IDESコラム vol. 54「横浜で1000円札著名人の偉業と歴史を体感」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年10月25日

IDES養成プログラム5期生:匹田 さやか

 7月から省に在籍してしばらくして、コンゴ民主共和国(DRC)で流行しているエボラ出血熱に対して緊急委員会が開催され、WHOよりPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)が宣言されました。2014年に西アフリカでエボラ出血熱が感染拡大した際にもPHEICが宣言され、IDES養成プログラム設立のルーツとなったと心得ております。
 8月から9月にかけてIDESを修了された3人の先生方が国際緊急援助隊・感染症対策チームの一員としてDRCに派遣されました。現役生の私たちも先輩方の活躍に刺激を受けながら、国内での対応に関わっております。
 エボラ出血熱は日本の法律で検疫感染症に指定されています。日本国内で発症した方は現在のところいませんが、国内で感染が拡大することのないよう、行政では感染しうる場所から入国する方を把握し、感染の可能性を推測、体調の報告をお願いして経過を追うなどの対応をしています。
 さらに、IDES養成プログラムでは検疫官として検疫の現場業務を研修します。感染症危機管理において、行政と現場対応の双方に関わることができるのがプログラムの醍醐味です。ひいては今まさにPHEICが宣言されているエボラ出血熱に対応する機会をいただき、存分に勉強しております。
 先日は横浜検疫所にて、エボラ出血熱・新型インフルエンザの発症が疑われる患者さんが客船内で発生し、検疫の過程で接触することを想定した訓練が行われました。横浜港に寄港する前の国・地域で検疫感染症が発生している、などの場合、臨船検疫といって、乗客が横浜港に降りる前に検疫官として客船に乗り込み、船医さんらに状況を確認します。今回の訓練は、先月臨船検疫を行った客船と協同で行なったため、検疫業務という壁を越えて船医さんともコミュニケーションを取ることができました。
 今年はG20、ラグビーW杯、即位の礼といったマスギャザリングが日本で開催されましたが、日本の検疫の歴史は開国の歴史、現代史と並行しています。1853年夏、ペリー率いる黒船が久里浜に訪れました。大統領親書を渡し、一度は日本を離れましたが、翌1954年1月に再来し、2週間後に横浜に上陸、3月3日に日米和親条約が調印されました。
 1858年に「不平等条約」とも呼ばれる日米修好通商条約が締結され、下田、函館に加えて横浜、長崎、新潟、神戸を開港しました。同年、長崎にコレラが侵入し全国に流行、江戸だけで10万人が死亡しました。全国で56万人の感染者を出した日本初の大流行である1822年の「文政コレラ」とともに、通称「安政コレラ」と呼ばれています。
 この年に勝海舟が検疫所の建設を提唱して20年経った1878年、横浜と神戸の二港に消毒所が設置され、翌1879年に日本初の統一された検疫規則である「海港虎列刺(コレラ)病伝染預防規則」が公布、検疫実施機関として神奈川県に地方検疫局が設置されました。しかし、拒否事例が生じたこともあり、さらに20年経った1899年に海港検疫法が公布されるまで、列強国に検疫を依頼する状況が続いたそうです。
 1878年に横浜に設置された消毒所は、現在の横須賀市に位置していましたが、軍港拡張に伴い1895年には現在の横浜市金沢区に移転されました。長濱検疫所と呼ばれたこの施設の一号停留所は、2018年に国の登録有形文化財(建造物)に登録され、現在も明治の面影を残すものとして検疫業務等に使用した資料の展示を行っています。
 私たちも先日見学に伺い、検疫や開国の歴史、また現1000円札に印刷されている野口英世氏や、新1000円札に印刷される予定である北里柴三郎氏の偉業を体感しました。
 今年は11月16日(土)に一般公開が行われますので、ぜひ足をお運び下さい。
 【参考】
 厚生労働省ホームページ「エボラ出血熱の流行が続くコンゴ民主共和国 へ感染症危機管理専門家(IDES)が派遣されています」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ides/dl/press_r010904_01.pdf
 厚生労働省 横浜検疫所 横浜検疫所検疫史アーカイブ
https://www.forth.go.jp/keneki/yokohama/museum/index.html
●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で4年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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