(楢葉町の紹介コメント)

~ 福島県 楢葉町 ~

  • 東日本大震災により住民の4割が町の外に在住しているが、帰町も進んでおり、高齢者も町での生活に戻りつつある。
  • 町の健康増進計画にも記載されている「自分の健康を自分で守る」ということの実現するため、通いの場でも健康教育を通じて参加者に「健康の伝道師」になってもらい、健康への意識付けを広めている。
  • 通いの場に医療専門職が定期的に訪問するようになり、参加者と顔の見える関係が構築でき、「気軽に相談できる相手」と認識してもらえるようになった。
マスコットキャラクター ゆず太郎

マスコットキャラクター
ゆず太郎

■ 楢葉町の概要

人口 6,784人 (令和2年4月1日時点)
(高齢化率33.7%)
後期高齢者被保険者数 1,165人 (令和2年4月1日時点)
後期高齢者1人あたり医療費 745,536円/年 (令和元年度)
後期高齢者健診受診率 23.6% (令和元年度)

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1.地域特性

楢葉町の概要

楢葉町は、福島県東部の太平洋に面した浜通り地方のほぼ中央に位置し、南はいわき市と接している。太平洋岸特有の気候であり、積雪は年1~2回程度と、東北としては比較的温暖で住みやすい気候に恵まれている。

平成23年3月の東日本大震災により、全町民へ避難指示が出され、役場機能も一時いわき市・会津美里町に設置された。平成27年9月に避難指示が解除となり、現在、帰町が進みつつある。一方、避難した際にいわき市内に役場、仮設住宅があったこともあり、いわき市へ生活基盤を移した方もいる。

住民の6割が町内に住んでおり、3割の方はいわき市内、残りはその他の県内、県外に居住している。比較的高齢の方が楢葉町での生活に戻っており、高齢化率は町内在住者のほうが高い。

近隣都市のいわき市は、車で数十分(20~30km)ほどの距離で、普段から買い物や医療機関に行く人が多い。交通手段は、バスや電車といった公共交通機関を使うことは少なく、高齢者を含めて車で移動することがほとんどで、運転できない高齢者は家族や知人に送迎してもらうことが多い。

避難指示が解除されて5年が経過し、医療機関のサービスや町内の地域における行事や活動は再開されており、高齢者の通いの場は18箇所で開催されている。

医療費、介護給付、健康課題の現状

医療費の状況

後期高齢者一人あたり医療費の福島県内の市町村(59市町村)中の順位の推移をみると、平成28年が4位、29年が12位、30年が29位と下がっていたが、昨年度および今年度は16位となっている。

医療費を高める要因としては、糖尿病や慢性腎不全(血液透析)の影響が大きいと捉えている。また、健診未受診者の一人あたり医療費が、健診受診者と比較すると高額になっているため、健診・検診の受診を積極的に勧めて、早期発見・早期治療や生活習慣の見直しを啓発することが大切だと考えている。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

通いの場での取り組みとして、サッカーのナショナルトレーニングセンターであるJヴィレッジ等と協働しながらアクアビクス(水中での運動)等の各種の運動教室を実施しているほか、介護予防教室を社会福祉協議会が実施している。

また、社会福祉協議会では週に3~4回、10時~15時まで「地域交流サロン」を開催している。地域交流サロンでは、比較的元気な高齢者が毎回20人~30人前後参加し、昼食を自分たちで作り、レクリエーションをして帰るというもので、必要な場合は送迎も行っている。

一体的実施に初年度から取り組んだ背景

一体的実施の制度内容をみて、これまでに実施してきた取り組みをそのまま一体的実施事業に移行させることができることに気付き、初年度から取り組むこととした。今までは、64歳までは一般財源、65歳以上は介護、75歳以上は後期高齢といったように、事業内容は同じであっても、対象者によって歳出財源を分けなければならないという煩わしさを感じていたが、統合的に実施することによって自然な流れで取り組むことできた。楢葉町は、国保・後期・介護・保健部門が一つの課内に存在するため、意思統一を図ることが容易であるということも導入に踏み切ることができた背景にある。

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3.一体的実施の推進体制

庁内の体制

一体的実施に関連する庁内の担当はすべて住民福祉課に集まっている。担当者の数としては国保年金係が2名、介護保険係が3名、保健衛生係が3名の計8名で、保健師2名のうち1名が事業の企画を担当している。担当者全員が同じ課におり、普段から一体感を持って活動しているため、意思疎通・合意形成を図りやすい環境にあり、役割分担や体制図にとらわれずに物事が進む関係ができている。

関係団体との連携

下表に示すような連携を外部の団体と行っている。

図表1. 関係機関と連携内容(業務連携の範囲)

外部の関係機関とは、一体的実施以前に実施していた各種保健事業等での関わりを通して、お互いの関係性が構築されていたため、従来からの関係の延長で取り組みを進めることができた。そのため、「今までは64歳までしか事業を実施できなかったが、年齢の壁がなくなった」ということを共有したのみで、特別な打ち合わせを設けることなく連携が継続している。なお、医療機関数が少ないこともあって、医師会や歯科医師会、薬剤師会を通じた調整よりも個々の医療機関と直接に話をすることの方が多い。

また、表に示したほかには、以下のような機関との連携を行っている。

相双保健福祉事務所:栄養・口腔衛生の分野を中心に連携を図っている。令和2年度の糖尿病性腎症重症化予防や低栄養の方々への保健指導については、相双保健福祉事務所から管理栄養士・歯科衛生士を派遣して頂いている。

外部有識者との連携

福島県立医科大学とはフレイル対策や健康増進に関する事業を協働で実施しており、住民健診の場でのフレイルチェックやフレイル予防教室の実施に際しては様々な協力を頂いている。

周辺の市町村との連携

双葉郡の8町村が集まる保健担当連絡会があり、各町村と保健事業に関する情報共有をしている。また、相双保健福祉事務所の取り纏めにより、福島県浜通りの相双地区管内の12市町村とも保健事業の情報交換・共有を行っている。

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4.事業実施状況

事業実施状況(ハイリスクアプローチ)

楢葉町では、ハイリスクアプローチ(高齢者への個別支援)として、6つの事業を展開している。

図表2. ハイリスクアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
口腔機能低下予防 オーラルフレイルに関する相談・指導を実施し、事業開始時と3ヶ月後評価時に口腔内の状態を把握し、評価する。 1/1
服薬に関わる相談・指導 多剤投与状況を改善するための相談・指導を実施し、事業開始時と3ヶ月後評価時に処方状況を確認し、評価する。 1/1
生活習慣病等の重症化予防に関わる相談・指導(糖尿病性腎症重症化予防以外) 生活習慣病の重症化を予防する相談・指導を実施し、事業の開始時と3ヶ月後評価時に検査数値を把握し、評価する。 1/1
糖尿病性腎症重症化予防相談指導 糖尿病性腎症の重症化を予防するための相談・指導を行い、事業開始時と3ヶ月後評価時に検査数値を把握し、評価する。 1/1
重複・頻回受診者、重複投薬者等への相談・指導の取り組み 重複・頻回受診を改善する。事業の前後(開始時と3ヶ月後評価時)で医療機関への受診状況を把握し、変化をみる。 1/1
健康状態不明者対策 健康状態が不明な者を抽出し状況を把握して、必要に応じ健診受診・医療機関受療を勧奨する。 1/1

事業実施状況(ポピュレーションアプローチ)

楢葉町では、ポピュレーションアプローチとして、4つの事業を展開している。

図表3. ポピュレーションアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
フレイル予防普及啓発 通いの場において、地域の課題に対応した健康教育や健康相談を実施する。 1/1
通いの場等での低栄養、筋力低下、口腔機能低下・オーラルフレイル等の状態に応じた指導支援 総合健診時に歯科健診及び後期高齢者の質問票を実施し、フレイルの状況を総合的に把握し、保健指導等に活用する。 1/1
通いの場等における健診・医療受診勧奨 健康相談や健康チェック等で支援が必要とされた高齢者に対して、健診や医療の受診勧奨を実施する。 1/1
通いの場等における介護サービス利用勧奨 健康相談や健康チェック等で支援が必要とされた高齢者に対して、地域包括支援センターへの相談、介護サービスの紹介などを実施する。 1/1

行政区ごとに開催されている通いの場(18カ所)に保健師が出向き、参加者の血圧測定のほかに講話等を行い、地区ごとの個別性にあわせた健康教育を実施するとともに、個別健康相談にも応じている。参加者からの相談内容によっては、医療機関での受療勧奨や、介護保険サービスの利用など、他機関へとつなげている。

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

集団を対象とした事業では、人が集まるという形態から様々な制約があり、慎重にならざるを得ないため、「通信教育型」の保健指導を検討している(ヒアリング実施時点)。令和3年1月頃から、後期高齢者の質問票で体力・低栄養・口腔機能等に心配があった20名程度を対象として、在宅でできる保健指導を実施する予定である。毎回テーマを変えたテキストを準備し、テキストの内容を実行したらカレンダーにチェックをしてもらう形式を取り、対象者を集めるのではなく、医療専門職が出向いてフォローすることで、脱落がないようサポートしていきたいと考えている。テキストの内容は、テキストを受け取った日から手軽に取り組むことができそうなものを取り上げることに注力している。

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5.事業推進のための取り組み

周知と広報

「健康の伝道師」の育成

健康教育では参加者一人ひとりが『健康の伝道師』となって、知識や健康意識を広めてもらえるようにすることが重要と考えている。このため、参加者に健康にかかわる知識を分かり易く紹介し、それを周囲の人に自慢して頂くような働き掛けをしている。

伝道師の育成方法は、手探りでいろいろなことを試している。例えば通いの場に参加している方に、冒頭に簡単なクイズ(「夜寝る前にご飯を食べるのは何時間前がよいか?」といったもの)を出して、回答を教えたあと、次週までに同じクイズを5人に出してもらうようにお願いするといったことをしている。

また、中学校の養護教諭と協働で健康講座を定期的に開催している。これは、中学校での給食の時間に教室に設置されているモニターを通して、養護教諭とともに『テスト前の睡眠の時間』や『携帯との付き合い方』といったテーマの話をして、生徒たちの家族にも子どもたちを通して様々な情報をつたえてもらおう、という試みを行っている。こうした取り組みはすぐに成果に結びつくものではないので、長期的な視点で継続していくことが大切だと考えている。

ヘルスリテラシーの向上

健康づくり全般において、自分で判断できる能力を養ってもうことが重要であり、町の健康増進計画にも「自分の健康を自分で守る」という記載がある。楢葉町には高齢者の一人暮らしや高齢夫婦のみの世帯も多く、高齢者が不安を抱くことなく過ごすことができるようにすることにもつながる。こうした考え方に基づき、5年後・10年後を見据えて「ヘルスリテラシー」を高めることに注力している。

ヘルスリテラシーを高めるということは、言い換えれば、いろいろなことに惑わされず、住民一人ひとりが情報を見る目を養うことである。楢葉町の広報の中でも折に触れてこのことを記載しており、前述の中学校での健康に関する教育も長期的にはそれにつながるものである。

広報媒体の工夫

住民への周知の媒体としては、広報誌(広報ならは)に1ページ分のスペースを確保して、月ごとにテーマを変えて、一体的実施に関連する内容も含みつつ、下図に示すような情報発信をしている。そのほか、町内のスーパーの買い物かごの底に、A4サイズのチラシを入れたり、商工会だよりに健康づくりに関するコラムを掲載してもらうなど、様々な工夫をしている。

図表4. 広報誌2020年6月号 口腔衛生に関する記事 (資料:楢葉町より提供)

地域のデータ分析と活用(KDBの活用状況)

KDBで町外居住者も含めて医療費等の情報を把握することはできているが、KDBの機能だけでは町内居住者・町外居住者を分けた解析はできないという課題がある。

KDBの活用状況としては、それぞれの世代に合わせた情報発信をする目的で、年齢階層・性別ごとの違いを確認している。また、がん検診の受診情報や歯科健診の結果も併せて分析し「この世代はこの部分に注意」という情報提供を行うための資料作りに活用している。

後期高齢者の質問票の活用

口腔機能低下予防の取り組みの中で、心身機能(フレイル)及び口腔内の状況を把握する目的で、後期高齢者の質問票を活用している。事業の実施が可能な人数の範囲内で、フレイル予防の事業対象者を抽出する必要があり、その対象者の線引きの設定が難しく課題となっている。

後期高齢者の質問票はデータ化して保管しているが、活用の方法については、検討するための時間の余裕が充分とはいえず、今後は広域連合からも有効な活用方法等の助言を受けて活用を進めたいと考えている。

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

令和2年度一体的実施に取り組んで、以前から楢葉町で実践していた保健事業等の取り組みの方法や考え方が間違っていなかったということを実感できており、他の事業では制度的な面で制約も多いと感じられる中で、一体的事業については比較的スムーズに実施できている。

また、一体的実施以前は、通いの場に医療専門職が、年に数回、不定期に訪問していたが、今年度から定期的に訪問するようになった。これによって参加者との間で顔の見える関係ができ、参加者から「気軽に相談できる相手」だと認識してもらえるようになったことが大きな成果と考えている。参加者からは、本人のことだけでなく、家族の認知症に関する相談や、「コロナ禍の中、子どもが帰省予定なのだが大丈夫か」といった内容等、新型コロナウイルス感染症に関する相談まで、様々な健康面での相談を受けるようになった。

医療専門職以外の担当者からは、「保健師と一緒に働くことで、これまで持ち帰りの質問が多かったが、その場で答えられるようになり、参加者からの信頼が高まった」とする意見が挙がっている。

課題と今後の対策

楢葉町には、いわば『片田舎』の特徴があり、住民がお互いに気遣い合いながら生活しているという、温もりのある人間関係がある。一方で、転入者にとっては、お互いの行動が筒抜けであることから居心地の悪さを感じてしまうという側面もある。通いの場への参加者に対してはこうした点を踏まえて、広報や実施方法を考えていくことが必要だと考えている。また、事業の参加者の固定化を防ぐため、テーマや内容を多様化させて、一人でも多くの方が参加できるようにすることを今後も心掛けていきたい。

いわき市に在住する高齢者に対して、福島県と協働で健康調査を実施したところ、災害公営住宅に住んでいる方と、住宅再建している方との間には生活意識の違いがみられた。住宅を再建した方は積極性が比較的高く、地域のサークル活動に参加している。それに対して復興公営住宅に住んでいる方はあまり活動に参加していない傾向が見られた。

町内に住んでいる方は、役場や社会福祉協議会があるため、何かと声をかけることができる機会が多く、人とのかかわりは町内の方が多い。避難先で生活している方については、住宅の種類などによっても差があるが、人とのかかわりが少ない生活パターンとなっていることが想定される。

現在、楢葉町以外の場所では保健事業を実施しておらず、町内居住者が主な対象となっているため、町外居住者に対してアプローチができていないことに対してはもどかしさも抱えている。高齢者の健康維持の観点からは、住んでいる場所に関わらず、いかに今の場所になじんでもらうかが課題であると考えている。例えばいわき市の住民のサークル活動はいわき市に避難した住民も受け入れていただいており、いわき市で参加してもらえるとよいと考えている。