(佐賀県後期高齢者医療広域連合の紹介コメント)

~ 佐賀県後期高齢者医療広域連合 ~

  • 県内の20市町のうち半数が令和2年度から一体的実施を開始し、令和3年度からは全市町が実施を予定している。
  • 特別調整交付金の申請書の記載例や広域独自のQ&Aを提供し市町の事業準備を支援している。
  • 進捗チェックリストとヒアリングで市町の状況をこまめに捉え支援を行っている。

佐賀県の鳥
カササギ

■ 佐賀県後期高齢者医療広域連合の概要

人口 809,720人 (令和2年4月1日時点)
(高齢化率30.42%)
後期高齢者被保険者数 124,825人 (令和2年4月1日時点)
後期高齢者1人あたり医療費 1,085,920円/年 (令和元年度)
後期高齢者健診受診率 26.46% (令和元年度)

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1.地域特性

佐賀県の概要

年間の平均気温が16度前後の地域が多く、穏やかな気候で、北側は玄界灘、南側は有明海に面している。

人口(令和2年4月1日現在)は809,720人、65歳以上246,350人(高齢化率30.42%)、高齢化率は全国平均よりやや高いが、都道府県別順位で見ると中位以下である。令和元年の人口81.5万人に対し令和27年66.4万人と減少が見込まれている。

全国と比較すると世帯あたり平均人数がやや多く、高齢者のみ世帯の比率は低い。構成市町数は20市町(10市10町)と全国の都道府県の中では少なく、うち令和2年度の一体的実施取組市町数は半数の10市町(5市5町)であり、残りの10市町も令和3年度実施を予定している。

医療費、介護給付、健康課題の現状

医療費に影響を与えている要因

高齢者の入院医療費では①循環器系の疾患(脳梗塞等)、②筋骨格系及び結合組織の疾患(関節疾患等)、③損傷、中毒及びその他の外因の影響(骨折等)が多く、入院外医療費では①循環器系の疾患(高血圧症等)、②筋骨格系及び結合組織の疾患(関節疾患等)、③腎尿路生殖器系の疾患(慢性腎不全(透析あり)等)が多い。

生活習慣病による医療費は、医療費全体に占める割合は入院で42.0%、外来で43.0%となっている。

第2次佐賀県健康プランにおいても、主要な生活習慣病(がん、循環器疾患、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患)の予防が課題として挙げられている。

要介護の要因

介護認定者(要支援から要介護までを含む)の疾患をみると、脳血管疾患46.6%、心不全43.4%、虚血性心疾患39.6%、腎不全43.5%、骨折54.9%、認知症82.1%となっている。(介護認定者を分母とし、そのうち治療を受けている疾患別の割合。一人について疾患の重複があるため合計は100%を超えている)

健康課題

県の医療費総額における骨折、関節疾患、骨粗しょう症等の構成割合が高く、骨折する被保険者も多い傾向にあることから、これらの要因のひとつとして、「低栄養状態」も課題と捉えている。広域連合としては、低栄養の対策として、アルブミン、BMIの検査値との関係についてデータ分析をするための取り組みを始めている。

令和元年度健診では、低栄養傾向の該当者(BMI≦20kg/㎡)の割合は、受診者の19.5%(うち、低体重7.8%)であり、全国と比較すると、男女ともに高い状況が続いている。こうした低栄養への対策については、市町への事業展開も含め、これからの課題になると考えている。

生活習慣についてみると、運動に関しては、車の移動が多くなりがちであり、歩行を推進するためのアプリ(県公式スマートフォンアプリ「SAGATOCO」)を開発するなどの対策を行っている。食生活については、県内でも食習慣には差があり、例えば海に近いところは魚とあわせて醤油、塩の摂取量が多いといった傾向がある。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

広域連合として下表に示す保健事業に取り組んできた。

図表1 一体的実施前から取り組んでいる事業
実施形態 事業名 事業内容
結果を市町へ提供し、市町での活用を促したもの 健康診査事業 後期高齢者の健康診査は、広域連合から県医師会及び市町に委託して実施しており、その結果を基に健康状態不明者対策、事業対象者の把握、事業展開を各市町で実施してもらうように依頼している。
歯科健診事業(76歳の節目健診) 平成30年度から76歳を対象に実施しており、結果を各市町に情報提供し、今後の一体的実施にも活用するように促している。
要受診者指導事業 広域連合から民間事業者への委託を行い、血圧および糖尿病関係について、健診結果の有所見者のうち、医療機関未受診者に対して受診勧奨を行っている。その受診勧奨に関する訪問結果の情報を、毎年度市町に提供している。
医療費分析事業 以前からKDBを使ったデータ分析の結果を市町に展開している。
市町への委託により実施したもの 糖尿病重症化予防事業 平成30年度に3市町に委託し、モデル事業として「市町の保健師」が主体で、糖尿病関連の受診勧奨・訪問を実施してもらった。今年度からは一体的実施の一環として、10市町に重症化予防の取り組みとして受診勧奨・訪問を行ってもらっている。

一体的実施の取り組み経緯

一体的実施に取り組むにあたっては、制度施行初年度ということもあり、事業の交付基準の解釈等に関して、細かな点については随時国へ照会することとなったため、市町との共有・調整にも時間を要した。このため、市町への支援内容の中で示すように、交付基準の説明や各種記載例、Q&Aの作成、市町個別訪問による計画書作成支援等を行った。

また、市町への支援を進めるうえで、国から伝達される一体的実施の情報について、後期高齢者医療担当部署には比較的必要な情報が伝わっていたが、介護担当部署に情報が伝わっていないということが課題となり、広域連合としても市町に情報提供するうえで意識して進める必要があった。

対策として、市町へ会議等の連絡をする際には、介護担当部署の方にも出席を依頼し、市町の関係部署で情報の格差が生じないようにした。

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3.一体的実施の推進体制

広域連合の体制

組織体制として、下表のとおり、事務職2名・保健師1名で事業を進めている。

図表2 組織体制
担当 職種 業務内容
副課長兼企画・保健係長 事務職 統括、県・国保連合会との調整
企画・保健係 事務職(主査) 一体的実施に関する事務全般
保健師(会計年度任用職員) データ処理・分析等

一体的実施に関するデータ処理・分析は、保健師が実施している。操作・分析・統計の知識等に関しては、担当保健師のスキルが高いことで効果的な分析ができている。

関係団体との連携

佐賀県広域連合では、以下の関係団体と連携を実施している。

図表3 関係団体との連携

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4.市町への支援の実施状況

市町との直接対話

市町との直接対話は、今年度の一体的実施の取り組みの有無にかかわらず、すべての市町を対象とする連携会議の場での意見交換と、市町への個別訪問の二つの形で行っている。

市町との連携会議の際の意見交換会

企画・調整を担当する保健師による意見交換会を行い、実施状況・課題等の共有を行っている。意見交換会には一体的実施に取り組んでいない市町も同席できるようにし、その結果、会議を通じた参加者の繋がりが生まれ、以降の市町での情報のやり取りの契機となっている。

市町個別訪問

国保連合会と共に市町を訪問し、一体的実施の計画書の作成支援や、KDBの操作研修を行っている。また、一体的実施に取り組んでいない市町に対しても、KDBの操作研修を実施している。

市町向けセミナー・研修会

テーマ選定に関しては、市町が希望する実施内容を事前に調査したうえで実施している。 一体的実施に取り組む前の平成31年度に糖尿病重症化予防に関する研修を開始しており、その時に取得したアンケート結果をもとに、市町の要望を把握して研修に組み込んでいる。直近では令和2年10月に、令和3年度に向けた要望確認という調査を行った。調査は毎年、翌年度予算化の時期である秋までに行っている。

これまでに実施している研修会としては以下のようなものがある。

歯科、フレイル、服薬等について

・国保連合会・県と連携して研修会を開催

・三師会等へ講師派遣を依頼、テキストは講師が作成

・国保連合会からKDBの活用方法等について説明

実施市町の事例報告

・企画・調整担当保健師に依頼、テキストは担当保健師が作成

市町が行う研修会等の支援

市町に対してアンケートを取ったところ、講師を広域連合から派遣してほしいという要望もあり、来年度もいくつかの市町からの依頼があり派遣を予定している。

講師の選定から依頼を受ける場合は、市町が希望するテーマを確認し、三師会等へ派遣依頼を行っている。

医療費や健康課題の分析に関する市町の支援

従来から医療費分析事業として、疾病の大中小分類で市町ごとにKDBを使ったデータ分析の結果を示している。今後は、市町ごとの課題を分析していくうえで、市町でKDB操作ができるようにすることが必要であり、市町へ訪問して、KDB操作の説明等を行っている。

市町からは「佐賀県の後期高齢者全体としての分析を行ってほしい」といったニーズがあり、広域としては、今後、必要な情報提供・支援は行っていきたいと考えている。

その他の支援

特別調整交付金申請手続きに関する支援

市町との直接対話で挙げた、連携会議での説明や市町への訪問による計画作成の支援を含め、交付金申請の手続きが円滑に行えるよう以下のような支援を行った。

記載例の作成

市町の事業計画書作成の際に記載例として、先行して県内市町が作成した好事例を参照し、交付基準のポイントを参考に補足した資料を他市町へ提供した。

市町からのQ&A整理

事業内容(交付基準)に対する市町からの質問事項について、国へ照会・確認を行い、回答を市町に共有するとともに、Q&Aを整理して市町へ提供した。

図表4 Q&Aの内容例(佐賀県広域連合提供資料から抜粋)
質問 回答
【1】地域を担当する医療専門職について、交付基準には「常勤・非常勤を問わない」とあるが、Q&Aでは「保健師等の人件費(常勤職員を除く)」との記載があるため、基準どおり「常勤・非常勤を問わない」との考えで良いか確認したい。 【1】一体的実施事業における地域を担当する医療専門職については、「常勤・非常勤を問わない」
【2】通いの場で新たな質問票を活用するため、用紙代等を介護の予算で計上。地域を担当する医療専門職を配置し、その質問票を活用したポピュレーションアプローチを実施する場合、一体的実施の事業実施形態は人件費のみに着目して「全て広域連合からの委託事業で実施」と判断して良いか。 【2】ご認識のとおり。

訪問支援

市町への訪問に際し、事業内容の説明や計画書の作成支援を行った。

・令和2年5月:一体的実施に取り組む10市町に、計画書の作成支援を実施

・令和2年7月:一体的実施に取り組んでいない10市町に、次年度以降の取り組みに向けて説明を実施

市町の事業の進捗状況の管理

進捗状況のチェックシート(国で示されている「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン別冊事例集」を一部加工して使用)を作成し、スケジュールと合わせて進捗状況の確認を行っている。チェックシートに対しては、市町から「これを機に未着手の内容についての整理、共有ができた」等の意見があった。

図表5 進捗状況のチェックシート「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施 進捗管理シート」(部分)
  (佐賀県広域連合提供資料から抜粋)

また、市町に対して実施状況や課題を把握するためのヒアリングを行っており、令和2年10月に中間進捗確認、令和3年2月実績見込確認を行った。

令和2年度一体的実施に取り組んでいない市町への支援

令和2年に一体的実施に取り組めなかった市町に対しては以下の事業を実施し、令和3年度以降の事業実施につなげていく予定である。

訪問指導事業

糖尿病重症化予防・健康状態不明者について、各市町の保健師が訪問指導を行っている。対象者の抽出は広域連合で実施し、訪問については各市町へ委託して実施しており、一体的実施開始以降は、対象者の抽出から市町の分析状況に応じて市町で対応してもらう予定。

低栄養の指導講師派遣

以下の手順により、通いの場への派遣を希望する市町に対して実施している。

・広域連合から民間事業者に講師派遣を委託

・市町に通いの場等への周知、参加申請受付等を依頼

・広域連合で日程調整して栄養講話、運動実践等のテーマで講師を派遣

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

広域連合から市町の支援に関しては、遅れや中止といった影響までは出ていないが、個々の市町の状況を見ると、各市町とも特にポピュレーションアプローチの基盤となる通いの場等の開催が出来ず、計画どおりの実施が出来ていないところがほとんどだった。

また、令和2年度に一体的実施に取り組んでいない10市町に対する前述の低栄養の指導講師派遣については、当初、通いの場40カ所での実施を想定して予算化していたが、実績としては半数程度にとどまる見込みである。

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5.事業推進のための取り組み

ノウハウのマニュアル化

広域連合内でのノウハウのマニュアル化は行っていないが、市町の業務が円滑に進むよう、前述の記載例等の作成、Q&A整理、計画書作成の際のポイント整理、進捗確認資料(チェックシート)の作成などを行っている。

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

市町の担当保健師からは、「今までも特定保健指導に重点を置いてきていたが、後期高齢者の訪問・指導をすればするほど、前期高齢者等、国保世代の被保険者に対してもっと力を注いでいかないと、将来的にその方たちの医療費が高額になり、最終的に後期世代の医療費として重くのしかかってくるということを感じている。」といったコメントをいただいており、一体的実施への取り組みを通じて意識の変化がみられた。

課題と今後の対策

佐賀県広域連合は構成する市町が少なく、個々の市町とは比較的綿密な連携の下で一体的実施に取り組んでいるが、さらに、市町毎に異なる課題・取り組み内容について把握し、支援を継続する必要があると考えている。今後は、県による「医療・介護総合データベース分析事業」の分析結果を踏まえ、各市町における企画立案への支援、また、継続して市町の要望に応じた研修を県及び国保連合会と調整しながら実施していく。

医療機関との連携強化や、市町に対する情報発信では、広域連合の組織だけで十分にできないことも多い。このため、今後は、医師会との調整や好事例の横展開、トップセミナーの開催等について、県に対しても積極的な関与を依頼し、事業推進につなげる必要がある。

また、佐賀県では、介護保険者の広域化が進んでいるが、現状では一体的実施を進めるうえで介護保険者との連携が十分できているとは言えず、さらに連携を図っていく必要がある。