IDESコラム vol. 44「公衆衛生における終盤戦(Endgame)の中で」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年6月7日

IDES養成プログラム5期生:吉見 逸郎

 吉見逸郎と申します。私はこれまで、公衆衛生分野の業務、がん対策やたばこ対策といった、いわゆる生活習慣病予防の分野に従事してきました。保健所などで、生活習慣病予防や感染症対策に地域レベルで関わった経験から、住民のみなさんへの健康教育、関係者の方々との会合、そうした機会を通じた関係強化など、実際の対策の推進には、地域での顔の見える関係に基づいた活動が重要で、Think globally, act locally(地球規模で考えて、地域で活動する)、の言葉は分野を問わず当てはまると痛感しました。今回、IDESプログラムで、感染症対策、危機管理について経験を積むことで、上記のようなヘルス・プロモーションの視点を活用しつつ、平時からの地域保健・危機管理やその人材育成に活かしたいと考えています。

 はじめに、Think globally、地球規模での対応についてですが、これまで最も深く関わってきたたばこ対策は、感染症対策と同様、地球規模の大きな健康課題で、国際的な対応の枠組みが存在しています。「世界保健機関(WHO)唯一の国際条約」と言われる「たばこ規制枠組条約(Framework Convention on Tobacco Control: FCTC)」があり、条約にのっとった国際的な協調の仕組みがありました。一般的に、地球規模の課題への対応の枠組みは、拘束力の強いものから、「条約」、「規則」、そしてそれ以外の、「戦略・アクションプラン・ガイドラインなどに基づく枠組み」、の順で大きく3タイプに分けることができます。詳細は省略しますが、感染症対策では国際保健規則(International Health Regulations (2005): IHR2005)があります。また、現在結核感染症課で関わっているポリオ対策は、「条約」でも「規則」でもない、「戦略・アクションプラン・ガイドラインなどに基づく枠組み」により進んでいます。

 ポリオ対策では、世界レベルから地域レベルまでの活動も含めた、歴史的経緯を持つ計画が実施されており、現在、終盤戦の戦略(Polio Endgame Strategy)が示されています。その中核には、WHOだけでなく国際ロータリーなど多くの団体による「イニシアチブ(問題を解決するための戦略・構想)」(Global Polio Eradication Initiative: GPEI)が存在します。このGPEIの大きな支援者の一つが国際ロータリーですが、国内にも古くから「ロータリークラブ」があります。私が以前勤務していた自治体の地域にも「ロータリークラブ」の活動があり、そこでは海外でのポリオワクチンの提供活動に参加されるほどの熱があり、その活動報告会に、「保健所から感染症のお話をしませんか」という相談もありました。その報告会は、学校や地域の関係団体と開催していて、学生さんや地域住民が多く参加し、保健所からは、季節の感染症や、手洗い等感染症の身近な予防策の大切さについて説明していました。さらに、会の後には駅前で、学生さんも一緒になって、ポリオ撲滅活動を支えるための募金活動も行われていました。地球規模の大きな絵姿が、地域でつながっている・・・まさにThink globally, act locally、ですね。

 感染症、生活習慣、分野は違うものの、地球規模の課題について、長い時間をかけて、公衆衛生による「集団」への対応が進んできました。タバコでは「条約」による規制が進み、ポリオではいよいよ封じ込めの最終段階が見えてきました。ポリオ・タバコどちらの対策でも「終盤戦(Endgame)」という言葉が使われますが、残された課題もあります。ゴールへの到達には最終段階が一番大変とも言われますが、生活習慣病対策、感染症対策、この先の対策はどうなっていくのか。「集団」から「個」へ、上意下達から協働へ、など、社会の様子が大きく変化していく中での公衆衛生の姿はこれからどうあるべきなのか。変化の真っ只中にいながら、まずはポリオ根絶をはじめとする感染症対策、危機管理の一翼を担っていきたいと思います。

参考
・Global Polio Eradication Initiative: GPEI (英語)
http://polioeradication.org/
※WHO、国際ロータリ-、米国CDC、UNICEFF、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が主導する官民パートナーシップ。
・ロータリー「END POLIO NOW」 (日本語)
https://www.endpolio.org/ja
・The Polio Endgame Strategy 2019-2023: Eradication, Integration, Containment and Certification(英語)
http://polioeradication.org/who-we-are/polio-endgame-strategy-2019-2023/

(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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