(上越市の紹介コメント)

~ 新潟県 上越市 ~

  • 平成17年に周辺13市町村と合併。合併により多様な地域特性を有することを踏まえ、市民の健康実態に合わせた保健活動を検討、実施している。
  • 「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を目的に、乳幼児期から高齢期までの生涯を通じた生活習慣病予防に取り組んでいる。市民全体で主体的に健康づくり活動を実施し、要介護認定率の減少と医療費の安定化など社会保障費の健全化を目指した保健活動を展開している。
マスコットキャラクター 上越忠義隊けんけんず

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上越忠義隊けんけんず (C)上越市

■ 上越市の概要

人口 190,042人 (令和2年3月31日時点)
(高齢化率32.4%)
後期高齢者被保険者数 32,256人 (令和3年2月末時点)
後期高齢者1人あたり医療費 652,092円/年 (令和3年2月末時点)
後期高齢者健診受診率 22.8% (令和元年度)

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1.地域特性

上越市の概要

上越市は、新潟県の南西部の日本海に面して位置し、東西に44.6㎞、南北に44.2㎞、973.89㎢ の広大な面積を有している。平野部、山間部、海岸部と変化に富んだ地形を有する自然豊かな地域である。冬季には多くの降雪があり、全国有数の豪雪地帯である。自然環境や地理的特徴、大規模な新田開拓等の歴史的条件が相まって、米・酒・野菜の豊富な食品が作られ、古くから地域に根ざした独自の食文化を形成している。

平成17年に上越市と周辺13町村の編入合併により現在の上越市となる。合併前の各町村には、それぞれ区総合事務所が置かれ、保健師と管理栄養士の専門職は各区総合事務所にも配置されており、地区特性を踏まえた保健活動を行っている。

人口は令和2年3月31日現在190,042人。人口は年々減少しているが、高齢者人口は61,576人(高齢化率32.4%)で年々増加している。一方、出生数は年々減少しており少子高齢化が進んでいる。今後は高齢化がさらに進展し、医療費・介護給付費が増える半面、青・壮年期の人口減少傾向が続くことが予測されることから、乳幼児期から予防可能な生活習慣病の発症と重症化予防の取り組みを進めている。

医療費、介護給付、健康課題の現状

上越市は、要介護認定率や介護給付費が同規模市と比べて高いという課題がある。要介護認定者の有病状況では、脳血管疾患によるものが多かったことから、脳血管疾患の減少を重点課題として取り組みを進めている。継続した取り組みにより、脳血管疾患の死亡割合は平成25年度の20.4%から令和元年度の16.0%と減少している。しかし、第1号被保険者の要介護認定率は21.7%であり同規模市の18.5%と比べると依然として高い状況にある。脳血管疾患等発症者は高血圧、糖尿病、脂質異常症等の基礎疾患を併せ持ちながら、健診を受けていない人が多い傾向がある。このことから、青・壮年期から健診を受ける習慣をつけてもらえるよう健診受診勧奨を実施し、また学童の血液検査事業にも取り組んでいる。さらに、健診を受けるのみではなく健診結果を市民自身が理解できるよう、集団健診に限らず人間ドックなど健診を受けた全ての対象者に結果説明会を案内し、健診後の保健指導及び訪問指導を行っている。こうした取り組みにより、令和元年度の特定健診受診率は53.0%、特定保健指導実施率は68.4%と同規模市の中では1位となっている。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

健康実態の分析と、実態に合わせた事業展開

14市町村が合併した平成17年当時は保健活動の実施方法も様々であったため、各旧市町村の保健活動のよりよい部分を統合し、市民の健康実態に合わせた保健活動を行えるよう、専門職間で検討を進めてきた。

平成18年度からは、保健・国保・介護部門および各区総合事務所の保健師・管理栄養士で構成するワーキングチームを立ち上げ、健診結果、国保のレセプトデータ及び介護保険のデータの分析と、データが示す地域特性の読み取り、それを保健指導に活用する方策を協議し、現在も常に見直しを行いながら保健活動を実施している。

乳幼児期から高齢期まで生涯を通じ一貫した予防活動の支援

これまでも全てのライフステージにおいて、生活習慣病予防の視点を重視した活動を展開してきたが、保健師・管理栄養士を地区担当制にし、乳幼児期から高齢期まで切れ目なく家族単位で支援するとともに、地域の課題を地域住民や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどと共に考え、課題解決に向かえるような地区単位での支援体制を整備した。具体的には、脳血管疾患が原因で要介護状態になった方へのケアプラン作成時、再発予防・重症化予防の視点を含めたケアプランとなるよう保健師・管理栄養士がケアマネジャーと連携するなど、中重度(要介護3以上)の要介護状態になる人が多い実態から課題解決に向かえるよう体制を整えてきた。

後期高齢者への保健事業

脳血管疾患や生活習慣病の重症化から重い介護状態になる危険性の高い人を、健診データから選定し、平成22年度から高齢者健康支援訪問を実施している。具体的には、高血圧と糖尿病の重なりがある人、心房細動のある人などを定期的に訪問し、血圧値や服薬等の確認を行っている。

また、平成24年度から、75歳以上の人の健診に心電図検査を導入した。以前からの健康課題である高血圧、心電図異常、脳血管疾患が多い実態から、脳血管疾患の予防を目的として、後期高齢者健診で心電図検査を実施している。

健診結果を踏まえ地区担当者が、地区ごとに「高血圧・糖尿病管理台帳」を作成し(図表1)、健診結果を毎年積み重ね、それを基に継続して介入することで、切れ目なく重症化予防の活動をしてきた。このように75歳以上の人にも以前から保健事業としての関わりをもってきた実績がある。

図表1. 高血圧・糖尿病管理台帳(上越市より提供)

一体的実施に初年度から取り組んだ背景

上越市では従来から、生涯を通じ一貫した予防活動を行っていたことが、一体的実施の取り組みの意義の理解につながっている。保健師・管理栄養士が、後期高齢者の保健指導を重症化予防のための重要な要素と捉えており、一体的実施の重要性を今までの保健活動を通して認識していたことが初年度からの取り組みに至った背景にある。

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3.一体的実施の推進体制

庁内の体制

上越市の令和2年9月現在の一体的実施における関連部署の連携状況を図表2に示す。

健康子育て部長と福祉部長の下、市民の健康づくりや疾病分析を担当する健康づくり推進課が中心となり、同じく健康づくりに携わる保健師・管理栄養士が所属する各区総合事務所、国民健康保険・後期高齢者医療を担当する国保年金課、地域包括支援センター業務を担当するすこやかなくらし包括支援センター、介護保険を担当する高齢者支援課によるプロジェクトチームを立ち上げ、庁内部局間の連携を図りながら事業企画・事業実施・評価を実施し一貫性、連続性のある取り組み方針を立てた。

図表2. 体制図(上越市より提供)

企画・調整業務に従事する医療専門職は、係長級の保健師が担い、現場の医療専門職と連携しながら計画を立て、スムーズな活動展開に結び付けている。また、他課の医療専門職等と部局を超えてチームとして取り組みを実施している。一体的実施以前から保健・国保・介護部門が連携して取り組んできた経緯があり、一体的実施においても継続されている。

関係団体との連携

地域包括支援センターや高齢者健康支援訪問を担っている居宅介護支援事業所の職員と、地域ケア会議や研修会を通じて、重症化予防・介護予防の視点を持ちながら各業務に向かえるよう、地域の健康課題を共有し、健診結果と生活習慣のつながりや各地区の生活実態等について学び合っている。

医療機関を受診していない人や治療を中断している人を把握した場合には、受診勧奨を行い、治療中で必要な人には医療機関と連携した保健指導を実施している。また、健康の自己管理を目的に糖尿病連携手帳や血圧手帳を配付し、この手帳を活用し、かかりつけ医や薬剤師等と情報共有している。

外部有識者の支援

上越市健康づくり推進協議会を年2回開催している。医師、薬剤師、大学教授等から、乳幼児期から高齢期まで生涯を通じた健康づくり活動について幅広い視点から助言を得て、より効果的な事業展開につなげている。

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4.事業実施状況

事業実施状況(ハイリスクアプローチ)

上越市では、脳血管疾患を発症し要介護認定を受けている人が多く、背景には高血圧や糖尿病等の基礎疾患を持っている人が多い。高血圧の有所見率については、国・県と比較して高く、糖尿病については、糖尿病性腎症の有病率が同規模市と比較して高く、課題となっている。このことから生活習慣病の重症化を予防するため、ハイリスクアプローチとして、下表に示す2つの事業を全圏域で実施している。

図表3. ハイリスクアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
生活習慣病等の重症化予防に関わる相談・指導(糖尿病性腎症重症化予防以外)

健診結果から対象者(血圧Ⅱ度以上、心房細動あり)を抽出して個別の保健指導を実施する。

血圧手帳等を活用して保健指導の実施内容等を記入し、医療との連携を図る。保健指導実施率や有所見率の推移で評価する。

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糖尿病性腎症重症化予防相談指導

健診結果から対象者(HbA1c7.0%以上)を抽出して個別の保健指導を実施する。

糖尿病連携手帳等を活用して保健指導の実施内容等を記入し、医療との連携を図る。保健指導実施率や有所見率の推移で評価する。

22/22

事業実施状況(ポピュレーションアプローチ)

高血圧や糖尿病等の生活習慣病の重症化からおこるフレイルを予防するため、ポピュレーションアプローチとしては、下表に示す健康教育・健康相談を全圏域で実施している。

図表4. ポピュレーションアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
フレイル予防普及啓発

地域の高齢者を対象とし、生活習慣病重症化予防・フレイル予防・介護予防等の健康教育・健康相談を実施する。

町内会、老人会、地域包括支援センター等と連携し、地域で開催される健康講座や健康づくり推進活動チーム研修会、通いの場、健診結果説明会、訪問・面談等で健康教育・健康相談を実施する。

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通いの場等での低栄養、筋力低下、口腔機能低下・オーラルフレイル等の状態に応じた指導支援
通いの場等における健診・医療受診勧奨
通いの場等における介護サービス利用勧奨

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

新型コロナウイルス感染症の影響として、全体的に事業実施方法の変更や、規模縮小を余儀なくされ、計画した事業に遅れが生じた。特にポピュレーションアプローチでは、集団教育の場が減少し、アプローチが難しくなっている。ハイリスクアプローチでは、必ずアポイントメントを取り、体調確認をしたうえで訪問するように運用を変更した。

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5.事業推進のための取り組み

周知と広報

第2期保健事業実施計画(データヘルス計画)や第8期介護保険事業計画に一体的実施の必要性について掲載することで、一体的実施の取り組み意義の周知につなげている。

人材育成の取り組み

保健師・管理栄養士が業務検討会を毎月実施し、情勢の学びや保健活動の進捗管理、力量形成等を行っている。その他、地域のサロンや通いの場のコーディネーター研修、ケアマネジャーと連携したケアプランの作成等、健康部門と介護部門が連携し、重症化予防・介護予防に取り組んでいる。

情報共有

上越市の実態や課題を、医師会や薬剤師会を始め地域のかかりつけ医や薬局、地域包括支援センター等と情報共有し、役割の確認や連携の在り方について協議している。

地域のデータ分析と活用(KDBの活用状況)

KDBを活用し健診・医療・介護データをつなげて見ることで高齢者の全体像を把握し、重症化予防・介護予防の対象者を抽出している。また国保から後期高齢者の健診・医療・介護データを年齢毎や他県等と比較することで、上越市の健康課題の特徴の把握に努めている。KDBから見える実態や課題を分かりやすく資料化し、市民や医師会、地域の関係機関と共有し、それぞれの立場で何ができるかを考え、市民が主体的に健康づくり活動に取り組めるよう働きかけている。

図表5. 健診・医療・介護データの一体的な分析から重症化予防・介護予防対象者を把握(KDB)

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

上越市では平成25年から上越市健康増進計画の基本方針として「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を目指し乳幼児期から高齢期まで、生涯にわたる一貫した保健活動に取り組んでいる。成果として要介護認定率の平成25年度と令和元年度の比較では第2号被保険者・第1号被保険者ともに減少している。また、要介護認定者数に占める中重度(要介護3以上)の割合は、平成28年度と令和元年の比較では第2号被保険者・第1号被保険者ともに減少している。一定の効果が見えているものの、課題として要介護状態に至る脳血管疾患や高血圧等があり、引き続き一体的実施の対象者を含めた全てのライフステージにおいて、生活習慣病予防の視点を重視した保健活動を展開していく。

図表6. 要介護認定率の変化
図表7. 中重度(要介護3以上)の割合の変化

※上越市が公表している第1号被保険者要介護認定率は20.4%(令和2年3月末現在)でKDBの認定率
21.7%と開きがある。その理由は、KDBでは平成27年の国勢調査の人口を対象者としていること及び生活保護受給者を要介護認定者に含んでいるためである。KDBは同規模市・国・県と比較できるため、本計画ではKDBの数値を用いている。

課題と今後の対策

上越市は以前から高血圧の有所見率が国・県よりも高く、脳血管疾患等の要因となっている。そのため、保健指導の対象者を明確にし、健診受診率・保健指導率の向上、未治療・中断者への病院受診勧奨、必要に応じて医療機関との連携等を、国保から後期に移行した後も継続した保健指導に取り組んでいく。また上越市の健康実態や課題を地域包括支援センター等の関係機関と共有し、重症化予防・介護予防について同じ視点で関わっていけるよう連携していく。生活習慣病の重症化を予防するため、地域の各専門職とそれぞれの立場の役割等について協議を重ね、より効果的な取り組みを実施していく。