IDESコラム vol. 58「招かれる客、招かれざる客」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年12月20日

IDES養成プログラム4期生:大塚 美耶子

 こんにちは。IDES4期生の大塚美耶子です。
 ジュネーブ付近の山々はすっかり雪化粧になりました。また、日がすっかり短くなり、朝は8時過ぎの日の出なので、朝出勤・通学するときはまだ電灯がついています。また夜も5時には日の入りで暗く寒い夜ですが、そんな状況も駅前などに行くと、綺麗なイルミネーションやホットワインと一緒に楽しめます。
 クリスマスマーケットも去年からジュネーブに設置されたそうで、いわゆるクリスマスシーズンらしい雰囲気を味わえます。翻って南大陸の方ではサンタクロースがサーフィンをして、クリスマスはバーベキューで祝うと聞いたことがありますが、それもとても楽しそうです。クリスマスを含め年末年始のお祝いは世界中多くの人がその喜びを共有する素敵な機会ですね。
 こんな大勢に喜ばれる冬のお祝いとは反対に、誰も歓迎しない麻しんの流行がここ過去1,2年、世界中、東西南北問わずいたるところで発生しています。日本は2015年3月に世界保健機関(WHO)の西太平洋事務局から麻しんの排除状態と認定されましたが、世界の流行にもれず麻しんの輸入症例の発生がまだ見られます。日本が所属しているWHOの西太平洋地域事務局はWPROといいますが、WPROの管轄している南の島々でも麻しんのアウトブレイクが起こっており、とても残念なことに麻疹の予防接種率の低い国々で、感染者のうちの多くは5歳以下の子供が麻しんの犠牲となって亡くなっています。
 最近麻しんの新しい知見が科学誌「Science」で発表されました。今までも麻しんに罹患すると免疫機能が低下して、他の感染症リスクが高まる可能性が示唆されていましたが、麻しんウイルスは罹患すると免疫状態がリセットされそれまで獲得してきた感染源に対する記憶を全て消し去ってしまうという恐ろしい感染症であることが再確認されたのです。そして、麻しんに対する特異的な治療法は存在しません。
このように麻しんは恐ろしい感染症ですが、予防接種により予防できる感染症なのです。現在日本では、麻しんの予防接種は法律に基づく定期接種に入っており、その接種率は平成30年度の時点で第1期98.5%、第2期95.6%と高いといえるでしょう。また麻しんに罹患しても医療機関で適切な処置が行われることで幸い大きな犠牲はでません。
 以前病院に勤めていた時にも出会いましたが、稀に日本でも定期接種を拒否される親御さんがいらっしゃいます。それでも麻しんなど予防接種により予防できる病気に罹患しにくいのは、日本の高い接種率(周囲の人が罹患しないので本人も感染症から隔離されている)による恩恵を受けているからです(喜ばしいことに、勤務先の病院のこちらの親御さんは最終的に予防接種をうけることに同意されました)。
ところが、予防接種率の低い国では、麻しんをはじめせっかく予防接種で予防できる感染症による流行が始まると、5歳以下の小児等身体的に脆弱な人々が命を落とす危険にさらされます。今、世界では麻しん対策は喫緊の課題ですが、他の疾患に関しても予防接種率の低い国々には予防接種率を高める対策の実施を、日本においては予防接種が個人のみならず社会のためという認識をもって個人個人が必要な予防接種を必ず受けてほしいと願います。
 素敵な冬の休暇をお過ごしください。
 
※コラムの定期的な掲載は今回にて終了いたします。今後は不定期に様々なコラムを掲載予定です。
IDESコラムをこれまでお読みいただきありがとうございました。
  • 当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
  • IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で4年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。

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