IDESコラム vol. 37「フレディ・マーキュリーと世界エイズデー」

感染症エクスプレス@厚労省 2019年2月8日

IDES養成プログラム3期生:西島 健

 映画ボヘミアン・ラプソディ、見てきました。イギリスの伝説的なバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの生涯を描いた映画です。みなさん、ご覧になりましたか?
 
 HIVが専門の医師として、また自分の結婚式でクイーンの名曲“I was born to love you”を使わせていただいたものとして、これは見逃せない、と一人で映画館に行ってきました。
 
 いや、素晴らしかったです。。。クイーンが好きな人はもちろん、音楽が好きな人やミュージカル風の映画が好きな人ならかなりお薦め。音楽が売りの映画は、やはり音響のよい映画館で見るのがよいですね。
 
 インドからイギリスに渡った移民であり、かつセクシャルマイノリティーという二重のマイノリティーであるフレディが抱える葛藤、そして名曲の誕生秘話などなどのエピソードが満載で、見ごたえたっぷりの二時間でした。
 
 さて、12月1日は世界エイズデーです。しかも、昨年の世界エイズデーは、エイズデーが定められてから30周年の記念すべき年。ということで、世界保健機関(WHO)西太平洋事務局で世界エイズデーを担当した私も気合を入れて、これまでWHOが広報としてはあまり取り上げてこなかったセクシャルマイノリティーの方を主に対象としたポスターを作りました。
https://www.facebook.com/WHO/photos/a.167668209945237/2119110008134371/?type=3&theater
 
 Men who have sex with men(男性同性愛者)、薬物使用者、女性セックスワーカーなど、いわゆるキーポピュレーションと言われる方々は、HIV感染のリスクが高く、世界のHIV新規感染例の大半を占めています。やはりその方々を対象とした広報・啓発が必要だろう、と考え、今回はこのようなポスターを作りました。
 
 また、ご存知の方も多いと思いますが、厚生労働省では毎年世界エイズデーに合わせて、レッドリボンライブ等の普及啓発イベントを行っています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000183582_00001.html
 
 
 フレディ・マーキュリーはHIVに感染し、残念ながら1991年に45歳で亡くなりました。HIVに感染した方の命を救えるようになったのは、3剤カクテル療法が確立した1996年以降になります。あと5年、フレディが生き延びていれば、今も元気に歌っていたかもしれません。

 フレディが亡くなった時代においては、HIVに感染する、ということは死刑宣告と似たような響きがありました。しかしながら、世界エイズデーが30周年を迎えた現在、HIV/AIDSをめぐる状況は全く異なります。
 
 HIVを早期に診断し、早期に治療を行えば、HIVに感染した人は、HIVに感染していない人と同じくらいの寿命が見込めるようになりました。また、治療を受けてウイルスが抑えられていれば、他の人に感染させることもありません。HIVに対する治療は、この30年で劇的な変化を遂げたのです。
 
 しかしながら、多くの課題も残されています。我が国においては、HIV感染と新規に診断された人のなかで、病気が進行してエイズを発症してから診断される、いわゆる「いきなりエイズ」が3割強を占め、その割合は改善の兆しをみせていません。HIVは現在、完全に治すことができないので、ウイルスを抑えるために一生治療薬を飲み続ける必要があります。また、世界に目をむけると多くの国では、キーポピュレーションの新規感染者が増えていますし、未だ治療薬にアクセスできない人も多くいます。
 
 HIVの新規感染を減らし、HIVの方の予後や生活の質をさらに高めるには、引き続き粘り強い努力が必要です。しかし、HIV/AIDSに対する社会の関心は年々低下し、HIV/AIDS関連の報道も減り、この世界エイズデーもマスコミに取り上げてもらうことが難しくなってきています。その中で、映画「ボヘミアン・ラプソディ」が話題を集めている最中に世界エイズデーが重なったことは幸運でした。
 
 次の30年後には、HIV/AIDSで苦しむ人がいなくなっていることを願って。
(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
 
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