IDESコラム vol. 70「“違い”から学ぶ」

感染症エクスプレス@厚労省 2023年3月10日

IDES養成プログラム7期生:七松 優

 感染症危機管理専門家養成プログラム2年目で、米国ワシントンD.C.にある米国保健福祉省(HHS; Department of Health and Human Services)戦略的準備・対応管理局(ASPR: Administration for Strategic Preparedness and Response)に派遣されております七松優です。

 出向先のASPR(“アスパー”と読みます。)は米国連邦政府機関であるHHSのうちの一部門であり、災害やその他の公衆衛生上の緊急事態における米国内の医療および公衆衛生の準備、対応、および復旧を州政府や病院、企業等と協調し主導することを主なミッションとしています。ASPRは昨年夏までHHS内の内局(Staff Office)の一部門でしたが、COVID-19における感染症パンデミック時における重要性と功績が再評価され、より高い運用能力を備え、より効率的かつ効果的に国家的な対応を実行することができるよう2022年7月にOperating Divisionとして格上げされました。それにより、NIH(National Institutes of Health)やCDC(Centers for Disease Control and Prevention)と同列となるHHS傘下の独立組織となっております。それに伴い名称も、事前準備・対応担当次官補局(Office of the Assistant Secretary for Preparedness and Response)から戦略的準備・対応管理局(Administration for Strategic Preparedness and Response)に変更されております(略称はASPRとして変更なし)。

 オフィスは米国の国会議事堂にあたるCapitol HillのあるワシントンD.C.の中心地に位置します。周りには政府機関・各省庁が立ち並んでおり、米国における霞が関に相当する場所ともいえるかと思います。HHS内もまだリモートワークが中心となっており、オフィスに出向いてもフロア内にどなたか一人いるかどうか、といった状況でかなりがらんとした印象を受けます。現在、私の所属部署はオフィスの移動をしているところであり、それに伴い、原則出勤のスタイルに戻していく、いわゆる“Back to Office”が始まるのではないか、と同僚からは聞いておりますが、合理的な米国の方々の働き方がどのように変わっていくか、今後もよく見ていきたいと思っております。

 米国は日本と比べると非常に大きな国であり、様々な点で比較がなかなか難しいと感じることが多いです。特に政府の仕組みとして、連邦政府とは別に、各州が州政府を運営しており、COVID-19はじめその他の対応についても州が強い自治権をもっているところなど大きな違いを感じます。そのうえで連邦政府組織としてHHSやCDCが国の指針を示し、方向性を素早く提示していくこと、またそれが“米国の方針”として世界中に影響力を及ぼしていることを間近でみることで米国の世界における立ち位置と存在感を強く感じます。

 話は変わりますが、先日、HHSがCOVID-19の自宅用抗原検査キットを国民に無料配布する、という案内を見かけました。ちょうど自宅に常備していたキットもなくなったところであり、せっかくなので申し込みをしてみました。私のように、米国人でなく、ビザでの滞在をしている一時的な居住者ももらえるのだろうか、ビザのコピーや個人番号などが必要なのだろうか、面倒な手続きなら別にもらわなくてもいいかな、などと考えていたのですが、ウェブサイトのページを進んでいくと、名前・住所・メールアドレス・電話番号等を入力するのみで1分もかからずに申し込みが終わってしまい、非常に簡便で驚きました。USPS(United States Postal Service:日本における郵便局にあたるもの)が自宅に届けてくれるということで、一週間程度で一世帯分である4回分のキットが届きました。

 こちらのキットはHHS内の戦略的国家備蓄(SNS:Strategic National Stockpile)で備蓄しているものとのことです。日本でも自治体において検査キットの配布や無料検査を行ってきましたが、そういった施策は公衆衛生上の利益も非常に大きく新型コロナ対策において重要なものであったと考えます。

 また、米国では、お知らせの方法も国民が自然に目につく方法でされており、私もFacebookかInstagramの広告で知ったように記憶しております。マーケティングの上手さについても、さすがはGoogleやAppleなど世界的大企業を有する米国であり、我々が学べることも多いのではないかと思いました。

 政府の仕組みだけでなく、歴史、文化、国民性において米国と日本は大きく異なる点が多い国ですが、長年の歴史の中でのパートナーとして今後もお互いの良いところを参考にしていくことはできるのではないかと思います。

参考文献:
ASPR https://aspr.hhs.gov/Pages/Home.aspx
Get free at-⁠home COVID-⁠19 tests this winter https://www.covid.gov/tests



(編集:松下 愛美) 

  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

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