が急増し」た結果、求人が大幅に増加し、「労働力需給は、過去にないひっ迫を示した」10としているように、高い経済成長率による労働力需要の増加により、人手不足が生じていたことを指摘できる。第2-(1)-3図(1)は、1970年以降のGDP成長率を示したものであるが、これをみると、1973年には前年比20%超に達している。また、同図(2)は、1970年以降の有効求人数の前年比をみたものであるが、1973年の有効求人数は前年よりも約40%も増加している。同図(1)(2)を併せてみれば、極めて高い経済成長率が労働力需要を短期間に強力に喚起し、求人の大幅な増加をもたらし、これが労働力需給の引き締まりにつながったものと考えられる。

1980年代後半~1990年代前半の人手不足にはサービス産業化とフルタイム労働力の不足が寄与

次に、1980年代後半~1990年代前半をみてみよう。第2-(1)-1図(1)の有効求人倍率や、第2-(1)-2図の雇用人員判断D.I.の推移が示すように、この時期においても、急速かつ急激な労働力需給の引き締まりがみられる。一方で、第2-(1)-3図(1)が示すように、1980年代後半~1990年代前半における経済成長率は、円高不況を脱した後のバブル景気の時期に当たる11ものの、我が国経済は高度経済成長期から安定成長期へと移行しており、1970年代前半に比べて、GDP成長率が特段高いわけではないことから、1980年代後半~1990年代前半の人手不足は、1970年代前半とは、その背景が異なる可能性が考えられる12
 1980年代後半~1990年代前半における労働力需要の高まりの背景の一つは、製造業の影響の大きかった1970年代前半と比べて、サービス産業化が進んだ中で短期間で労働力需要が高まったことが指摘できる。第2-(1)-4図(1)から、第3次産業がGDPに占める割合の推移をみると、1970年の約53%から1990年には約62%と、生産活動に占める第3次産業の比率が大きく高まっている。サービス産業は雇用吸収力が高いことが知られており13、こうしたサービス産業化の進展に伴って、企業が求める労働力が大きく増加したものと考えられる。実際に、同図(2)により、1990年の産業連関表を用いて、消費額が1兆円増加した場合の雇用誘発効果をみると、約17.5万人増加すると試算される。このうち、約3分の2に相当する約11.4万人が第3次産業であり、1990年においてもサービス産業における雇用吸収量が大きいことが確認できる。
 また、フルタイム労働者の労働時間の短縮が進んだ14ことも影響したと考えられる。第2-(1)-5図(1)により、週当たり労働時間が35時間以上の労働者をフルタイム労働者とみなして、1990年の前後5年間の労働時間分布の変化をみると、第2次・第3次産業ともに、1990~1995年にかけて、フルタイムの中でも比較的労働時間が短い週35~48時間の者15の割合が上昇し、週49~59時間、週60時間以上の者の割合が低下している。
 同図(2)により、フルタイム労働者に占める60時間以上の長時間労働者割合について1972年からの推移をみると、1975年に底を打ち、第2次・第3次産業ともに長時間労働者割合は高まっていたものの、労働力需給の引き締まりがみられ始めた1980年代後半から大きく低下に転じている16
 このように、1990年前後において、労働力需要が高まる中でも、フルタイム労働者のうち、比較的労働時間が短い者の割合が高まっており、こうしたフルタイムの時間短縮の傾向も労働力需給の引き締まりに一定程度影響した可能性がある17

1990年代から急速にパートタイム労働者が増加し、1990年代後半以降は長期的に雇用情勢が悪化

長期的にみると、サービス産業化が進展し時間短縮の動きが進む中で、不足した労働力供給に対応するため、第3次産業を中心に、企業はパートタイム労働者を多く雇用した。第2-(1)-6図(1)により、フルタイム・パートタイム労働者別に1973年を100とした時の雇用者数の推移をみると、第3次産業において、1990年代以降に急速にパートタイム労働者が増加している。また、同図(2)により、同時期の女性の非農林雇用者数の前年差をみると、1989~1991年において、いずれの年も年率4%程度、前年差80万人程度も増加しており、急速なパートタイム労働者の増加は女性が中心であったことが分かる18
 1990年代後半になると、第2-(1)-3図(1)でみたように、バブル崩壊後の経済活動の停滞の中で、経済成長率が鈍化し、0%近傍と極めて低い水準に落ち込む等、我が国は深刻な不況に突入した19。雇用への影響は大きく、第2-(1)-1図でみたように、1993~2005年まで13年にわたり有効求人倍率は1倍を割り、2002年の完全失業率は調査開始以来過去最高の5.4%を記録するなど、2000年代後半の一時期を除いて、2010年代に至るまで雇用情勢は長期にわたり厳しい状況が続いた20

2010年代以降、経済が回復する中で人手不足が再び生じてきた

2010年代に入ると、雇用情勢は大きく反転した。第2-(1)-1図(1)が示すように、感染症による影響を受ける前の2019年には、有効求人倍率は1.60倍と、1980年代後半から1990年代前半までのバブル期最高水準の1.40倍を超えた。完全失業率は、2019年は2.4%、2023年でも2.6%と、バブル期最低の2.1%に近い水準まで低下しており、失業者に占める非自発的な離職の割合も、2019年にはバブル期並みの22.8%まで低下した。さらに、第2-(1)-2図が示すように、雇用人員判断D.I.は、バブル期に準ずる程度まで低下している。D.I.がマイナスの期間は、2013年第Ⅰ四半期(1-3月期)~2023年第Ⅳ四半期(10-12月期)まで44四半期連続と、1987年第Ⅳ四半期(10-12月期)~1992年第Ⅳ四半期(10-12月期)の21四半期より長期間となっている。
 こうした雇用情勢改善の背景には、まず、2010年代以降の経済状況の好転があげられる。第2-(1)-7図(1)から、企業の付加価値額の推移をみると、1985年度~1995年度まで大きく増加した後、1995年度~2013年度までほぼ横ばいで推移していたが、同年度以降には、再び増加トレンドに転じている。また、同図(2)により、業況判断D.I.をみても、1990年代前後ほどではないものの、2013年以降では、感染拡大により悪化した2020年と2021年を除けばプラスで推移している。

2010年代以降の雇用情勢の改善には経済のサービス化も影響した可能性

ただし、2010年代以降のGDP成長率はプラス成長となったものの、年平均1%弱と、1990年代以前に比べると低く21、雇用情勢の改善には、経済の好転以外の要因も背景にあったと考えられる。
 このうち一つには、サービス産業化が一層進展したことがあげられる。第2-(1)-4図(1)で既にみたように、第3次産業がGDPに占める割合の推移は、1970年の約5割から、1990年には約6割と大きく上昇し、2022年には約74%に達している。こうした中で、消費の増加が第3次産業の雇用に及ぼす影響も高まっている。第2-(1)-8図(1)から、1990、2000、2015年の産業連関表を用いて、1兆円の消費の増加22による雇用誘発効果をみると、いずれの産業も減少傾向で推移している23ものの、全ての年で第3次産業における雇用者数の増加が最も多いことが分かる。同図(2)により、雇用者数の増加分に占める第3次産業の割合をみると、1990年には65%程度であったが、2015年には80%弱まで上昇しており、第3次産業の雇用の担い手としての存在感が更に増していることがうかがえる。

1990年頃を境に、第2次産業と第3次産業で異なった生産戦略をとってきた可能性

また、1990年代からの変化として、第2次産業と第3次産業において企業が異なる生産戦略を取ったこともあげられる。第2-(1)-9図は、就業者と一人当たり労働生産性(以下「生産性」という。)の関係について、1970~2022年までの推移をみたものである。生産性については、1970~1990年までどの産業でも大きく上昇しているが、就業者数については、第1次産業は減少、第2次産業はほぼ横ばい、第3次産業は増加傾向で緩やかに変化している。しかし、1991年以降では、生産性の伸びが鈍化する中、就業者数の変動が続いている。第3次産業は、生産性をほとんど変えずに、就業者数だけを大きく増加させている。これに対し、第2次産業は、足下では生産性が上昇しているものの、1991~2010年頃まではほぼ横ばいであり、就業者数を大きく減少させている。このように1990年頃を境に、生産性の伸びの鈍化に対して、パートタイム労働者を中心に就業者数を伸ばしていった第3次産業と、海外への生産拠点の移転にみられるように国内の就業者数を減少させていった第2次産業において違いがみられる。
 1990年頃を境に生じた変化について、労働投入量と生産性の側面から分析しよう。第2-(1)-10図は、第2次産業・第3次産業別のGDPを①就業者数と②生産性の二つの要素に分解して、1970~1990年までとそれ以降の2期間に分けて、それぞれの寄与をみたものである。これをみると、1970~1990年にかけては、第2次産業・第3次産業ともに、生産性と就業者数の両方の増加がGDP成長率にプラスに寄与をしていることが分かる。第3次産業においては就業者数の増加の寄与が大きく、1970~1990年では、一人当たり生産性の寄与も第3次産業の方が大きい。
 一方で1990~2022年の期間をみると、第2次産業と第3次産業で大きく様相が異なっている。第2次産業では、GDP成長率の低下の中で、生産性はプラスに寄与しているものの、就業者数はマイナスに寄与している。第2次産業においては、労働力需要の減少に対して、機械化による生産性向上や生産拠点の海外移転等を行いながら、フルタイム労働者を絞り込み24、生産性の向上と就業者数の減少を図ってきたことがうかがえる25。第3次産業については、第2次産業とは異なり、GDPは増加しているものの、生産性の寄与の程度は第2次産業よりも小さく、就業者数の増加が大きくプラスに寄与している。第2-(1)-6図(1)により、第3次産業における就業者数の増加の多くはパートタイム労働者であることを踏まえると、第3次産業では、労働力需要の増加に対して、主に就業者数の増加、とりわけパートタイム労働者の雇入れにより対応したことがうかがえる。
 第2次産業・第3次産業を取り巻く経済環境や労働投入量の変化は、労働分配率にも現れている26第2-(1)-11図により、1970~2022年までの労働分配率の推移をみると、1970~1990年まではおおむね第2次産業・第3次産業ともに同じ傾向で変動していたが、それ以降、動きに乖離がみられている。第2次産業では、労働分配率が景気に対して敏感に反応しつつもおおむね横ばい程度で推移している一方で、第3次産業では、近年上昇傾向にはあるものの、総じてみると、低下傾向にあり、1990年代初頭に比べると低い水準にとどまっている。こうした第3次産業における労働分配率の低下が、厚生労働省(2023)でも指摘したように、一人当たり生産性が上昇する中にあっても、一人当たり賃金がなかなか増加していない27ことの背景にあるものと考えられる28

就業者数は増加しているが総労働力供給は減少傾向

ここまでの分析については、労働力供給量を就業者数ベースでみているが、労働時間でみた労働力供給量はどのようになっているのだろうか。第2-(1)-12図(1)により、総労働時間29の推移をみると、1970~1990年頃までは増加しているものの、それ以降では減少傾向で推移している。
 1990年と2023年の総労働時間の変化を就業者数に一人当たり労働時間を乗じた面積で表したのが、同図(2)である。これをみると、男女計では、総労働時間が減少しているが、就業者数の増加以上に、平均労働時間の減少が影響していることが分かる。男女別にみると、男女ともに一人当たり労働時間が減少する中で、女性の就業者数は増加、男性は横ばいとなっている。このため、総労働時間については、女性はおおむね1990年と同程度である一方、男性が大きく減少する結果となっている30

2010年代以降、欠員率は長期間上昇するが、水準はバブル期に及ばない

これまでみたように2010年代には、経済の好転やサービス産業化の一層の進展により、企業の人手不足感は高まり、有効求人倍率は1倍を大きく超えて上昇、失業率は3%を下回る水準まで低下した。企業の感じる人手不足感は高まっており、非製造業の中小企業でバブル期を超える水準となる等、特に中小企業において厳しい状況にある31
 ただし、第2-(1)-13図により、企業の人員の充足について、欠員率32をみると、1973年、1990~1991年には5~6%程度まで上昇したものの、2023年には3%弱にとどまっている。さらに、欠員率の上昇幅でみても、4年間で4%ポイントほど上昇した1987~1991年に対し、2009~2019年では10年間で2%ポイント程度の上昇であり、過去の局面よりも緩やかな伸びとなっている。
 第2-(1)-14図では、1990年と2023年の企業規模別欠員率を示しているが、全ての企業規模において、フルタイム・パートタイム労働者ともに1990年の水準を下回っており、フルタイム労働者では、小さい規模の企業において1990年の水準を大きく下回っている。中小企業を中心に人手不足感のある企業は多いものの、欠員率をみると、現在よりもバブル期の方が厳しい人手不足の状況にあったことが分かる33
 有効求人倍率や失業率、雇用人員判断D.I.が示す人手不足感ほど、中小企業における欠員率が高まっていない背景には何があるだろうか。
 そのうち一つには、企業による定着支援策などにより、短期離職者34が減少し、欠員が生じにくくなった可能性があげられる。第2-(1)-15図から、入職者に対する入職から1年未満の短期離職者の比率35をみると、2022年36では1990年と比較して、フルタイム労働者では全ての企業規模において、パートタイム労働者では1,000人以上規模の企業以外の全てで低下しており37、短期離職者数は、入職者数に比べてより少なくなっていることがうかがえる。
 ただし、第2-(1)-16図をみると、企業規模にかかわらずフルタイム・パートタイム労働者の入職率38は低下しており、短期離職者が減ったことによる、新たな欠員のリスクは減退したが、現に生じている欠員が埋まる見通しは低下しているものと考えられる。特に5~99人規模の企業においては、第2-(1)-15図でみたとおり、フルタイム労働者の短期離職比率は30年前と比べて低下したものの、依然として他の企業規模より高い一方で、入職率は他の企業規模と大きく変わらず、欠員を相対的に抱えやすい状況にあることがうかがえる。

2010年代以降の人手不足は「長期かつ粘着的」

第2-(1)-17図により、ハローワークにおける求人の充足率39をみても、おおむね労働力需給が引き締まっている時期に低下する傾向があるものの、過去の局面で比較しても、特に2010年代以降では長期にわたり低下している。特に、フルタイム求人においては、2009年をピークに、その後大きく低下しており、2023年には10%程度と、この半世紀で最低水準となっている。同じく人手不足であった1990年代と比較しても、短期での離職を防ぎ、欠員の総数は減らす一方、生じている欠員の求人を充足することが困難となっていることがうかがえる。特に、フルタイム労働者は、企業の中核的人材であることが想定され、採用活動も長期化しやすい可能性があることから、企業は欠員率以上に人手不足を強く実感しているものと考えられる40
 こうしてみると、2010年代から現在まで続く人手不足は、「短期かつ流動的」であった過去の局面と比べて「長期かつ粘着的」であり、欠員率が示す程度以上に深刻となっている可能性がある41

今後も続く高齢化により人手不足が進む可能性がある中、生産性や労働参加率の向上が必要

最後に、今後進展が予想される高齢化と人手不足の関係について整理する。
 現在、我が国は急速な人口の減少に直面しており、総人口は、2050年代に1億人を割り込むとされている42。これは、これから約30年の間に、我が国の人口の約5分の1が失われることを意味している。こうした中、第2-(1)-18図(1)から、我が国の65歳以上人口と高齢化率の見通しについてみると、65歳以上の高齢者は、2023~2040年までで300万人程度増加することが想定され、65歳以上の高齢者が人口に占める割合は、2040年には35%弱まで上昇するものと見込まれている。
 こうした高齢化の進展は人手不足にどのような影響を及ぼすだろうか。第2-(1)-18図(2)は、これまでの人口推計などをもとに、2023年時点から消費水準や高齢者の労働参加率が現在と変わらないものと仮定して試算43した、将来の消費水準(総消費)と労働力の見通し(労働力供給)を示したもの44である。消費水準については、景気、物価、賃金等による影響を受けるため、相当の幅をもってみる必要があるが、これによると、総消費の低下は高齢化による社会全体の労働力供給の低下よりも低下幅は小さくなっている。これは、高齢者でも生活には一定の消費が伴う一方で、高齢者の引退は、時期やどのような形かなどの差はあるものの、全ての人の職業人生において不可避的に生じるものであるためと考えられる。そのため、仮に今後、労働生産性の水準に現在から変化がないとすれば、更に人手不足に拍車がかかることが想定される。ただし、現在、時間当たりの労働生産性は2013~2022年において年平均1.3%上昇45しており、また、同期間の65歳以上の高齢者の労働参加率も20.5~25.6%まで上昇する46等、ここ10年間でみても、労働力供給は増加している。この結果は、我が国の人口が減少していく中にあって、社会の活力を維持していくためには、社会全体で労働生産性や労働参加率の上昇に向けた取組を進めていくことが必要となることを示唆している。

コラム2–1 過去の労働経済白書を活用したテキスト・マイニング

「労働経済の分析(以下「労働経済白書47」という。)」においては、時流やその時に注目されているトピック等をテーマとして取り上げ、データを用いた分析等に意欲的に取り組んできた。近年では、様々な議論や新たなデータ、分析手法等を取り込むことで、労働経済をより詳細かつダイナミックにとらえる取組に注力するとともに、労働経済白書が1949年の「戦後労働経済の分析」から74回にわたり公表されてきた積み重ねをいかした取組も行っている。
 例えば、平成30年版労働経済白書(厚生労働省 2018)において、「「労働経済の分析」の70年間の歩みについて」と題して、労働経済白書の歴史やトピックの変遷等を紹介している。また、令和5年版労働経済白書(厚生労働省 2023)も、過去の白書刊行当時の賃金に対する政府や社会の認識を紹介しつつ、名目生産性と名目賃金の長期的な動向を振り返っている。
 近年、大量の文章データを定量的に扱い、有用な情報を抽出する技術として「テキスト・マイニング48」が注目されており、分析など様々な形で活用されている。本コラムでは、過去の白書において注目したトピックを抽出し、定量的に示すことで、当時の人々の関心事となっていた労働問題への認識や労働省・厚生労働省の政策の方向性を明らかにする一助としたい。具体的には、既にデータ化されている74回分の全ての労働経済白書を用いたテキスト・マイニング49を行い、キーワードとなる特定の「単語」の使用回数と雇用・労働に関する指標の推移とを比較をした。
 まず、コラム2-1-①図(1)により、令和5年版労働経済白書で集中して扱った「賃金」の使用回数をみると、「戦後労働経済の分析」から、ほとんどの年において100回を超えており、賃金は、過去74回にわたる労働経済白書における主要テーマであることが分かる。1970年以降の(名目)賃金上昇率の推移と併せてみると、賃金上昇率が低下傾向で推移する中で、使用回数も減少してきたが、平成27年版労働経済白書(厚生労働省 2015)と、令和5年版労働経済白書では、賃金を集中的に扱ったため、それぞれ約400回、約700回と、この10年間で使用回数が特に多くなっている。同図(2)により、「生産性」についてみると、概して「賃金」より多くはないが、労働生産性の低迷への危機感が強くみられ始めた2010年代以降、使用回数は増加傾向にある。
 次に、コラム2-1-②図(1)により、本年の白書のテーマである「人手不足」についても確認しよう50。「人手不足」は、総じて使用は極めて少ない傾向にあるが、人手不足局面とおおむね重なる1960年代後半、1990年代前半、2015年以降において突出して多く、2010年代以降は特に多くなる傾向にある。同図(2)により、「失業」をみると、失業率が上昇傾向で推移した1980年代と、かつてない高水準の失業率となった1990年代後半から2000年代前半にかけて、「失業」の使用回数は1,000回近くまで増加している。2010年代に入り、労働力需給が引き締まると、「失業」の使用回数は過去の1割ほどまで減少し、課題が「失業」から「人手不足」へと移っていることがうかがえる。
 テキスト・マイニングでも明らかになったように、労働経済白書は、戦後一貫して、それぞれの時代の重要な問題に焦点を当てて分析することで、「働く人や働きたい人の今を映す鏡」の役割を担ってきたことがうかがえる。我が国の経済社会とともに、働き方は大きく変わっていくであろうが、「働く人や働きたい人の今」を象徴するテーマを様々な角度から映し出し、未来の読者へ届けられるような白書作りを心がけたい。

コラム2–2 フルタイム労働者の賃金プレミアムについて

厚生労働省(2023)においては、我が国において過去25年間賃金が伸びなかった現状やその背景、賃上げの効果、賃上げと価格転嫁の関係、最低賃金や同一労働同一賃金が賃金に及ぼす影響等、様々な観点から、「賃金」について分析した。本コラムでは、生産性との関係という観点から、「賃金」を深掘りしてみよう。
 一般に、経済学では、完全競争市場において、賃金上昇は労働生産性に見合うように決まるとされているものの、実際の賃金は必ずしも労働生産性によってのみ決まるわけではなく、特定の業務や属性に対して「プレミアム」が付いていることが指摘されている。例えば、多くの人に忌避されるような特性の仕事に従事する労働者を集めるには、他の仕事よりも高い賃金を導入(正の賃金プレミアムを付与)する必要がある。一方で、その仕事が雇用保護等の観点からより良い条件である場合は、より低い賃金(負の賃金プレミアム)でも労働者を集めることができる可能性がある。こうした考え方は、補償賃金仮説として知られており51、例えば黒田・山本(2013)は、こうした考え方に立って、ワーク・ライフ・バランス施策と賃金の関係に着目し、フレックスタイム制度を利用している男性従業員では、最大で9%程度の負の賃金プレミアムが検出されることを指摘している。
 このように、フルタイム・パートタイム労働者の賃金を考える場合には、それぞれ労働生産性によらない「賃金プレミアム」が付与されている可能性を検討する必要もある。フルタイム労働者は勤務日数や労働時間などの拘束時間がパートタイム労働者よりも長い傾向がある。仮にフルタイム労働者の拘束時間の長さに対する「賃金プレミアム」があるなら、フルタイム・パートタイム労働者間の賃金差52に影響している可能性がある53
 ただし、フルタイム・パートタイム労働者間の賃金差は、生産性による分と賃金プレミアムによる分に、必ずしも明確に判別できるわけではない。労働生産性は、売上や付加価値等のアウトプットを総労働時間等のインプットで除して算出するが、フルタイム・パートタイム労働者別の売上等については、統計調査等のデータからは計測できない54。このため、本コラムでは、過去の研究を踏まえつつ、多くの仮定を置いた上で、フルタイム・パートタイム労働者の労働生産性の比率を推計する。推計した比率により、フルタイム・パートタイム労働者の賃金総額を比較し、フルタイム労働者の賃金プレミアムを試算する55
 本試算にあたっての主な仮定は以下のとおりである56
 1.フルタイム労働者・パートタイム労働者の賃金額は生産性から導出され、賃金額には一定の乗率が付与されているものとする。
 2.企業(各事業所)は、フルタイム労働者とパートタイム労働者の両方を雇用して、特定の生産関数に基づいて、生産活動を行っているものとする。
 3.同一産業(小分類)・同一企業規模の中の資本蓄積の違いは考えない。
 これらの仮定に基づき、総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2012年、2016年)の事業所別のデータを用いてフルタイム・パートタイム労働者の生産性の比率と支払われた総賃金額の比率と比較することで、フルタイム労働者の賃金プレミアムσを推計した57。0<σ<1であれば、生産性に比した賃金額は、フルタイム労働者の方が小さく、σ=1であれば、フルタイム労働者にもパートタイム労働者の生産性と同程度の賃金が支払われていることを示す。一方、σ>1であれば、生産性を考慮してもなおフルタイム労働者の方がパートタイム労働者よりも多く賃金が支払われていること、すなわち、フルタイム労働者にとって「正の賃金プレミアム」が存在していることとなる。ただし、この分析は、労働者の業務の内容や責任の程度、配置の変更範囲といった要素と待遇の差を個々に比較したものではなく、また、フルタイム労働者はいわゆる「正社員」だけではなく、有期雇用労働者も含んでいる。このため、ここで示すフルタイム労働者の「正の賃金プレミアム」が、いわゆる同一労働同一賃金規定に定める「雇用形態による不合理な賃金差」と必ずしも一致するものではない58。このように、本コラムでの分析はあくまで様々な仮定を置いた上での推計であり、その結果は相当の留保を持ってみる必要があり、またその解釈にあたっても、こうした限界を十分踏まえる必要がある59
 コラム2-2図(1)によると、試算されたフルタイム労働者の賃金プレミアムσは、おおむね2程度であり、フルタイム労働者の正の賃金プレミアムが存在していることが分かる。同図(2)により産業別にみると、フルタイム労働者の賃金プレミアムσの水準は、パートタイム労働者の活用を積極的に進めてきた第3次産業において低い傾向がみてとれる。2012年と2016年を比較すると、2016年において第2次産業・第3次産業ともにフルタイム労働者の賃金プレミアムσが低下していることがうかがえる。
 コラム2-2図(2)により、主な産業別に2016年の賃金プレミアムσについてみると、「宿泊業,飲食サービス業」では、σが1に近く、フルタイム労働者の正の賃金プレミアムがほぼ存在しない一方、「製造業」や、「運輸業,郵便業」において高い傾向がある。パートタイム労働者の占める割合が高い産業ほどσが低い傾向があり、パートタイム労働者の活躍が進んでいる産業ほど、フルタイム労働者の賃金プレミアムが小さいことがうかがえる。
 2016年以降については、データの制約等から分析することが困難である60が、短時間・有期雇用労働者に対する不合理な待遇差を設けることが禁止されたことを踏まえ、2016年以降についても、σの水準は低下していることが考えられる61。引き続き、雇用形態による不合理な待遇差を解消する取組や正規雇用転換を通じて、パートタイム労働者の待遇改善が進んでいくことが期待される。

コラム2–3 入職経路から考える求人数の増加の背景

これまで人手不足感の高まりほど欠員率が高まっていない背景について考察したが、有効求人倍率がバブル期の水準を既に超えている状況についてはどう考えればよいだろうか。
 その理由の一つとして、ハローワークに出される求人数の増加が指摘できる。コラム2-3-①図により2023年の新規求人数は相当程度高い水準にあり、パートタイムでは1990年時点の3倍程度の30万人超に増加しているほか、フルタイムでもバブル期とほぼ同水準となっている。
 高水準のフルタイム求人の背景には、縁故等の入職経路が細くなっていったことも考えられる。コラム2-3-②図(1)により、入職者に占める縁故の割合をみると、1990年には30%程度であったが、ほぼ一貫して低下し、2022年には20%程度となっている。また、同図(2)により、企業規模別にみると、特に5~99人規模の中小企業において、縁故採用は重要な人材確保のルートであるものの、1990~2022年にかけて、入職者に占める割合は25%程度まで低下している。
 中小企業においては、これまでの縁故による採用に代わって、ハローワーク等の求人で補おうとした結果、2010年代以降の人手不足の局面においては、ハローワークでの求人がより大きく増加した可能性が考えられる。

コラム2–4 地域別にみた人手不足

本節では、1970年代前半、1990年代前半、2010年代以降の3期間における人手不足の状況や背景についてみてきたが、地域によって産業や経済情勢は異なっているため、人手不足にも地域差が存在している。本コラムでは、それぞれの期間で地域差がどのように変化しており、2010年代以降の人手不足にどのような特徴があるのか紹介しよう。
 まず、全国の有効求人倍率が同程度の水準であった1990年(1.40倍)と、2016年(1.36倍)の2時点を取り上げて、その地域差を確認してみよう。コラム2-4-①図は、都道府県(受理地)別の有効求人倍率を色の濃淡で示したものであり、有効求人倍率が高い(人手不足の状況が厳しい)都道府県は濃い色で、低い都道府県では薄い色で表している。これをみると、1990年では北関東から中部地方にかけて有効求人倍率が特に高くなっているが、北海道や九州地方では低く、地域によるばらつきが大きいことが分かる。2016年については、1990年のような地域差はみられず、全国的に人手不足の状況が生じていることが分かる。
 コラム2-4-②図により、地域別に有効求人倍率の推移をみると、1970年代には、東海で有効求人倍率が5倍にも達していたほか、関東・甲信越、近畿でも2倍を超えており、東京、名古屋、大阪といった三大都市圏の人手不足がうかがえる。一方、この時期においては、北海道・東北や九州・沖縄においては有効求人倍率が一貫して1倍を下回っており、求職者数が求人数よりも多く、厳しい雇用情勢が常態化している。高度経済成長期以降、三大都市圏への人口の流入が続き、人口が集中していったが、こうした地域での求人の活発さやそれ以外の地域での雇用情勢の厳しさも影響していることがうかがえる。
 1990年代においても、こうした傾向がおおむね続いている。東海、北陸、関東・甲信越は有効求人倍率が1.5倍を上回っており、中国・四国も同様の水準となったが、近畿は1倍前後となった。一方で、1990年代の有効求人倍率は、北海道・東北、近畿、九州・沖縄では高くても1倍程度と求人を求職が上回る状況となっている。このように、1990年代までは地域間における有効求人倍率には差があり、人手不足は主に大都市部を含む地域で生じていたことがうかがえる。
 一方、2010年代においては、これまでと異なった様相となっている。これまでは三大都市圏と他の地域との有効求人倍率の差が大きかったが、2010年代以降においては全ての地域で有効求人倍率は1~1.5倍となっている。また、北海道・東北、九州・沖縄などこれまで有効求人倍率が低かった地域においても1倍を超えるなど、これまで雇用情勢が厳しかった地域においても人手不足が生じており、人手不足が全国的なものであることが改めて確認できる。
 この背景には、まず、同期間において、労働参加率が高い25~54歳の人口の減少が一部の都市部を除いた地方において特にみられたことが考えられる。コラム2-4-③図(1)から、国勢調査における1990~2015年にかけての都道府県別の25~54歳人口の増減率をみると、東京都、神奈川県、愛知県、滋賀県、沖縄県を除いた全ての道府県において25~54歳人口は減少し、その減少度合いは、東北・四国・中国・九州において大きい。一方で、同図(2)により、経済環境や雇用情勢の改善がみられ始めた2013年度から、新型コロナウイルス感染症の拡大前である2019年度までの都道府県別GDPの増加率をみると、バラつきはありつつも全国的に経済規模の拡大が生じている62。すなわち、労働参加率が高い25~54歳人口は地方において25年間で大きく減少した一方で、2013年度以降の経済規模の拡大が全国的に生じた結果、2010年代以降においては、地方における労働力需給の引き締まりが生じたものと考えられる。ただし、同図(3)が示すとおり、25~54歳人口の減少がみられた道府県においても一部を除いて就業者数は増加しており、減少した分を女性や高齢者が補っているが、それでもなお労働力需要の増加に追いついていないことが確認できる。また、同図(4)から、失業率についてみると、全ての都道府県において低下しており、雇用情勢の改善は、全国的であったことが分かる。以上から、2013年から2019年にかけての地方における雇用を取り巻く環境をみると、①人口が減少する中にあっても、地方も含めて全国的な経済規模の拡大と、②それに伴う労働力需要の増加がみられ、この結果、③多様な労働参加が進み、就業者数は地方においてもおおむね増加し、④失業率は大きく低下する等、雇用情勢は大きく改善したことが確認できる。
 また、2010年代において、地方における人手不足が深刻化した背景には、既に指摘したようなサービス産業化の影響も考えられる。コラム2-4-④図から、第2次産業・第3次産業別に欠員率の推移をみると、1990年前後では特に製造業(第2次産業)における欠員率が高く、1990年において特に工業地域で労働力需要が高まる背景があったと考えられる63。一方で、2010年代においては、第2次産業・第3次産業ともに同程度まで欠員率が高まっている。
 これらをまとめると、2010年代以降の人手不足は、製造業や都市部を中心に人手不足が生じた過去の人手不足とは異なり、全産業的にかつ全国的に広がりをもって人手不足が生じており、職業間の差や地域差もこれまでよりも小さいことが特徴であることが分かる。より労働集約的なサービス業が中心となる中で、これまで人手不足が生じてこなかった地域にも人手不足が生じている。人材確保に向けて、こうした地域においても、求人条件の見直しや職業安定機関におけるきめ細かなマッチング、機械化等による生産性の向上などが重要となっていくだろう。

第2節 2010年代以降の人手不足の現状

ほぼ全ての産業において欠員率が上昇しており、特に中小企業において顕著

第Ⅱ部第1章第1節では、1970年代以降の人手不足を取り巻く状況を確認する中で、2010年代以降は、離職も入職も減少し、長期にわたって人材確保の見通しが立たなくなっている可能性があること、人手不足の程度は欠員率以上に深刻である可能性があること等を指摘した。本節では、2010年代以降現在までの人手不足は、どのような分野でどの程度あるのか、より詳細に分析していこう。
 まず、第2-(1)-19図により、2012年と2023年の欠員率を企業規模別・就業形態別・産業(大分類)別に確認する。企業規模を問わず、おおむねどの産業においても欠員率が高まっていること、特に、企業規模が小さいほど、欠員率が大きく上昇していることが確認できる。また、同図(2)(3)からフルタイム労働者の100~999人規模企業及び5~99人規模企業についてみると、「建設業」や「宿泊業,飲食サービス業」等において、欠員率が顕著に上昇している。同図(4)~(6)は、同じくパートタイム労働者の状況をみたものであるが、欠員率は概してフルタイム労働者よりも高く、2023年の欠員率は企業規模を問わず上昇している。同図(4)の1,000人以上規模企業では「運輸業,郵便業」が、同図(5)(6)の100~999人規模企業、5~99人規模企業では、「宿泊業,飲食サービス業」が顕著に上昇しており、特に5~99人規模企業においては10%を超える等、一部の産業では欠員率が極めて高くなっている。

労働力需給ギャップは2017年以降マイナスが目立つようになっている

次に、労働力需要と労働力供給の差を「労働力需給ギャップ」と定義64して、その推移を確認する。具体的には、「企業が必要とする総労働力」を労働力需要と、「労働市場に参加している者が供給できる最大の総労働力」を労働力供給と定義し、それぞれ時間単位で計算した労働力供給から労働力需要を差し引いた「労働力需給ギャップ」を示す。これらを産業別・職業別に推計することで、人手不足の分野と程度を定量的に示すことができる。
 まず、第2-(1)-20図(1)により、2013年以降の我が国全体の労働力需要・労働力供給・労働力需給ギャップの推移をみてみる。2019年までは労働力供給がほぼ横ばいで推移しているが、労働力需要が増加し、労働力需給ギャップは、2017~2019年においてマイナスに転じている。これは、我が国において全ての求職者が就職しても、全ての企業が必要とする労働力需要より不足することを意味している。感染症の影響を受け2020~2021年ではプラスとなったものの、2022年以降、労働力需要が回復し、労働力供給の伸びを上回っており、労働力需給ギャップは再びマイナスに転じた65
 同図(2)から、産業別に2013年以降の労働力需要・労働力供給・労働力需給ギャップの推移をみると、どの産業においても、労働力需給ギャップは、プラス幅が縮小傾向にあるか、マイナスとなっている。「製造業」「情報通信業」「運輸業,郵便業」では労働力需給がほぼ均衡しているものの、「卸売業,小売業」「宿泊業,飲食サービス業」「医療,福祉」の労働力需給ギャップはマイナスとなっており、特に「宿泊業,飲食サービス業」は、2014年以降マイナスが続いている。感染症の影響を大きく受けた「宿泊業,飲食サービス業」においては、労働力需給の回復途上にあり、インバウンド需要などもあって、労働力需給ギャップはマイナス幅が大きくなっている。また、「製造業」「情報通信業」「医療,福祉」においては、生産性の向上以上に労働力需要は増加している。ICT技術の発展等に伴う専門・技術人材への需要や、少子高齢化に伴う医療・介護従事者への需要の高まり等から、今後もこうした傾向が続くものと考えられる。

労働力需給ギャップは幅広い産業・職業でマイナスとなっている

次に、産業(大分類)別・職業(大分類)別に労働力需給ギャップをみてみよう。第2-(1)-21表は、2013年と2023年の労働力需給のマイナス(供給不足)を産業・職業別にクロスで集計したものである。
 これをみると、2013年ではマイナスとなっている産業・職業は、「建設業」における「生産工程従事者」や「建設・採掘従事者」、「宿泊業,飲食サービス業」における「販売従事者」等の16にとどまるが、2023年には60近くに及び、マイナス幅も大きくなっていることが分かる。特に、「建設業」においては、「専門的・技術的職業従事者」や「建設・採掘従事者」等でマイナス幅が大きくなっている。そのほかにも、「医療,福祉」における「専門的・技術的職業従事者」「サービス職業従事者」、「卸売業,小売業」における「販売従事者」、「宿泊業,飲食サービス業」における「サービス職業従事者」、「製造業」における「生産工程従事者」など、事業の中核となる職業に不足が生じている。職業別にみると、「サービス職業従事者」「販売従事者」といった対人サービスに係る職業のほか、「専門的・技術的職業従事者」においても不足が生じており66、広い産業・職業においてマイナスの労働力需給ギャップがみられる67

大企業への転職は活発となっている

幅広い産業・職業で人手不足がある中で、労働移動にはどのような変化が生じているだろうか。第2-(1)-22図は、1,000人以上、100~999人、5~99人の企業規模間における2000年以降の転職率をみたものである。同図(1)から1,000人以上規模企業からの転職についてみると、同規模の企業への転職率が上昇しており、大企業間の転職は活発になっている。一方で、100~999人や5~99人規模の中小企業への転職率は1%程度まで低下している。同図(2)から、100~999人規模企業をみると、1,000人以上規模や100~999人規模の企業への転職率が2000年代と比べ上昇傾向にあり、前職以上に大きい規模の企業への転職が進んでいることが確認できる。同図(3)により、5~99人規模企業についてみると、一貫して同規模の企業への転職率が高いが、長期的に低下傾向にある。一方で、1,000人以上規模企業への転職率が上昇傾向にある。
 総じてみれば、2000年代と比べ、前職以上の規模の企業への転職は活発になる一方で、規模が小さい企業への転職は低調となっており、相対的に賃金などの労働条件が良く、福利厚生なども充実している大企業への労働移動が進んでいることがうかがえる68

産業間・職業間の労働移動は一部を除いて活発化していない

人手不足は幅広い産業・職業に及んでいるが、一部の産業や職業を除き、これらをまたぐ転職は活発化していない。第2-(1)-23図第2-(1)-24図は、2012年以降の転職入職率を同一の産業間(職業間)と、異なる産業間(職業間)に分けたものである。
 まず、第2-(1)-23図から、産業ごとの転職入職率についてみると、「医療,福祉」「製造業」では同一産業からが高いが、それ以外の産業では異なる産業からの方が高い。「宿泊業,飲食サービス業」を除き、総じて傾向に変化はない。「運輸業,郵便業」においては、異なる産業からの転職入職率が2021年、2022年には低下に転じた。これらからすると、異なる産業間での転職は同一の産業間での転職よりも頻繁ではあるが、総じて活発化している状況にはないといえる。
 次に、第2-(1)-24図から、職業別の転職入職率についてみると、様相が異なる。おおむねどの職業でも、同一の職業からが異なる職業からを上回っている。「運搬・清掃・包装等従事者」と「保安職業従事者」以外は同一職業からの方が高くなっており、一時的な変動はあるものの、総じて同様の傾向で推移している。
 これらを踏まえると、人手不足の状況下にあっても、産業間や職業間の移動は、総じて活発化しているわけではないことが分かる。

マッチング効率性は全体的に低下

既に第2-(1)-17図でみたとおり、2010年代以降においては、充足率が低下し続けており、採用に結びつかない求人も多い。一般的に、労働力需給が引き締まっている時期において充足率は低下する傾向があるものの、足下でのフルタイム労働者求人の充足率はバブル期を大きく下回っている。この要因としては、2010年代以降において求人と求職のマッチングのしやすさ(以下「マッチング効率性69」という。)が低下している可能性が考えられる。ここでは、ハローワークにおける求人・求職及び就職のデータを用いて、都道府県別・職業(中分類)別に労働市場を定義70して、一定の仮定を置いた上で各労働市場のマッチング効率性を試算71し、その変化を確認する。第2-(1)-25図は、2012年度と2022年度の各労働市場のマッチング効率性をプロットしたものであり、一つひとつの労働市場を点で示している。45度線上は2012年度と2022年度でマッチング効率性に変化がないことを、45度線より上は2022年度の方がマッチング効率性が高いことを、下は2012年度の方が高いことを示している。これをみると、45度線よりも下に位置する点がほとんどで、都道府県別・職業(中分類)別に定義された労働市場の大半において、10年間でマッチング効率性が低下した72ことを意味している73

マッチング効率性の低下は有料職業紹介事業所でもみられる

マッチング効率性の低下はハローワークだけではなく、民間職業紹介事業所74においてもみられる。ここでは民間職業紹介事業所における求職者の99%、求人数の90%を占める、有料職業紹介事業所について分析した。第2-(1)-26図では、第2-(1)-25図と同じ方法でハローワークと有料職業紹介事業所における2018年度と2021年度の各労働市場のマッチング効率性の分布を示している。同図(1)はハローワークにおけるマッチング効率性であるが、分布が全体的に左にシフトしており、マッチング効率性が高い労働市場の減少と低い労働市場の増加が分かる。一方で、同図(2)は有料職業紹介事業所についてみたものである。形状は異なるものの、分布は同様に左にシフトしており、ハローワークと同様の傾向である。以上から、職業紹介機関におけるマッチング効率性については、官民75を問わず低下している可能性がうかがえる76

マッチング効率性は低下しているが求人の質は改善している

マッチング効率性の低下の理由には、求人条件と求職者の希望とのミスマッチも考えられるが、2011年度以降のハローワークの求人条件をみると、求人条件は悪化していない。第2-(1)-27図(1)で、「賞与あり」求人の割合をみると、全ての規模で上昇している。特に99人以下では、この10年間で「賞与あり」求人の割合が大きく上昇し、2022年度には6割近くとなり、1,000人以上を逆転している。同図(2)で、「完全週休二日77」の求人割合をみても、企業規模での差はあるものの、全ての企業規模で上昇しており、99人以下において改善が特に進んでいる。このように、ハローワークの求人の質は、この10年で改善していることから、マッチング効率性の低下は、求人の質によるものではないと考えられる78

高齢の求職者の増加や、求職者が希望する条件に変化が生じている可能性

一方で、求職者像は、この10年間で大きく変化している。第2-(1)-28図(1)により、求職者数をみると、65歳以上の求職者数は2023年には6万人まで増加し、2012年の2倍となっている。その割合も、求職者全体の数が緩やかに減少する79中、2023年には15%超にまで上昇している。同図(2)により、年齢別の就職率(新規求職者に対する就職者の割合)について、2012~2023年の平均をみると、65歳以上の就職率は他の年齢に比べて特に低い。増加する高齢の求職者の低い就職率が、人手不足の中でのマッチング効率性の低下に影響を及ぼしている可能性がある80
 さらに、求職者の希望する条件も変化している可能性がある。第2-(1)-29図は、仕事を探したときに重視した条件(絶対条件)について、2023年と2017年の調査を比較したものである。男女はいずれも、ほぼ全ての条件において、「絶対条件」とする割合が上昇している。労働者の多様性が反映された結果、重視した条件も多様になり、応募にあたって条件をより厳しく吟味している可能性が示唆される。特に、男女ともに「通勤時間(通いやすさ)」が増加しており、近隣での就職を望む傾向がうかがえる。このほか、女性においては、「仕事内容(職業)」や「職場の雰囲気」等で伸びが大きく、賃金や休日等の労働条件以外の部分についても、求職者が「絶対条件」と考える要素が増加している可能性がある81

我が国では、欠員率に対する賃金上昇率の感応度が高く、人手不足は賃上げをけん引する可能性

最後に第2-(1)-30図により、日独英米の人手不足と賃金の関係、生産性と賃金の関係を確認しよう。まず、同図(1)は、2001~2022年までの欠員率を横軸に、名目賃金上昇率を縦軸にとった散布図である。近似線におけるxの係数は、欠員率が1%ポイント上昇した場合の名目賃金上昇率の上昇幅を示しており、xの係数が大きいほど欠員率上昇に対する賃金上昇率の感応度が高いと考えられる。日本・ドイツ・イギリスでは、xの係数が1.5~1.9程度と、欠員率1%ポイントの上昇につき、名目賃金上昇率が1.5~1.9%ポイントほど高くなる関係にある。アメリカのxの計数(0.45程度)と比較すると、日本・ドイツ・イギリスは、欠員率の上昇に対する賃金上昇率の感応度が高いことが分かる。
 次に、同図(2)は、同図(1)の欠員率の代わりに名目生産性上昇率を横軸にとったものである。これをみると、xの係数は、日本・ドイツ・イギリスでは0.3~0.5程度であり、生産性上昇率が1%ポイント高くなった場合の賃金上昇率は0.3~0.5%ポイント高くなる関係にある。アメリカのxの計数(0.8程度)と比較すると、日本・ドイツ・イギリスは、生産性上昇率に対する賃金上昇率の感応度が低いことが分かる82
 最後に、同図(3)①②により、名目賃金上昇率と欠員率、名目生産性上昇率との相関係数をそれぞれみると、我が国では、欠員率と賃金上昇率の相関係数が比較的高く、生産性上昇率と賃金上昇率の相関係数が比較的低くなっている。
 以上をまとめると、我が国では、欠員率に対する賃金上昇率の感応度が高いことから、欠員率の高まりに応じて、高い賃金上昇率が実現していく可能性があると考えられる。

コラム2–5 マッチング効率性・バーゲニングパワーの試算

第2-(1)-26図では、ハローワーク・有料職業紹介事業所(民間)において、マッチング効率性が低下した可能性を指摘した。マッチング効率性については、特定のマッチング関数を仮定した上で、同図の分析では、求人と求職の力関係(バーゲニングパワー)が等しいという仮定も置いている。一方で、有効求人倍率が低い(就職できる可能性が低い)状況では、就職する人がいる求人条件であっても、有効求人倍率が高い(就職できる可能性が高い)状況では、ほかに良い求人があるはずだと考えて就職しないこともあるかもしれない。求人側においても、有効求人倍率が高い(求人が充足できる可能性が低い)状況では、求人条件を緩和してでも採用する可能性があるが、有効求人倍率が低い(求人が充足できる可能性が高い)状況では、ほかに良い求職者がいるはずだと考え、求職者は採用されないかもしれない。
 このように、求人と求職の力関係(バーゲニングパワー)は変化し得るものであるため、マッチング効率性とバーゲニングパワーを同時に推計し、その変化を確認する83
 まず、コラム2-5-①図において、ハローワークのマッチング効率性とバーゲニングパワーを推計84すると、第2-(1)-25図と同様に、マッチング効率性はほぼ一貫して低下していることが分かる。一方で、労働者と企業間の交渉力であるバーゲニングパワーについては、0.5近傍で推移しており、ハローワークにおいては、おおむね労働者と企業の力関係は均衡していることが分かる。ただし、求人が大きく減少した2020年以外は、人手不足の中、求職側のバーゲニングパワーが徐々に強くなっている。
 同じ推計方法で、2018~2021年について、ハローワークと有料職業紹介所(民間)におけるマッチング効率性とバーゲニングパワーの推計85を行った。コラム2-5-②図をみると、マッチング効率性は、有料職業紹介事業所においても低下傾向で推移しており、これは第2-(1)-26図で指摘したとおりである。ただし、バーゲニングパワーの水準はハローワークとは大きく異なり、相対的に求人側の力が強くなっている傾向がある86
 こうしたことから、ハローワークも有料職業紹介事業所も、マッチング効率性を下げており、人手不足の中で、求職者の交渉力が徐々に強くなっていることがうかがえる。

コラム2–6 人手不足と賃金の関係についての分析

第2-(1)-30図では、各国ともに欠員率と賃金上昇率には正の相関関係がみられ、欠員率が高まるほど賃金上昇率も高まる傾向があることを確認した。ただし、賃金上昇率には、欠員率だけではなく生産性上昇率も大きな影響を及ぼす。このため、1974年からの第2次産業・第3次産業別の欠員率と、生産性上昇率等を用いて、賃金上昇率を説明変数にした回帰分析を行った。その結果生産性を考慮してもなお、欠員率の上昇は賃金増加率に対して有意なプラスの影響を及ぼすことを確認している87
 ただし、賃金が高いほど、就業希望者が増加し、結果として欠員率が下がるといった関係も存在している可能性があり、逆の因果関係が存在する可能性に留意する必要がある。例えば、コラム2-6-①図から、2013年以降のデータを用いて、我が国における企業規模別の欠員率と年収や時給の関係をみると、特に1,000人以上企業や100~999人企業においては、欠員率が高いほど年収・時給の水準が低くなる傾向がみてとれる。
 それでは、欠員率の高まりが賃金上昇に与える影響については、どのように考えればよいだろうか。高い賃金が欠員率を引き下げ得る効果を除いた効果のみを推計するため、操作変数法を用いて、欠員率の高まりが賃金上昇に及ぼす影響を分析する。ここでは、欠員率と賃金の間に逆の因果関係や測定できない要素が存在すると考えられる場合に、欠員率と相関があって賃金と相関がない「ある変数」(操作変数)から、欠員率が賃金に影響する部分を推計する88。操作変数には、「週35時間以上就業労働者に占める週60時間以上労働者割合の前年差89」を用いた90コラム2-6-②図から推計結果をみると、最小二乗法では有意ではあるものの係数が小さかった欠員率は、操作変数による推計結果91においては係数が大きくなり、1%水準で有意となっている。一方で、生産性上昇率の係数をみると、最小二乗法で推計したときよりも小さくなっており、単に賃金上昇率を欠員率と生産性上昇率で推計するだけでは、生産性の効果を過大評価している可能性があることが分かる。
 以上から、最小二乗法だけではなく、操作変数法による分析からも、生産性上昇率を考慮したとしても、欠員率が高まると賃金増加率も高まる効果があることが確認された。このため、既に第2-(1)-30図において指摘しているように、今後欠員率が高まってくれば、賃金増加率が高まってくる可能性があると考えられる。

第3節 小括

本章では、1970年代前半(高度経済成長期末期)、1980年代後半~1990年代前半(バブル経済期)、2010年代以降現在に至るまでの3期間における人手不足局面に着目し、人手不足の背景等について整理し、2010年代以降の人手不足の特徴等を分析した。我が国における人手不足の状況を長期的に整理すると、1970年代前半では急速な経済成長による労働力需要の増大が、1980年代後半~1990年代前半では、サービス産業化の進展とフルタイム労働者の不足が、2010年代以降では、経済の好転やサービス産業化の一層の進展が人手不足に寄与した可能性を指摘した。2010年代以降の人手不足では、過去の局面と比較して欠員率は低く、その伸びも緩やかであるものの、求人の充足が困難になっている。人口減少の中で高齢化も進みつつあることも踏まえ、2010年代の人手不足は、「短期かつ流動的」であった過去の局面と比べて「長期かつ粘着的」であることを指摘した。
 さらに、2010年代以降の人手不足局面においては、広範な産業や職業において労働力需給ギャップが生じていること、中小企業から大企業への労働移動が生じている可能性があること、労働市場のマッチング効率性が低下していることを指摘した。また、国際比較等を踏まえつつ、今後の人手不足の深刻化が賃金上昇にプラスの影響を及ぼす可能性があることを確認した。

注釈

  1. 1例えば、European Commissionによる定義では、「(特定の労働市場における特定の職業における)労働力不足」とは、「世間相場並みの賃金・待遇において通常見込まれる離職者数を、欠員数が長期間にわたって上回っている状態」を指すとされている。
  2. 2毎月景気に関する政府の公式見解を示す「月例経済報告」においても、雇用情勢判断にあたって、これら二つの指標が用いられている。
  3. 3より正確には、「有効求人倍率」とは、前月から繰り越された有効求人数と当月の「新規求人数」を合計した「月間有効求人数」と、前月から繰り越された有効求職者数と当月の「新規求職申込件数」を合計した「月間有効求職者数」の比率のことである。
  4. 4ただし、すぐに就業ができる者に限る。
  5. 5「新たに求職」の中には「学校を卒業したから」という者も含まれる。
  6. 6厚生労働省(2022a)でも分析しているように、労働市場のミスマッチが増えれば、たとえ企業の人手不足感が変わらないとしても、完全失業率は上昇することになる。我が国における労働市場の効率性(マッチング効率性)については、第Ⅱ部第1章第2節で詳しく分析している。
  7. 7雇用が「過剰である」と回答した企業の割合から、「不足している」と回答した企業の割合を引いたもの。0を下回れば、雇用が「不足している」と感じた企業の方が「過剰である」と感じている企業よりも多いことを示している。なお、産業別等のより詳細な足下の状況については、第1-(2)-17図を参照。
  8. 8特に2010年代以降については、雇用人員判断D.I.のマイナス幅が、過去の期間と比較しても長期かつ深刻となっており、企業が実感する人手不足が相当程度強くなっている可能性がある。
  9. 92000年代後半については、有効求人倍率や失業率の改善がみられるものの、その水準は顕著ではなく、非自発的失業者の割合が比較的高い(20%弱)。雇用人員判断D.I.のマイナス幅も他の3期間よりも小さいことから、当該期間は除外している。
  10. 10労働省(1973)は、労働力需給引き締まりの背景として、「景気の急速な上昇」のほか、「新規学卒からそれ以外の層への求人切替え」「求人競争が激化しており、一度の求人では十分な充足ができないのでさらに求人するという行動がみられること」等をあげている。
  11. 11プラザ合意以降の円高の進展による景気後退や、その後に移行したバブル経済への移行等については、石井(2011)を参照。
  12. 12労働省(1992)も、1965年10月~1970年7月のいざなぎ景気時と比較して、「相対的に低い成長率の下でこのように雇用需要が増加し、欠員率も高まった。」と指摘している。
  13. 131980年代後半~1990年代前半におけるサービス産業化による労働力需要の高まりについては、労働省(1992)も指摘している。また、サービス産業化を進行させる要因等については長松(2016)を参照。
  14. 14「世界とともに生きる日本-経済運営5ヵ年計画-(昭和63年5月閣議決定)」においては、生活のゆとりを生み出し、多様性に富んだ創造的な国民生活を実現する等のため、計画期間中に週40時間労働制の実現を期し、年間総労働時間を1,800時間に向けできる限り短縮することが記載されている。
  15. 15我が国の法定労働時間は、1947年に労働基準法が制定されて以降、長い間週48時間制が続いていたが、段階的に改正され、1988年4月から週46時間、1991年4月から週44時間、さらに、1994年4月から週40時間に短縮された。詳細は厚生労働省(2015)を参照。
  16. 16なお、パートタイム労働者も含むデータであるが、付2-(1)-1図から、所定外労働時間の推移をみると、1980年代における労働時間の増加と、1990年頃を境にした労働時間の大幅な減少がみられる。
  17. 17総実労働時間が減少していることについて、労働省(1992)は、「今回の景気拡大期においては改正労働基準法が施行された63年4~6月期以降減少傾向で推移」していることや、労働者の時短選好が強まっていたことを指摘している。また、法定労働時間の改正に合わせて、完全週休二日制の導入など休日日数も増加しており、厚生労働省(2015)は、月間休日日数や完全週休二日制の適用労働者の割合の変動から、1990年前後の総実労働時間の減少は、1日当たりの所定内労働時間の減少ではなく、完全週休二日制の広がりが主因としている。
  18. 18当該時期においては、女性のフルタイム労働者も増加しているが、付2-(1)-2図にあるように、特に女性のパートタイム労働者比率が急速に上昇している。なお、男女別のフルタイム・パートタイム労働者の推移や、総労働時間への寄与度分解等については髙田・久保(2024)を参照。
  19. 19この間、1998年のアジア通貨危機、2000年のITバブル崩壊、2002年の不良債権処理の加速化等、経済成長に悪影響を与え得るような出来事が短期間で複数生じている。
  20. 20当該時期においては、厚生労働省(2023)でも紹介しているように、雇用情勢が悪化する中で、就職氷河期とよばれるような新規学卒者の就職難が生じたほか、就業不安定な若年者である、いわゆるフリーターの問題が社会的な注目を集める等、2000年代を通じて、雇用の安定が社会の関心事となっていった。例えば、労働省(1999)では、ワークシェアリングに取り組んだオランダモデルを、賃金調整を通じた雇用安定の政策の好事例として取り上げており、2002年には政府・日本経営者団体連盟・日本労働組合総連合会の間で、ワークシェアリングに関する政労使合意が結ばれている。また、2007年4月~2008年3月にかけて、年長フリーターに対する支援に重点を置いた「フリーター25万人常用雇用化プラン」が実施された。
  21. 21GDPの年平均成長率は、付2-(1)-3図を参照。ただし、高齢化の影響を踏まえれば、2012年以降の「アベノミクス」の下で行われた「大胆な金融政策」と「機動的な財政支出」が総需要創出に極めて有用であったという指摘もある(Ito 2021)。
  22. 22時系列での比較のため、ここでは消費者物価指数(総合)を用いて、各年、2015年の1兆円に相当する額の消費の増加があったものとみなして計算している。
  23. 23厚生労働省(2023)で示したとおり、GDPから計算した一人当たり労働生産性は1996年から長期的にほぼ横ばいであるが、中間投入も含めた生産額の総額から計算すると、就業者一人当たりの生産額は1990~2015年にかけて15%ほど増加している。
  24. 24フルタイム・パートタイム別雇用者数の推移については、第2-(1)-6図(1)を参照。1990年代以降の第2次産業におけるパートタイム労働者の伸びは第3次産業よりも小さく、フルタイム労働者も微減している。
  25. 25製造業における海外移転等については、内閣府(2012)においても指摘されている。
  26. 26ここでいう「労働分配率」については、雇用者一人当たり雇用者報酬を、就業者一人当たりGDPで除すことで計算している。他の計算方法については、厚生労働省(2023)のコラム2-1参照。
  27. 27ここでいう「賃金」は一人当たり雇用者報酬を指し、企業が負担する社会保険料等を含む。労働生産性ほど賃金が上昇していない背景等については、厚生労働省(2023)を参照。
  28. 28コラム2-2では、フルタイム労働者に対して、「賃金プレミアム」が付与されている可能性を指摘している。第3次産業における労働分配率の低下については、「賃金プレミアム」が付与されているフルタイム労働者が占める割合が低下したことも影響した可能性がある。
  29. 29総労働時間は、就業者数に平均労働時間を乗じることで計算している。
  30. 30なお、付2-(1)-4図(1)にあるように、1990~2023年までの女性の就業者数の増加については、パートタイム労働者増加による寄与が大きく、2023年における女性のフルタイム労働者数は、1990年の水準よりも少なくなっている。ただし、同図(2)にあるように、2014年以降でみると、女性のフルタイム労働者は減少傾向から反転して200万人近く増加している。
  31. 31産業、企業規模別の雇用人員判断D.I.については、付2-(1)-5図を参照。
  32. 32欠員率とは、常用労働者数に対する未充足求人数の割合をいう。
  33. 33付2-(1)-6図では、これらを産業別にもみており、製造業、非製造業ともに、2023年のフルタイムの欠員率は、1990年と比較して低くなっている。
  34. 34短期離職者は、2022年時点で、フルタイム労働者の離職者の約20%、パートタイム労働者の約40%を占めており、企業の人材活用の在り方に大きな影響を及ぼしていると考えられることから、ここでは短期離職者に注目している。
  35. 35ここでいう入職者とは「1年間で新しく入職した者」、離職者とは「1年間で離職した者」であることから、必ずしも同一個人を一致させて調査したものではないが、入職者・短期離職者比率は、入職者のうち、どの程度が短期間(1年未満)で離職するかということを大まかに示す指標であると考えられる。
  36. 36欠員率等については、毎年6月末時点の状況を公表しているため、2024年5月時点において2023年までの結果を取得できるが、入職率や離職率については1年間の入職者数・離職者数の合計から計算しており、公表は例年8月頃であることから、ここでは2022年までの結果を示している。
  37. 37パートタイム労働者については、2023年における「1,000人以上規模の企業」における「入職者と1年未満の短期離職者の比率」が高いが、この背景には、付2-(1)-7図(1)から分かるように、特に大企業において24歳以下の層を多く採用していることが影響している可能性がある。同図(2)から、2022年におけるパートタイム労働者の離職率をみると、24歳以下の層において他の年齢層と比べて特に高い傾向にあり、若年層がパートタイム労働の入職者に占める割合が他の企業規模に比べて高い結果、大企業における離職率が高くなっていることが考えられる。
  38. 38「入職率」とは、常用雇用者に占める入職者の割合をいう。
  39. 39「充足率」とは、新規求人に占める就職件数の割合をいう。
  40. 40中小企業庁(2016)によると、創業後約20年で中小企業の半数近くが退出するとされていることから、1990年代前半における人手不足局面を経験したことがない中小企業も一定程度ある可能性も考えられる。
  41. 41失業率が3%を下回る水準まで低下したことについても、付2-(1)-8図にあるように、失業者の3~4割は自発的な離職によるものであることを踏まえれば、離職の減少が一定程度影響したものと考えられる。
  42. 42国立社会保障・人口問題研究所が公表している「将来人口推計」(令和5年推計)による。
  43. 43試算は、以下の手順で行っている。
    1. 1.総務省「家計調査」から得られる2023年の世帯主の年齢階級別の消費水準と有業人員数に、国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計」による2023年の年齢階級別の世帯数を乗ずることで、2023年における総消費水準と労働力供給水準を算出。
    2. 2.「将来人口推計」における2024、2025、2030、2035、2040年の年齢階級別の世帯数に、2023年時点での年齢階級別の消費水準と有業員数を乗ずることで、先行きの総消費水準と労働力供給水準を計算(2026~2029年、2031~2034年、2036~2039年は線形補間)。
    3. 3.2023年の総消費水準と労働力供給水準を100として指数化。
  44. 44(独)労働政策研究・研修機構は、2024年3月に「2023年度版 労働力需給の推計(速報)」(以下「需給推計」という。)を公表し、政策の効果を折り込んだ複数のシナリオによる労働力の見通し等を提示している。第2-(1)-18図は、就業率の変化等も考慮している需給推計と異なり、就業率を固定したまま単純に人口の変化によって労働力供給を延伸しただけであり、両者は全く異なるものであることに留意が必要。
  45. 45時間当たり労働生産性の推移については、付2-(1)-9図(1)を参照。ここでいう時間当たり労働生産性は名目であり、名目GDPを就業者数と労働時間で除して計算している。なお、実質GDPから実質時間当たり労働生産性を計算すると、2013~2022年にかけて年平均0.6%成長している。
  46. 4665歳以上高齢者の労働参加率の推移は、付2-(1)-9図(2)を参照。
  47. 472000年までは「労働白書」として公表されていた。
  48. 48テキスト・マイニングとは、定性的な情報である文章について、特徴的な単語の頻出回数をカウントする等して、定量的な分析を行おうとするものである。詳細は小木(2015)を参照。
  49. 49政府が発行する白書を対象として行ったテキスト・マイニングの前例としては、河合(2017)や、Zhu, Tanaka and Akamatsu (2023)がある。
  50. 50本コラムでは、あくまで連語としての使用回数をカウントしている。このため、例えば、「人手が不足」といった表現は、「人手不足」と同義であってもカウントされないことに留意。
  51. 51補償賃金仮説(ヘドニック賃金仮説)の説明は戸田(2022)を参照。
  52. 52厚生労働省「毎月勤労統計調査」における、ボーナスも含んだ時給では、2023年において、フルタイム労働者は約2,670円、パートタイム労働者は約1,320円であり、これらを単純に比較すると2倍程度の時給差が存在している。なお、同一労働同一賃金による賃金差の縮小効果については、厚生労働省(2023)を参照。
  53. 53賃金プレミアムの説明については臼井(2013)も参照。
  54. 54売上や付加価値は、事業所ごと、あるいは企業ごとに計測されるものの、その事業所や企業が生み出した売上・付加価値のうち、どの程度がフルタイム労働者の貢献によるものなのかという点については、データからは直接計測できない。
  55. 55森川(2017)は、生産性が賃金に見合っているかを分析する手法として、1.企業の生産・付加価値を被説明変数とした生産関数の推計によって類型別の労働者の限界生産性を推計するものと、2.別途計測した全要素生産性(TFP)を被説明変数として、労働者構成比でTFPを説明するという形での分析するものの二つがあると整理している。本コラムは、1の手法を採用した。
  56. 56試算の詳細は付注1を参照。
  57. 57短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第8条では、「通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」とされており、雇用形態による不合理な待遇差が禁じられている(いわゆる「同一労働同一賃金」)。同条の規定は2020年から順次施行されており、今回の分析で使用した調査は、同条の施行前に行われたものであることに留意が必要である。
  58. 58例えば、厚生労働省「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によれば、「正社員と職務が同じであるパートタイム・有期雇用労働者がいる」企業の割合は全体の20%程度であり、多くの企業においては、パートタイム労働者とそれ以外の労働者では、職務内容が異なっていることがうかがえる。また、たとえパートタイム・有期雇用労働者の職務が正社員と同じであったとしても、正社員と同等以上の1時間当たりの基本賃金を支払っている企業は全体の約半数程度である。
  59. 59一方で、本コラムとは異なる手法により、経済産業省「企業活動調査」の2010~2015年のデータを用いて、パートタイム労働者の生産性と賃金の乖離について分析した森川(2017)では、「パートタイム労働者及び女性労働者の賃金水準は、生産性への貢献とおおむね釣り合っている」という結果を得ており、本コラムの結果のみをもって、パートタイム労働者の賃金は生産性に比べて相当程度低い水準に抑えられているという結果を主張することは適当ではない。
  60. 60総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)においては、労働者の分類が変更され、2012年、2016年との比較ができないため、ここでは扱っていない。
  61. 61厚生労働省(2023)においては、2015年以降において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の時給差が縮小している中で、同一労働同一賃金の施行により、時給差が10%程度縮小したものと推計している。
  62. 62都道府県別に1990年から2015年の25~54歳人口の変化率と、2013年度から2019年度のGDP成長率の相関係数を計算すると、0.26程度であり、それほど高い正の相関はみられない。
  63. 63さらに、第2-(1)-4図(1)でみたように、1990年代では、2010年代以降と比較して、第2次産業がGDP産業に占めるウェイトが比較的高かったことも、工業地域における有効求人倍率の高まりに寄与したものと考えられる。
  64. 64試算方法等は付注2を参照。なお、ここでいう労働力供給には、構造的・摩擦的失業も含むため、労働力供給が労働力需要を上回っていることが、必ずしも「人手不足でない」ことを意味しているものではない。構造的・摩擦的失業については、厚生労働省(2022a)を参照。
  65. 65ただし、2023年において生じている労働力需給ギャップは約9億時間であり、年間2,000時間就業する正規雇用労働者に換算すると約45万人程度である。これは、非労働力人口の1%弱であり、第Ⅱ部第2章で扱うように、女性や高齢者、外国人労働者の活躍を促進することで十分補える程度の水準となっている。
  66. 66なお、付2-(1)-10表により、労働力需給ギャップを労働力需要で除した「労働力不足率」でみても、2023年は「医療,福祉」の「輸送・機械運転従業者」で20%を超え、そのほかにも10%を超える産業・職業があるなど、深刻な状況がうかがえる。
  67. 67人手不足への対応は第Ⅱ部第2章で扱う。
  68. 68付2-(1)-11図から、男女別・資本金階級別の給与分布をみると、資本金規模によって形状が大きく異なることから、こうした賃金差の存在によって、中小企業から大企業への転職が増加している可能性も示唆される。
  69. 69マッチング効率性とは、いわば、求人と求職がどちらも1%増加した場合に、どれだけ就職が増加するかを示す指標であり、0から1の間の値をとる。求人と求職が1%増加したときに、就職が1%増加するのであれば、マッチング効率性は1であり、仮に就職が0.5%しか増加しないのであれば、マッチング効率性は0.5となる。このように、本白書では、求人や求職の増減だけでは説明できない就職件数の増減を、マッチング効率性と定義している。
  70. 70おおむね日本の労働市場を3,000程度に定義している。
  71. 71マッチング効率性の試算方法等については付注3を参照。
  72. 72なお、厚生労働省(2022a)のコラム1-2においても、2017年9月~2021年9月のデータを用いて、労働市場のミスマッチが高まっていることを指摘している。
  73. 73マッチング効率性については、都心では低い傾向があるという指摘があることから、必ずしも地域を区分せずに分布を示すのは適切ではない可能性がある(周 2008)。このため、付2-(1)-12図では、三大都市圏とそれ以外に分けて同様にマッチング効率性の分布を示している。これをみると、どちらにおいても、2012年度から2022年度にかけて大半の労働市場でマッチング効率性は低下している。
  74. 74民間職業紹介事業所における新規求職申込件数は、2021年度では、有料が19,469,696件、無料は266,537件である。また、常用求人数は、有料が9,255,207人、無料は1,039,772人である。
  75. 75付2-(1)-13図から、2013~2022年の入職者の入職経路をみると、企業規模にもよるが、有料職業紹介事業所を経て入職した割合は4~6%程度であり、10~20%程度を占めるハローワークよりも低い。
  76. 76ただし、マッチング効率性は、景気が良い時には、求職者は急いで仕事を探す必要がないため、結果として低下する等、労働者の所得や仕事の選好等の影響を受け得る指標である。このため、マッチング効率性の低下が、必ずしも労働市場におけるマッチング機能の低下を示しているものではないことに留意が必要。
  77. 77週休二日制については、「完全実施事業所」「隔週実施事業所」「その他の実施事業所」「無実施事業所」の4種類があるが、このうち、「完全実施事業所」を「完全週休二日」と定義している。
  78. 78厚生労働省(2023)においては、「賞与あり」や「完全週休二日」の求人は、ハローワークでの1か月以内の被紹介確率を15%程度、3か月以内では20~30%引き上げると分析しており、求職者にとって働きやすい求人は、確かに多くの求職者に選ばれやすい傾向がある。ただし、厚生労働省(2023)で分析しているのは「求人が紹介される確率」を高める条件であって「就職する確率」を高める条件ではない。したがって、求職者は、被紹介確率を高める「ボーナスあり」や「完全週休二日」等の条件を含む求人の中から、よりよい条件の企業を選んで応募している可能性がある点には留意が必要。
  79. 79求職者数の推移については第1-(2)-14図を参照。
  80. 80高齢者の就職率が低い背景には、人手不足の中でも、企業が高齢者の採用にあまり積極的ではないことが影響している可能性がある。民間の調査機関が実施した600社に対するインターネット調査によれば、企業のシニア採用への意欲は2016年から2023年において大きく変わらず、正社員とアルバイト・パートどちらについても、シニア採用に積極的ではない企業が7割弱を占めている((株)リクルート 2023)。
  81. 81各項目の2017年及び2023年の割合については付2-(1)-14図を参照。
  82. 82こうした雇用情勢や生産性と賃金上昇の関係については、厚生労働省(2023)においても指摘している。
  83. 83推計方法等については、付注3を参照。
  84. 84推計結果については、付2-(1)-15表を参照。
  85. 85推計結果については、付2-(1)-16表を参照。
  86. 86この背景には、同じ求職者が複数の有料職業紹介事業所に登録することで、求人数に対して求職者が多く計上され得ることが影響している可能性がある。
  87. 87ただし、係数の値は小さく、10%水準で有意である。最小二乗法による推計結果については、付2-(1)-17表(1)を参照。
  88. 88操作変数を用いた白書等による分析の例としては、例えば、内閣府(2019)による人手不足と多様性の関係の分析があげられる。なお、操作変数法の詳細については、例えば、加藤ほか(2023)が具体例等を豊富に用いて解説している。また、数式を用いて厳密に操作変数を解説しているものとしては、西山ほか(2019)を参照。
  89. 89人手不足の中で、長時間労働者割合が上昇すると、長時間労働によって人手不足が一時的に緩和し、欠員率が低下するというように、「週35時間以上就業労働者に占める週60時間以上労働者割合」と欠員率は相関すると考えられる一方で、賃金については、割増残業代の支給等により相関することはあり得るものの、週60時間以上の労働者割合は小さいため、マクロの賃金上昇率とはそれほど相関しないと考えられる。実際に相関係数をみると、「週35時間以上就業労働者に占める週60時間以上労働者割合の前年差」と「賃金上昇率」は-0.10である一方、「欠員率」だと-0.35である。
  90. 902段階最小二乗法を用いて推計している。
  91. 91操作変数法による推計結果については、付2-(1)-17表(2)を参照。