(大館市の紹介コメント)

~ 秋田県 大館市 ~

  • 高齢化率が高く、市周辺部では高齢化率が5割を超える地区もある。
  • 実施圏域ごとに社会福祉法人に事業を委託することで、限られた体制の中で可能な限り多くの対象者への介入を実現している。
  • 一体的実施事業開始にあたり事業実績記録様式などを独自に作成している。

大館市 観光キャラクター

■ 大館市の概要

人口 70,902人 (令和2年3月31日時点)
(高齢化率39.9%)
後期高齢者被保険者数 15,288人 (令和2年4月1日時点)
後期高齢者1人あたり医療費 716,180円/年 (令和元年度)
後期高齢者健診受診率 13.8% (令和元年度)

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1.地域特性

大館市の概要

大館市は、人口約7万1千人で、秋田、青森、岩手の三県が接する要衝の地にあり、県北部の政治、経済、文化の中心都市として発展してきた。

大館市の高齢化率は39.9%で、全都道府県で最も高い秋田県の高齢化率の37.9%を上回っており(令和2年7月1日現在)、市の中心部では高齢化率が3割程度であるが、周辺部では5割を超えている地区もある。

医療費、介護給付、健康課題の現状

大館市の一人あたりの後期高齢者の医療費は全国平均に比べて低いが、悪性新生物による死亡率が高いこと、医療費に占める循環器疾患及び筋・骨格疾患の比率が高いことなどが課題として捉えられている。また、高額レセプト、長期入院レセプトの割合も上昇している。

国民健康保険の特定健康診査、後期高齢者の健康診査、各種がん検診における受診率は全国平均に比べ低い水準にあり、健康意識の向上が今後の課題として挙げられている。

また、女性の平均寿命が全国平均とほぼ同水準であるのに対し、男性の平均寿命は全国平均と比較して短く、大館市全体の健康増進計画策定の際に実施した市民に対するアンケート結果からは、健康課題に男女差があることが見られた。男性の健康面の課題としては、塩分・アルコール摂取量が多いこと等が挙がっているが、健康講座やサロン等への男性の参加は少なく、男性に対するアプローチの方法が課題となっている。

また、市の中心部とそれ以外では、健康に関する講座などへの関心の高さに差が見られ、講演会等を開催しても、市の中心から外れた地域では参加率が低くなっている。近隣の人々との交流が少ない地域もあり、こうした地域では独居高齢者が多いことなども加わり、コミュニケーションが取りにくい、安否確認が難しいといった課題がある。このような課題を踏まえ、生活支援コーディネーターが各地区の助け合い活動やサロンの支援活動を行っている。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

大館市では、一体的実施以前の高齢者向けの保健事業や介護予防について、以下の事業を通して取り組んで来た。

生きがい健康づくり支援事業

在宅の高齢者を対象に、趣味活動やレクリエーション等を通じて生きがいと社会参加の促進、さらに介護予防の視点を持った活動で、要介護状態への進行の予防を図っている。

介護予防・通いの場づくり事業

住み慣れた地域の身近な通いの場で行う介護予防や運動機能向上を取り入れた活動を支援している。

そのほか以下の活動が挙げられる。

・後期高齢者の健康診査、後期高齢者歯科健康診査

・重複・頻回受診者訪問指導

・ヘルスメイト学級、ヘルスメイトによる伝達講習

・介護予防普及啓発事業による健康教育、健康相談

・各地域包括支援センターが主催する地域の会館等を利用した認知症予防教室

*ヘルスメイト(食生活改善推進委員):食を通した健康づくりの全国的なボランティア活動。

一体的実施に初年度から取り組んだ背景

大館市では、人生100年時代を迎えると言われる現代において、高齢者の特性の理解に基づき、地域において自立した生活を営むことができる高齢者を地域全体で支える仕組みを構築することが必要であると考えていた。

令和2年度の国からの一体的実施の特別調整交付金により予算の目処が立ち、後期高齢者医療担当課への保健師の配置及び外部委託による人員確保が可能となったことから、令和2年初年度からの一体的実施の取り組みに至った。

一体的実施においては、初年度からの取り組みのため、参考事例やマニュアル、様式例などが少なく、全てを一から整えることに苦労した。また、実際に取り組みを開始すると、事業計画の立案段階や予算要求時には気付かなかったことによるつまずきがあり、取り組みを進めながら、不備や不具合について随時検討し、修正を行った。

一例としては、一体的実施の事業を外部委託する際の、委託先法人との個人情報の取り扱いに関する検討が不十分で、スタートしてから調整・整備を行うこととなった。

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3.一体的実施の推進体制

庁内の体制

大館市の令和2年9月現在の一体的実施における関連部署の連携状況は図表1のとおりである。

図表1. 関連部署と連携内容 (業務連携の範囲)

市民部保険課が主担当部署となり、事業の企画調整・進捗管理、健康課題の分析、事業対象者把握、高齢者に対する個別支援、委託事業の支援等を行っており、連携部署は福祉部長寿課と健康課で、高齢者に対する個別的支援の一部を担っている。また、3つの社会福祉法人に高齢者に対する個別的支援の一部と通いの場等の関与を外部委託している。

関係団体との連携

医師会、歯科医師会、薬剤師会とは、一体的実施について情報を共有しており、令和2年度は、薬剤師、歯科衛生士に通いの場での健康講話の講師を依頼している。

令和2年度に事業を実施している圏域では、圏域での地域包括支援センター運営を委託している社会福祉法人に、事業の一部を委託している。

また、フレイル予防に力を入れている地域の民間病院と連携して、取り組みを推進しており、令和2年度は、通いの場で実施する医療専門職による健康講話への講師派遣(理学療法士、言語聴覚士等)を依頼した。令和3年度は、講師派遣のほか、上述の病院が通いの場での地域のフレイル実態調査の実施を予定している。

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4.事業実施状況

事業実施状況(ハイリスクアプローチ)

ハイリスクアプローチとしては、大館市では5つの事業を展開している。

図表2. ハイリスクアプローチの事業内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
低栄養防止 ハイリスク対象者を選定し、3~6か月間に3回、訪問により栄養指導を行う。初回支援にてアセスメントの実施、栄養相談・指導、行動目標と行動計画の設定をし、2回目でそのフォロー、3回目で目標達成の確認を行う(未達成の場合は目標や計画の見直しを実施し、支援を継続)。
医療機関(医科・歯科)の受診勧奨、介護部門への情報提供など必要に応じた支援を行う。
3/7
生活習慣病等の重症化予防に関わる相談・指導(糖尿病性腎症重症化予防以外) 高血圧未治療者から対象者を選定し、訪問指導を行う。指導票に沿って現在の状況を聞き取り、必要に応じた保健指導を行い、訪問から1~3か月後に受診・改善行動を確認する。 3/7
糖尿病性腎症重症化予防相談指導 糖尿病治療中で、腎機能低下が見られ、保健指導が必要と糖尿病専門医が判断した対象者に対し、面談により保健指導・栄養指導を行う。また、指導内容の理解度を確認し、必要に応じたフォローを行う。
※令和2年度は実施を見送った。
3/7
重複・頻回受診者、重複投薬者対策 対象者を選定し、訪問指導を行う。
指導票に沿って現在の状況を聞き取り、必要に応じた保健指導を行う。
3/7
健康状態不明者対策 健康状態が確認できない者に対し、医療専門職が訪問し、健康状態を確認する。事前に訪問案内と後期高齢者の質問票を郵送し、訪問を行う。
質問票を用いて重症度や虚弱の進行の実態を把握し、アセスメントシート(図表3)により、医療リスク・介護リスクを評価し、必要に応じ医療受診勧奨、地域包括支援センター等の紹介などの支援、健診受診や通いの場への参加勧奨、保健指導等を行う。
3/7

大館市では、ハイリスクアプローチの事業を直営のみで行うための人員を確保することが難しく、委託と併用して取り組むこととした。令和2年度は、日常生活圏域の全7圏域のうち3圏域で行うこととし、その3圏域ではハイリスクアプローチの一部事業について、地域包括支援センターの運営を行う社会福祉法人に委託している。

ハイリスクアプローチについては地域に出向く事業のため、地域包括支援センターにおける生活支援コーディネーターとの連携が欠かせないが、大館市では、生活支援コーディネーターが委託先と同じ法人に所属することから連携が取りやすく、地域に介入しやすい体制となっている。

また、地域ごとの主担当者は、3圏域とも委託先法人の管理栄養士があたっており、これについては、事業の実施を検討する過程において、3圏域での取り組みの整合性をとり、検証をしやすくするために職種を合わせた方がよいと考え統一したものである。

健康づくりのベースとして、地域住民の関心も食事に関する内容が多く、主担当者として管理栄養士がいることにより、地域住民にとっては気軽に食事に関する専門的な話をしてもらえる、といった効果があった。

図表3. 健康状態不明者のアセスメントシート(大館市より提供)

事業実施状況(ポピュレーションアプローチ)

ポピュレーションアプローチとしては、大館市では4つの事業を展開している。

図表4. ポピュレーションアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
フレイル予防普及啓発 通いの場において、栄養や運動、口腔機能等に関する健康教育や健康相談を行う。 3/7
通いの場等の参加者の健康状態の把握 身体測定や握力測定、質問票の活用により、高齢者の健康状態や低栄養、筋力低下等フレイルの状況等を把握する。 3/7
通いの場等における健診・医療受診勧奨 「フレイル予防などの健康教育・健康相談の実施」や「参加者の健康状態の把握」を踏まえ、必要に応じて健診や医療の受診勧奨などを行う。 3/7
通いの場等における介護サービス利用勧奨 「フレイル予防などの健康教育・健康相談の実施」や「参加者の健康状態の把握」を踏まえ、必要に応じて地域包括支援センターへの相談、介護サービスの紹介などを行う。 3/7

大館市では、ポピュレーションアプローチとして健康教育や健康状態の把握のための各種測定等(身体測定、握力測定、質問票の実施等)を実施し、さらに年に数回、通いの場である各サロンへ薬剤師や理学療法士、歯科衛生士等の外部講師を招き、より専門的な健康講話を実施している。

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

大館市は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大地域ではなかったことから、一体的実施においては若干の開始の遅れや実施回数の減少等はあったものの、大幅な計画の変更はなかったが、ハイリスクアプローチにおいて、一部実施を見送った取り組みがあった。

通いの場等では、検温や手指消毒・使用物品の消毒、換気などを徹底し、スタッフの講話時の飛沫防止などにも注意しながら実施した。感染への不安が強い参加者も多く、感染状況を踏まえ開催を中止した会場も数か所あった。

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5.事業推進のための取り組み

周知と広報

図表5. 地元新聞の記事(令和2年10月17日 北鹿新聞社)
    (大館市より提供)

事業推進のための取り組みとして、令和2年度は一体的実施の事業が開始されたことの市民への事前周知が十分でなく、市民の一体的実施の事業に対する認知度が低かったことが、次年度に向けた課題となった。

一方、広報活動としては、通いの場における健康教室等の開催時に地元新聞社や地元ケーブルテレビに取材を依頼するなど、メディアを活用し、幅広く地域住民への啓発につなげられるよう努めた。

課題と方針の共有

大館市では、一体的実施に関係する主担当部署の市民部保険課と連携している福祉部長寿課、福祉部健康課の3課の執務庁舎がすべて異なる場所にあるため、日頃の細かな連携が取りにくいことが課題であり、文書管理システムによる関係文書の共有やメールの活用等、可能な限りコミュニケーションツールを活用することで、柔軟に情報連携ができるよう工夫している。

併せて、主担当部署である市民部保険課が、どの取り組みを、どの部署で、どの時期に実施するのかを把握し、完了後は担当者から市民部保険課へ報告する体制を構築することで、進捗状況の確認をしている。

ノウハウのマニュアル化

マニュアルについては、各取り組みで基本的な流れや方法についてとりまとめた実施手順書を作成し、平仄を合わせた事業展開ができるようにしている。

また、委託事業の取り組みについては、委託先法人が圏域ごとに異なるため、具体的な内容は各法人に一任している。例えば、ハイリスクアプローチで個人宅に訪問する時に、どのように何人でどういう職種が行くかについてや、対象者との話の進め方などは具体的な内容は示しておらず、各法人の方法に一任している。実際の方法については、数か月ごとに打合せを開催して情報交換等を行うほか、担当者間での直接対話をすることもできている。

なお、事業の実施記録や訪問記録、個別的支援における個人指導記録等の様式例がなかったことから、図表8事業報告書(日報)に示すような様式を独自に検討して作成した。

図表6. 事業実施報告書(日報)の様式(大館市より提供)

後期高齢者の質問票の活用

ハイリスクアプローチの「低栄養予防の取り組み」「健康状態不明者の訪問」の対象者と、ポピュレーションアプローチの通いの場等の参加者に対し、質問票を使用して健康状態を把握している。特に、ハイリスクアプローチでは、既往歴や自覚症状、かかりつけ医の有無などの設問を追加し、不足している情報を補っている。

質問票の活用にあたっては、令和2年度は事前に要フォロー対象者の基準を定めていなかったため、健康状態把握から効果的なフォロー支援へとつなげにくかったことが課題として挙げられることから、今後基準を明確化していきたいと考えている。

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

一体的実施の取り組みについては、初年度ということで「まずは実施してみる」というチャレンジ精神で手探りながら実施し始めたが、概ね計画通り実施できたという感触を得ている。

外部への業務委託を通じて現行の体制への影響を極力抑えつつマンパワーを確保することにより、より多くの対象者に介入することができたことから、今後は委託内容の見直しや委託料と委託形態の検討、委託先の確保などについて検討を進め、よりよい体制の構築を目指したいと考えている。

また、通いの場においては、年に数回、薬剤師・理学療法士等を外部講師として招き講座を実施している。ここでは、通いの場への参加者が健康にまつわる普段気になることや心配なことについて、「より専門的な人に質問することで解決できた」、「知らなかったことを教えてもらうことができて良かった」といった反応があり、参加者の健康づくりに役立ててもらっているという手応えを感じている。

このような通いの場への参加者は、もともと健康意識の高い人が多く、そのような方々を経由して正しい情報や知識が地域に伝達されることによって、地域全体の健康づくりの意識の高まりにつながっていくのではないかと考えている。

課題と今後の対策

令和2年度の一体的実施の取り組みでは、地域の認知症患者(認知症の疑いを含む)への支援に関する課題が明らかとなった。

具体例として、低栄養の取り組みや健康状態不明者として訪問対象となったことにより、認知症で本人または家族が困っていることが明らかになったということが数件あった。このようなケースは、これまでの保健事業の中ではあまり関わることがなく、今後は地域で過ごす軽度の認知症患者への保健指導の方法の検討や医療と介護との連携のより一層の強化などの対策を講じる必要があるものと考えている。

また、大館市では通いの場等の運営を地域住民が主体的に運営しており、参加者の要望に応じて開催の内容を決定している。このため、参加者の反応も一様ではなく、管理栄養士の訪問を役立つと捉えているところもあれば、勉強したくて集まっているわけではないので、講話や測定などはいらないというところもある。今後はこのような通いの場への関与方法や関与頻度などについて、柔軟に対応できるような実施方法を検討すること、併せて市民に対する一体的実施の事業の趣旨についての周知を図ることなどが重要と考える。

令和2年度の一体的実施については、市内の一部の圏域での実施となったことから、ハイリスク対象者で個別的支援の抽出基準に該当するも介入しなかったケースもあり、今後は市内全圏域で一体的実施を推進する体制を整えていく必要があると考えている。