(広島市の紹介コメント)

~ 広島県 広島市 ~

  • 部局を超えた調整を行い、初年度から市内の全39圏域で一体的実施を開始している。
  • 従前からの取り組みにより構築できていた各職能団体との良好な関係性を活かし、「服薬」と「口腔」を軸として取り組んでいる。

平和記念公園

■ 広島市の概要

人口 1,194,330人 (令和2年3月31日時点)
(高齢化率25.3%)
後期高齢者被保険者数 146,632人 (令和2年3月31日時点)
後期高齢者1人あたり医療費 1,083,792円/年 (令和元年度)
後期高齢者健診受診率 19.0% (令和元年度)

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1.地域特性

広島市の概要

広島市は広島県西部に位置し、市街地は中国山地から流れる太田川河口部のデルタ上に形成され、その市街地を囲むように山々や丘陵が市域全体に広がり、水や緑に恵まれた自然豊かな都市である。また、都市像には「国際平和文化都市」を掲げ、世界恒久平和の実現に向けた様々な施策を展開している。

人口は、約120万人であり、そのうち、後期高齢者医療制度の被保険者は約15万人である。市全体の高齢化率は25.3%であり(令和2年度)、8つの行政区のうち、市の面積の約半分を占める安佐北区は、唯一、高齢化率が30%を超えている。

図表1. 行政区別の高齢化率(令和2年度)

医療費、健康課題、介護給付の現状

医療費と健康課題

広島市では、KDB等の情報から、①男性の血糖値の有所見者の割合が国と比べて高い、②糖尿病に関連する医療費が占める割合が高い、③糖尿病をはじめとする生活習慣病と関連した死亡率が高いといった現状が判明していることから、一体的実施にあたっても、糖尿病をはじめとする生活習慣病への対応が急がれる。

健康寿命について

広島市では、全国との比較において「平均寿命」と「健康寿命」の差が大きく、女性の健康寿命においては、政令指定都市の中で最も短い。人生100年時代を迎えるにあたり、疾病の管理とフレイル予防を一体的に実施し、健康寿命の延伸を図り、高齢者ができる限り住み慣れた地域で生活できるように取り組んでいく。

* 健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことであり、本市では、国や広島県に準じて、「日常生活に制限のない期間の平均」を健康寿命の指標としている。
この指標は、国と同様に、国民生活基礎調査において「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対して「ない」という主観的な回答をした者を日常生活に制限がない者とし、人口、死亡数を基礎情報として、厚生労働科学研究「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」の「健康寿命の算定プログラム」により算定する。

介護給付

広島市の介護保険の要介護認定率は全国平均と比較して、その差は縮まっているものの、軽度の認定率(要支援、要介護1~2)が高い傾向にある。また、要介護認定率は、年齢層が高くなるほど高くなり、90歳以上では8割が認定を受けている状況である。後期高齢者の要介護認定率を低下させるためには、早期から疾病の重症化予防とフレイル予防に取り組む必要がある。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

一体的実施につながる内容で、従前から取り組んでいた高齢者への保健事業及び介護予防事業には、以下のようなものがある。

後期高齢者医療制度の被保険者を対象とした生活習慣病重症化予防等事業*1(平成30年度~)

*1 糖尿病性腎症重症化予防事業、CKD(慢性腎臓病)重症化予防事業、脳卒中再発予防事業、心筋梗塞・狭心症再発予防事業

ポリファーマシー対策事業(服薬情報通知事業)(平成30年度~)

介護予防・日常生活支援総合事業

・介護予防・生活支援サービス事業

・一般介護予防事業*2

*2 地域介護予防拠点(週1回以上開催)、地域高齢者交流サロン(月1回以上開催)、認知症カフェ(月1回以上開催)、介護予防活動等普及啓発(運動、口腔、栄養、認知症などの介護予防に資する健康教室)

広島市健康づくり計画「元気じゃけんひろしま21(第2次)」における高齢世代の健康づくり

高齢者いきいき活動ポイント事業*3(高齢者の社会参加を促進)

*3 高齢者いきいき活動ポイント事業は、高齢者の社会参加を促進するため、地域でのボランティア活動や介護予防・健康増進に資する活動に参加した高齢者の方にポイントを付与し、貯まったポイント数に応じて奨励金を支給するもの。

一体的実施に初年度から取り組んだ背景

前述の医療費と健康課題等の現状から、広島市においては、早急に疾病管理とフレイル予防を一体的に取り組む必要性があると考えた。

令和元年5月の健康保険法等の法改正を受け、早々に広島市の内部において関係課が集まり、それぞれの課の現状を確認しながら円滑に協議を進めるとともに、並行して関係団体との調整を行い、令和2年3月3日に、基本的方針を作成した。

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3.一体的実施の推進体制

庁内の体制

広島市における一体的実施に関する関連部署の連携状況は図表2のとおりである(令和2年度)。

令和元年5月以降、一体的実施の取り組み内容を決めていく過程において、それぞれの役割に応じ、担当部署が定まった。主担当課を定めることはせず、関係課間において、常日頃から、部局を超えた横断的な情報共有や協議を行っており、関係課が一丸となって一体的実施に取り組んでいる。問合せ等の窓口や事務連絡等の取りまとめは、主に保険年金課が行っており、内容に応じて関係課が対応している。

図表2. 関連部署と連携内容(業務連携の範囲)

関係団体との連携

従前から実施している保健事業により、以下の団体と良好な関係が築けていたことを活かし、一体的実施の実施に向けた具体的な内容・役割等について円滑に協議を行った。

薬剤師会

平成30年度から実施しているポリファーマシー対策事業(服薬情報通知事業)等により、連携して事業を実施している実績があり、令和2年度から開始した一体的実施における服薬指導については、ポピュレーションアプローチ・ハイリスクアプローチともに、円滑に協議を進め、実施に向けて準備することができた。

歯科医師会・歯科衛生士会

従前からの歯科保健事業を通じて連携の実績があり、令和2年度に1行政区で先行実施することとしたオーラルフレイルに関する事業について、実施方法の検討や歯科衛生士の確保を円滑に進めることができた。

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4.事業実施状況

事業実施状況(ハイリスクアプローチ)

ハイリスクアプローチ(高齢者への個別的支援)として、下表の事業を展開している。

図表3. ハイリスクアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
糖尿病性腎症重症化予防事業 健診データ及びレセプト情報を基に、糖尿病性腎症の病期が2~4期に該当する対象者を抽出し、主治医による保健指導指示書に基づき、専門的な研修を受けた保健師等が、食事や運動等に関する保健指導を実施する。 39/39
生活習慣病重症化予防等事業(糖尿病性腎症重症化予防以外) 健診データ及びレセプト情報を基に、糖尿病を基礎としないCKD(慢性腎臓病)や脳卒中、心筋梗塞・狭心症である者を抽出し、主治医による保健指導指示書に基づき、専門的な研修を受けた保健師等が、食事や運動等に関する保健指導を実施する。 39/39
ポリファーマシー対策 レセプト情報を基に、一定種類数以上の医薬品を処方されている重複多剤服薬者を抽出の上、服薬情報を記載した通知書を送付し、主治医や薬局薬剤師への相談を促す。 39/39
服薬に係る相談・指導 糖尿病性腎症重症化予防事業等の対象者に対し、薬局の薬剤師が服薬管理のモニタリングや相談・指導を実施する。
また、服薬情報通知の送付対象者のうち、服薬に関するリスクがより高いと考えられる者に対し、年1回、薬局の薬剤師が対象者の自宅を訪問し、服薬に関する相談・指導を実施する。
39/39
口腔に係る相談・指導 後期高齢者の歯科健診や質問票等により把握した口腔機能低下のおそれがある者に対し、歯科衛生士が対象者の自宅を訪問し、口腔に関する指導、相談を実施する。
(令和2年度は、行政8区のうち1区において試行的に実施)
4/39

事業実施状況(ポピュレーションアプローチ)

ポピュレーションアプローチとして、通いの場等において、下表の事業を展開している。

図表4. ポピュレーションアプローチの内容
実施項目 実施概要 実施
圏域数
適正な服薬 薬剤師が、疾病の重症化を予防するための適正な服薬の重要性に係る健康教育・相談を実施する。また、適正な服薬ができないおそれのある高齢者に対しては、適切な支援につなぐ。 39/39
オーラルフレイル予防 歯科衛生士が、オーラルフレイル予防に関する健康教育・相談を実施する。
また、個別的支援が必要な高齢者を把握し、適切な支援につなぐ。
(令和2年度は、行政8区のうち1区において試行的に実施)
4/39

事業実施における広島市の特徴

コーディネータとしての地区担当保健師の配置

地区担当保健師は、地域の健康課題を踏まえたうえで、コーディネータ役となり、ポピュレーションアプローチ(通いの場等への関与)と、ハイリスクアプローチ(個別的支援)を組み合わせるともに、地域の医療専門職や介護支援専門員などの多職種と連携し、必要に応じてサービスにつなぐなど、高齢者の健康状態に合わせたきめ細かな対応をしている。

「糖尿病」を切り口とした事業の展開

本市の健康課題である「糖尿病」をはじめとした生活習慣病の重症化予防とフレイル予防を一体的に取り組むため、疾病の管理に影響のある「服薬」と、糖尿病との関連も裏付けられておりフレイルに深く関連している「口腔」について、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチを組み合わせて実施している。

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

新型コロナウイルス感染症の影響により、通いの場等で実施するポピュレーションアプローチは、再三にわたり開催が延期となった。その都度、地域の関係者等との連携を図りながら、三密の回避や参加者の調整、実施時間の短縮等、感染を蔓延させないための配慮を行いながら実施している。

ハイリスクアプローチについては、感染拡大防止対策を徹底したうえで、保健指導や服薬指導を実施している。

新型コロナウイルス感染症は、糖尿病などの基礎疾患があると重症化しやすいとされており、「服薬」と「口腔ケア」がより一層大切となることから、感染防止対策を徹底のうえで取り組みを進めていく方向で医療関係団体等と調整している。

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5.事業推進のための取り組み

周知と広報

広報誌「ひろしま市民と市政」等に記事を記載することにより、周知を図っている。

図表5. 広報誌「ひろしま市民と行政6月15日号」(広島市ホームページ)

情報の共有

一体的実施は、複数の所管課が一体となって取り組む必要があるため、庁内外における情報共有が重要となる。

前述のとおり、広島市では、関係課間において、常日頃から、部局を超えた横断的な情報共有や協議を行っており、関係課が一丸となって一体的実施に取り組んでいる。

一体的実施に関する情報は、原則、全関係課で情報共有しており、直接担当する業務以外の情報も含めて共有することにより、全関係課が一体的実施の全体の動きを捉えつつ、それぞれの役割に応じて事業を運用することができている。必要に応じて会議を開催しているが、定期的な会議の開催を待たずとも関係者間で必要な情報が共有できる環境が整っている。

事務手順書の作成

事業の運用が円滑に進むよう、取り組む内容ごとに事務手順書を作成の上、委託先等と共有している。

図表6. 「服薬モニタリング・指導」事務手順書の一部(広島市より提供)

後期高齢者の質問票の活用

後期高齢者の質問票については、令和2年度は後期高齢者健診に導入できなかったため、ポピュレーションアプローチの実施時に、質問票の一部の項目を活用してハイリスク者を把握している。

なお、令和3年度からは後期高齢者健診の際に質問票を実施し、健康課題の分析に活用する。

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

ポピュレーションアプローチでは、通いの場等において、医療専門職である薬剤師や歯科衛生士が健康教室や相談を行うことで、住民に糖尿病などの生活習慣病の重症化予防に取り組むことの必要性や口腔衛生の重要性を認識してもらい、医療専門職に気軽に相談できるようになるなどの効果が現れている。さらに、必要に応じて、医療専門職と地区担当保健師が連携して、ハイリスクアプローチにつないでいる。

ハイリスクアプローチでは、例えば、服薬指導において、薬剤師と主治医との連携により、一度に服用する薬を1つにまとめる一包化調剤に変更することによって、薬の飲み忘れがなくなり、糖尿病の治療効果が上がることが期待されるなどの好事例が現れている。口腔については、歯科受診をためらっていた人が、歯科衛生士の指導により受診につながった例もある。

一体的実施の取り組みでは、薬剤師や歯科衛生士などの医療専門職や介護支援専門員などとも連携することにより、保健事業・介護サービスの双方から提供される支援が相乗効果を挙げる仕組みづくりを視野に入れており、地域の専門職が各々の職能を発揮しつつ協働して、本市高齢者の健康寿命の延伸や要介護状態等の維持・改善などにつなげていく機運が醸成されつつある。

今後の展開

一体的実施を適切に運用するためには、薬剤師や歯科衛生士等の人材を確保するとともに、効果的な事業スキームを確立する必要がある。

令和3年度からは、新たに「栄養」に関する取り組みも開始することとしており、委託先である広島市域薬剤師会や広島県歯科衛生士会、広島県栄養士会と常に連携を図り、人材確保や事業目的を達成するための事業スキームの確立等の課題解決に向けて、引き続き協議・調整を進めていく。