IDESコラムvol.77 「令和6年能登半島地震での被災地⽀援経験」

感染症エクスプレス@厚労省 2024年4月27日

IDES養成プログラム9期生:坂田 大三

 令和6年1⽉1⽇に能登半島地震が発⽣しました。まず、能登半島地震により被害を受けられた皆さまに、⼼よりお⾒舞い申し上げます。
 こんにちは、感染症危機管理専⾨家(IDES)養成プログラム9期⽣の坂⽥ ⼤三(さかた たいぞう)と申します。今回は、災害に関連する感染症についてお話しさせて頂きます。
 災害時には、問題となる感染症が時間経過と共に変化します(下図参照)。まず、急性期には外傷に関連する感染症が問題になります。令和6年能登半島地震では、私は、発災翌⽇に⺠間医療チームの⼀員として被災地に⼊り、避難所での診療や患者搬送等の現場活動に従事しました。避難所では、倒壊家屋からの避難中にガラスを踏んだ、避難所⽣活中に傷が化膿したなどの相談が多くありました。創部の洗浄⽔が限られているため、感染予防を⽬的として、あえて傷を縫うことをせず開放創とする判断が必要となることがあり、平時の外傷初期診療とは異なる点です。また、破傷⾵患者の増加が想定されるため注意が必要です。2004 年のスマトラ島沖地震・津波災害では、インドネシアAceh県にて災害に関連した破傷⾵が106 例(死亡率18.9%)、2013 年の東⽇本⼤震災では10 例の報告(死亡例なし)がありました。
 
 急性期(72 時間~1 週間)から亜急性期(~1 か⽉)にかけては、呼吸器感染症、やや遅れて消化器感染症が徐々に増えてきます。能登半島北部では、インフラが壊滅的であった地域も多く、発災直後の時期には、避難所では限られたスペースに集まって雑⿂寝されている避難者も多くいました。暖房器具、燃料、⽣活⽤⽔が不⾜し、断⽔の影響とトイレ使⽤時のルール等の取り決めが追い付かず衛⽣状態が悪化していました。また、⼿洗いのための⽯鹸やアルコール、マスクなどの衛⽣物資も不⾜していました。感染症対策として重要な、1)感染源の排除、2)感染経路の遮断、3)宿主の抵抗⼒向上、がどれも難しい環境でした。このような状況下で感染症対策を進めるためには、感染症の診断、治療のみならず、衛⽣⾯の改善、そして効率的な避難所運営を含めた⽣活環境の整備が行われなければいけません。そのために、どこで何の感染症が流⾏し、避難所では何が不⾜しているか等、現場の情報を本部側に共有し、有効な後⽅⽀援に繋げることも重要になります。
 
 私は、2⽉1 ⽇に厚⽣労働省に⼊省し、翌週に厚⽣労働省災害対策本部がある⽯川県庁へ派遣され、⽇本環境感染学会が主体となった災害時感染制御⽀援チーム(DICT)の活動に厚労省からのリエゾンとして携わりました。⽯川県庁では、避難所⽀援チームからのアセスメント情報が、情報⽀援システム(※1)を通じて集約され、感染症の専⾨家と連携した感染管理・対策(発⽣状況の分析、リスクの⾼い避難所への対策チーム派遣等)に活用されました。
※1:D24H: 災害時保健福祉医療福祉活動⽀援システム:災害における保健・医療・福祉に関する個別システムと情報連携し、保健・医療・福祉に関する情報の自動的な集約を行う。来年度より厚生労働省で本格運用することとなっていたが、発災直後より、避難所状況の把握のため機能の一部を解放し、石川県保健医療調整本部、保健、DMAT(災害時派遣医療チーム)等で災害対応に活用された。
 
 今回の災害では、災害における感染症対策において、新たな情報⽀援システムの活用、DICTやDHEAT(災害時健康危機管理⽀援チーム)の活動など、様々な取り組みが本格的に運⽤されました。また機会があれば、感染症対策に関連する対策本部の対応や、新たな情報システムの運用等についてご紹介できればと思います。
 
 まだまだ被災地では復興活動が進んでいます。能登半島地震により被災された方々の⼀⽇も早い平穏を願っております。
 
 
(参考資料)

<⽇本環境感染学会「⼤規模⾃然災害の被災地における感染制御マネージメントの⼿引き」より引⽤>
 
・⼀般社団法⼈ ⽇本環境感染学会 大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引き
http://www.kankyokansen.org/other/hisaiti_kansenseigyo.pdf
・Aceh Epidemiology Group. Outbreak of tetanus cases following the tsunami in Aceh Province, Indonesia. Glob Public Health 2006;1:173-7
・国立感染症研究所 感染症情報センター令和6年能登半島地震に関する感染症関連情報
http://https://www.niid.go.jp/niid/ja/disaster/12445-saigaikiji-2.html

 当コラムの⾒解は執筆者の個⼈的な意⾒であり、厚⽣労働省の⾒解を⽰すものではありません。
 
 

(編集:鍋島 清香)

  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。