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IDESコラム vol. 13
感染症エクスプレス@厚労省 2018年2月16日

「日本の風しん排除の取組みを世界のBest practiceに」

IDES養成プログラム 3期生:神代 和明

 今年の1月1日より風しんの届出方法が変更になりました。今までは 診断後7日以内でしたが、今後は診断後直ちに届出になります。
風しんの大きな流行が起こった2012~2015年には、16,000人以上の風しん患者が報告され、同時に45人の赤ちゃんが先天性風しん症候群(Congenital rubella syndrome, CRS)と診断されました。しかし、ここ数年、風しんは全国で年間100~200例の報告のみで、CRSの報告もありません。日本は2020年度までに日本国内で流行している風しんウイルスを排除することを目標にしています。医師の皆様が直ちに届けることによって、すべての風しん症例の詳細な感染ルートを把握することで感染を封じ込め、また、全例ウイルスの遺伝子検査をすることで検出されたウイルス株を詳細に検討し、国内の発生事例か、あるいは国外から持ち込まれたいわゆる輸入感染事例なのかを見極めることができます。

 私は、研修医のときに、救急外来へ来院した患者さんで、微熱と軽い発しんのみで特徴的な症状(教科書的には、発熱、発しん、リンパ節腫脹が特徴的と言われます)がなく、検査をしてみてはじめて風しんと診断したことがあります。免疫がない場合、ほぼすべての方が強い症状を引き起こす麻しんと違って、風しんは無症状な場合や、私が診た方のように軽症ですむ場合もあり、医師が積極的に疑って、抗体検査や遺伝子検査を使って診断を確定していく必要があります。さらには、麻しんと同様に風しんは海外でも流行しており、渡航先での感染するリスクを周知・啓発するため、2月4日に成田国際空港で啓発イベントを行いましたが、一般の方にも風しんにかかるリスクについて知ってもらうこともとても大切になります。

 それでは、風しんでは、なにが問題になるのでしょうか。最も大きな問題は、風しんに抗体がない妊婦さんが妊娠初期に感染すると、子どもにCRSという心臓の病気、難聴、白内障などの重篤な障害が出る可能性があることです。子どもに障害が出ることはもちろん大変なことですが、そのご家族へのインパクトははかりしれません。風しんの排除は、まさにCRSをゼロにすることにつながっていきます。

 2020年度まで日本における風しん排除(*1)を達成するには、サーベイランスの強化に加えて、その他の施策についても検討が必要になってきます。去る、2月9日に、第2回麻しん風しんに関する小委員会が開催されました。麻しん・風しんの専門家に加えて、患者の会の方が集まり、今後の風しんの排除に必要な施策、また麻しんの排除維持にむけて、どのような施策をとっていくかについて議論を行いました(*2)。今後も、議論を重ねて、今後の麻しん及び風しんの特定感染症予防指針の改定に反映していきます。

 風しん排除の取組みは、CRSをなくすためにも、世界でも重要な取組みですが、世界から風しんを排除する道のりは決して容易ではありません。例えば、世界保健機関・西太平洋地域事務局(WPRO)は、同様に2020年までの風しん排除を目指していますが、WPRO内でも国によっては事情が異なり、排除までにもっと時間がかかるところがあるようです(*3)。日本の風しん排除へむけてのプロセスは、風しんの排除を目指している国々へのお手本、Best practiceになりうると信じております。今後も、日本の取組みを国内外に発信し、世界各国の“風しんゼロ”に寄与できるよう邁進して参ります。

風しんについて
平成30年1月1日から風しんの届出が変わりました。

*1適切なサーベイランスの制度のもと、土着性の麻しんや風しんの感染伝播がある地域や国で認められない状態
*2 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_486923.html
*3 http://iris.wpro.who.int/bitstream/handle/10665.1/13605/RS-2017-GE-13-PHL-eng.pdf?ua=1

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で2年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。


リーフレット:平成30年1月1日から風しんの届出が変わりました。

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本コラムは、「感染症エクスプレス@厚労省」に掲載しております健康局結核感染症課長によるコラムです。
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