IDESコラム vol. 65「IDESに応募した私達」

感染症エクスプレス@厚労省 2022年4月15日

IDES養成プログラム8期生:佐々木 秀悟 小川 憲人

感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラム8期生:佐々木 秀悟
 
 2022年4月よりIDESに参加いたしました、8期生の佐々木と申します。8期は2名体制でのスタートとなっており、現在も参加される方を募集しております。IDESにご興味のある方は是非応募をご検討ください。

 さて、私はまだIDESとしての業務を始めたばかりですので、今回はIDESの具体的な内容ではなく、自分がIDESに応募した経緯についてお話させていただこうと思います。知り合いの医師でIDESに参加された方もいらっしゃるので、以前からIDESの存在は知っておりました。ただ、以前はなんとなく面白そうだな~という程度の印象であり、後年自分がIDESに参加することになるとは、当時は思ってもみませんでした。

 ではなぜ私がIDES参加を志したかについて、その理由をいくつか挙げさせていただきます。まずは、感染症に関連した行政に関する興味です。臨床業務に従事しておりますと、医療に関する行政システムについて、正直に申しまして疑問を持つことがあります。臨床医として勤務されている皆様もそのような経験があるのではないでしょうか?「どうしてこのような(わかりにくい)システムなのだろう(>_<)?」とか、「現場のことをもっと考えてほしい!」などといった、どちらかというとネガティブなものです。内部の人間になった今だから言えますが、このように行政側に対して不平不満を述べることが、少なからずあったのは事実です。

 そこでふと、発想を転換させて考えたのは、それなら実際に行政サイドに入りこみ、中をのぞいてみてはどうか?ということです。折しも2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症の流行は、世界の状況を一変させました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの対策が出され、新型コロナウイルスの流行を押さえ込もうと皆が必死になっていました。しかし、当初は病原体について詳細が不明であり、エビデンスなどほとんどない状況での政策決定を行わざるを得ない状況だったでしょう。

 ではこのような状況の中で、どのようなプロセスで意思決定が行われていたのか?僕は非常に気になりました。また、現場の医療従事者も悪戦苦闘してはいましたが、一方で臨床とは異なる舞台でコロナと戦っていた方々はどうしていたのか?そんなことが知りたくなり、こちらにやってきました。ただし、自分くらいの年次の人間はお門違いなのではないか?という懸念も抱いてはおりました。というのも、IDESの募集要項を見ますと、「・・・日本国の医師免許を取得しており、卒後臨床研修を含め約3年以上の臨床又は公衆衛生の経験を有する者」とあるからです。

 つまり医師免許取得後3年以上経過している方で、条件を満たしていれば応募が可能だということです。しかし自分はこれまで長らく感染症および総合内科を専門として、主に臨床業務に携わっていたため、現在卒後15年目になります。応募するかどうか迷っている際、より若くエネルギッシュな人材を求めているのではないか?と気が引ける部分もあったと思います。しかし実際に参加してみると、それは杞憂でした。自分よりさらに上の年次でIDESに参加された方も実際にいらっしゃいましたし(ウェブサイトでは先輩方の履歴が詳細に書かれている訳ではありませんでしたので、前もってはわかりませんでした)、年齢は全く関係ありませんでした。もちろん、研修医の頃と比べて体力は落ちたなぁ、と感じることはよくあるのは事実ですが(当直明けがつらくなりました)、”A rolling stone gathers no moss”の気持ちで新規一転、頑張って行こうと思っています。

 新型コロナウイルス感染症対策が現在最も重要な施策の一つであることは事実ですが、もちろん感染症はコロナだけではありません。医師の皆さんだと感染症法で届け出が必要な疾患を医師国家試験の際に覚える(覚えさせられる)ことになるかもしれませんが、そもそもなぜ覚えなくてはいけないかと言えば、それらの感染症が我々の生活にとって重要だからです。ではどうしてこれらの疾患が大事だと考えられているのか?これらの届出の情報はどのように収集、管理されているのか?さらに、感染症関連の施設として国立感染症研究所とか検疫所とか、なんだかいろいろあるんだけれどいったい何をしているところなのだろう?IDESでトレーニングを受ければ、それらの扉を開けて中を垣間見ることができます。そして、その後の展望もさらに選択肢が広がるものと思っています(私はまだプログラムが始まったばかりですので、先輩方のIDES卒業後のキャリアを鑑みての感想ですが)。これから、様々なことをIDESで学んでいこうと思っています。一緒に学んでくださる方々をお待ちしております!

 
感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラム8期生:小川  憲人
 
 読まれている中のIDESを目指そうかと思っている方へ。
諸先輩方の素晴らしいコラムの中で役に立つかは分かりませんが、少し箸休めしていってください。2022年度第1回目ということで自己紹介を任されました。同期と一緒に書いていいそうです。次回からは経験と時事に絡む読みやすい楽しめるコラムを、とのことで、なかなかの要求ですね!
 
 閑話休題。
私が歩んできたのは公衆衛生学という医学系研究科で言うとなかなかに広い範囲の分野です。臨床医学は基本的に個人を対象としますが、公衆衛生学は集団を対象とします。よくある間違いは、公衆衛生学は予防医学のみを学んでいるという誤解ですが、システムや制度などの医療的供給の基盤となるものまで全部含んでおります。

 つまり、健康増進・生活習慣病予防だけでなく、地域保健、保健衛生の教育、医療統計、保健医療制度、社会保障制度の研究と改良、医療政策学、感染症対策、医療経済学、医療経営学・・・挙げるときりはないのです。その中でも自身が興味を引かれたのは、感染症対策や政策実践でした。採用者の多数派は、やはり感染症内科の先生方ですが、勿論採用は診療科が限定されていない多様性を抱えたプログラムです。諸先輩方を拝見すると色々な科、立場から採用されているようです。感染症科としての背景のない私自身の専門性の強みとしては、突如発生した問題に、集団で相対した時に、どのようなアプローチが適切だろうかと言う歴史を学んでいることがあったかと思います。

 つまり、社会学、人類学的に、その文化を説明できることです。個人を対象とした医学には、基礎医学と臨床医学が存在します。そして、目的は同じ、患者個人の健康や命の質の上昇ですが、相補的な関係にあり、どちらが欠けても成立しません。では、集団を対象とした場合、健康や命の質の上昇を目的とみると、基礎的、臨床的な役割を担当する人は誰なんでしょう。それぞれ、基礎的なのは公衆衛生学者でしょうが、臨床的なのは医系技官となるかもしれません。多くの先生は個人を対象とした感染症内科等の臨床的な医師として修練を積み、卓越した能力で医療的効果を提供している背景から、対象を集団とした対応に興味をもち、こちらに来られていると聞いています。私の場合は、集団をずっと対象にしていますが、基礎的背景である公衆衛生学で学んできたことを、臨床的に実際の集団に対して、生かすにはどのようにしたらいいのか、そのような実践科学的アプローチに興味があり、こちらを志しました。基礎医学と臨床医学の間では、基礎的な原理原則を重視する立場と、目の前の問題解決を重視する立場で、考え方やアプローチにも違いがあり、時には対立することがあることは、我々の知っている通りです。勿論、これは集団を対象とする場合も発生しうる話でしょう。

 その中で、私は、橋渡し役と言ったらおこがましいか、目的のためにお互いにやりやすいように調和できるよう、相互理解に貢献できるよう努力したいと考えている次第です。まだ働き始めて7日ほどですが、国のコロナ対策の中枢の忙しさがひしひしと伝わってきます。みんなの役に立てればいいなあ、素直な気持ちで結語としましょう。


(編集:松下 愛美) 
  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

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