IDESコラム vol. 57「インフルエンザワクチンについて」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年12月6日

IDES養成プログラム4期生:飯田 康

 IDES4期生の飯田康です。今年の日本もインフルエンザウイルス感染症の流行シーズンに入ったとのことですが、私の派遣先の英国ロンドンでも、やはり北部でインフルエンザ様症状の方が増加傾向との情報が入ってきました(2019年11月23日現在)。
 さて、インフルエンザウイルス感染症の予防にはご存知の通りワクチンが挙げられますが、既に前任者の市村さんが本コラムVol. 28「”flu jab”を受けてきました」で大人が受けるワクチン接種について詳細に述べられておりますので、今回私は英国の子供のワクチン接種について報告したいと思います。
 まず、日本で子供のインフルエンザワクチンというと注射での接種を想起されるか思いますが、英国では2~11歳(インフルエンザシーズンの8月31日時点)の子供達には経鼻噴霧生ワクチンでの接種が一般的です。2~3歳の未就学児はGeneral Practitioner(英国の国民保健サービスのかかりつけの家庭医。以下GP)で接種を受け、4~11歳は通っているプライマリースクールで接種を受けることができます。両者とも費用は無料です。(2019年11月現在)。
 経鼻噴霧生ワクチンが適さない条件としては、ワクチンの構成成分に対してアレルギーがある場合、免疫機能が重度に弱っている状態、若しくは世帯内に隔離が必要な重度免疫機能低下者がいる場合、過去72時間以内にかけて喘鳴がある場合等があります。また、2歳以下の子供には経鼻噴霧生ワクチンは副作用のリスクのため推奨されておらず、生後6ヶ月から2歳までのハイリスクグループ(糖尿病、重篤な心疾患、神経、肝、腎の基礎疾患がある場合など)には代替として注射ワクチンの接種が検討されます。
 私は3歳の娘をGPに連れて行った際、接種を身近で見ることができました。まず、針のついていない注射容器が2本あり、それぞれ0.1mlずつワクチン成分が含まれています。右の鼻腔に0.1ml、左の鼻腔に0.1ml、それぞれ注射液を注入されます。娘は泣きわめくことなく、すぐに終わりました。経鼻噴霧生ワクチンは針が不要なだけでなく、迅速で、痛みが少ないという利点は、子供に優しいと感じました。
 最後に英国の感染症の近況報告になりますが、2011年にWHOヨーロッパ地域事務局により設立された、麻しんと風しんを撲滅するためのヨーロッパ地域の認定委員会(RVC)は2018年の加盟各国からの年間近況報告の評価に基づき、2019年8月末に英国の麻しん排除国という格付けを剥奪しました。麻しんに対する英国のサーベイランス情報、予防接種率、アウトブレイク対応、追加的ワクチンキャンペーンの達成など、様々な因子に基づいた結果とのことです。近年麻しんは日本も含め世界的に流行しており、決して他人事ではありません。
 麻しん、インフルエンザウイルス感染症など、ワクチンで予防可能な疾患に対しては、自分が感染しないためだけではなく、周りの人に感染を広げないためにも、私たちひとりひとりが予防接種について正しい情報を共有し、理解を深める必要があると思います。

<参考>
National Health Service: NHS England and NHS Improvement - London
http://www.england.nhs.uk/about/regional-area-terms
National Health Service: Children’s flu vaccine overview
www.nhs.uk/child-flu
WHO regional office for Europe: European Region loses ground in effort to eliminate measles
http://www.euro.who.int/en/media-centre/sections/press-releases/2019/european-region-loses-ground-in-effort-to-eliminate-measles
国立感染症研究所 麻疹
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles.html
●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で4年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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