第2章 雇用情勢の動向

2023年の雇用情勢は、経済社会活動が活発化する中でも、求人が底堅く推移し、改善の動きがみられた。求人の回復基調に落ち着きがみられたものの、女性や高齢者を中心に労働参加が着実に進展していることに加え、より良い条件を求める転職も活発になっている。ただし、少子高齢化に起因する我が国の労働力供給制約や経済社会活動の回復等に伴う人手不足の問題も再び顕在化している。2023年の年平均をみると、有効求人倍率は前年差0.03ポイント上昇の1.31倍、完全失業率は前年と同水準の2.6%となった。
 本章では、経済社会活動の活発化や、人手不足の状況を含め、2023年の雇用情勢について概観する。

第1節 雇用情勢の概観

雇用情勢は、求人が底堅く推移する中で、改善の動き

雇用情勢の動向について概観する。
 第1-(2)-1図により、新規求人倍率、有効求人倍率、正社員の有効求人倍率及び完全失業率の推移をみると、リーマンショック後の2009年以降、新規求人倍率、有効求人倍率、正社員の有効求人倍率は長期的に上昇傾向、完全失業率は低下傾向が続いていた。2020年4月に感染症の拡大による影響により、雇用情勢は一時的に悪化したものの1、その後は、経済社会活動が徐々に活発化する中で、持ち直した。

 2023年においては、新規求人数は、前年から横ばいで、感染拡大前の2019年の水準まで回復していないものの、引き続き高水準で推移している。その結果、雇用情勢は、求人が底堅く推移する中で、改善の動きがみられた。引き続き、物価上昇等が雇用に与える影響に留意する必要がある。

就業率は約6割であるが、女性の非労働力人口のうち約160万人が就職を希望している

続いて、第1-(2)-2図により、我が国の労働力の概況をみていく。
 2023年の我が国の労働力をみると、就業者は約6,740万人であり、就業率は約6割となっている。就業者の内訳をみると、雇用者が約6,070万人と、就業者の大半を占めており、雇用者の中では、正規雇用労働者が約3,610万人と約6割、非正規雇用労働者が約2,120万人と約3割を占めている。
 完全失業者は約180万人であるが、求職活動をしていない非労働力人口には、「働く希望はあるが求職活動はしていない就業希望者」が約230万人含まれており、完全失業者数を上回る水準となっている。人手不足の中、働く意欲と能力がありながらも働いていない方の労働市場への参加にも目を向ける必要があるだろう。
 男女別にみると、就業率については、男性は約7割、女性は約5割となっており、女性においては非労働力人口が男性に比べて1,050万人ほど多い状況である。女性の非労働力人口をみると、働く希望はあるが求職活動はしていない就業希望者は完全失業者の2.2倍の約160万人となっており、女性においては、就業を希望している者のうち、多くが求職活動まで至っていないことが示唆される。

第2節 就業者・雇用者の動向

経済社会活動が活発化する中、労働参加は着実に進展

本節では、労働参加の状況や就業者・雇用者の動向についてみていく。
 第1-(2)-3図により労働力に関する主な指標の長期的な推移をみると、2012年以降、感染症の拡大の影響のある期間を除き、労働力人口、就業者数、雇用者数は増加しているが、自営業者・家族従業者数は、1980年代以降減少している。また、完全失業者数は、リーマンショック後の2009年以降、感染症の拡大の影響のある期間を除き、着実に減少した。
 2023年においても2021年以降に引き続き、就業者数及び雇用者数は増加傾向、完全失業者数、非労働力人口、休業者数は減少傾向にあり、経済社会活動が活発化する中、労働参加の着実な進展がみられた。特に、2023年の労働力人口と雇用者数は過去最高を記録した。一方で、完全失業者数は感染拡大前の2019年よりも依然として高い水準となっている。休業者数については、出産・育児等による休業の増加を背景に長期的に増加傾向にあり、2020年は感染症の拡大による経済社会活動の抑制・停滞等の影響により一時的に大きく増加したが、2021年以降は落ち着きがみられる。

労働力率は女性や高年齢層を中心に上昇傾向

第1-(2)-4図により、男女別・年齢階級別の労働力率2の推移をみると、女性は全ての年齢階級、男女計では55歳以上の高年齢層で上昇傾向となっており、女性や高年齢層を中心に労働参加が進んでいることが分かる。2020年には感染症の拡大の影響により、女性に労働力率の停滞の動きがみられたが、2021年以降再び上昇がみられている。

非正規雇用労働者は男女ともに長期的に増加傾向、正規雇用労働者も女性を中心に9年連続で増加

続いて、雇用者の動向について雇用形態別にみていく。
 第1-(2)-5図は、役員を除く雇用者数の推移を、雇用形態別にみたものである。非正規雇用労働者数は、景気変動の影響を受けやすく、2009年にはリーマンショック、2020年には感染症の拡大による景気後退の影響から減少がみられたが、女性や高年齢層を中心に労働参加が進む中で、長期的には増加傾向である。正規雇用労働者数については、女性を中心に2015年以降は増加傾向で推移している。
 2023年もこうした傾向は続いており、正規雇用労働者数は感染症の拡大前の2019年の水準を上回り、9年連続の増加となった。非正規雇用労働者数は、経済社会活動が活発化する中で、男女ともに増加した。

正規雇用労働者の割合は若年層と高年齢層を中心に幅広い年齢層で上昇傾向にあり、女性は「25~34歳」、男性は「60~64歳」で顕著。非正規雇用労働者の割合は、高年齢層を中心に上昇傾向

第1-(2)-6図により、年齢階級別・雇用形態別に人口に占める雇用者の割合の推移をみてみる。男女計でみると、正規雇用労働者の割合は、「25~34歳」の若年層や「55~59歳」「60~64歳」の高年齢層を中心に幅広い年齢層で上昇している。非正規雇用労働者の割合は、60歳以上の年齢層で上昇しているものの、「25~34歳」の若年層では低下している。
 男女別にみると、正規雇用労働者の割合は、男性では定年年齢の引上げなどに伴い「60~64歳」で顕著に上昇しており、非正規雇用労働者を逆転している。女性では育児休業制度など企業の両立支援制度の充実に伴う雇用の継続が進んだことなどにより、「25~34歳」「35~44歳」で顕著に上昇しており、「35~44歳」では、非正規雇用労働者と逆転している。非正規雇用労働者の割合は、男性では65歳以上、女性では60歳以上の年齢層において、上昇傾向で推移している。
 また、感染拡大の影響により、2020年は非正規雇用労働者の割合は、男性・女性ともに「15~24歳」「60~64歳」を中心に幅広い階級で低下したが、2022年以降、ほとんど全ての年齢階級で横ばい圏内となっている。

雇用者数は、「製造業」では増加に転じたほか、「宿泊業,飲食サービス業」では増加幅が拡大

第1-(2)-7図により、産業別の雇用者数の動向を前年同月差でみると、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」「卸売業,小売業」といった対人サービス業を中心に雇用者数は減少がみられたが、2021年4月には、雇用者総数は増加に転じた。「宿泊業,飲食サービス業」の雇用者数は2022年には増加に転じ、「医療,福祉」「情報通信業」では引き続き増加した。2023年は、前年を上回る雇用者数の増加がみられ、「製造業」では、半導体不足の解消による自動車生産の回復等に伴い、増加に転じたほか、「宿泊業,飲食サービス業」では、インバウンド需要やサービス消費の持ち直しにより、増加幅が拡大した。

非正規雇用労働者から正規雇用労働者への転換は改善の動き

ここまで、正規・非正規雇用労働者の動向をみてきたが、第1-(2)-8図により、非正規雇用から正規雇用への転換の状況についてみてみる。同図は、15~54歳で過去1年間に離職した者について「非正規雇用から正規雇用へ転換した者」の人数から「正規雇用から非正規雇用へ転換した者」の人数を差し引いた人数の動向をみたものである。「非正規雇用から正規雇用へ転換した者」と「正規雇用から非正規雇用へ転換した者」の差は、2022年は年平均ではマイナスとなったが、2023年の年平均はプラス5万人となり、改善の動きがみられた。

不本意非正規雇用労働者割合は引き続き低下傾向であり、2013年以来初めて1割を下回る

不本意非正規雇用労働者の動向を確認する。第1-(2)-9図は、不本意非正規雇用労働者の人数とその数が非正規雇用労働者に占める割合(以下「不本意非正規雇用労働者割合」という。)の推移である。2013年以降、男女ともに不本意非正規雇用労働者数も不本意非正規雇用労働者割合もその水準を下げており、男女計では、2023年第Ⅱ四半期(4-6月期)には初めて1割を下回り、また、2023年第Ⅲ四半期(7-9月期)には調査開始以来最少の水準となった。男女別にみると、2023年第Ⅳ四半期(10-12月期)には男性14.5%(前年同期差2.3%ポイント減)、女性6.9%(前年同期差0.8%ポイント減)となった。

個人や家庭の都合により非正規雇用を選択する労働者が増加傾向

非正規雇用労働者として働いている理由は何があるだろうか。第1-(2)-10図は、非正規雇用を選択した理由別の労働者数の動向をみたものである。不本意非正規雇用労働者(「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答)は一貫して減少する一方で、「自分の都合のよい時間に働きたいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」等の個人や家庭の都合による理由が増加傾向である。感染症の拡大により、2020~2021年には「家事・育児・介護等と両立しやすいから」は女性を中心に大幅に減少したが、2022年以降は増加に転じている。また、男女ともに、「通勤時間が短いから」が増加している。個人や家庭の生活との両立のため、時間の都合をつけながら働く非正規雇用労働者の現状がうかがえる。

障害者の雇用者数・実雇用率は過去最高を更新

第1-(2)-11図により、障害者の雇用状況についてみてみる。近年、障害者雇用は、ノーマライゼーションが進む中で、大きく進展しており、2023年の雇用義務のある民間企業3の雇用障害者数は、前年比4.6%増の64.2万人と、20年連続で過去最高となった。加えて、実雇用率は、前年差0.08%ポイント上昇の2.33%と12年連続で過去最高となり、初めて実雇用率が雇用状況報告時点の法定雇用率4を上回った。
 障害種別でみると、身体障害者は前年比0.7%増の36.0万人となったが、この数年は伸びが鈍化している。知的障害者は同3.6%増の15.2万人、精神障害者は同18.7%増の13.0万人となっており、10年前と比較すると、知的障害者は2倍弱、精神障害者は約6倍とその伸びが近年大きくなっている。
 このように、雇用障害者数は着実に増加しているが、近年、障害者が能力を発揮して活躍することよりも、雇用率の達成に向け障害者雇用の数の確保を優先するような動きがあることも指摘されている5。雇用者の数だけではなく、障害者が生き生きと個々の能力を発揮し、その雇用の安定につながるよう、障害者本人、事業主、就労支援や生活支援に携わる関係機関が協力して、障害者雇用の質を向上させることが求められるだろう。

障害者の法定雇用率の達成割合は、従業員数「1,000人以上」の企業で7割弱、1,000人未満の企業で4~5割程度

企業の障害者雇用の状況についてもみてみよう。第1-(2)-12図により、障害者の法定雇用率の達成状況についてみると、長期的には上昇傾向にあるが、2023年6月1日時点で、2022年から1.8%ポイント上昇の50.1%となっている。
 企業規模別に達成状況をみると、2002年に達成割合が最も低かった「1,000人以上」の企業は大きく上昇しており、2023年は全ての企業規模で上昇がみられ、特に従業員数「1,000人以上」の企業では約7割近くにまで達している。一方、1,000人未満の企業ではいずれも4~5割程度となっており、長期的には緩やかに上昇している。2000年代半ばまで他の企業規模と比較して高い水準だった100人未満の企業は、ほぼ横ばいで推移している。
 達成割合は法定雇用率の改正によって変化することがある。過去に改定された年では、全ての企業規模で達成企業割合の低下がみられた。2021年3月に法定雇用率が2.3%に引き上げられていたが、2022年、2023年は上昇している。法定雇用率は、2024年4月からは2.5%に引き上げられ、2026年7月からは2.7%とする改定が予定されており、こうした制度改正が影響する可能性もある。
 また、障害者雇用ゼロ企業(法定雇用率未達成企業のうち障害者を一人も雇用していない企業)については、障害のある労働者への配慮や企業のニーズは個々に異なるため、企業ごとのニーズに沿った支援計画やジョブコーチ6などの定着支援など、個々の企業や障害者に寄り添ったきめ細かな支援が重要となるだろう。

外国人労働者数は過去最高を更新

最後に、第1-(2)-13図により、外国人労働者の状況についてみる。2023年10月末時点の外国人労働者数は約205万人となり、初めて200万人を超え、2007年に外国人雇用状況の届出が義務化されて以降、11年連続で過去最高を更新した。感染症の拡大による入国制限等の影響から、2020年以降は伸びが鈍化したが、2023年は前年比12.4%増で2019年の13.6%増に近づいた。
 在留資格別にみると「身分に基づく在留資格」が最も多い状況が続いており、次いで「専門的・技術的分野の在留資格」7「技能実習」が多い。近年、2019年4月以降の「特定技能」8の受入れなどにより、「専門的・技術的分野の在留資格」が大きく増加しており、直近4年間で約24万人増加している。
 国籍別にみると、ここ数年、中国は減少傾向がみられる一方、フィリピンやベトナム等が増加している。特に、ベトナムは「特定技能」の創設等により、直近4年間で約7万人増加しており、4年連続で最多となっている。
 外国人労働者の在留資格については、2023年11月に出入国在留管理庁の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書において、「国際的にも理解が得られ、我が国が外国人材に選ばれる国になるよう、①外国人の人権保護、②外国人のキャリアアップ、③安全安心・共生社会といった視点に重点を置いて見直しを行うこと」とされている。具体的には、「①技能実習制度を人材確保と人材育成を目的とする新たな制度とするなど、実態に即した見直しとすること、②技能・知識を段階的に向上させその結果を客観的に確認できる仕組みを設けることでキャリアパスを明確化し、新たな制度から特定技能制度への円滑な移行を図ること、③人権保護の観点から、一定要件の下で本人意向の転籍を認めるとともに、監理団体等の要件厳格化や関係機関の役割の明確化等の措置を講じること」等とされている。最終報告書を受けて関係閣僚会議で決定された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府の対応について」等を踏まえ、2024年3月15日に、技能実習制度にかわり育成就労制度を創設することなどを盛り込んだ法案が提出され、同年6月14日に成立した。本法改正では、技能実習の在留資格を廃止し、「育成就労産業分野」(特定産業分野のうち就労を通じて修得させることが相当なもの)に属する技能を要する業務に従事すること等を内容とする「育成就労」の在留資格を創設するほか、育成就労計画の認定制度を設けてキャリアアップを図るとともに、転籍に係る制限を緩和するなどしている。労働者としての権利を適切に保護することで、我が国が「選ばれる国」となることを目指すものである。
 我が国の外国人労働者は、10年前と比較して約2.8倍と、約130万人の増加がみられ、日本に定着している外国人材も多く、身近な存在となりつつある。国籍にかかわりなく、全ての人が安定した生活を送れるような賃金や労働条件等が確保できるようにするとともに、安心して働き続けられるような職場や地域社会づくりが更に重要となるだろう。

第3節 求人・求職の動向

求人が底堅く推移する中で、求職は微減であったことから、新規求人倍率及び有効求人倍率は僅かに上昇

経済社会活動が活発化する中、労働市場はどのようになっているだろうか。本節では、求人と求職の動向について概観する。
 第1-(2)-14図により、労働力需給の状況を示す指標である新規求人数、新規求職申込件数、新規求人倍率、有効求人数、有効求職者数及び有効求人倍率の動向について概観する。
 まず、労働力需要の状況を示す新規求人数、有効求人数については、2009年以降長期的に増加傾向にあったが、感染症の拡大による景気後退の影響から、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月を中心に急激かつ大幅に減少した。2020年7月以降は経済社会活動が徐々に活発化し、長期的に続く人手不足の状況も背景に、新規求人数に緩やかな回復が続き、有効求人数にも持ち直しの動きが続いた。2023年においては、新規求人数は、前年から横ばいと、感染拡大前の水準まで回復していないものの、引き続き高水準で推移している。雇用情勢は、求人が底堅く推移する中で、改善の動きがみられた。その結果、2023年平均では、新規求人数は前年比0.1%増、有効求人数は同0.9%増となった。
 次に、労働力供給の状況を示す新規求職申込件数、有効求職者数については、2009年以降長期的には減少傾向で推移している。感染症が拡大した2020年以降については、新規求職申込件数は横ばい、有効求職者数は2020年後半に大幅に増加した後、横ばいとなっている。2023年平均では、新規求職申込件数は前年比0.9%減、有効求職者数は同1.3%減となった。
 さらに、求職者一人に対する求人数を表す求人倍率の状況をみると、2023年の新規求人倍率は年平均で前年差0.03ポイント上昇の2.29倍、有効求人倍率は年平均で同0.03ポイント上昇の1.31倍となった。

正社員、パートタイム労働者ともに求人は底堅い動き、新規求職申込件数は、正社員では減少傾向、 パートタイム労働者ではおおむね横ばいで推移

次に、第1-(2)-15図により、雇用形態別に求人・求職の動向をみていく。
 求人数をみると、正社員、パートタイム労働者ともに、2009年以降増加傾向で推移していたが、感染拡大による景気後退の影響から、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月に新規求人数が大きく減少し、有効求人数も減少した。その後、新規求人数、有効求人数は持ち直しの動きが続いており、2023年においては、大きく増加はしないものの底堅さがみられる。
 求職者数については、2009年以降長期的に減少傾向で推移していた。正社員では、新規求職申込件数は、最初の緊急事態宣言の解除後の2020年6~7月、有効求職者数は同年後半を中心に増加したが、その後は、いずれもやや減少傾向で推移している。パートタイム労働者では、新規求職申込件数、有効求職者数ともに、2020年4月に大幅に減少した。新規求職申込件数は2020年6~7月にかけて増加、有効求職者数は2020年6~12月まで増加し続けた後、いずれもおおむね横ばいで推移している。
 2023年は、年平均で正社員の新規求職申込件数は前年比1.2%減、有効求職者数は同2.1%減となり、パートタイム労働者の新規求職申込件数は横ばい、有効求職者数は同0.1%減となった。2023年平均を感染拡大前の2019年と比較すると、正社員の新規求職申込件数は下回ったものの、正社員の有効求職者数、パートタイム労働者の新規求職申込件数、有効求職者数は上回っている。その結果、2023年平均の正社員の新規求人倍率は、前年差0.04ポイント上昇の1.72倍、有効求人倍率は同0.03ポイント上昇の1.02倍、パートタイム労働者の新規求人倍率は、同0.03ポイント上昇の2.45倍、有効求人倍率は同0.03ポイント上昇の1.31倍となった。

新規求人数は、一般労働者では減少、パートタイム労働者では増加

次に、求人の動向について、産業別・雇用形態別にみていく。
 第1-(2)-16図は、産業別・雇用形態別に新規求人数の前年差の推移をみたものであるが、パートタイム労働者を除く一般労働者9(以下この章において「一般労働者」という。)、パートタイム労働者ともに2020年は、感染症の拡大により、全ての産業において新規求人数が減少した。雇用形態別でみると、一般労働者の新規求人数は、「サービス業(他に分類されないもの)」「製造業」「卸売業,小売業」「医療,福祉」等で、パートタイム労働者の新規求人数は、「卸売業,小売業」「宿泊業,飲食サービス業」「医療,福祉」「サービス業(他に分類されないもの)」等で大幅な減少がみられた。2021年は、一般労働者、パートタイム労働者ともにおおむね全ての産業で増加となったが、「宿泊業,飲食サービス業」「卸売業,小売業」等では、2年連続で減少となった。2022年は、経済社会活動の活発化により一般労働者、パートタイム労働者ともに新規求人数は全ての産業で増加した。
 2023年においては、一般労働者では「建設業」「製造業」を中心に減少がみられた一方、パートタイム労働者では「宿泊業,飲食サービス業」「医療,福祉」「サービス業(他に分類されないもの)」を中心に増加がみられ、両者の動きに違いがあった。

人手不足感は、感染拡大前よりも強まっており、特に「宿泊・飲食サービス」や中小企業において顕著

第1-(2)-17図により、産業別及び企業規模別に雇用の過不足の状況をみていく。同図(1)により産業別の雇用人員判断D.I.の推移をみると、感染拡大の影響により2020年前半は全ての産業で弱まり、特に「宿泊・飲食サービス」「製造業」ではマイナスからプラスに転じた。その後は、「宿泊・飲食サービス」以外の産業でおおむね一貫して人手不足感が強まった。2021年12月に「宿泊・飲食サービス」が「不足」超に転じて以降、全ての産業が0を下回って推移し、その後、感染拡大前の水準よりも低くなり、より一層人手不足感が強まった。2023年においては特に、「宿泊・飲食サービス」において顕著である。また、同図(2)により企業規模別にみると、中小企業の人手不足感がより強い傾向がみられる。

正社員等では不足感が強い傾向が長期的に続く

次に、事業所における雇用形態別人手不足の状況をみてみよう。第1-(2)-18図(1)は、事業所に調査した労働者過不足判断D.I.の推移を雇用形態別にみたものであるが、長期的に正社員等ではパートタイムと比べて比較的不足感が強い。また、同図の(2)により、2023年8月1日時点の主な産業における事業所の過去1年間の労働者不足への対応の実施状況をみると、全体として、「正社員等採用・正社員以外から正社員への登用の増加」を行った事業所の割合が「臨時、パートタイムの増加」を行った事業所の割合を上回っている。特に、「建設業」「製造業」「情報通信業」で高い水準となっており、依然として正社員登用にある程度積極的な姿勢を保っていることがうかがえる。

求人の充足率は正社員においては低下傾向。非製造業では、正社員、パートタイム労働者ともに低い水準で推移

さらに、第1-(2)-19図により、製造業・非製造業別の新規求人数及び充足率10の動向をみていく。新規求人数については、感染症の拡大の影響により2020年前半に大幅に減少したが、同年後半以降、正社員、パートタイム労働者ともに製造業、非製造業のいずれも増加傾向となった。2023年においては、製造業、非製造業ともに、正社員、パートタイム労働者の新規求人数は、横ばいではあるものの、高水準で推移している。
 2023年の充足率について、製造業では、正社員は低下傾向にある一方、パートタイム労働者において前年から上昇がみられた。非製造業では、正社員、パートタイム労働者ともに約1~2割と低い水準になっており、特に正社員の充足率は低下傾向で推移している。企業が求人を出しても人員が確保できていない状況がみられ、特に、非製造業の正社員においてその傾向が顕著であることがうかがえる。

民間職業紹介事業における常用求人数及び新規求職申込件数は人手不足を背景に増加傾向。就職件数は2021年度以降伸びがみられるも、5年前と比較して微増

民間職業紹介事業の動向はどのようになっているのだろうか。第1-(2)-20図(1)をみると、常用求人数及び新規求職申込件数は、ここ数年、増加傾向となっており、特に、2022年度の新規求職申込件数は前年度から大きく増加するなど活発な動きがみられる。一方、常用就職件数については、2021年度以降は伸びているものの、2018年度と比較すると微増となっている11。同図(2)により、2022年度の職業別の常用求人数と新規求職申込件数をみると、「介護サービスの職業」「情報処理・通信技術者」等で、新規求職申込件数を常用求人数が大きく上回っており、人手不足がみられた。一方で、「一般事務の職業」において求職者数が求人数を大きく上回っており、「営業の職業」等においても、程度の差はあるものの、同様であることが分かる。同図(3)(4)により、常用求人数の上位10職種について、新規求職申込件数、常用求人数の伸びの推移をみると、ほぼ全ての職業で2018年度の水準を上回っており、特に「建築・土木・測量技術者」「保育士」で、求人・求職ともに伸びが大きくなっている。

転職者数は2022年以降増加傾向、「より良い条件の仕事を探すため」の寄与が大きい

これまでにみた労働力需給の動向も踏まえ、労働移動の状況について、転職者(過去1年以内に離職経験のある就業者)の動向をみていく。第1-(2)-21図(1)により、転職者数の推移をみると、リーマンショック期の2009~2010年にかけて大幅に落ち込んだ後、2011年以降増加を続け、2019年は過去最高の353万人となった。感染症の影響で2020年、2021年と減少が続き、290万人まで減少したが、2022年に増加に転じ、2023年は2年連続増加の328万人となった。
 転職者数の変動の背景をみるため、同図(2)で前職の離職理由別の転職者数の推移(前年差)をみると、「より良い条件の仕事を探すため」は、雇用情勢が改善している時期に増加している。他方、「会社倒産・事業所閉鎖のため」「人員整理・勧奨退職のため」「事業不振や先行き不安のため」は、リーマンショックの影響を受けた2009年のように、雇用情勢が厳しい時期に増加する傾向がある。2023年においては、前年に引き続き「より良い条件の仕事を探すため」で増加がみられ、前向きな転職が転職者数の増加に大きく寄与している。

2024年3月卒の新規学卒者の就職率は、人手不足による売り手市場を背景に高水準を維持

第1-(2)-22図により、卒業区分別に新規学卒者の就職率及び就職内定率の推移をみる。新規学卒者の就職率及び就職内定率は、リーマンショック後から、人手不足や景気拡大等を背景にしておおむね上昇傾向が続いていたが、感染症の拡大の影響により、一時的に低下した。その後、経済社会活動が正常化する中で、就職率及び就職内定率に持ち直しがみられている。
 2024年3月卒の就職率は、いずれの学校区分においても97%以上の高水準を維持し、特に大学と専修学校(専門課程)では、調査を開始した1996年度以降の最高値となった。これは、採用活動に積極的な企業が増加し、学生・生徒が就職しやすい売り手市場が続いていることによるものと考えられる12。加えて、2024年3月卒の就職内定率について、高校卒と大学卒では全ての期間で前年よりも上昇しており、企業の人手不足等を背景に、10月時点で就職希望者の4分の3程度が内定を取得していることが分かる13。他方で、専修学校(専門課程)卒は12月及び2月時点で上昇、短大卒は全ての期間で低下したものの4月時点の就職率は高水準を維持した。

第4節 失業等の動向

完全失業率は、経済社会活動が活発化する中で、改善の動きがみられたものの、総じて横ばい

最後に、失業等の動向についてみていく。
 第1-(2)-23図は、完全失業率の推移を男女別・年齢階級別にみたものであるが、「15~24歳」「25~34歳」といった若年層で高く、「65歳以上」の高年齢層で低い傾向がある。2018年までは男女ともにおおむね低下傾向にあり、「15~24歳」で特に大きく低下していたが、2020年の感染症の拡大の影響により、男女ともに全ての年齢階級で上昇がみられた。2021~2022年は、感染症の拡大の影響が依然として残る中で、男女計と男性は全ての年齢階級で低下、女性は「35~44歳」と「65歳以上」の年齢階級で横ばいとなったほかは全ての年齢階級において低下した。
 2023年の男女計においては、感染拡大前の2019年の水準よりは高いものの、総じて前年と横ばいであった。男女別にみると前年まで横ばいだった女性の「35~44歳」「55~64歳」「65歳以上」を中心に失業率の低下がみられたが、男性の「55~64歳」「65歳以上」では失業率の上昇がみられた。

完全失業者は「非自発的理由」では減少、「自発的理由」では増加

続いて、第1-(2)-24図により、求職理由別・年齢階級別の完全失業者数の推移をみると、2013~2019年にかけて、「非自発的理由」「自発的理由」「新たに求職」の完全失業者数のいずれも減少傾向で推移していた。2020年、2021年には「非自発的理由」を中心に全ての理由で増加した後、2022年には全ての理由で減少に転じた。2023年においては、「非自発的理由」では減少、「自発的理由」では増加がみられた。
 「非自発的理由」「自発的理由」による完全失業者数を年齢階級別にみると、2019年まではいずれの理由についても、全ての年齢階級でおおむね減少傾向で推移してきた。2020年には感染拡大による経済社会活動の停滞から、「非自発的理由」による完全失業者数は全ての年齢階級において大幅に増加し、2021年も45歳以上の年齢層を中心に引き続き増加したが、「自発的理由」の完全失業者数は2020年以降もおおむねどの年齢階級でも横ばいであった。2022年は、「非自発的理由」及び「自発的理由」の完全失業者は、いずれもおおむね全ての年齢階級で減少している。2023年においては、「非自発的理由」の完全失業者は「35~44歳」「45~54歳」で減少がみられ、「自発的理由」では「25~34歳」「35~44歳」等で増加がみられた。

「1年未満失業者」は増加、「長期失業者」は減少

最後に、第1-(2)-25図により、失業期間別の完全失業者数の推移をみると、失業期間が「1年以上」の完全失業者(以下「長期失業者」という。)、失業期間が「1年未満」の完全失業者(以下「1年未満失業者」という。)は、ともに2019年まで幅広い年齢階級で減少傾向が続いたが、2020年の感染症の拡大による景気後退の影響から1年未満失業者が全ての年齢階級で増加した。2021年は、感染症の拡大の影響が長引く中で、失業が長期化する傾向がみられ、長期失業者数は全ての年齢階級で増加した。2022年は、雇用情勢の持ち直しにより、1年未満失業者は感染拡大前の2019年とおおむね同水準まで回復し14、長期失業者も3年ぶりに減少した。
 2023年においては、長期失業者は、「35~44歳」を除く全ての年齢階級で減少しているが、1年未満失業者は、「25~34歳」の若者層では、より良い条件の仕事を探す等の理由で増加しているほか、「65歳以上」でも増加がみられた。

コラム1–1 障害者雇用の推進に向けて

障害者の雇用は、近年、大きく増加している。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(多様性と公平性と包摂性)が求められる中、障害のある労働者に活躍の場を確保することは、企業の多様性を確保するためにも重要である。本コラムでは、障害のある人の「働く場」について、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)に基づく福祉的就労等も含めた雇用・就労の全体像を明らかにした上で、障害者雇用の推進に向けた課題と今後の対応について示すこととしたい。
 まず、障害者の全体像について確認しよう。我が国における障害者手帳制度による障害種類については、大きく身体障害、知的障害、精神障害15の三つに分けられ、足下ではそれぞれ約416万人、約114万人、約586万人となっている16。在宅の障害者について、コラム1-1-①図により、それぞれ年齢階級別にみると、身体障害者では高齢者の割合が全体の約7割を占める等、大半を占めており、かつその数は近年大きく増加している。また、知的障害者や精神障害者についても、比較的若い層において多いものの、高齢者の数は特に2010年代以降において増加している17
 雇用障害者数については、第1-(2)-11 図で示したとおり、全体として増加しているものの、職場定着やキャリア形成の観点から、障害特性や年齢に応じた配慮も重要である。求職中の50歳以上の障害者等に対して実施した調査18によれば、前職で継続して働くために必要な配慮について、「職場の環境を整えてほしい」や「仕事の内容を軽易なものにしたい」19等が多かった。また、コラム1-1-②図によると、身体障害者については、55歳以上の高年齢層が他の障害や常用労働者全体よりも高い割合となっており、特に65歳以上の高齢者が高い割合となっている。一方、知的障害者や精神障害者については、比較的若い層で、雇用者数の割合が高くなっている。特に知的障害者では、35歳以上の雇用障害者の割合が低下しており、常用労働者を下回っている。知的障害者の体力の低下や健康に関する問題は、個人差はあるものの、比較的早期に生じる場合が多いこと20などを考えると、障害者の雇用を継続していくためには、こうした加齢に伴って生じる心身の変化に対する職場の配慮が重要である可能性も示唆される。ただし、加齢による変化やそれに伴って必要となる配慮は個々人によって異なると考えられる。このため、個々の障害者の能力や特性などについて丁寧に把握するとともに、仕事内容や必要となる配慮などを本人と相談しながら随時アップデートしていくことが重要であろう。厚生労働省では、加齢に伴って生じる心身の変化により職場への適応が困難となった障害者の継続雇用のため、職場環境の整備や配慮等の取組を実施した企業に対して助成を行うなど、個々の障害者の状況に応じて事業者が実施する取組に対して支援を行っている21。また、障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センター、ハローワークでは、事業主の課題に応じて様々な相談支援を実施している。
 次に、障害者が雇用・就労に至る経路について概観してみよう。ここでは、コラム1-1-③図により、障害者の雇用・就労の経路のうち、特別支援学校、大学等の高等教育、就労系障害福祉サービス、ハローワークについて取り上げる22
 まず、特別支援学校23の高等部の卒業生についてみると、毎年約2万人が卒業し、そのうち約3割程度が一般企業へ就職し、約6割が障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスへと移行している。就労系障害福祉サービスには、一般就労へ向けて就職活動のサポートを受けながら、必要なスキルを身につける就労移行支援事業所や「福祉的就労」といわれる就労継続支援A型事業所や就労継続支援B型事業所がある24コラム1-1-④図により、これらの事業所から一般就労へ移行する利用者をみると、2022年には過去最高の約2.4万人となり、およそ15年間で約10倍程度増加するなど、事業所や利用者の増加も背景に大幅に増加しており、内訳をみると、就労移行支援事業所から一般就労へ移行した者が最も多い。ただし、この5年間においては引き続き、就労への移行は主に就労移行支援事業を経る場合が多いものの、就労継続支援A型事業所及び就労継続支援B型事業所からの就職については、ほぼ横ばい圏内となっている25
 就労に向けた経路は、特別支援学校からだけではない。高等教育を受ける障害者についても確認してみよう。コラム1-1-⑤図により、高等教育における障害のある学生数をみると、2022年度には5万人弱と、近年大きく増加している。特に、精神障害や発達障害のある学生が増加している。ただし、付1-(2)-2図によると、高等教育機関を卒業した障害者の就職率は8割程度と、学生全体の9割強と比べると低い水準となっており、特に発達障害者や精神障害者で低い。発達障害のある学生26においては、発達障害の診断の有無、障害の自己理解の状態、働くことの理解や職業準備性の状態、就労に必要な生活スキルや対人スキルの状態等、個別性が高く極めて多様とされている27
 こうした傾向を踏まえ、ハローワーク等では、障害のある学生に向けた就職相談を行うにあたっては、精神保健福祉士や臨床心理士等の有資格者で障害者の相談に係る実務経験者等を障害学生等雇用サポーター等として配置し、大学、企業、医療機関、就労移行支援事業所等とも連携したチーム支援を行っている。また、障害に理解がある求人を開拓しつつ、就職後の定着と職場適応を視野に入れた効果的な就労支援にも取り組んでいる。今後も、関係機関と連携した取組の強化や、こうした事例を横展開していくことも重要となっていくだろう28
 コラム1-1-⑥図により、ハローワークを経由して就職した障害者についてみると、近年、就職件数は年間10万件前後で推移している。新規求職申込件数は横ばいである一方、有効求職者数が増加していることに加え、就職率が横ばいで推移している。障害種類別に、新規求職申込件数、就職件数、就職率をみてみると、特に身体障害者では、足下では持ち直しているものの、新規求職申込件数、就職件数は減少傾向となっていることに加え、就職率は、精神障害者や知的障害者に比べ低い水準となっている。
 障害者の就職率が低い一因には、企業が障害者を雇用するイメージができていないことが考えられる。コラム1-1-⑦図(1)(2)により、障害者雇用未達成企業29の割合を企業規模別にみると、小規模企業ほど、未達成企業の割合が比較的高くなる傾向にあり、障害者雇用ゼロ企業(法定雇用率未達成企業のうち障害者を1人も雇用していない企業)については、その多くが中小企業となっている。同図(3)により、障害者を雇用しない理由をみると、「当該障害者に適した業務がないから」「施設・設備が対応していないから」という理由が障害の種類を問わず多い。障害者雇用の趣旨や重要性等を引き続き企業に理解いただくだけでなく、個々の障害者の強みや能力を評価した上で、適切な業務に配置していくことや、個々の企業の状況で工夫しながら、障害の有無にかかわらず、働きやすい施設や機器の整備等を行っていくことも重要となる。
 厚生労働省としても、好事例集として、業種や障害ごとに検索ができるリファレンスサービスや、中小企業における障害者の職場定着に向けたケースブックの紹介に加え、施設の整備等を行った際の助成金等で対応している。障害者雇用ゼロ企業に対しては、ハローワークが中心となって、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等と連携し、企業ごとのニーズに合わせて、求人ニーズに適合した求職者の開拓等の準備段階から採用後の定着支援まで一貫して支援している。ジョブコーチ(職場適応援助者)による定着支援のほか、障害者の一般就労後における職場への定着支援については、2018年の障害者総合支援法の改正により、「就労定着支援事業」が設けられている。
 障害者を雇用している企業では、精神障害者への労働時間・休憩時間の配慮や、知的障害者への分かりやすいマニュアルの作成などそれぞれの障害の特性に応じたきめ細やかな支援を行っている企業も多い。また、バリアフリーの職場は、障害者だけでなく、誰にとっても働きやすい環境であろう。こうした配慮は、様々な制約を抱えながら働く、女性、高齢者、外国人、育児や介護を行う労働者などに共通するものも多い。我が国は、今後も多様な労働者が働くことになる。障害者の就労に向けた配慮は、こうした様々な労働者の労働参加や社会の発展に向けて重要となっていくものであろう。

注釈

  1. 1雇用情勢悪化に伴い、政府は様々な雇用対策を講じた。雇用維持・継続に向けた支援である雇用調整助成金は、2020年4月より、リーマンショック期以上の特例措置がとられ、助成額の日額上限や助成率の大幅な引上げが行われた。加えて、従来、雇用調整助成金の助成対象は雇用保険被保険者のみであったところ、雇用保険被保険者以外の労働者(週労働時間20時間未満の労働者など)について助成対象とする緊急雇用安定助成金が設けられた。詳細は厚生労働省(2021)参照。
  2. 2労働力人口が15歳以上人口に占める割合。
  3. 3雇用義務のある民間企業については、法定雇用率の変更に伴い変動が生じるが、2023年においては43.5人以上規模を対象としている。
  4. 42023年の法定雇用率は、2.3%。
  5. 5労働政策審議会障害者雇用分科会意見書(2022年労働政策審議会)より。
  6. 6職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障害者の職場適応に課題がある場合に、職場にジョブコーチが出向いて、障害特性を踏まえた専門的な支援を行い、障害者の職場適応を図ることを目的としている。
  7. 7「専門的・技術的分野の在留資格」には、「教授」「芸術」「宗教」「報道」「高度専門職1号・2号」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「介護」「興行」「技能」「特定技能1号・2号」が含まれる。特に、「特定技能1号・2号」の増加が顕著で、2020年以降、急激な上昇がみられる。このうち半数近くはベトナムからの労働者である(詳細は第Ⅱ部第2章第1節(第2-(2)-17図)参照)。
  8. 8人材の確保が困難な一部の産業分野等における人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を労働者として受け入れるために創設した在留資格。対象分野は16分野(介護、建設、農業、漁業、飲食料品製造業など)となっている(2023年12月末時点で特定技能在留外国人数は約20万人)。
  9. 9常用及び臨時・季節を合わせた労働者をいう。常用労働者は雇用契約において雇用期間の定めがないか又は4か月以上の雇用期間が定められている労働者(季節労働を除く。)をいう。また、臨時労働者は、雇用契約において1か月以上4か月未満の雇用契約期間が定められている労働者をいい、季節労働者とは、季節的な労働力需要に対し、又は季節的な余暇を利用して一定の期間(4か月未満、4か月以上の別を問わない。)を定めて就労する労働者をいう。
  10. 10求人数に対する充足された求人の割合をいい、「就職件数」を「新規求人数」で除したもの。
  11. 11民間職業紹介事業も、ハローワークもともに、マッチング効率が下がっている。詳細な分析については、コラム2-5参照。
  12. 12なお、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より、0~14歳人口の推計をみると、2023年は約1,500万人であるが、2040年には約1,150万人まで減少する見通しであり、少子化の影響による労働力供給の制約が続くことが想定される。
  13. 13詳細に内定時期を確認するために、株式会社リクルート 就職みらい研究所「就職プロセス調査」や株式会社マイナビ キャリアリサーチLab「マイナビ2024年卒大学生活動実態調査(10月中旬)」等をみると、2024年卒の6月頃には内定率が約80%と、2022年卒までの70%前後から上昇しており、これまでに比べ、早期に内定を出す企業が増加していることがうかがえる。
  14. 14長期失業者及び1年未満失業者の労働力人口に占める割合は付1-(2)-1図を参照。
  15. 15障害者雇用促進法や精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)においては、発達障害者は精神障害者に含まれているため、本コラムにおいても、区別して集計していない。なお、厚生労働省「患者調査」によると、診断やカウンセリング等を受けるために医療機関を受診した発達障害者の数は、2017年では23.3万人、2020年では58.7万となっている。
  16. 16ただし、それぞれのデータを取得している統計が異なるため、身体障害者及び知的障害者については主として2022年、精神障害者については2020年の値。
  17. 17第1-(2)-12図でもみたように、近年、障害者雇用では、知的障害者や精神障害者の就労が大きく増加しているものの、これまで障害者の雇用者数をけん引してきた身体障害者における雇用者数は依然として最も多い。
  18. 18厚生労働省「ハローワークにおける50歳以上の求職中の障害者に対するアンケート(平成30年2月実施)」参照。
  19. 19ハローワークにおける50歳以上の求職中の障害者に対し、年齢を重ねることで、前職で継続して働くために、「勤務時間を減らしたい」「仕事の内容を軽易なものにしたい」「ノルマを減らしたい」「職場の環境が整っていない」「自分の能力やスキルが活かせない」の5項目についてそれぞれ必要と考えたかという質問をし、それぞれの項目ごとに、「大いにある」から「全くない」までの5段階で回答を集計したもの。「職場の環境が整っていない」「仕事の内容を軽易なものにしたい」において、「大いにある」「ある」がそれぞれ約50%、約45%となっている。
  20. 20日詰ほか(2022)では、知的・発達障害者は身体機能の低下が早く、急速に進む傾向があることを指摘している。また、高瀬・永野(2021)では、障害者を雇用する744社へのアンケート調査やヒアリング調査から、7割以上の企業に45歳以上の中高年齢障害者の雇用を確認している。加齢に伴う体力の低下や体調の変化、生活環境の変化等が課題となり、障害者が希望により、長く安定的に働き続けることができるよう、職場においては、職務内容の見直しや作業工程の工夫、配置転換、就業時間の柔軟化等の雇用管理面での改善を図る必要がある旨を指摘している。
  21. 21(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センターでは、高瀬・永野(2021)を元に、障害のある高齢の労働者への配慮について、企業の好事例を紹介している。
  22. 22障害者の雇用者数には、就労後に疾病やけがなどで障害のある労働者や障害者総合支援法に基づくサービスを経由せずに就職する労働者等も含まれていることには留意が必要。
  23. 23なお、特別支援学校に在籍する児童生徒数において、知的障害のある幼児児童生徒が増加しており、2022年度において約15万人となっている。このほか、小中学校の特別支援学級の児童生徒数は約35万人と、この10年間で増加しており、特別支援学校への編入も可能である。また、小中学校及び高等学校等において、通級指導を受ける児童生徒は2020年度において約16万人となっている。特別支援学校とは異なり、いずれも半数近くを自閉症・情緒障害等の発達障害のある児童生徒が占めている。
  24. 24「福祉的就労」には、雇用契約に基づく就労を行う「就労継続支援A型事業所」、通常の事業所に雇用され得ることが困難である者が就労を行う「就労継続支援B型事業所」があり、「就労継続支援A型事業所」においては、最低賃金が保障される。
  25. 25利用者の増加に伴い、必ずしも一般就労を目指す利用者だけではないことや、就労系障害福祉サービスの利用を希望する障害者の就労能力や適性を客観的に評価し、本人の就労に関する選択や具体的な支援内容に活用する手法等が確立されていないため、障害者の就労能力や一般就労の可能性について、障害者本人や障害者を支援する者が十分に把握できておらず、適切なサービス等につなげられていない場合があるのではないかという指摘があった。このため、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第104号)により、就労アセスメント(就労系サービスの利用意向がある障害者との協同による、就労ニーズの把握や能力・適性の客観的評価及び就労開始後の配慮事項等の整理)の手法を活用した、「就労選択支援」を障害者総合支援法のサービスとして創設し、ハローワークはこの支援を受けた者に対して、そのアセスメント結果を参考に職業指導等を実施することとしている。福祉・雇用の両面からの支援により、本人と協同して整理した内容や地域の企業等の情報を基に、関係機関と連携することにより、本人にとって、より適切な進路を選択することが可能となり、就労ニーズや能力等の変化に応じた選択が可能となることが期待される。
  26. 26文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」(2022年)によると、発達障害等による「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた高校生の割合は2.2%とされる。「学習面で著しい困難を示す」とは、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を指し、一方、「行動面で著しい困難を示す」とは、「不注意」「多動性-衝動性」、あるいは「対人関係やこだわり等」について一つか複数で問題を著しく示す場合を指す。
  27. 27知名・井口(2023)によると、様々な状態の発達障害のある学生の大学等での就職支援について、支援の早期開始に向けての学内の連携体制を課題としてあげるとともに、大学等と就労支援機関との連携拡大、就職後の職場適応を視野に入れた効果的な支援が必要としている。
  28. 28(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構においては、知名・井口(2023)をもとに、「発達障害のある学生の就労支援に向けて-大学等と就労支援機関との連携による支援の取組事例集-」を作成して周知している。
  29. 29障害者雇用においては法定雇用率が定められており、この法定雇用率を達成していない企業を障害者雇用未達成企業という。