(徳之島町の紹介コメント)

~ 鹿児島県 徳之島町 ~

  • 一体的実施以前から庁内や関係団体との連携がしっかりできていた。それを強みに、少ない人員でも関係者が協力して初年度から一体的実施に取り組んでいる。
  • 一体的実施によって協力体制が整ったことで、高齢者への保健予防活動が強化され、支援の充実につながるとともに、連携がスムーズになり適切かつ必要な介護福祉サービスにつなげられるようになった。

マスコットキャラクター
まぶーる君

■ 徳之島町の概要

人口 11,158人 (令和元年度)
(高齢化率29.7%)
後期高齢者被保険者数 1,720人 (令和2年度)
後期高齢者1人あたり医療費 881,940円/年 (令和2年度)
後期高齢者健診受診率 39.71% (令和元年度)

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1.地域特性

徳之島町の概要

徳之島は鹿児島県の南南西約492kmに位置し、奄美諸島のほぼ中央に位置している。島内に徳之島町・天城町・伊仙町の3つの町がある中で、徳之島町は人口規模が大きく、島内では行政・経済面で中核的な役割を担っている。病院・学校・県の出先機関がある関係で、他の2つの町に比べて若い世代の人口が多い。85歳以上・90歳以上の「超高齢者」の比率は高いが、年を重ねても元気に畑仕事や野菜作り等を続けたり、地域サロンへの参加や趣味活動等を楽しむ方が多い。

一年を通して暖かな気候であり、地域の特性としてご近所付き合いや人との交流が盛んで、普段の生活に限らず災害時等でも互いに協力し、支え合うといった各地域のコミュニティが存在する。独居高齢者や高齢者夫妻世帯も多いが、近隣や親族間のつながりが強いという面で、ソーシャルキャピタルの基盤がある。社会福祉協議会の見守りネットワークも強化され、独居や高齢者世帯の見守り活動が根付いている。

医療費、介護給付、健康課題の現状

後期高齢者医療費に関しては2割を筋骨格系疾患が占めており、腰痛・膝関節疾患、骨折入院が多い。これは、長年の農作業等による影響に加え、加齢による下肢筋力の低下が要因と考えられている。また、島の亜熱帯地域という環境の中で、昔ながらの食品保存のため塩分や油分の多い食生活習慣の影響か、高血圧症・心疾患、糖尿病の既往者が多くなっている。さらに、農作業の機械化や車社会による身体活動の低下、食生活の欧米化等の変化等によりカロリーバランスが崩れ、近年内臓脂肪症候群該当者が増加しているほか、飲酒に寛容でお祝いや集まりが多い地域文化を背景として男性に飲酒習慣の問題があり、循環器系疾患の多さや平均寿命に影響している。

要介護認定率は令和2年2月末で18.3%と全国平均より低く、一方で要介護3以上の重度認定率が高いが、年齢構成を補正したデータでは、要介護認定率は全国よりかなり低く、重度の要介護認定率は全国平均並みになっている。

これは各地区単位に通いの場づくりを進めて10年以上が経過し、通いの場を利用し続けている方が元気を維持することで、要介護認定率の低下につながっているためと考えられる。特に、通いの場を集落主体で運営している地域では、地域のソーシャルキャピタルを活かし、運営者側の住民が必要な人への声掛けや、送迎をしているところもあり、介護予防の効果を上げている。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

平成27年度より、健康増進課(国保係、後期高齢者医療係、保健センター)・介護福祉課(地域包括支援センター)・関係団体として社会福祉協議会とで連携をはかり、介護保険の総合事業を活用した地域づくりに取り組んでおり、限られた専門職を有効に活用して事業展開ができるように話し合いや情報交換を随時行っている。また、総合事業実施以前からも、地域包括支援センターと社会福祉協議会が連携し、地域サロン・通いの場を共同で立ち上げてきた。各部署の事業を連携して取り組み、同じ方向性・目標を共有しながら「高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる地域づくり」を進めてきたため、以前からの活動基盤と各部署のつながりが一体的実施を進めるうえで役立っている。

通いの場では、平成28年度より、介護と保健の分野の専門職(保健師・看護師・管理栄養士・歯科衛生士)が健康教育や体操教室(地域サロンの出張出前講座)を実施していた。専門職がかかわることで、サロン活動の中でより効果的な介護予防の取り組みが可能になり、参加者のセルフケアの促進につながっているほか、様々な視点からフォローを必要とする高齢者を把握し、支援やサービスへ迅速につなぐことができている。

一体的実施に初年度から取り組んだ背景

徳之島町では以前から、国民健康保険事業での疾病予防・重症化予防と、介護保険制度に係る介護予防と後期高齢者事業とで情報交換をしながら、共同で事業を行ってきた。また、管理栄養士や歯科衛生士などの専門職が保健センター(健康管理部署)に配置され、国保や介護予防での専門的な支援を行う体制があった。そのため、一体的実施の初年度からの開始は可能であるとして1年前から準備をすすめてきた。

当初は、関係者に事業全体の理解や体制の共通理解を図る必要があり、各種資料や研修会資料の説明・復命等の機会をつくり、共有してきたことで、一定の理解が得られ、体制構築につながった。

一体的実施においては、以下の目標を掲げ、初年度から取り組むこととなった。

医療と介護をトータルでみた健康課題を関係者で共有し、連携を図りながら効果的に事業を進めることで、より身近な場所で多くの高齢者が効果的な介護予防に参加できる地域づくり

個々の状態に応じたきめ細かな重症化予防や介護予防を行い、高齢者ができる限り健康でいきいきとした生活が、住み慣れた地域で継続できること

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3.一体的実施の推進体制

庁内の体制

徳之島町の令和2年9月現在の一体的実施における関連部署の連携状況は下表のとおりである。

図表1. 関連部署と連携内容(業務連携の範囲)

健康増進課を主担当課とし、一体的実施を活用して庁舎内の介護福祉課と外部機関の社会福祉協議会と共同して、疾病予防・重症化予防(元気・健康づくり)、介護予防、支えあい活動(つながり・居場所づくり)、地域づくりをしている。

保健師は統括保健師1名を含め計6名が一体的実施に関わっている。

平成30年度まで地域包括支援センター長を務めた統括保健師が、平成31年度からは保健センター長と子育て包括支援センター長を兼務している。以前より統括保健師を中心として、年に数回、町の保健師連絡会を実施しており、現在の事業の状況や新しい事業内容、お互いの事業の企画・調整内容や予算の使い方等を情報共有し、実際に事業展開する際にもできるところは共同実施してきた。統括保健師による保健活動の統合調整と助言・指導が、一体的実施の取り組みにおける行政内の連携体制において有効だった。

関係団体との連携

徳之島町の一体的実施における庁内、及び関係団体との連携状況は下図のとおりである。

図表2. 一体的実施に係る関係図(徳之島町より提供)

医療機関とは、糖尿病性腎症重症化予防を通じて島内3町の協議の場を定期的に設け、「島内で糖尿病治療中断者が多い」という課題の共有を図るとともに、患者のサポート体制(医療機関における患者教育など)の検討を行ってきた。令和2年度は外部から講師を招いて医療・介護関係者が患者の情報を共有するための糖尿病連携手帳の活用に取り組む予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響により研修会の開催や医療機関職員の会議出席が困難となり、事業が進捗していない。本来は、糖尿病連携手帳を国保から後期高齢者に至る年代の方も含め、継続的なサポート体制が構築できるよう活用していきたいと考えていた。

社会福祉協議会は、既存のサロン支援や新規の通いの場の立ち上げを町と協力して行っており、サロン支援者の育成も同時に継続して実施してきた。

地域活動の担い手となる高齢者クラブ、女性連絡協議会、民生委員等の方々や、その他のボランティアがサロン支援者となり、サロンの運営を行っている。それらの支援者に対し、「介護予防」や「一体的事業」についての理解のための研修会を定期的に開催するとともに、新たな担い手育成のためボランティア養成講座などを社会福祉協議会と共同で開催している。

高齢者クラブや女性連絡協議会、民生委員として活動されている方もサロンを支援しており、サロン支援者に対し関係団体とは、事業を実施する前に、事前に検討会等を踏まえて意見交換や地域課題の共有、各部署の課題等を把握し、関係機関と方向性(目標)を合わせて計画を立てた。

外部有識者の支援

一体的実施の開始以前から、民間の研究機関に国保事業や、介護事業の重症化予防・自立支援のデータ分析を依頼し、専門的アドバイスを頂きながら事業展開を行っていた。そのため、同研究所の先生に、徳之島町の状況を踏まえたうえで一体的事業について研修会を開催してもらった。今後も一体的実施の評価に関して協力を頂く予定である。

また、通いの場の講師として、鹿児島県民総合保健センターから保健師を派遣してもらい、フレイル予防の講話、実践的な体操・筋膜ケア等を実施してもらった。

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4.事業実施状況

事業実施状況(ハイリスクアプローチ)

徳之島町では、ハイリスクアプローチ(高齢者への個別支援)として、下表の5つの事業を展開している。

図表3. ハイリスクアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
低栄養防止 KDBから対象者を抽出し、3か月ごとに訪問指導を実施する。初回訪問で対象者の生活状況を把握し、アセスメントの結果に応じて目標を設定し、3か月後に状態確認と評価を行う。必要に応じて、医療機関の受診勧奨や管理栄養士との同行訪問で栄養指導を行う。 1/1
口腔機能低下予防 長寿健診と歯科健診での要医療、口腔機能低下所見がある方を対象に訪問・電話での指導を実施する。要医療者に関しては歯科医院への受診勧奨を行い、必要時には歯科衛生士と看護師の動向訪問を実施する。
初回訪問で対象者の生活状況の把握と、アセスメントの結果に応じて口腔に関するセルフケア目標を設定し、3か月後に状態を確認・評価する。必要に応じて、歯科医院への受診勧奨や歯科衛生士の同行訪問で口腔ケア等の指導を行う。
1/1
生活習慣病等の重症化予防に関わる相談・指導(糖尿病性腎症重症化予防以外) KDBのデータを基に「長寿健診で要医療の判定項目があり、かつ医療機関で治療中でない方」「高血圧の診断があり、未治療者の方」を抽出する。初回訪問で対象者の状態と生活状況、生活習慣(高血圧)についての理解度等を把握する。また、アセスメント結果に応じて、医療機関の受診勧奨と減塩等についての個別指導を実施し、3か月後に電話または訪問で状況確認・評価を行う。 1/1
糖尿病性腎症重症化予防相談指導 国保の糖尿病重症化予防管理台帳や、重症度や未治療などから対象者を選定し個別支援を実地する。初回訪問で対象者の状態と生活状況、糖尿病についての理解度を把握し、直近の血液データ等からアセスメントを実施する。その結果に応じて医療機関の受診勧奨と服薬管理、栄養指導等について個別指導する。初回訪問から3か月後に再度訪問して状態を確認し、必要時は管理栄養士も同行して訪問を実施する。 1/1
健康状態不明者対策 KDBのデータを基に、長寿健診未受診者で、かつ1年以上医療機関を受診していない方を抽出する。初回訪問で対象者の状態と生活状況、身体状況を把握する。アセスメント結果に加え、身近な支援者や地域との交流状態等に応じて、長寿健診の受診勧奨、医療機関の受診勧奨・個別指導を実施し、必要時は、介護や地域資源へのつなぎを行う。3か月後に再度訪問し、身体状況や生活状況を確認し、評価する。 1/1

事業実施状況(ポピュレーションアプローチ)

徳之島町では、ポピュレーションアプローチとしては、下表の4つの事業を展開している。

図表4. ポピュレーションアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
フレイル予防普及啓発 既存の地域サロン活動、通いの場での専門職種(保健師・管理栄養士・歯科衛生士)による健康教育や健康相談を実施する。 1/1
通いの場等での低栄養、筋力低下、口腔機能低下・オーラルフレイル等の状態に応じた指導支援 既存の地域サロン活動、通いの場で「質問票」の活用・血圧測定等を行い、対象者の把握を行う。フレイルのリスクの高い高齢者に対し、保健師・看護師・管理栄養士・歯科衛生士による個別の健康相談、指導を実施する。 1/1
通いの場等における健診・医療受診勧奨 既存の地域サロン活動や、通いの場での血圧測定・質問票記入・相談指導、長寿健診結果や医療レセプト等を活用して、個別面接や訪問等による支援を行い、必要に応じて医療につなげる。 1/1
通いの場等における介護サービス利用勧奨 既存の地域サロン活動や、通いの場での血圧測定・質問票記入・相談指導、長寿健診結果や医療レセプト等を活用して、個別面接や訪問等による支援を行い、必要に応じて介護サービスにつなげる。 1/1

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、令和2年4月~令和2年5月の緊急事態宣言中は、一体的実施の活動を中止していた。また、徳之島で令和2年12月上旬に新型コロナウイルスのクラスター発生があったことから、令和3年1月時点では地域サロンや個別訪問を中止しており、ポピュレーションアプローチに関しては状況に応じて再開していく予定となっている。

令和2年4月の自粛期間中に地域サロンの活動を中止・縮小していたことから、高齢者の機能低下を予防するため、個々でできる介護予防活動を拡充することが必要と考え、自宅で介護予防体操や口腔体操を実施してもらい記録をする「介護予防ファイル」の活用や、近所を歩く歩数で「高齢者元気度アップ・ポイント*」をつけられる「徳之島ウォーキングマップ」を作成し、全戸配布で周知することで高齢者・住民の参加を呼び掛けたほか、広報誌にも介護予防体操を掲載した。地域サロン再開にあたっては、「安心して集えるサロン」を目指し、サロンにおける感染予防対策を関係者で共有し、伝えていった。

*高齢者元気度アップ・ポイント事業:
鹿児島県で行われている事業で、65歳以上の高齢者の健康づくりや社会参加活動に対して、地域商品券等に交換できるポイントを贈呈することで、高齢者の健康維持や介護予防、社会参加の促進を図る事業。

図表5. ウォーキング案内チラシ、ウォーキングマップ(徳之島町より提供)

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5.事業推進のための取り組み

周知と広報

一体的実施そのものに関しては特に広報を行っていないが、高齢者のフレイル予防に関しては随時、町の広報誌に掲載している。また、サロン支援者や民生委員等、住民組織の代表者へは、代表者等本人の介護予防の意味もかねての普及啓発活動を継続して実施している。

広報誌では、毎月元気な高齢者を紹介するコーナーを設け、元気な町民のインタビュー記事を掲載しているほか、緊急事態宣言中のフレイル予防のためには、副町長をモデルとして介護予防体操の記事を掲載してもらった。

図表6. 令和2年6月広報誌紙面(徳之島町より提供)

人材育成の取り組み

一体的実施を開始する1年前から、主担当課(健康増進課)・関連部署(介護福祉課)、社会福祉協議会の関係職員とともに、一体的実施に関する動向の共有、町内での高齢者対策事業の情報共有、事業の棚卸を実施した。また、令和元年度に民間の研究機関から講師を招いての勉強会を開催し、町の高齢者に係る医療・介護の状況と課題について学習し、各機関を交えて意見交換を行った。

後期高齢者事業の県説明会の内容等を、関係する職員で情報を共有しているほか、随時、必要なことは互いに連絡を取り合い、庁舎内外との関係職種とはコミュニケーションをとるようにしている。

ノウハウのマニュアル化

徳之島町独自のマニュアル等はないが、「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版」を参考にしている。

後期高齢者の質問票の活用

一体的実施の開始にあたり、基本チェックリストと後期高齢者の質問票の活用について地域包括支援センターと調整した結果、「質問票」の項目の方が現場での聞き取りに活用しやすいとの意見があり、健診や訪問、各種事業でも「質問票」の項目に統一していくことになった。地域包括支援センターと保健センターに、共通の高齢者支援システムがあり、それぞれで支援記録の入力や参照ができるようになっている。システム上には基本チェックリストの一部として「質問票」の項目を入力し、登録している。どちらで相談を受けても、電話等での情報提供を行うとともに、過去記録を参照して対応できるようになっている。

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

一体的実施を行う側の職員としては、今まではどうしても「高齢者の支援は地域包括支援センターで行う」というイメージが強かったが、一体的実施を開始し、保健センターや社会福祉協議会等、色々なところの協力体制が整ったことで、住民に対してより動きやすくなったと感じている。また、新型コロナウイルス感染症の影響により通いの場への専門職の派遣が計画通りには進んではいないが、サロン支援者にとっては、専門職が訪れることで「普段から参加者に対してこういう話をすればいいのか」「こういった視点で参加者を見ればいいのか」という気づきになったと考えられる。

事業に参加する町民には、「よく医療専門職の人が来てくれる」といった印象を与えることができたと思っている。また、地域サロンだけではなく様々な地域のコミュニティの中から、「この人は最近、認知機能が気になる」「健診でこの人の様子が気になる、以前と違う」という声があれば医療専門職が本人と対面し、必要があれば地域包括支援センターにつなげ、早めに自宅に伺い生活状況を把握し、適切に介護サービス・福祉サービスにつなぐという流れもできている。

課題と今後の対策

小規模な町では人員の配置や確保が一番のネックになり、母子健診や特定健診等の時期にはどうしても職員総出で実施しないとこなせない業務もあり、一体的実施業務への専属配置は困難になる。

ただ、もともと島内の保健師は限られており、今までも色々な業務に対して役割分担をして、お互い協力しながら進めてきた背景があるため、一体的実施に関しても他の業務を担当している保健師からのサポートを受け対応した。今後については、制度的にも兼務可能となり、業務量としては各種人材や関係機関を活用して効率化を図ることは十分可能であると考えている。

今後も、関係職員・関係団体と幅広く連携を図り、年度ごとの事業評価を踏まえて、地域包括ケアシステム推進の観点から全員で目的を共有し取り組みを進めていく。