IDESコラム vol. 59「あなたのおばあちゃんに説明できますか?」

感染症エクスプレス@厚労省 2020年3月20日

IDES養成プログラム3期生:神代 和明

 感染症危機管理プログラム(IDES)3期修了生の神代和明です。新型コロナウイルス感染症対策のため、厚生労働省本部に加っております。
 IDES修了生は、初期より様々な場面で国内外の本感染症の対応のお手伝いを行ってございます。
 
 クラスター……
 
 新型コロナウイルス感染予防をする際に大変重要なキーワードではございますが、何それ?と思われる方が多いのかなと拝察します。
 
 話は飛びますが、まず公衆衛生や疫学の世界では、小難しい概念や研究の結果を一般の方々にわかりやすく、適切に伝えることは大切です。公衆衛生や疫学調査で得られた結果というものは、国や自治体の施策に影響を与え、国民の皆様に影響を受けることがございます。したがって、発信する側も得られたデータや結果に意味を持たせ、効果的にそして的確に意思を持ってコミュニケーションをとる必要があります。
「それ、あなたのおばあちゃんに説明できますか?」基礎疫学の授業でよく言われた言葉です。
 実際のテストでは、
 "感度・特異度を計算し、あなたのおばあちゃんがわかるように結果の意義を説明して下さい"(専門家ではない方々への説明)
 "疫学の概念を、博士号を持ったあなたのおばあちゃんに説明しなさい"(専門家のコミュニケーション)
 おばあちゃんに限らず、おじいちゃんでもいいです。もちろん、お子さんでも、また専門分野のことを全く知らない友人に対してでもいいと思います。
 医者にとってみると、患者さんに対してわかりやすく説明すること。公衆衛生に関わる人にとってみると、いただいた情報を分析し施策に役立てるだけでなく、わかりやすい形で国民の皆様に還元していき、行動変容につながるようなメッセージを伝えることでしょうか。
 
 米国のオンライン医学教科書のUpToDateでは、患者さん向けの説明資料がありますが、わかりやすい言葉(plain language)を選んでいます。"Plain language"とは、今まで聞いたり見たりしたことがないことをわかりやすく伝えるコミュニケーション法です。
 言うは易し、行うは…とだとは思いますが、常にこう言ったことを意識しながら、コミュニケーションをとっていく努力は必要であると思っています。
 また、言語という意味以外に、拡大解釈して、わかりやすい「手法」ととらえることも可能だと思います。つまり、メッセージを伝えるために写真、絵、図や表などを使うことも有効です。
 
 さて、前置きが長くなりました。クラスターについてです。
 集団感染が起きた時は、感染者を把握し、感染者と濃厚に接触した人たちをフォロー・対策していくことで、さらなる感染拡大を予防するということが基本的な考え方です。
 国内感染の分析結果からはわかってきたのは、軽症・重症にかかわらず感染した方は、意外に他の人に感染させることは少ないようです。感染した10人の中、8人の方は他の人に感染させていません。
 一方で、一部の感染者がある条件下で多数の感染者(クラスター)を生み出していることもわかってきました。
 1)換気の悪い閉鎖空間で、2)多くの人が密集、3)近距離での会話を行うような条件ではクラスターがうみだされやすいようです。また、このように生み出されたクラスターが次のクラスターを生み、感染連鎖の急速な拡大が起こる可能性があります。
 したがって、クラスターを見つけ出し、感染の連鎖を止め、封じ込めを行う。これが最も需要です。
 
 さて、今回のコラムで当初の目標、自分のおばあちゃんに説明できておりますでしょうか……
 余談ではありますが、すでに亡くなった祖母は病理学で博士号をとっており、私のおばあちゃんに対してはわかるレベルでご説明はできているのではと思っています。
 最後になりますが、新型コロナウイルス 感染症対策では、国民の皆様は勿論、地方自治体、保健所、医療関係者、事業者の方々と一丸となった感染症対策を進めているところです。引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。
 
<参考資料>
Plain Language とは(米国政府サイト)https://plainlanguage.gov/about/definitions/
UpToDate
https://www.uptodate.com/home/patient-education
IDESコラム vol. 34「おまえの意思をもっとも明確に伝えることができる言葉を使え」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/column34.html
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
新型コロナウイルス 感染症対策の見解
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html
※コラムの定期的な掲載は今回にて終了いたします。今後は不定期に様々なコラムを掲載予定です。
IDESコラムをこれまでお読みいただきありがとうございました。
  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で4年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

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