(名張市の紹介コメント)

~ 三重県 名張市 ~

  • 大阪のベッドタウンとして発展し、今後急速な高齢化が見込まれる地域。
  • 住民主体の地域づくりの活動の取り組みが10年以上行われており、住民の地域づくり・健康づくりへの意識が高い。
  • 住民主体の高齢者サロン等通いの場の設置、従来からあった地域の健康づくりの拠点である「まちの保健室」の職員が関わることなどで、円滑に一体的実施をスタートしている。
マスコットキャラクター なばりのナッキー

■ 名張市の概要

人口 77,563人 (令和3年1月1日時点)
(高齢化率32.4%)
後期高齢者被保険者数 11,621人 (令和2年12月31日時点)
後期高齢者1人あたり医療費 806,456円/年 (令和元年度)
後期高齢者健診受診率 36.24% (令和元年度)

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1.地域特性

名張市の概要

三重県の西部に位置し、古くから交通の要所として栄えてきたところ。中心市街地の周辺に農山村地帯が広がり自然豊かな景勝地にも恵まれている。

昭和40年代以降に大阪方面への通勤圏として大規模な宅地開発が進み、急速に発展。昭和29年の市制発足当時、3万人であった人口は、およそ8万人となっている。平成12年をピークに人口は減少に転じている。かつての大阪通勤者の団塊世代が多数居住していることから、今後急速に高齢化が進むことが見込まれる。

市内は、丘陵地を切り開いて団地造成が行われたことから坂道が多く、市内の移動手段は車への依存度が高い。団地造成の時期が異なるため小学校区単位の15地域(日常生活圏域は5圏域)には、住民の年齢構成に違いがある。(『なばり市勢ガイド』他から一部抜粋、引用)

図表1. 地域ごとの高齢化率と75歳以上人口の割合(平成31年4月1日の推計、名張市提供資料から)

医療費、介護給付、健康課題の現状

外来の一人あたりレセプト件数は三重県より多いが、疾病別患者数でみると高血圧、脂質異常、糖尿病、筋骨格系疾患、精神とも被保険者数に占める割合は低い。健診の有所見者状況では、BMI、拡張期血圧、LDLコレステロール値の高い者が多く心臓の有所見者も多いことから、国民健康保険の保健事業と連動した切れ目ないメタボリックシンドローム予防の取り組みが求められる。

生活習慣については、農業従事者と、それ以外の住民では日常の運動量に差がみられる。

要介護認定に関しては、全国平均と比較して、軽度の要介護者(要支援、要介護1,2まで)の割合が少ないが、これはこれまで地域で住民主体の高齢者サロンが数多く実施されてきたことの成果があらわれていると考えられる。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

従来から市の委嘱による「健康づくり保健委員」という制度があったが、平成21年からは住民が主体となって健康づくりを進めることになった。地域づくり組織から健康づくりのためのボランティアを選出し、食事・運動のこと等健康づくりについて勉強してもらい、内容を持ち帰り地域の住民全体で実施するという取り組みを10年以上進めてきた。こうした経緯から、地域ごとに様々な住民主体の活動を行っており地域づくり、健康づくりに関する意識の高い住民が多いという地域性があった。

一体的実施の通いの場となる高齢者サロンの活動も住民主体に運用されてきたもので、地域ごとに実施している内容は、体操中心のもの、利用者が立ち寄ってお話だけするもの、月ごとに内容や行事を決めているもの等多様である。

市内の移動手段が車に依存するところが大きいが、通いの場となる高齢者サロンは、歩いて行ける範囲にあるよう、今の状況で125箇所程度設置されている(高齢者が主体となっている「高齢者サロン等」は125か所)。その多くは住民の徒歩圏内にあるが、地域づくり組織がコミュニティバスを用意したり、移動支援というボランティアサービスを住民で作ったり、近所の人が乗り合いをして通っている場合もある。

また、平成17年以降15の地区ごとに、地域の健康づくり・福祉サービスの拠点として「まちの保健室」が設置され、看護師、介護福祉士等の資格を持った職員が1か所につき2~3名配置されている。職員は子育てから介護まであらゆる世代の身近な相談に応じるほか、高齢者サロンの活動に対してもボランティアの協力を受け、可能な限り支援を行っている。

一体的実施に初年度から取り組んだ背景

以前から地域に保健師が入って健康教育や健康相談を実施していたため、既存の取り組みの延長で内容等を変えながら一体的実施を推進できると考えた。もともと地域の住民主体の活動は、国保や後期高齢者や介護予防というような行政の事業のくくりにはとらわれず、一体的に実施されている。住民主体の活動に引っ張られるような形で組織的な一体的実施のための関係ができていった。平成15年に地域づくり組織として住民主体の活動の音頭をとったのが市長だったが、市長のリードが今のような住民主導の形につながったといえる。

一体的実施にあたっては、行政側がいかに所属部署の垣根なく取り組みの体制をつくることができるかが課題であったが、庁内連絡会により部署を超えて、お互いの組織が各対象者に対して何をしているかを突き合わせ、住民と関わる現場と行政で具体的な事業レベルでのすり合わせを行うことで、今まで見えていなかったところが見えてくるようになった。

また、保健師が地区担当制であるため、地区ごとで実施のサロンや高齢者学級などに入りやすいことも、一体的実施の基盤となったと考えられる。

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3.一体的実施の推進体制

庁内の体制

名張市の令和2年9月現在の一体的実施における関連部署の連携状況は図表2のとおりである。

図表2. 関連部署と連携内容(業務連携の範囲)

関連部署の理事、室長、担当者等で構成する庁内連絡会により、一体的実施を推進するための計画策定を行うとともに、定期的に連絡会議を開催し、課題の共有や既存の関連事業との調整等を図りながら、高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施を推進している。福祉子ども部・市民部からは部長級の理事、地域環境部からは室長が参加しており、主担当部署は福祉こども部健康・子育て支援室である。

事業の実施体制としては、福祉子ども部では、ポピュレーションアプローチやハイリスクアプローチなど具体的な保健事業を実施している。また、市民部は、データの提供や対象者のリスト抽出、予算に関すること、地域環境部は地域の現状等に関する情報提供を担当している。

関係団体との連携

地域の医療関係団体としては、医師会、歯科医師会、薬剤師会と連携し、事業全体に対する助言や指導を得ている。また、医療関係団体とは、以前から地域単位のサロン等で医師や歯科医師に講話を依頼するなど関係があった。

このほか、名張市医師会運営の在宅医療支援センター(医師・歯科医師・薬剤師・介護支援専門員・理学療法士等の在宅医療に関わる多職種連携や開業医・総合病院等の医療機関と介護福祉関係者のネットワーク構築に取り組んでいる)の運営委員会に、令和2年度の一体的実施の事業計画の内容を紹介して、協力依頼を行った。在宅医療支援センターは、医療から介護、リハビリまで含めた関係者の方と意見交換できる場として、今後も令和2年度の報告を行って、次年度に向けての意見をいただくことを考えている。

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4.事業実施状況

事業実施状況(ハイリスクアプローチ)

名張市では、ハイリスクアプローチ(高齢者への個別支援)として、4つの事業を展開している。

図表3. ハイリスクアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
低栄養防止 後期高齢者健診実施後、健診結果説明会で、健診受診者全員に説明し結果を返す。 5/5
口腔機能低下予防 後期高齢者健診実施後、健診結果説明会で、健診受診者全員に説明し結果を返す。あわせて、質問票による口腔機能リスク者等を対象に保健師、管理栄養士、歯科衛生士が個別相談支援を実施し、高齢者サロン等、地域の「通いの場」への参加勧奨や、まちの保健室等による継続相談支援を行う。 5/5
生活習慣病等の重症化予防に関わる相談・指導(糖尿病性腎症重症化予防以外) 後期高齢者健診実施後、健診結果説明会で、健診受診者全員に説明し結果を返す。有所見者を対象に保健師、管理栄養士、歯科衛生士が個別相談支援を実施し、高齢者サロン等、地域の「通いの場」への参加勧奨や、まちの保健室等による継続相談支援を行う。 5/5
糖尿病性腎症重症化予防相談指導 国保において、糖尿病性腎症重症化予防事業の対象者として個別指導を行っている者のうち、年度途中に75才になる者に対し、指導を継続する。 5/5

高齢者に対するハイリスクアプローチは、後期高齢者健診を起点として低栄養防止、口腔機能低下予防、生活習慣病重症化予防を実施している。その中で、運動や栄養の重要性に対する理解はあっても、口腔ケアについての情報が乏しい人が多いことが明らかとなっている。ハイリスクアプローチで口腔機能低下予防の対象になった人に対しては、個別面談で口腔機能低下を数値化して示すことで、自己の状況に気づくきっかけや、病院受診につなげるようにしている。

現在は健診を受けて質問票の回答から口腔機能が低下した人を中心に、個別でアプローチをしているが、今後はサロンでも実施する予定である。

*口腔機能の低下防止のための数値化:
咀嚼力の判定ガム、「タタタタ…」と何回発音できるか等、機材を使いながら口腔機能がどれだけ低下しているかを数値化して本人に分かってもらいつつ指導している。

事業実施状況(ポピュレーションアプローチ)

名張市では、ポピュレーションアプローチとしては、3つの事業(※)を展開している。

図表4. ポピュレーションアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
フレイル予防普及啓発 生活の不活発な状態が続き、心身の機能低下が懸念されることより、体を動かすことや低栄養を予防すること等のため、医療専門職(保健師、管理栄養士、歯科衛生士)が地域に出向き、運動・栄養・口腔等にかかる健康教育・健康相談を実施する。  5/5
通いの場等での低栄養、筋力低下、口腔機能低下・オーラルフレイル等の状態に応じた指導支援 通いの場において、質問票や簡単な体力測定等を通じて、状態を把握し、状態に応じた相談支援を行う。 5/5
通いの場等における健診・医療受診勧奨 通いの場の参加者全員に健診受診の必要性を説明して受診勧奨するとともに、必要に応じて、まちの保健室とともに、本人の状況を確認しながら支援を行う。 5/5

※上記のほか、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に配慮した「通いの場」等の再起動に向けた支援と感染予防に関する健康教育を実施する。

15の地区に担当の保健師がおり、サロンの現状把握を実施しながら各サロンに出向きポピュレーションアプローチを実施している。

令和2年11月現在、保健師が69か所のサロンに関わっている。この69か所について、保健師が必ず1回は訪れているが、毎週サロンに行くことはできない。そのため、より頻回にサロンに関わっているのは前述の「まちの保健室」の職員である。「まちの保健室」の職員は指導や研修等を受けた看護師、介護福祉士等であり、そのまちの保健室職員がサロンにおいて健康づくりに関する話をしている。

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

今年の4月から保健師が通いの場に、より積極的に関わっていこうと計画を立てたが、新型コロナウイルス感染症拡大により、一旦通いの場をすべて閉じた後、市から「感染防止対策をすればできること」を提示し、感染防止対策に関しては市からマニュアル・手引きを地域づくり組織等に提示した。また、「通いの場」であるサロンには、手指消毒用のアルコールを持参し感染症対策等を伝えながら、安全に開催できるよう支援している。また、今後サーキュレータ等も用いながら十分な換気をしながら実施できるよう支援を行っていく。

再開状況は、地域により差が出ている。地域が主体で行っている活動については、それぞれの地域づくり組織の住民が運営しており、その役員によってコロナ禍に対する意識に差がある。市内で感染者が出た時など、正しい情報を伝え安心してサロン等を実施できるよう支援していく必要がある。

また、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの実施の流れについては通いの場でポピュレーションアプローチを行い、保健師の関わりの素地を作ってからハイリスクアプローチにつなげる方法と健診結果説明会でのハイリスクアプローチを実施している。

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5.事業推進のための取り組み

周知と広報

住民の「フレイル」に関する関心を高めてもらう目的で、令和元年度から、市民公開講座でフレイルをテーマに講演を実施したり、食生活改善推進協議会の会員にフレイル予防の講演を実施するなど、あらかじめフレイルに対する情報提供を行ったうえで今年度の一体的実施につなげている。

こうした取り組みにより、住民団体から「うちでもフレイルの話をしてほしい」という反応があり、興味を持って受け止められている。

図表5. 講演会の様子 (資料:名張市より提供)

人材育成の取り組み

一体的実施で重要な役割を担う15の地区担当の保健師には、一体的実施事業についての説明や従来からの事業の中で実施していく内容等について圏域担当の保健師が説明を行うとともに、保健師のスキルアップに関する教育や研修を行っている。内容としては、「地域で何を進めているか」「一体的実施にあたり何をしなければいけないか」について、OJTを通じて教育・研修をしている。

それ以外にも、月に一度、横断的ミーティングとして保健師全員が集まり、ケーススタディを含めた勉強会を開催している。令和3年1月には「まちの保健室」と地区担当の保健師を対象に、社会的処方を担うリンクワーカー養成研修を実施した。

また、「まちの保健室」の職員に対しても、母子保健・成人保健・地域包括・障害福祉・子ども発達等、それぞれの普段の事業を通じて教育を進めている。

地域のデータ分析と活用(KDBの活用状況)

データ分析のため、もともと国保連合会にいた保健師に臨時職員として名張市に来てもらい、KDBからCSV形式でデータを抜き出し、確認したいものを抽出してもらっている。

医療費分析についてはKDBシステムの健康スコアリングの健診・医療・介護の分析データを国保連合会から入手しており、県内29市町の中での名張市の立ち位置の分析を独自で行っている。

また、KDBシステムのデータに加え、介護予防・日常生活圏域ニーズ調査や国保データヘルス計画等の分析データ、高齢者実態調査、後期高齢者の質問票等も活用し、地域、圏域の健康課題の整理、分析を横断的に行い、地域の状況に即した取り組みにつなげるとともに、支援すべき対象者の把握を行っている。

後期高齢者の質問票の活用

質問票のうち口腔機能に関する項目(4、5番)にチェックがついている方を、口腔機能低下予防の個別支援の対象としている。質問票に関しては、よく考えずに無意識にチェックしている方も多く、個々人の状態の違いが十分捉えられないこともあり、個別相談時には再度機能チェックを実施している。

また、民生委員による日頃の地域の見守り活動を行うための実態把握である「高齢者等実態調査」の質問項目に、後期高齢者の質問票全15項目を令和2年度から取り入れた。これにより、民生委員からは、質問票を用いて確認することで、その人の状態が分かるようになり、支援が必要とされる状況に対する理解が深まったとの意見があった。民生委員が1人ずつ調査票を回収することで、個別に支援が必要な人が見つかり、「まちの保健室」や地域包括支援センターの支援活動につながったケースもみられる。

民生委員が高齢者実態調査で質問事項の用紙を配り、令和2年11月末で回収し終わったところである。データの全体的分析、地域ごとの分析はこれから行う予定である。

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

従来から通いの場には医療専門職の関わりがあり、各地域での健康教育の題材は、医療専門職が決めて持って行くことが多かった。今ではそれと併せて、高齢者の質問票の口腔機能の回答を読み込み、参加者の口腔ケアに関する知識や意識を見極め、参加者全体に口腔ケアの話をしたり、終わった後で個別に口腔ケアの指導をするようになった。このように、全体に対して話すだけでなく、一部に対しては個別の相談をするなど、一体的実施によりサポート対象範囲の広がりがみられるようになった。

課題と今後の対策

通いの場である高齢者サロンは住民主体で行っているため、行政が強く方向性を打ち出すことで、住民が一歩引いてしまう懸念がある。行政がしたいことと、住民が「やってもいいよ」ということについて、顔を合わせて折り合いをつけながら決めており、サロンによって進め方や作戦が異なる。サロンの状況に応じて住民の代表者と相談し、例えば、「うちのサロンでは栄養についてお願いしたい」という話があれば、それに応じた健康教育を行うといった対応が求められる。