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第3章 企業と労働者の関係性の変化や労働者の意識変化に対応した雇用管理
我が国が持続的な経済成長を実現するためには、労働生産性の向上に加え、多様な労働者の労働参加を促し、企業が直面する人手不足を緩和していくことが求められる。また、我が国では、日本的雇用慣行の変化や転職市場の拡大に加え、ワーク・ライフ・バランスへの関心の高まりなど、雇用を取り巻く環境に様々な変化が生じている。こうした変化を背景に、企業と労働者の関係性も変化しており、労働者の意識の変化及びライフイベントなど個々の事情に応じた柔軟な雇用管理の重要性が高まっている。
本章では、企業と労働者の関係性の変化及び労働者の意識変化に対応した雇用管理の在り方を検討するため、①企業と労働者の関係性の変化、②労働者の意識変化、③継続就業を促す雇用管理について分析を行う。
第1節 企業と労働者の関係性の変化
転職者数が増加し、生え抜き社員の割合が低下するなど企業と労働者の関係性に変化
企業と労働者の関係性の変化について確認する。先行研究では、企業において日本的雇用慣行に象徴される年功賃金と終身雇用が変化しつつあるとの指摘がみられており1、こうした点も踏まえつつ、はじめに、転職市場を中心とした労働市場の動向に着目する。
求人動向に着目すると、ハローワークで取り扱われる新規求人数は、景気変動の影響を受けつつも、全体として増加傾向がみられる(第2-(3)-1図(1))。また、1990年代以降は民間の職業紹介事業所数も増加しており、転職市場が拡大してきたことが分かる(第2-(3)-1図(2))。転職市場の拡大に伴い、入職者数は増加傾向にあり、1991年において約6,000万人であった入職者は、2023年では8,000万人を超える水準にまで達している(第2-(3)-1図(3))。
転職者数の推移を確認すると、過去1年間に離職した現職が正規雇用労働者である転職者の人数は2013~2024年にかけて37万人増加している(第2-(3)-2図(1))。転職者の前職での離職理由をみると、「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」「満足のいく仕事内容でなかったから」「賃金が低かったから」といった理由をあげる割合が高くなっており、労働条件や仕事内容に対する不満による転職が見受けられる(第2-(3)-2図(2))。
また、転職希望者数の推移を確認すると、非正規雇用労働者では減少傾向にあるが、正規雇用労働者では2013~2024年にかけて254万人増加しており、転職希望者数は転職者数を大きく上回る推移となっている(第2-(3)-2図(3))。この傾向をより詳細に確認するため、リクルートワークス研究所(2023)2により転職活動者がまだ転職していない理由を確認すると、「自分に合った仕事がわからない」が約14%、「仕事の探し方がわからない」が約5%を占めている。また、Indeed Japan 株式会社が行った転職に関する5か国比較調査3では、日本の転職経験率は約60%となっており、米国の約90%及び英国の約93%と比べて低い水準にある。これらの結果を踏まえると、転職希望者は増加しているものの、転職行動には依然として障壁が存在しており、国際的にみて日本の転職経験率が相対的に低いことが分かる。
続いて、企業と労働者の関係性の変化の要因について、年功賃金に着目し分析を行う。新卒での採用時から継続的に同一企業に就業している労働者を「生え抜き社員」4と定義し、賃金プロファイルをみると、年齢及び勤続年数に従って賃金が上昇する年功的な賃金体系を確認することができる。年功的な賃金体系は、労働者にとって同一企業で長期間勤務し続けるインセンティブとして機能してきたが、1993年以降の賃金プロファイルの変化をみると、長期的に賃金プロファイルはフラット化していることが確認できる(第2-(3)-3図(1)(2))。先行研究では賃金プロファイルのフラット化は労働者の長期継続雇用を減退させる可能性も指摘5されており、生え抜き社員割合の変化をみると2008年に約40%であった生え抜き社員割合は、低下傾向で推移し、2023年には約37%となった(第2-(3)-4図(1))。また、年齢階級別に生え抜き社員割合の推移を確認すると、25~34歳では上昇がみられる6ものの、35~44歳及び45~54歳では長期的には低下傾向がみられている7(第2-(3)-4図(2))。企業規模別にみると、企業規模が大きいほど生え抜き社員の割合が高くなる傾向がみられる(第2-(3)-4図(3))。
柔軟な働き方の普及状況をみると、企業規模や従業員規模によってその導入状況には差がみられる
働き方に着目し、企業と労働者の関係性について確認する。働き方のうち労働時間に着目し、週労働時間60時間以上の雇用者割合の推移をみると、1980年代には14~18%程度の水準で推移しており、特に、男性では18~24%程度で推移するなど、一部では長時間労働を前提とした働き方が存在していたことが分かる8(第2-(3)-5図(1))。1990年代以降には、週休2日制が普及してきたことなどを背景に、週労働時間60時間以上の雇用者割合は減少傾向を示している。また、働き方改革関連法により、2019年4月から大企業に、2020年4月から中小企業にも時間外労働の上限規制が課されるなど、長時間労働の是正に向けた取組が一層進められている。
働き方のうち、柔軟な働き方を可能とする制度の導入・実施の状況について確認する。フレックスタイム制適用労働者の割合は、2018年では約8%で、その後は上昇傾向で推移し、2024年では約12%となっている(第2-(3)-5図(2))。また、企業規模別に2024年の同割合をみると、30~99人で約3%、100~999人で約9%、1,000人以上で約20%となっており、企業規模によって、適用状況に差がみられている。
テレワークを導入している企業の割合は、2019年には約20%であったところ、感染症の拡大を契機に急増し、2021年には5割を超えたが、その後は低下傾向となっている(第2-(3)-6図(1))。従業者数別に2024年におけるテレワーク制度を導入している企業の割合をみると、100~299人で約41%、300人以上で約64%となっており、従業者数の規模で差がみられている。さらに、テレワークを実施している人の割合は、感染症の拡大後の2020年5月調査では約32%となっていたが、その後は感染症の収束に伴って低下傾向となり、2024年7月調査では約16%にまで落ち込んでいる(第2-(3)-6図(2))。なお、2024年7月調査によれば、テレワークを実施している人の割合は、従業員規模100名以下の企業で約11%、101~1,000名で約18%、1,001名以上で約27%となっており、従業員規模によって実施状況に差がみられる。
多様な正社員制度の規定がある事業所の割合をみると、2022年度24.1%、2023年度23.5%と導入割合は20%台で推移している(第2-(3)-7図(1))。2023年度の導入割合について、事業所規模別にみると、従業員数5~29人の事業所で約22%、30~99人で約30%、100~499人で約35%、500人以上では約46%となっており、事業所規模が大きいほど導入割合が高く、多様な正社員制度の普及状況には事業所規模間で差がみられる。多様な正社員制度の種類別で導入割合の推移をみると、2022年度、2023年度とも短時間正社員制度の導入割合が最も高くなっている(第2-(3)-7図(2))。これは、育児及び介護といった家庭の事情に対応しながら、就業を継続できる働き方へのニーズの高まりや、多様な労働時間の選択肢を提供することで人材確保を図ろうとする企業の動きが示唆される。
以上のように、企業と労働者の関係性を働き方の観点からみると、1980年代には長時間労働を前提とした働き方がみられたが、その後、社会構造及び労働者の意識の変化を背景に、ワーク・ライフ・バランスに配慮した柔軟な働き方へと見直しが進んできた。しかし、柔軟な働き方の普及状況をみると、企業規模や従業員規模によってその導入状況には差がみられる。こうした中で、働きやすい環境整備を企業が進めることは、企業にとっては人材の確保につながり、労働者がワーク・ライフ・バランスのとれた持続可能な働き方の実現につながることが期待される。
第2節 労働者の意識変化
労働者の意識は仕事と余暇のバランス重視へと変化
労働時間の限定や就業地の限定など、働き方に対する様々な希望を持つ労働者が増えている9ように、労働者の就業意識は多様化している。こうした状況の中では、労働者の意識変化に対応することが、企業にとって重要な課題となっている。
このため、労働者の働く意識の変化について、内閣府「国民生活に関する世論調査」10とNHK放送文化研究所「「日本人の意識」調査」11の二つの長期継続調査をもとに確認する。
内閣府「国民生活に関する世論調査」の「働く目的」について尋ねた調査結果をみると、2001年には「お金を得るために働く」と回答した人が約50%、「生きがいをみつけるために働く」とした人が約24%であった(第2-(3)-8図(1))。その後は、「お金を得るために働く」という回答は増加傾向を示し、「生きがいをみつけるために働く」という回答は減少傾向となっている。2024年には、「お金を得るために働く」が約63%に達した一方、「生きがいをみつけるために働く」は約13%まで低下しており、働くことが生計を立てる手段としてとらえられる傾向が、以前にも増して強まっていることがうかがえる。また、「どのような仕事が理想だと思うか」という質問に着目すると、「収入が安定している仕事」が一貫して高い割合を占めている(第2-(3)-8図(2))。また、2018年から追加された「私生活とバランスがとれる仕事」も高い割合を示しており、収入の安定性及びワーク・ライフ・バランスを重視する傾向がみられる。以上の結果から、長期的には「生きがいをみつけるために働く」という意識が相対的に弱まり、「お金を得るために働く」といった生計を立てる手段としての側面が強まってきていることが分かる。
次に、NHK放送文化研究所「「日本人の意識」調査」における「理想的だと思う仕事」に関する意識の変化をみると、1970年代には「健康をそこなう心配がない仕事」が最も高い割合を占めている。その後、「健康をそこなう心配がない仕事」の割合は低下し、代わって「仲間と楽しく働ける仕事」への関心が高まり、2018年には最も高い割合となっている(第2-(3)-9図(1))。また2000年代以降、「健康をそこなう心配がない仕事」の割合が再び上昇傾向にあり、職場環境及び健康に対する意識が高まりつつあることがうかがえる。さらに、「専門知識や特技が生かせる仕事」については、2003年に「仲間と楽しく働ける仕事」と同率で最も高い割合となって以降、低下傾向にあるものの、2018年には3番目に高い水準となっている。以上を踏まえると、専門性の向上や多様なスキル習得を促進する教育・研修制度の充実を図り、労働者一人ひとりが持続的に成長できる環境を整備することが、引き続き重要であると考えられる。加えて、2018年の結果を男女別にみると、男性と比較し、「仲間と楽しく働ける仕事」「健康をそこなう心配がない仕事」を理想とする割合は、女性が高くなっており、前者が27%、後者は22%となっている。「働く時間が短い仕事」を理想とする割合は、男女ともに比較的低い水準にとどまっており、男性の方が僅かに高いものの、その差は小さく、男女間で大きな差はみられない(第2-(3)-9図(2))。このことから、働く時間に対する意識については、女性の方が短時間勤務を好むといったような明確な傾向はみられず、男女間で大きな違いはないといえる。
仕事への意識は、家事及び余暇との相対的な重要度によってとらえられる側面があるため、仕事と余暇との関係性に着目していく。NHK放送文化研究所「「日本人の意識」調査」により、仕事と余暇の在り方について確認すると、「余暇も時には楽しむが、仕事のほうに力を注ぐ」は1973年に36%で、全項目のなかで最も高い割合だったが、1993年には21%にまで下がり、2018年には19%となった。「仕事にも余暇にも、同じくらい力を入れる」は、1973年に21%であったが、その後は上昇傾向が続き、2018年には38%と、全項目のなかで最も高い割合となった(第2-(3)-10図(1))。これらの傾向を把握するために、仕事と余暇の在り方に対する意識を「仕事優先型」「余暇・仕事両立型」「余暇優先型」の三つに分類してみると、大きなトレンドの変化がみられる。まず、「仕事に生きがいを求めて、全力を傾ける」「余暇も時には楽しむが、仕事のほうに力を注ぐ」といった「仕事優先型」の回答は1973年に約44%だったが、その割合は減少し、2018年には約23%にまで低下した(第2-(3)-10図(2))。また、「仕事にも余暇にも、同じくらい力を入れる」の「余暇・仕事両立型」や、「仕事よりも、余暇の中に生きがいを求める」「仕事はさっさとかたづけて、できるだけ余暇を楽しむ」といった「余暇優先型」は上昇傾向で、1980年代後半には「仕事優先型」を上回った。2018年には、「余暇・仕事両立型」が約38%、「余暇優先型」が約36%となった。
以上を踏まえると、余暇の重要性が相対的に高まり、仕事と余暇のバランスを重視する方向へと価値観が変化していることが分かる。こうした働く意識の変化は、様々なライフイベントがある中で価値観の多様化を反映しており、労働者の意識変化に応じ、それぞれのライフイベントに合わせた働き方が可能となるよう雇用管理を行うことが必要である。
若年層は継続就業希望が相対的に低く、仕事内容よりも賃金水準を重視する傾向
これまでの分析から、我が国では余暇の相対的な重要性が高まっており、仕事については、生活を支える手段とみなす傾向が強まっていることが確認できた。この傾向は、様々なライフイベントにも左右される可能性があるため、世代間で異なることが考えられる。ここでは、JILPTによるアンケート調査12(以下「JILPT調査」という。)の結果をもとに、世代間の働く意識の差異について分析を行う。
まず、継続就業希望について、「現在の企業で長く勤めることが望ましい」又は「転職を通じたキャリア形成が望ましい」という設問に対する回答をみると、全ての年齢階級において「現在の企業で長く勤めることが望ましい」と回答した割合が高かった。しかし、「転職を通じたキャリア形成が望ましい」との回答は、20歳台及び30歳台で他の年齢階級よりも高い割合となっており、若年層ほど同一企業に長くとどまることが望ましいと考えない傾向がみられた(第2-(3)-11図(1))。
次に、経験・専門性に関する、「ゼネラリストとして、幅広い経験をしたい」又は「スペシャリストとして専門性を高めたい」という設問については、年齢による明確なトレンドはみられなかった(第2-(3)-11図(2))。仕事の価値観について、「賃金水準よりも、仕事内容にこだわりたい」又は「仕事内容よりも、賃金水準にこだわりたい」という設問に対しては、20歳台及び30歳台で賃金水準を重視する傾向が顕著であり、若年層ほど処遇面への関心が高いことがうかがえる(第2-(3)-11図(3))。また、仕事スタイルについて、「質にこだわり、じっくりと仕事をしたい」又は「タイムパフォーマンスにこだわって仕事をしたい」という設問に対しては、他の年齢層と比べると30歳台でタイムパフォーマンスを重視する傾向が確認され、効率性を意識した働き方を志向する傾向がみられる(第2-(3)-11図(4))。
また、就業を継続する理由から世代間における働く意識の違いについて確認する。就業を継続している理由のうち自己成長への関心に関係する項目をみると、若年層においては、「教育訓練・研修制度が充実し、スキル向上が可能」「ジョブローテーションがあり、多様な経験がつめる」「自分が希望するポジションへの応募が可能であり、自律的なキャリア形成が可能」といった点を、現在まで就業継続している理由としてあげる割合が他の年代より高い。(第2-(3)-11図(5))。
企業で就業を継続している理由のうちワーク・ライフ・バランスに関連する項目については、若年層において「残業が少ない、有休を取得しやすい等、働きやすい環境」「フレックスタイムや短時間勤務により、柔軟に働ける」「在宅勤務・テレワークにより、柔軟に働ける」を理由にあげた割合が高い傾向にある。
さらに、若年層が就業継続の判断における自己成長への関心の高さについて、自主的な能力開発の実施状況を年齢階級別にみると、年齢が下がるにつれて「能力開発を行っていない」とする割合が低くなる傾向がみられており、若年層ほど能力開発を行っている様子がうかがえる(第2-(3)-11図(6))。また、「仕事に関する専門的知識(AI・IT以外)」「業務に関する資格所得に必要な知識」等について取り組んでいる割合も、若年層の方が相対的に高くなるような傾向がみられる。
以上の結果から若年層では継続的な雇用を望む意識が相対的に低く、仕事内容よりも賃金水準を重視する傾向があること、自己成長への関心も高いことが明らかとなった。また、30歳台では効率性を重視した働き方を志向する姿勢がみられる。こうした世代別の傾向に対応するためには、人手不足が深刻化する現在の労働市場において、企業は20歳台~40歳台の若年層及び中堅層の長期的な定着を促す施策として、処遇面の改善に加え、仕事の効率性を高める仕組みづくりや、適切な能力開発の実施を進めていく必要があると考えられる。
コラム2–1 労働者の意識の国際比較
第2節では、国内の長期継続調査の結果より、余暇の重要性が相対的に高まる中で、仕事は生計を立てる手段としての側面が強まっているという、働く意識の変化を確認した。こうした我が国における働く意識の変化は、国際的にみてどのような位置にあるのであろうか。この点を確認するために、「世界価値観調査(WVS:World Values Survey)」の結果を用いて、仕事の価値観について国際的な比較をしていく。本調査は、人々の価値観の変化と、その社会的及び文化的影響を中長期的にとらえ、国際比較することを目的とした国際的な研究プロジェクトであり、1981~2021年までの間に7回実施されている。
米田(2024)を参考としながら、最新の第7回調査の結果から、我が国の仕事に関する価値観について確認する。まず、仕事と余暇それぞれの重要度について確認すると、「仕事が重要」の割合は約83%、「余暇が重要」の割合は約92%となっており、仕事よりも比較的余暇を重視する傾向が強いことが分かる(コラム第2-(1)-1図(1))。
経済状況と仕事及び余暇に対する価値観の関係を検討するために、米田(2024)を参考として、仕事の重要度スコアから余暇の重要度スコアを差し引いて算出した「仕事中心性スコア」と、一人当たり名目GDPとの関係を分析した。その結果、一人当たり名目GDPが高い国ほど、仕事中心性が低くなる傾向が確認された(コラム第2-(1)-1図(2))。このことから、我が国において仕事よりも余暇を重視する傾向が以前よりも強くなっていることは、我が国特有の傾向ではなく経済成長による経済の成熟化が進んだ結果であると考えられる。
第3節 継続就業を促す雇用管理
約7割の企業は事業継続に影響を与える人手不足に直面
本節では、人手不足下において労働者の意識変化に応じたそれぞれのライフイベントに合わせた働き方が可能となる雇用管理とは具体的にどのようなものか確認するため、前節に引き続きJILPT調査をもとに分析を行う。
企業が抱える人手不足の現状をみると、約71%が事業継続のための人手に、約73%が新規事業のための人手に不足感を感じている(第2-(3)-12図(1))。この数値は、人手不足が単なる採用問題を超えて、企業の将来の成長や持続可能性に直接的なリスクをもたらしていることを示している。人手不足の職種をみると、「現場の技能職」「営業職・販売職・サービス職」での人手不足が特に深刻であり、続いて「マネジメント層」や「デジタル化を担う人材」となっている(第2-(3)-12図(2))。人手不足は、現場の業務遂行を阻害するだけでなく、企業の競争力維持や新規事業の推進にも大きな支障をもたらす可能性が高い。
人手不足に対応するため、企業は新卒採用に加えて中途採用にも力を入れており、「求人募集時の賃金を引き上げる」ことや「賃金以外の労働条件を改善する」ことで、求人の質的向上を目指している(第2-(3)-12図(3))。加えて、「ワーク・ライフ・バランス制度の整備・PR」など、長期的に安心して働ける環境のアピールにも努めており、労働者の意識の変化に対応した人材獲得戦略をとっていることが分かる。
継続就業希望を高めていくためには、働きやすい職場環境をつくっていくことが重要
人手不足下においては、外部からの人材獲得は難しいことから、既存の労働者の継続的な就業を促進する雇用管理の重要性が一層高まっている。多くの企業が労働者の継続就業を支えるために、処遇改善や評価制度の見直しに取り組んでおり、特に「若手の賃金の引上げ(ベースアップ)」に関しては約71%、「若手以外の賃金の引上げ(ベースアップ)」については約62%の企業が力を入れている(第2-(3)-13図(1))。賃金の引上げに加え、ワーク・ライフ・バランスの推進策にも積極的に取り組む企業が多く、「年次有給休暇の取得促進」については約75%の企業が実施しているほか、「長時間労働の防止策」についても約54%の企業が対応を進めている(第2-(3)-13図(2))。
労働者の継続就業希望を高めるためには、以上の取組に加え労働者が働きやすいと感じる職場環境の整備が必要であると考えられる。JILPT調査により労働者の職場環境への認識をみると、労働者の約28%が「働きやすい」、約56%が「まあ働きやすい」と感じているのに対し、約16%は「働きにくい」と感じている(第2-(3)-14図(1))。また、職場の働きやすさと継続就業希望の関係性について確認するため、労働者を「働きやすい」と感じているグループ、「まあ働きやすい」と感じているグループ、「働きにくい」と感じているグループに分ける。各グループの「現在の企業で長く勤めることが望ましい」と考える労働者(以下「継続就業希望者」という。)の割合について、「働きやすい」と感じているグループでは約88%、「まあ働きやすい」と感じているグループでは約72%にのぼる一方、「働きにくい」と感じているグループでは約39%となっており、働きやすい職場環境が労働者の継続就業を促進するために必要であることが分かる(第2-(3)-14図(2))。働きやすさの要因についてみると、「働きやすい」「まあ働きやすい」と感じている労働者の約61%が「残業が少ない」ことをあげており、約50%が「柔軟な有休制度の導入・推進」を要因としている(第2-(3)-15図(1))。働きにくさの要因についてみると、働きにくいと感じている労働者の約68%が「慢性的な人手不足」をあげており、人手不足対策と働きやすい職場環境づくりは両輪で進めていく必要があることがうかがえる(第2-(3)-15図(2))。さらに、「職場で仕事上の相談ができる人がいない」「管理職層から働き方改革関連の発信がない」「長時間労働に対する指導・助言の徹底がなされていない」といったマネジメント面の課題も、働きにくさに影響を与えている要因である。
以上の分析から、継続就業希望を高めていくためには、働きやすい職場環境をつくっていくことが重要であることが分かった。また、労働者は残業が少ないことや柔軟な有休制度があることによって、働きやすいと感じる一方で、人手不足の環境や仕事上の相談が出来る人がいないといった環境を働きにくいと感じていることが分かった。
処遇面での改善が、労働者の継続就業希望を高める
最後に、企業が労働者の継続就業を促進するために実施している様々な雇用管理施策が、どの程度効果を上げているのか分析を行う。本分析はJILPT調査のデータを用いているが、当該調査は労働者への追跡調査ではなく2025年2~3月にかけて実施された1回のみ実施であり、雇用管理の取組が労働者の実際の継続就業行動にどのような影響を与えたのか把握することは難しい。
このため、本分析では、労働者の現在の企業で働き続けたいかどうかという継続就業希望に対して、雇用管理施策がどのような影響を及ぼしているかについて実証的な分析13を行った。分析の結果については一定の幅を持ってみる必要があるが、継続就業を促進するための雇用管理施策のうち、「若手以外の賃金の引上げ(ベースアップ)」及び「若手の賃金の引上げ(ベースアップ)」が、労働者の継続就業希望を高める効果を持つことが確認された(第2-(3)-16図)。
今回の実証分析では、処遇に関わる雇用管理施策が継続就業希望を高める効果を持つことが確認された14が、第2-(3)-15図に示されたように、労働者が感じる「働きやすさ」の要因としては、有給休暇の柔軟な取得、残業の状況、育児・介護支援制度の有無なども重要である。したがって、企業が社員の継続就業を促進するためには、賃金といった処遇改善に加え、働き方の柔軟性、キャリア支援、相談しやすい職場風土の醸成など、労働者の意識変化に応じ、それぞれのライフイベントに合わせた働き方が可能となるよう雇用管理を行うことが必要である。
注釈
- 1濱秋ほか(2011)では日本的雇用慣行は大企業中心であったことが指摘されている点に留意が必要。
- 2詳細はリクルートワークス研究所(2023)を参照。
- 3Indeed Japan株式会社(2023)では、日本、米国、英国、ドイツ及び韓国の5か国において、現在就業中の20~50代の正社員8,848名を対象に、「転職」に関する意識調査を実施。
- 4濱秋ほか(2011)及びHamaaki et al (2012)を参考に、学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者を「生え抜き社員」として算出。なお、今回の分析上、「専門学校」「高専・短大」「大学院」については計算上含んでおらず、賃金構造基本統計調査における「標準労働者」の数値とは厳密には異なる点に留意が必要。
- 5詳細は村田・堀(2019)を参照。
- 625~34歳の生え抜き社員の割合が上昇している要因は様々考えられるが、高卒者の就職後3年以内の離職率が近年低下傾向にあることなどが一因として考えられる。
- 735~44歳の生え抜き社員の割合は低下傾向にあり、2019年には約30%にまで落ち込んだが、その後は上昇に転じている。こうした背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大により、特に25~34歳及び35~44歳の若年層及び中堅層を中心に転職行動が抑制されたことが影響していると考えられる。
- 8週60時間労働について、佐藤ほか(2022)で示されている例示を紹介すると、週60時間労働を達成するためには、1日8時間・5日間勤務で40時間の所定労働時間を達成し、平日3時間の残業により15時間の所定外労働時間を加え、更に土曜日に休日出勤し5時間を残業する計算となり、特に子育て世代を想定した場合には、仕事と家庭の両立が難しい働き方であったといえる。
- 9例えば、厚生労働省「令和3年 パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、今後の働き方について、正社員になりたいと回答したパートタイム・有期雇用労働者のうち、正社員になった場合に「多様な正社員(限定正社員)」制度を希望したいと回答した割合は68.2%。
- 10本調査は、原則として毎年実施されている長期継続調査で、現在の生活や今後の生活について質問をしており、質問項目に、「働く目的」や「どのような仕事が理想だと思うか」等が含まれている。
- 11本調査は、原則として5年ごとに実施されている長期継続調査で、日本人の仕事に対する価値観の変化を時系列で把握することができる。
- 12本白書では、(独)労働政策研究・研修機構「働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査」(2025年)を活用している。本調査は正社員調査と企業調査の2種類がある。図表等については作成の観点で、アンケート項目名等において要約している。
- 13分析では、「現在の企業で長く勤めることが望ましい」と考えている労働者(「どちらかというと」と回答した者も含む)に1を与える継続就業希望ダミー変数を設定し、説明変数として各種の雇用管理施策を用いた。ただし、継続就業希望と雇用管理施策との間には、就業意欲の高い労働者が多い企業ほど、良質な雇用管理を行っている可能性があるなど、逆の因果関係が存在する可能性がある。こうした内生性の問題に対応するため、本分析では操作変数として一人当たり経常利益を用い、混合効果ロジスティックモデルによる因果推論を行った。詳細は付属統計図表を参照。
- 14阿部(2015)では、正社員女性の継続就業上昇に効果のあった施策として労働時間短縮があげられている。

