陸上貨物運送事業における腰痛の予防

現状

 職場における腰痛発生件数は、昭和53年をピークとして長期的に減少したものの、陸上貨物運送事業が含まれる運輸交通業や貨物取扱業においては、近年、発生件数に減少は見られません。また、陸上貨物運送事業の腰痛発生率(死傷年千人率)は全業種平均(0.1)を大幅に上回る0.41であることからも、陸上貨物運送事業における腰痛予防対策の推進が重要な課題となっています。

 

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経緯

職場における腰痛予防対策指針の改訂(平成25年6月/厚生労働省労働基準局)
 平成6年に「職場における腰痛予防対策指針」を策定し、陸上貨物運送事業で多く発生する「重量物取扱い作業」と「車両運転等の作業」に関して、腰痛の予防対策を示しました(最終改訂:平成25年)。
 
平成27年労働安全衛生調査(実態調査)報告(平成29年3月/厚生労働省政策統括官)
 「運輸業,郵便業」の事業所のうち、腰痛予防対策指針の内容について知っている事業所の割合は41.2%と低いです(統計表第7表-1)。また、腰部に負担のかかる業務に従事する労働者がいる事業所のうち、腰痛予防に関する教育を行っている事業所の割合は66.9%(統計表第7表-3)、人の抱え上げ以外の作業に従事する労働者がいる事業所のうち腰痛予防対策に取り組んでいる事業所の割合は75.6%となっていますが、対策の取組内容をみると「重量物取扱い業務の自動化・省力化」は25.1%と低調です(統計表第7表-5)。
 
労働災害が増加傾向にある業界団体への協力要請(令和3年9月/厚生労働省労働基準局)
 ▶陸上貨物運送事業の団体に対する要請書
 ▶陸上貨物運送事業の団体に対する具体的な実施事項に関する通知および添付資料
 三原副大臣から、労働災害の増加が特に顕著な陸上貨物運送事業、小売業(食品スーパー及び総合スーパー)及び社会福祉施設(介護施設)の関係事業者団体に対し、労働者が安心して安全に働き続けられる環境作りに向けた積極的な取組について、協力要請を行いました。
 
転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会 検討事項の中間整理(令和4年9月/厚生労働省労働基準局)
 令和4年に転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会にて取りまとめられた「検討事項の中間整理」において、業種や業務の特性に応じた取組として「腰痛予防のため、作業管理、作業環境管理、健康管理及び労働衛生教育等の取り組むべき対策を示した職場における腰痛予防対策指針があるが、効果的な対策を講ずるために、腰痛の発生が比較的多い重量物取扱い作業等について、事業者や研究者の協力を得つつ発生要因をより詳細に分析し、効果が見込まれ、かつ実行性がある対策を選定すべき。あわせて、事業者等の協力を得つつ実証的な取組を行い、効果が得られた対策を積極的に周知・普及していくべき。」と示されました。
 
第14次労働災害防止計画(令和5年3月/厚生労働省労働基準局)
 労働災害防止計画は、労働災害の防止のために、国、事業者、労働者等の関係者が重点的に取り組む事項を定めたものです。第14次労働災害防止計画は、2023年度を初年度とする5年間を対象としたもので、労働者の協力を得て事業者が取り組むこととして「職場における腰痛予防対策指針を参考に、作業態様に応じた腰痛予防対策に取り組む。」、その達成に向けて国等が取り組むこととして「効果的な腰痛の予防対策を行うために、腰痛の発生が比較的多い重量物取扱い作業等について、事業者や研究者の協力を得つつ発生要因をより詳細に分析し、効果が見込まれ、かつ実行性がある対策を選定する。あわせて、事業者等の協力を得つつ実証的な取組を行い、効果が得られた対策を積極的に周知・普及を図る。」が盛り込まれています。
 
 陸上貨物運送事業を運営する事業主の皆さまは、以下に紹介する情報を活用し、作業態様に応じた腰痛予防対策に取り組むようお願いします。
 

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腰痛予防対策

取組内容
 腰痛リスクの回避・低減対策の概要は次のとおりです(啓発資料「陸上貨物運送事業の事業者の皆さまへ 重量物取扱いや運転業務による腰痛を予防しましょう(2頁/平成27年9月/厚生労働省労働基準局)」から抜粋)。詳細は、職場における腰痛予防対策指針(職場における腰痛予防対策指針の改訂(平成25年6月/厚生労働省労働基準局))をご確認ください。
 
<作業管理>
□常時行う重量物取扱い作業は、リフターや自動搬送装置の使用により自動化・省力化する。
□コンベアや台車などで運搬したり、運搬しやすくなるようなフックや吸盤などを用いる。
□取り扱う重量物の重量を制限する。常時人力のみにより取り扱う重量は、満18歳以上の男性の場合、体重のおおむね40%以下、女性は24%以下とする。流通業では、10kg程度に設定する例も見られる。
□上の重量制限を超える場合は、身長差の少ない2人以上で作業を行わせる。
□取り扱う重量物の重量が、あらかじめわかるように表示する。
□できるだけ重量物に身体を近づけ、重心を低くするような姿勢をとるようにする。
□床面から重量物を持ち上げる場合、片足を少し前に出し膝を曲げ、腰を十分に下ろして重量物を抱え、膝を伸ばすことによって立ち上がるようにする。
□大きな物や重量物を持っての移動距離を短くし、人力での階段昇降は避ける。
□重量物を持ち上げるときは、呼吸を整え、腹圧を加えて行うようにする。
□重量物を持った場合は、背を伸ばした状態での腰部のひねりを少なくなるようにする。 
□作業動作、作業姿勢、作業手順、作業時間などをまとめた作業標準を策定する。
□労働者にとって過度の負担とならないように、単位時間内での取扱い量を設定する。
□運転時間の管理を適切に行い、適宜、小休止・休息を取らせる。
□長時間運転した後に重量物を取り扱う場合は、小休止・休息やストレッチングを行ってから作業を行わせる。
□作業靴は滑りにくく、クッション性があるものを使用させる。
 
<作業環境管理>
□寒冷ばく露しないよう、衣服の着用や暖房設備によって保温対策を行う。
□作業場所などで、足もとや周囲の安全が確認できるように適切な照度を保つ。
□転倒、つまずきや滑りなどを防止するため、凹凸や段差がなく、滑りにくい床面とする。
□運転する場合、車両の座席は、座面・背もたれ角度、腰と背中の支持が適当なものとする。
□運転する場合、車両からの振動を減衰させる構造の座席とするか、クッションを用いる。
 
<健康管理と労働衛生教育>
□腰痛予防健康診断(配置時、6か月以内ごとに1回)を行う。
□ストレッチを中心とした腰痛予防体操を行わせる。
□腰痛のリスクと原因、作業標準(作業姿勢など)、荷役機器・補助具の使用方法、腰痛予防体操などについて、教育(配置時など)を行う。
 
取組への支援策
●補助金・助成金
※厚生労働省の各種助成金・奨励金等の制度についてはこちらをご覧ください。

エイジフレンドリー補助金(厚生労働省労働基準局/問合せ先:一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会)
 高年齢労働者を雇用する中小事業者等を対象に、高齢者が安心して働くための職場環境の整備等に要する費用を補助(上限100万円)しています。※令和4年度の申請受付は終了しました。
 
●税制措置・金融支援
(※)の支援は、貨物自動車運送事業分野にあっては「従業員の健康増進に資する取組を含む職場環境の改善」等に取り組むことを含む経営力向上計画を策定し、国土交通大臣の認定を受けることが必要です。詳細は中小企業庁HP(経営力強化法による支援貨物自動車運送事業分野の経営力向上に関する指針 )にてご確認ください。

中小企業経営強化税制(※)
 税法上の要件を満たす資本金一億円以下の法人等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、対象設備を取得や製作等した場合に、即時償却又は取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)が選択適用できます。
 
日本政策金融公庫による融資(※)
 経営力向上計画の認定を受けた事業者が行う設備投資に必要な資金について、融資を受けることができます。
 
中小企業信用保険法の特例(※)
 中小企業者は、経営力向上計画の実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
 
中小企業投資育成株式会社法の特例(※)
 経営力向上計画の認定を受けた場合、通常の投資対象(資本金3億円以下の株式会社)に加えて、資本金額が3億円を超える株式会社も中小企業投資育成株式会社からの投資を受けることが可能になります。
 
独立行政法人中小企業基盤整備機構による債務保証(※)
 従業員数2千人以下の医療法人、社会福祉法人等が、経営力向上計画を実施するために必要な資金について、保証額最大25億円(保証割合50%、最大50億円の借入に対応)の債務の保証を受けられます。
 

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参考(教材・資料/関係機関・制度)

腰痛予防対策に関する教材・資料
●令和元年度腰痛予防対策講習会(厚生労働省労働基準局)
腰痛予防対策講習会テキスト(陸上貨物・講義)(42頁/制作:株式会社平プロモート、監修:中央労働災害防止協会)
 
腰痛予防対策講習会テキスト(陸上貨物・実技)(40頁/制作:株式会社平プロモート、監修:一般社団法人日本ノーリフト協会)
 
●令和3年度腰痛予防対策動画(厚生労働省労働基準局)
職場における腰痛予防対策~陸上貨物運送事業~(再生リスト)
 ▶腰痛の発生状況とその要因、腰痛予防対策の進め方について~職場における腰痛予防対策~(8分9秒)
 ▶労働災害を防止するための安全衛生管理体制整備について~職場における腰痛予防対策~(3分28秒)
 ▶リスクアセスメント、労働安全衛生マネジメントシステム~職場における腰痛予防対策~(7分13秒)
 ▶作業による腰への負担と、腰痛リスクの回避・低減措置~職場における腰痛予防対策~(13分58秒)
 ▶ストレッチングと予防体操~職場における腰痛予防対策~(10分21秒)
 ▶事例紹介~職場における腰痛予防対策~(15分55秒)
 
●転倒・腰痛予防!「いきいき健康体操」(監修:松平浩)
 令和元年度厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業「エビデンスに基づいた転倒予防体操の開発およびその検証」の一環として制作
 ▶動画(4分15秒)
 ▶解説書(10頁)
 
●教材・ツール
運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ(41頁/平成22年10月/中央労働災害防止協会)
 
運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ(動画)ISOをZIP圧縮(平成22年10月/中央労働災害防止協会)
 
●啓発資料
陸上貨物運送事業者のみなさま 労働災害が増えています!荷物の積み卸しを安全に(2頁/令和2年8月/厚生労働省労働基準局)
 
陸上貨物運送事業の事業者の皆さまへ 重量物取扱いや運転業務による腰痛を予防しましょう(2頁/平成27年9月/厚生労働省労働基準局)
 
労働衛生関係機関
産業保健総合支援センター(独立行政法人労働者健康安全機構)
 産業医、産業看護職、衛生管理者等の産業保健関係者を支援するとともに、事業主等に対し職場の健康管理への啓発を行うことを目的として、全国47の都道府県に産業保健総合支援センター(さんぽセンター)が設置されています。
 
陸上貨物運送事業労働災害防止協会
 陸上貨物運送事業労働災害防止協会(陸災防)は、労働災害防止団体法に基づき、陸上貨物運送事業を営む事業主及びその事業主の団体を会員として企業の自主的な労働災害防止活動の促進を通じ、労働災害の防止を図ることを目的として、昭和39年に設立された厚生労働省所管の特別民間法人です。
 
中央労働災害防止協会
 中央労働災害防止協会(中災防)は、事業主の自主的な労働災害防止活動の促進を通じて、安全衛生の向上を図り、労働災害を絶滅することを目的に、労働災害防止団体法に基づき、昭和39年8月1日に労働大臣の認可により設立された公益目的の法人です。事業主の方々の自主的な労働災害防止活動を促進し、働く人々の安全と健康を確保するための総合的活動を行っています。
 
労働衛生関係制度
健康経営優良法人認定制度(経済産業省商務・サービスグループ)
 「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。健康経営優良法人認定制度とは、優良な健康経営を実践している企業等を「健康経営優良法人」として顕彰する制度です。経済産業省が制度設計を行い、日本健康会議が認定しています。この認定を受けることで、ロゴマークを企業のPR等に使用できます。また、自治体の公共調達における加点や、金融機関の低利融資等、優遇措置を受けられることがあります。
 腰痛予防を健康課題と捉え、認定を受けた法人もあります。
 

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