IDESコラム vol. 61「スイス(ジュネーブ):文化の違いに見る新型コロナウイルス」

感染症エクスプレス@厚労省 2021年12月17日

IDES養成プログラム5期生:水島 遼

 現在スイスのジュネーブにあるWHO本部に派遣されていますIDES5期の水島です。早くもスイスに来て一年近くが経ち、春夏秋冬を見て、一応はスイスについて何となくわかった気もするので、今回はスイスをテーマにして書きたいと思います。

 スイスは想像以上に良いところで、食事では特にチーズやチョコレートは驚くくらい美味しいです。また、景色がとても素晴らしく、日本に無い景色に溢れています。ジュネーブで言えば、レマン湖はアルプスの麓にあるので、水がすごく澄んでいて、また日により綺麗なエメラルドに見えるときもあります。以前、四国の四万十川を訪れたことがあり、その際川の色がとてもエメラルド色なのですごく感動しましたが、その時見たものを上回るエメラルドの度合いには正直驚きました。また、夏は木々の色が絵画の様に鮮やかで、モネやゴッホ等のような昔の絵画に描かれている色鮮やかな風景は、少し誇張しているのではと思っていましたが、こちらに来て本当にただ見た風景を描いただけなのだと理解し驚きました。個人的には、原理はよくわかりませんが、光が違うのかなと感じるのですが、いずれにせよ景色はすごく綺麗です。こちらの人はどの町にも旧市街が残っているように古い建物を大切するのと同様、自然も大切にしていると感じます。日本に比べ自然にペットボトルがあまり落ちていないのにとても感心しますし、某アルプスの少女のイメージに違わず、基本的にスイスの人は自然を愛し大事にし、うまく調和している気がします。
 
 この様子を見ると、スイスがいわゆる永世中立国であり、何故戦争を嫌い、平和を愛するのかがなんとなくわかる気がします。日本も戦争放棄を掲げていますが、そういう面では日本人と気が合うのかなと感じますが(ただ、平和に対する考え方は日本と異なり、大国に挟まれた小国故、スイスには自衛のための軍隊も徴兵制もあるので、よく重そうなザックを背負った軍服姿の若い人を見かけます)、しかしながら、新型コロナウイルスに対する行動を見ると、日本との考えの違いを感じます。以下はあくまで私が個人的に感じたことなので参考程度にしていただければと思いますが、雑感を書かせていただきます(また私は東京出身なので、どうしても日本の基準が東京になってしまっているであろうことは断っておきます。また、スイスも基本的にジュネーブを基準にしています)。

 まず、スイスの人は日本より外出機会が多いような気がします。スイスは日本ほど家で出来る娯楽が充実していないというか、家に籠ることは不健康でネガティブなイメージを比較的持っているようで、娯楽は自然を使ったものが多く、夏はハイキング、冬はスキー等のように、外に出る機会が多く見えます。また、日本でもよく言われているように、こちらの人は自主性を重んじるというか、日本のようにコロナだから自粛というような考え方は希薄と思います。特に夏休みシーズンには、ワクチン接種証明があればシェンゲン協定(ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定)内の国間での移動が自由になっていましたし、現に周りは普通に国外のリゾート地にバカンスに行ってました。規制が無ければ、日本に比べ人の動きは激しいと思います。スイスは、日本の九州位の大きさに人口が約850万人なので、人口密度的にはあまり高くは無いこともあり、ソーシャルディスタンスやアルコール消毒については日本との差は大きな違いは感じませんでした。

 しかし、マスクの扱いについては違いを感じます。人と人とのつながりが大事なのはどの国でも同じですが、日本人とスイス人ではコミュニケーションのあり方に違いがあるので、その関係もありやはりマスクを忌避する状況はこちらでは散見します。特に印象に残っているものの一つは、道の向かいから来た初老の男女が、お互い知り合いだったようで、さっきまでしていたマスクを会った途端に外してハグ、マスク無しでの会話を始めたことです。正直、この行動を見て何のためのマスクなのかと思ったことがあります。

 また、レストランでは座っている人々のほとんどがマスク無しで対面で会話している光景を街のいたるところで目にした時も驚きました。こちらは顔を見せて話すのが礼儀というような感じで、基本的にマスクは日本ほど根本で受け入れられていないとよく感じます。これらを通して文化の違いが新型コロナウイルスの地域での流行状況の違いに影響を与えていることの一部を垣間見た気がします。実は、このコラムを書き始めたのは11月中旬で、それからまたヨーロッパの状況も大きく変わり、当初想定していたより今回扱う内容がセンシティブになってしまいましたので、これらはあくまで個人的な見方であるということにご留意いただければと思います。また、書いている内容はこちらに来てすぐに違和感として印象に残ったことを中心になっていますが(最近はこちらに慣れてきたのかその違和感は薄らいでいます)、状況は日々変わっています。私が日本から離れた1年近くの間に、日本での状況も変わってきたであろうことと同様、こちらの状況もなかなか一括りにすることは難しいです。

 例えば、最近のコロナの状況を考慮し、スイスでも先日マスクに対する規制が強まりました。また、私はスイスに関してはまだまだ初心者です。例えば、スイスでは地域によってフランス語、ドイツ語、イタリア語、ロマンシュ語を話す地域に分かれており、スイス人はお互いどうやって意思統一しているのか、例えばフランス語圏の人など、スイスの他の語圏の人より、フランス人との方が話が合ったりしないのかと思ってしまうように、私にとってスイスという国はまだまだ未知数なので、今回は気になっていたことをざっくり書かせていただいたという感じです。

 個人的には、このような時期に海外にいることで平時では無いストレスを感じる場面も多く日々残念に思うことも多いです。今後はこういうことも少しでも改善していってもらいたいですし、ヨーロッパを含め全世界の状況が落ち着くことを心より願っています。


エメラルド色に見えるレマン湖


光の色が違うのか木々が日本より黄緑に見える


(編集:松下 愛美)
 

  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラム

「感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラム」採用案内

本コラムの感想、ご質問、ご要望など
⇒「メルマガの内容に関するご意見」をクリックするとメール作成画面が立ち上がります。

コラム バックナンバー