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IDESコラム vol. 4
感染症エクスプレス@厚労省 2017年10月6日

梅毒がわかれば医学がわかる?

IDES 3期生:西島、神代、市村、高橋

 この現在の日本で、梅毒の流行拡大がとまりません。2010年以降、梅毒の
報告数は急激に増え続け、2010年の621例が、2016年には4557例に増えていま
す。4000例を越えたのは、何と42年ぶりです。さらに今年2017年も、9月24日
までの報告数が4086人と、年間報告数で2016年を上回るのはほぼ確実になっ
ています。

 かつて、当メールマガジンにて連載していたあさコラムの言葉を借りると
「予防、そして早期検査・診断と治療、普及啓発。梅毒対策、待ったなしです」

 本コラムのタイトルの「梅毒がわかれば医学がわかる」。これは、近代医
学の祖の一人と言われるウイリアム・オスラー医師が20世紀の始めにいった
言葉だそうです。原文は、"He who knows syphilis knows medicine"。

 なぜ梅毒がわかれば医学がわかるのか。それは、当時梅毒は、診断も治療
もとても難しかったため、梅毒をきちんと診断できるのは腕のよい医者の証
拠、と考えられていたことが理由です。梅毒は、偽装の達人”the great
imitator”と言われるほど、多種多様な病変を、皮膚、陰部、口、腎臓、脳・
神経、骨などいろいろな臓器におこすことがあり、診断することが難しい病
気でした。ちなみに、梅毒が脳に悪さをすることを突き止めたのは、かの野
口英世です。野口英世は、梅毒が進行して麻痺を起こした患者の脳組織に梅
毒の原因菌がいることを証明し、これは野口英世の代表的な業績とされてい
ます。

 この梅毒はペニシリンで治ります。ペニシリンが開発され、1940年代に梅
毒に効果があることが確かめられるまでは、たくさんの人が感染し、命を落
とす人もあとを絶ちませんでした。もちろん日本も例外ではなく、マンガ
「JIN-仁」で描かれたように、江戸時代にも梅毒は非常にはやっており、特
に遊郭で働く遊女の間では多かったようです。そのため、子だくさんで有名
で、なんと正室が2人、側室が20人ほどもいたとされる徳川家康は、遊女との
交わりをもたないよう厳に自分を戒めていた、との話が残っているほどです。

 日本で本格的にペニシリンが普及したのは戦後になりますが、1948年の梅
毒感染者数は、約22万人でした。その後はペニシリンのお陰で感染者数はど
んどん減っていき、1990年代に入ると年間1000人を下回るようになりました。
しかしながら、現在は再流行期にあります。2010年以降今日にいたるまで、
梅毒は拡大を続けています。

 今回の梅毒の流行には、ある特徴があります。2010年以降、梅毒の報告で
多かったのは同性間で性交渉を持つ男性でしたが、2014年以降、急速に男女
間で性交渉を持つ男性・女性が増えています(図)。

 女性報告数の大半は20-30代の若い女性で、梅毒にかかった妊婦も報告され
ています。実際、生まれる子供が梅毒に感染する先天梅毒の報告数も、2012年
の4例から2016年の14例に増えています。現在の梅毒は、きちんと診断がつ
いて治療すると治る病気ですが、おなかの中の子供が感染する先天梅毒は、
早産・死産の原因になったり、生まれても重い後遺症が残ることがあります。
一方で、梅毒の報告数の大多数(2016年では7割)が男性であること、また
HIVに感染した男性の梅毒の有病率が高いこともわかっています。梅毒を、
男性が女性にうつす可能性があることを考えると、先天梅毒は男女双方の問
題なのです。

 梅毒は性感染症です。ということは、
 ・コンドームを適切につかうと、感染リスクは下がります。
 ・不特定多数と性交渉をもつと、感染リスクはあがります。
 ・オーラルセックスでもうつります、このことは見逃されがちで、要注意。
 ・梅毒の症状としては、陰部や口の潰瘍、皮疹がよくみられます。
 ・梅毒にかかったかも?と疑ったら、検査を受けましょう。梅毒は早く治
  療すると、きちんと治ります。
 ・あなたがもし梅毒だったら、あなたのパートナーも梅毒にかかっている
  かも。ぜひ検査をすすめてください。

 この流行、何とかせねば。

 あさコラムの言葉をもう一度。
「予防、そして早期検査・診断と治療、普及啓発。
 梅毒対策、待ったなしです。」

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