(秋田県後期高齢者医療広域連合の紹介コメント)

~ 秋田県後期高齢者医療広域連合 ~

  • 秋田県は国内で最も高齢化率が高く、一体的実施の早期の取り組みが求められている。
  • 市町村との直接対話を中心に、市町村の一体的実施に対する理解を深め、取り組みの意識向上につなげる支援を行っている。
  • 健康状態不明者への取り組みを推進するための状態把握ツールの作成や、不足する歯科の専門職を確保するための仕組みを県歯科医師会と調整・構築するなど市町村の支援を行っている。

秋田県後期高齢者医療広域連合
シンボルマーク

■ 秋田県後期高齢者医療広域連合の概要

人口 968,580人 (令和元年7月1日時点)
(高齢化率37.1%)
後期高齢者被保険者数 192,398人 (令和元年7月1日時点)
後期高齢者1人あたり医療費 810,635円/年 (令和元年度)
後期高齢者健診受診率 19.18% (令和元年度)

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1.地域特性

秋田県の概要

三方を山に囲まれ、一方は海に面し、県の7割強が森林で、可住地面積当たり人口密度は全国で2番目に低い。寒冷積雪の影響により高齢者の外出機会が減り、閉じこもりがちになることも県民性に影響を与えていると考えられる。高齢化が進み、65歳以上の人口割合(対総人口)は全国で最も高い37.1%である。また、県の人口は減少傾向にあり、令和元年度には後期高齢者医療制度の被保険者数も減少に転じている。

高齢化対策が急がれる状況の下、全構成市町村25のうち、令和2年度からは約半数の12市町村が一体的実施に取り組んでいる。

医療費、介護給付、健康課題の現状

高齢者の医療費に影響を与えている要因

秋田県の後期高齢者一人当たりの医療費は全国平均よりも低いが、健康面だけでなく、積雪等による交通手段の制約や医療機関の偏在などが受診に影響している可能性もあり、今後詳細な分析が必要と考えている。

要介護の要因

秋田県の要介護・要支援認定者率は全国平均を上回っている。これは①冬期間、凍った路面等での転倒による怪我・骨折が多いこと、②塩分摂取量が多い等の食生活に起因する高血圧症等の生活習慣病の重症化、加えて③アルコール摂取量が多いことに伴う脳血管疾患や認知症の増加等が影響を与えている要因として考えられており、改善に取り組んでいる。

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2.一体的実施の取り組み経緯

一体的実施前からの取り組み

平成23年度から全市町村に委託して実施してきた「健康づくり訪問指導事業」(重複、頻回、多受診に該当する高齢者宅への訪問による、健康保持・増進及び適正受診のために行う保健指導)が、令和2年度からスタートした一体的実施におけるハイリスクアプローチの取り組みと共通点が多く、一体的実施に取り組む土台となっている。

同事業では、対象者に市町村と在宅保健師会の保健師が適切な受診の指導を行い、医療費の適正化効果が見られている。

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3.一体的実施の推進体制

広域連合の体制

秋田県広域連合の事務職員は常勤21名と会計年度任用職員の保健師3名である。会計年度任用職員の保健師3名のうち1名は、令和2年9月から、一体的実施専属の保健師として採用し、一体的実施の主担当である事務職員1名と当該保健師1名の2人体制としている。

関係団体との連携

秋田県広域連合では、以下の関係団体と連携を実施している。

図表1 関係団体との連携

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4.市町村への支援の実施状況

市町村との直接対話

構成市町村との対話としては令和2年度上期の実績で全25市町村のうち23市町村と対話を行ってきた。直接対話によって、市町村側の一体的実施に対する理解を深めることができ、併せて広域連合側にとっても市町村の課題に対する理解を深めることにもつながっている。

また、市町村を訪問することにより、令和2年度一体的実施に取り組んでいない市町村の管理職と対話することができ、一体的実施を推進するにあたって何をするべきか、ということを伝えるとともに市町村の現状をより詳細に把握することができた。

直接対話の効果的な実施方法

直接対話を効果的に実施する方法として、対話は市町村の関係部署の職員が集まったところで、正確に情報と課題を共有することを心がけている。特に、未実施市町村の多くは、担当者レベルで検討が留まっているなど、取り組みの必要性について管理職を巻き込んだ検討がされていない可能性があったため、未実施市町村を訪問する際は、必ず市町村及び広域連合双方の管理職が同席する形式で実施するようにした。

直接対話の内容について

市町村の取り組みを進めるため対話の内容については以下の点を意識している。

既存の取り組みを活かした企画(対象拡大等)や体制づくりを広域連合から市町村に提案する。

市町村全域での実施が困難な場合、まずは限定的な地域で取り組み、そこから徐々に拡充するように促す。

隣接する市町村の進捗状況や取り組み状況についての情報を提供する。

特に、提案するにあたって、各市町村の既存の取り組みを生かせることを十分に説明したことの効果が大きかったと考えている。市町村の担当者としては「一体的実施にあたり何か新しいことを始めなければならないのか」と慎重になりがちであり、その心理的な障壁を取り除き、最初の一歩を踏み出すための後押しができるように心がけた。

幹部職員への説明

一体的実施にあたっては体制の確保が重要な要素であり、各市町村の、次年度の職員の採用計画に間に合うよう、6月~7月に説明を行った。また、医療専門職を採用するにあたっては、特別調整交付金を財源として採用することが可能なことを事前に通知しておき、体制を整えるために十分な手立てを取れるように支援した。

市町村向けセミナー・研修会

秋田県広域連合では、実施市町村を招いて一体的実施の方向性や高齢者の保健事業と介護予防の現状等に関して研修や情報交換会を実施した。また、未実施市町村についても直接訪問して説明会を開催した。

具体的な実施内容は以下のとおり。

実施市町村の一体的実施を担当する企画調整保健師のみを集めた企画調整保健師情報交換会の開催

・実施市町村の企画調整保健師間で、課題や現状を共有し、連絡先の交換も行った。

・開催当日の時間を有効に使えるよう、テーマや回答を事前に集約する工夫をした。

(実際に扱ったテーマについては図表2 「情報交換会のテーマの例」参照)

図表2 情報交換会のテーマの例(「一体的実施に関する情報交換会(企画調整保健師)の情報交換テーマ」
(秋田県広域連合より提供)から一部抜粋)
No. 分類 テーマ 意見募集項目
1 庁内連携 企画調整保健師の配置課所室について 企画調整保健師が配置されている課所室の現状について、メリット・デメリットを知りたい。
2 庁内連携 関係団体との連携について ガイドライン第2版では、「事業の企画段階から三師会等の協力を得て事業を展開することが必要」とされているが、どの段階でどのようにかかわってもらったのか、令和2年度の状況を伺いたい。
3 ハイリスク 低栄養防止の取り組み実施方法について ①対象者の抽出基準(BMI、質問票)
②低栄養防止の取り組み内容
③評価方法・指標
4 ハイリスク ハイリスクアプローチの流れについて ①ハイリスクアプローチ「ア、低栄養防止・重症化予防」の訪問回数と内容。
②「イ、重複頻回等」「ウ、健康状態不明者」にも複数回訪問しているとすれば、訪問回数と内容。
5 ポピュレーション 通いの場の介入について ①介入する通いの場の決め方
②2団体あたりの介入回数
③ポピュレーションアプローチの内容と1回あたりの時間
④評価方法・指標
6 その他 システムによるデータ管理について ①一体的実施の取り組みのデータ管理(対象者抽出、個人情報の確認、実施記録、集計、評価など)は、どのように行っているか(ハイリスク、ポピュレーションともに)
②一体的実施事業開始にあたり、新規にシステムなどを導入したか。または導入予定はあるか
7 予算 地域担当の医療専門職(上限350万円)の職種等、マンパワー確保の状況について 来年度、市の職員以外で、地域担当の医療専門職として従事するマンパワーをどのように確保・調整するかを知りたい。
来年度の予算としてどのような人件費等を計上しているか他市町村の状況を知りたい。

市町村のための研修説明会(市町村を訪問して実施)の開催

・未実施市町村ごとに抱える課題は異なるため、個別事情に配慮した形で説明を実施した。

・市町村管理職に対し、市町村職員に代わって制度等を説明した。

管理職への説明では、法律が変わったことにより保健事業と介護予防等を一体的に実施しなくてはならないことを認識して頂いたことで大きく前進したと考えている。

運営検討委員会での制度説明

市町村の後期高齢者医療担当課長で構成する「運営検討委員会」で制度の説明及び早期実施を依頼した。

医療費や健康課題の分析に関する市町村の支援

市町村においては、「KDBは国保のものであり、国保加入者のために使用するものである」という意識が強く、後期高齢者部門でKDBシステムを利活用していない現状がみられた。

そのため、市町村に対し、一体的実施の取り組みではKDBシステム利活用についての理解を求め、あわせてKDBシステムの機能や基本操作方法の説明を行った。

その他の支援

市町村間の情報共有の支援

企画調整保健師の横の情報交換が重要と考え、令和2年度の5~6月の段階で主管課、関係部署及び企画調整保健師名簿を作成して市町村間で共有し、市町村間の自発的な情報交換に役立ててもらった。

市町村の作業と負担の軽減に関する支援

実施市町村に対して、市町村が実施するハイリスクアプローチ対象者のリストを広域連合で作成し、配布した。

広域連合では、ある程度、ハイリスクを抱える対象者を候補として抽出するところまでを行い、その中から各市町村が選定基準を設け、対象者を選定できるようにして、市町村の負担軽減を図った。

新型コロナウイルス感染症の影響と対応

令和2年度については、感染の予防・拡大防止のため市町村研修会を中止した。

市町村への影響としては、新型コロナウイルスの感染者が発生した場合はその対応が最優先となる。そのため、市町村に配置されている保健師の人数には限りがあるため、企画調整保健師や地域担当保健師もコロナ対応に従事せざるをえず、今後の状況によって一体的実施の取り組みが停止することも想定される。

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5.事業推進のための取り組み

現場を知ること

広域連合職員が、地元企業が開発した「フレイル健診」の見学を行った。「フレイル健診」とは、高齢者の質問票や体力測定を通じて、その健診受診者のフレイルの度合いをチェックし、フレイル判定を独自の基準で行うものである。健診は保健師の問診から始まり、体力測定や血圧測定、舌圧、体組成等をチェックして、2時間程度で判定結果を作成し、個別のアドバイスを行うものである。

最近は民間企業でも最新のIT機器を使ったフレイルの測定等に取り組んでおり、それらをポピュレーションアプローチの一環として一体的実施に取り込んでいる市町村も増えているため、広域連合としても積極的に情報収集している。

また、広域連合職員による通いの場の見学も実施しており、市町村の通いの場の現場の実態を見て、実際に何が求められているかを把握するようにしている。保健事業に関する前提知識がなく、一体的実施に携わることになった職員は、「通いの場」という言葉を始めて知るようなケースもあるため、「通いの場とはこういうものだ」という認識を持つことに役立っている。

地域のデータ分析と活用(KDBの活用状況)

取り組みの効果・評価を容易に測定する環境を整備するため、KDBシステムの地区割設定の重要性を市町村に説明した。特に、地区割設定を行うことで後々手間がかかると言われている事業評価・効果等が簡単に出力できるようになるので、地区割未設定のところには見直しを行ってもらっているところである。

ノウハウのマニュアル化

健康状態アセスメントシート

一体的実施のハイリスクアプローチの中で、健康状態不明者に対する取り組みの重要性に着目し、市町村にはこの部分に着手して欲しいという思いがあった。そのため、広域連合で健康状態不明者の状態を把握するためのツール(「図表3 『健康状態アセスメントシート』の様式例」参照)を作成した。作成にあたっては在宅保健師会に協力を得て、アドバイスを頂きながら作成した。令和元年度に、先行取り組みとして2町村で実施した事例について、市町村向け研修会で紹介した。

ハイリスクアプローチの対象者選定の中で、健康状態不明者についてはKDBから容易に抽出可能であることから、市町村に抽出していただき、広域連合では、市町村が健康状態不明者にアプローチした際の聞き取り調書様式を作成・提供したものである。なお、令和2年度からは全市町村に配布し、現在は6市町村で活用している。

図表3 『健康状態アセスメントシート』の様式例(秋田県広域連合より提供)

歯科医師派遣申込書

市町村に対する調査により、歯科に関する専門職が市町村に不足している現状を確認できたことから、その対策について秋田県歯科医師会・歯科衛生士会に相談・協議した。

両会から協力が得られたため、秋田県広域連合では、各市町村が図表4(左側)の申込書(1枚)を県歯科医師会に提出することで、図表4(右側)の手続きの流れに従って、必要な人材を派遣いただく仕組みを構築することができた。

この方法が、市町村において、オーラルフレイル等口腔保健に関する専門職を確保する際の負担軽減につながり、運用を開始した今年度も既に複数の市町村がこの仕組みを活用している。

図表4 『歯科医師 派遣等申込書』の様式例(秋田県広域連合より提供)

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6.一体的実施の取り組みの成果と課題

一体的実施に取り組んだことによる成果

広域連合からの直接対話をはじめとする支援の成果として、令和2年度、秋田県においては25市町村のうち約半数の12市町村が一体的実施の事業を開始している。今後も、広域連合としては、未実施の市町村に対して直接対話等を通じて制度の意義等を伝え、市町村が取り組み易くなるよう様々な助言や情報提供などの支援を行っていく。

課題と今後の対策

上述した内容を含め、これまでの取り組みの中で明らかになった一体的実施における課題と、それに対する広域連合としての取り組みについて今後の対策も含め下表に整理した。

図表5 一体的実施における課題とその取り組み
課題項目 課題内容 広域連合としての課題への取り組み
市町村の一体的実施に関する意識 制度上後期高齢者の保健事業は広域連合が担うものという認識を持つ市町村があり、一体的実施についての理解が得られない場合がある。 一体的実施の制度面の意義や市町村にとってのメリットを根気強く説明して対応を依頼している。
地域住民へのフレイル啓発 住民にフレイルという概念がなく、フレイル対策を普及させることが難しい。 秋田県を県北、県央、県南と3つに分けて開催される民生委員の研修会等の機会を活用し、新人・中堅の民生委員を対象に計6回の事業説明を実施した。民生委員にもフレイルの視点をもって活動していただくよう依頼した。
KDBの機能・操作に関する経験と知識 市町村の後期部門では、KDBの機能や操作等に不慣れな場合が多く、うまく活用することが難しい。 市町村の課題にこたえられるよう、国保連合会と連携し、KDB操作研修の内容について協議したほか、必要に応じて、KDB関連の情報を広域連合から市町村に発信している。
日常生活圏域の設定 人口や面積に関わらず圏域が単一であるなど、実際の日常生活とエリア設定にズレが生じている市町村があり、圏域別の細やかな課題分析や対応が難しい。 日常生活に即したエリア設定となるように、見直しを呼び掛けている。
幅広いアプローチ方法の提案 市町村単体の取り組みや医療関係団体との協働した取り組み以外にも、視野を広げた幅広いアプローチが必要である。 多職種連携のみならず、地域住民や地元企業とも連携した柔軟な発想ができるように参考事例を基に提案する。