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第1章 一般経済の動向
2023年の我が国の経済をみると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の位置づけが5類感染症に移行し、経済社会活動が正常化する中で、年前半は外需や個人消費等の好調さがみられたことから高い成長が実現した。一方、年後半は一時、個人消費や設備投資等に弱さがみられたものの、その後、設備投資等に持ち直しがみられ、年間を通して、GDPは緩やかな回復となった。
本章は、GDPや企業の業況判断、倒産状況等についての各種経済指標を通じて、2023年の一般経済の動向を概観する。
第1節 一般経済の動向
GDPは緩やかな回復がみられた
2023年のGDPについてみると、年前半は外需が好調だったことに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下「感染症」という。)の5類感染症移行1により、経済社会活動の正常化が進み、インバウンド需要の回復やサービス消費の持ち直しがみられたことで高い成長が実現した。一方、年後半は、賃金上昇が物価上昇に追い付いていない中、消費が力強さを欠くなど、マイナス成長となった。
第1-(1)-1図により、2023年の名目・実質GDPの推移をみると、名目GDPについて、2022年第Ⅳ四半期(10-12月期)は570兆円程度であったものが、2023年第Ⅱ四半期(4-6月期)には595兆円まで増加しており、半年間で30兆円近く増加した。また、同期間において、実質GDPも550兆円から560兆円超まで増加している2。ただし、2023年後半においては、名目・実質ともに、GDPはほぼ横ばいとなっている。
第1-(1)-2図により、実質GDPの成長率について、需要項目別の寄与度をみていく。2023年の動きを四半期ごとにみると、第Ⅰ四半期(1-3月期)は、半導体市況の軟化等を背景として、アジア向けを中心に輸出が弱含み、外需(純輸出)がマイナスに寄与したものの、経済社会活動が活発化する中で、機械投資等の設備投資の押し上げ等により民間総資本形成がプラスに寄与し、サービス消費の持ち直し等により民間最終消費支出がプラス寄与となったことから、プラス成長となった。第Ⅱ四半期(4-6月期)は、物価上昇の影響により、民間最終消費支出がマイナス寄与となったが、外需がプラスに寄与したことで、結果としてGDPはプラス成長となった。第Ⅲ四半期(7-9月期)は、輸出が伸び悩む中、引き続き民間最終消費支出がマイナスに寄与し、マイナス成長となった。第Ⅳ四半期(10-12月期)も民間最終消費支出は、マイナスに寄与したものの、外需がプラスになったことに加え、半導体や自動車関連で、生産能力強化のための工場新設等の投資が実行され始めたことから民間総資本形成がプラスに寄与し、2四半期ぶりのプラス成長となった。
第2節 企業の動向
企業の業況は、製造業・非製造業ともに好調な状況がうかがえた
次に、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、企業の業況判断D.I.3をみていく。第1-(1)-3図(1)により、製造業・非製造業別にみると、「製造業」「非製造業」ともに、2020年に急速に悪化したのち、2021~2022年にかけて持ち直しが続いた。「製造業」については、2022年末に半導体不足や原材料価格の高騰等により景況感が悪化したものの、2023年半ば以降は改善し、0を上回って推移した。「非製造業」においては、2022年の景況感の改善が2023年も続いており、プラス幅が拡大した。
2023年の動きをより詳細にみると、「製造業」では、3月調査において、米国の金融引き締めにより世界経済が減速する中で需要が落ち込み、一般機械と電気機械を中心に景況感は悪化した。6月調査以降は、食料品製造業等における価格転嫁の進展や半導体不足の解消による自動車生産の回復が全体を押し上げたことなどにより、景況感に改善がみられ、12月調査ではプラスに転じた。他方で、「非製造業」については、経済社会活動の活発化に伴うサービス消費やインバウンド需要の回復の影響で、2022年に引き続きプラス幅が拡大し、感染拡大前の水準を超える高い伸びとなった。
同図(2)により、企業規模別の業況判断D.I.の推移をみる。製造業のうち、「大企業製造業」は年間を通じて0を上回って推移した。「中小企業製造業」は、2019年6月調査以降0を下回って推移していたものの、2023年12月調査時には改善し、19四半期ぶりにプラスとなった。非製造業についてみると、「大企業非製造業」は経済社会活動の活発化等により改善が続いた。「中小企業非製造業」は、2023年9月調査時の業況感が6四半期連続で改善し、感染拡大前で最も高かった2019年3月調査と同じ水準まで回復した。
次に、第1-(1)-4図により、鉱工業生産指数及び第3次産業活動指数の推移をみていく。鉱工業生産指数についてみると、2023年1月は、外需の悪化等の原因により一時的に生産指数は低下したものの、年間を通しては横ばいで推移した。
同図により、サービス部門の活動動向を示す第3次産業活動指数の動きをみていく。2023年は感染症の影響が緩和され、企業間の取引活動が活発化したことなどを受け、持ち直しの動きがあったものの、10月以降は電気・ガス・熱供給・水道業を中心に指数が低下したことで、足踏みがみられた。
経常利益は半導体不足の解消等により好調。設備投資は高水準で推移した
第1-(1)-5図により製造業・非製造業別に企業の経常利益の推移をみていく。2023年は、製造業では、企業規模の大きい自動車工業において、半導体不足の解消に伴う挽回生産が進んだことが収益の増大をけん引した一方、外需の縮小により資本財需要が低迷したことで収益は「全規模」において横ばいで推移した。非製造業は人流の回復や企業活動の活発化等を受けサービス消費が増加したことで収益が増大し、「全規模」において増加傾向で推移し、第Ⅳ四半期(10-12月期)において過去最高額となった。
資本金規模別にみると、製造業では、資本金「10億円以上」の企業で、2022年に引き続き、感染拡大前の水準を上回って推移した。資本金「1億円以上10億円未満」及び「1千万円以上1億円未満」の企業では、いずれも横ばいの動きであった。非製造業の資本金「10億円以上」の企業では、前年に引き続き感染拡大前の水準を上回って増加傾向で推移し、資本金「1億円以上10億円未満」及び「1千万円以上1億円未満」の企業も増加傾向で推移した。
次に、企業の設備投資の変化をみていく。第1-(1)-6図(1)により設備投資額の推移をみると、「製造業」「非製造業」ともに、2019~2020年にかけての減少傾向からの回復が前年に続いてみられた。2023年は経済社会活動の活発化がみられたことから、「製造業」の設備投資は、年間を通して増加傾向で推移した。特に第Ⅳ四半期(10-12月期)においては、半導体や自動車関連で生産能力強化のための工場新設等の投資が実行され始めたこともあり、大幅な増加となった。「非製造業」は、第Ⅱ四半期(4-6月期)に減少がみられたものの、第Ⅲ四半期(7-9月期)、第Ⅳ四半期(10-12月期)においては、サービス消費の回復等により、大幅な増加となった。
同図(2)によると、設備に関する過不足判断を示す生産・営業用設備判断D.I.は、「全産業」においては、「不足」超で推移している。「製造業」では、僅かに「過剰」超で推移しているものの、「非製造業」では、「不足」超となっており、今後も設備投資が続いていく可能性が期待される。
同図(3)により2023年度の設備投資計画をみると、6月以降は2022年度を下回って推移しているが、12月時点で15.2%と高水準を保っており、依然として企業の設備投資に対する意欲の強さがみられる。
企業の倒産件数は2019年以来4年ぶりに8,000件台となった
第1-(1)-7図(1)により企業倒産の状況をみると、2023年の倒産件数は、2年連続で前年を上回り、2019年以来4年ぶりに8,000件台となった。感染拡大時の急激な業績悪化への支援策であった「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」の民間返済が2023年7月から本格化したことで、資金繰りが厳しくなった企業の増加や、原材料価格の高騰等が追い打ちをかけたことなどが要因であると考えられる。
同図(2)により、人手不足関連倒産の状況をみると、2023年は人手不足関連倒産が倒産件数全体に占める割合は低下したものの、人手不足関連倒産の件数は調査開始以降最多となった。内訳をみると、「後継者難型」の件数が7割以上と最も多く、次いで「人件費高騰型」「求人難型」「従業員退職型」と続いた。
倒産要因の中でも特に「人件費高騰」による倒産件数は前年比8倍超となり、大幅な増加となった。また、前年よりも大きく増加している「求人難型」については、賃上げの局面の中で、求職者が賃金水準などにおいて、より良い労働条件を求めるようになり、企業の提示する賃金水準等とのミスマッチがあった可能性も示唆される。企業存続に向けても、賃上げ分の原資の確保のため、企業の商品・サービスへの価格転嫁が更に重要度を増すものと考えられる。
第3節 物価・消費の動向
消費者物価指数(総合)は高い上昇率を維持した
第1-(1)-8図により、消費者物価指数(総合)(以下「消費者物価指数」という。)の推移を財・サービス分類別寄与度とともにみていく。消費者物価指数は、2021年9月に前年同月比プラスとなって以降、2023年1月まで上昇率は拡大していき、2月以降は前年同月比2~3%台で推移した。
財・サービス分類別寄与度をみると、電気・ガス価格激変緩和対策等4により、2023年2月以降、「電気・都市ガス・水道」はマイナスに寄与した。一方で、経済社会活動が正常化する中で、2022年から続く円安進行による原材料高の影響を受けた「外食」や、訪日外国人客の回復による「宿泊料」の高騰も相まって、「一般サービス」はプラス寄与となった。また、2023年の財については2022年に引き続き、原材料価格の高騰によって「食料工業製品」「他の工業製品」等を中心にプラス寄与となった結果、消費者物価指数は高い上昇率を維持した。
輸入物価指数は落ち着きがみられたが、国内企業物価指数は依然として高い水準
第1-(1)-9図により、企業物価指数をみていく。輸入物価指数は、2021年から上昇傾向であったところ、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻や円安の進行などにより、更なる上昇がみられた。2022年末以降も、高水準ではあるものの、エネルギーの輸入価格の下落に伴い、2023年は、ピーク時よりも低い水準で横ばい圏内での推移となった。国内企業物価指数は、2021年~2022年半ばにかけては、円安の進行によるエネルギー価格の高騰等を背景に上昇が続いた。2022年後半以降の国内企業物価指数は、電気・ガス価格激変緩和対策等がある中でも、輸入物価指数が国内価格に波及したことで、高い水準を維持した。
消費者態度指数は持ち直しに足踏みがみられたが、改善に向けた動き
第1-(1)-10図により、消費者態度指数の動向をみていく。消費者態度指数は、2020年前半の感染症の拡大によって急速に低下したものの、その後は上昇傾向で推移した。2021年末には物価高を背景に再び低下に転じ、2022年は低下傾向で推移した。その後、2022年末から2023年前半にかけては経済正常化の本格化への期待もあって、上昇傾向で推移した。2023年半ばには、食品の値上げラッシュなどの物価上昇が続く中で、一時的に持ち直しに足踏みがみられたものの、年間を通してみると、改善の動きがみられた。ただし、2023年12月の水準は感染拡大前の2019年以前の水準まで回復していない。
消費者意識指標についてみると、2023年には「暮らし向き」「雇用環境」「収入の増え方」「耐久消費財の買い時判断」の全ての項目で改善に向けた動きがみられた。
2023年は、総雇用者所得は減少傾向となる中、総消費動向指数は横ばいで推移
第1-(1)-11図により、各世帯全体の消費支出総額を示す総消費動向指数(実質)と総雇用者所得(実質)の推移をみる。総消費動向指数は、2021年以降は、経済社会活動の活発化がみられる中で、緩やかな回復がみられた。2022年後半以降は、サービス消費に持ち直しがみられたが、食品や衣服等の財消費5の減少などから、横ばい圏内で推移した。総雇用者所得は、感染拡大の影響から2020年初めに急速に減少した後、2021年前半にかけて回復傾向で推移したものの、2021年後半以降は物価上昇の影響により減少傾向となった。
2023年の平均消費性向は「55~64歳」を除く全年齢階級で上昇した
第1-(1)-12図により、世帯主の年齢階級別一人当たり平均消費性向(消費支出/可処分所得)の推移をみていく。「年齢計」では2021年から上昇傾向で推移し、2022~2023年にかけて、僅かに上昇している。年齢階級別では、2023年は2022年と比較して「55~64歳」を除く全ての年齢階級で上昇している。2012~2022年にかけて低下を続けていた「34歳以下」6においても上昇となった。
注釈
- 1感染症法では、感染力や感染した場合の重篤性などから判断した危険性の程度に応じ、感染症をそれぞれ1類感染症から5類感染症に分類しており、分類ごとに感染症のまん延防止のために行政がとることのできる措置等が定められている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年2月からは「指定感染症」、その後法改正を経て「新型インフルエンザ等感染症」として扱われていたが、2023年5月8日から「5類感染症」に位置づけられた。
- 2ただし、輸入物価の下落に加え、内需デフレーターがプラスで推移したことにより、GDPデフレーターの高い伸びが続き、2015年基準のGDPにおいて、名目と実質に乖離がみられるようになった。GDPデフレーターについては、付1-(1)-1図参照。
- 3ここでいう、業況とは、「回答企業の収益を中心とした、業況についての全般的な判断」をいい、選択肢として「良い」「さほど良くない」「悪い」がある。業況判断D.I.は、「良い」選択肢の回答社数構成比から「悪い」の回答社数構成比を差し引いて算出しており、例えば、業況判断D.I.が0を超えていれば、企業の収益等の業況が「良い」と感じている企業の方が「悪い」と感じている企業よりも多いことを示している。
- 4エネルギー価格の高騰により厳しい状況にある家庭や企業の負担を軽減するため、電気・都市ガスの小売事業者等を通じ、2023年1月の使用分から12月の使用分まで、使用量に応じた料金の値引きを行った。なお、2023年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」に基づき、2024年4月の使用分まで措置を講じ、5月の使用分については激変緩和の幅を縮小することとなった。
- 5「非耐久財」(食品等)においては、物価上昇による食品の買い控えや外出機会の増加による内食需要の縮小等の影響で、減少がみられた。「半耐久財」(衣服等)においては、2023年第Ⅱ四半期(4-6月期)に一時的に増加したが、その後、暖冬の影響による冬物衣料品の需要減少等に伴い減少がみられた。(付1-(1)-2図)
- 6「34歳以下」の平均消費性向の低下については、共働き世帯の増加等により、「世帯主の配偶者の収入」が増加する一方、核家族の進行等により世帯人員が減少し、消費に回す割合が相対的に低くなったことによるものと考えられる。(付1-(1)-3図)