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- 第2章 社会インフラを支える職業の人材確保に向けて
第2章 社会インフラを支える職業の人材確保に向けて
社会インフラに関連する分野において、労働力需要に見合った労働力を確保できない場合、生活に直結するサービス提供が困難となり1、生活の質が低下し、経済活動に影響があることが懸念される。このため、労働力供給制約の下における社会インフラに関連する分野の人材確保は、我が国の持続的な経済成長に向けた重要な課題である。
第1節 社会インフラを支える職業が直面する人手不足の現状
社会インフラ関連職の就業者の割合は全体の約35%
社会インフラに関連する分野には、どの程度の人が就業しているのだろうか。感染症の拡大以降、こうした分野で働く人は「エッセンシャルワーカー」や「キーワーカー」と呼ばれているが、国際的に統一された定義はなく、国際機関、各国ごとに独自に定義を設けている。
例えば、国際労働機関(ILO)は「食料システム」「医療」「小売・販売」「保安」「現場労働」「清掃・衛生」「交通・運輸」「技術・事務」の8分類を「キーワーカー(Key workers)」と定義2し、米国は「ヘルスケア・公衆衛生」「食料・農業」「法執行・公共安全・その他の緊急対応」「エネルギー」などに関わる職業を「エッセンシャルワーカー(Essential critical infrastructure workers)」と定義3している。我が国においては、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)に基づく「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和3年新型コロナウイルス感染症対策本部決定)において、「支援が必要な方々の保護」「国民の安定的な生活の確保」「社会の安定の維持」「その他(社会基盤の維持等に不可欠なものの製造等)」に関わる事業者を「事業の継続が求められる事業者」と定義している。
以上の定義も参考にしつつ、第Ⅱ部第2章では、人手不足がみられ、安定的な人材確保が求められる社会インフラを支える職業として、命に関わる仕事、物流・インフラに関わる仕事、日々の生活に関わる仕事の三つを想定し、これらに対応する職業を「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」「接客・販売・調理グループ」(以下「三つのグループ」という。)の三つに分類した上で、三つのグループの総称を「社会インフラ関連職」と定義する。この定義は、第Ⅱ部第2章において社会インフラに直接関わる職業の特色を分析するために設けたものであり、今回、社会インフラ関連職に分類されなかった職業も含めて全ての職業が社会機能の維持に重要な役割を果たしている点には留意が必要である。
この定義に基づき社会インフラ関連職の就業者数について確認すると、就業者全体に占める割合は、「医療・保健・福祉グループ」4が約11%、「保安・運輸・建設グループ」5が約12%、「接客・販売・調理グループ」6が約12%を占め、三つのグループを合わせた「社会インフラ関連職」は全体の約35%となる7(第2-(2)-1図)。
社会インフラ関連職では、労働力需要が相対的に高く、欠員率は高止まり
社会インフラ関連職では、人手不足が顕在化している。例えば、2024年平均の有効求人倍率をみると、全職業が1.14倍である一方、サービス職業従事者は2.98倍、輸送・機械運転従事者は2.18倍、建設・採掘従事者8は5.12倍となるなど、社会インフラに関わる分野における職業の有効求人倍率は全職種平均を大きく上回っている。詳細に労働力需給の状況を確認する。
まず、労働力需要を示す求人数をみると、社会インフラ関連職の新規求人数は、2024年で社会インフラ関連以外の職種(以下「非社会インフラ関連職」という。)の約1.25倍となっており、相対的に高い需要があることが分かる(第2-(2)-2図(1))。三つのグループをみると、「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」は感染症の拡大後の2020年に大きく減少したが、2024年は2019年の水準に戻りつつある(第2-(2)-2図(2))。一方、「接客・販売・調理グループ」については、2020年に大きく減少し、2024年においても2019年の水準を大きく下回っている。
続いて、労働力供給を示す求職者数に着目すると、社会インフラ関連職の新規求職者数は、2024年で非社会インフラ関連職の約4割にとどまり、相対的に労働力供給が弱いことが分かる(第2-(2)-3図(1))。三つのグループそれぞれの推移についてみると、2013~2024年にかけて、「接客・販売・調理グループ」の減少幅が最も大きく、その他のグループも新規求職者数が減少傾向にある(第2-(2)-3図(2))。
また、職業ごとの人手不足度合いを示す欠員率の推移をみると、非社会インフラ関連職では、感染症の拡大後に一時的な上昇がみられたが、その後低下し、2024年には1.7%まで改善している(第2-(2)-4図(1))。しかし、社会インフラ関連職の欠員率はおおむね5%前後で高止まりしており、人手不足がみられる。三つのグループに着目すると、「医療・保健・福祉グループ」の欠員率は約6%と最も高く、人手不足に直面していることが分かる(第2-(2)-4図(2))。また、「保安・運輸・建設グループ」においても、欠員率は緩やかに上昇しており、人手不足が徐々に進行している。一方、「接客・販売・調理グループ」の欠員率は、2019年よりも低い水準となっているが、これは2020年に有効求人数が大きく減少したことなどが背景にあると考えられる。
就業者は「医療・保健・福祉グループ」では女性が多く、「保安・運輸・建設グループ」では男性が多いなど、グループごとに性別の偏りがみられる
社会インフラ関連職の人材確保状況を把握するため、就業者数の推移を分析する。具体的には、2015~2024年の就業者数の変化を、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職に分けて比較する。この期間において、非社会インフラ関連職の就業者数は322万人増加しているが、社会インフラ関連職の就業者数の増加は58万人にとどまっている(第2-(2)-5図(1))。これらの傾向から、全体として就業者数が増加する中で、社会インフラ関連職については相対的に就業者の増加が緩やかであり、人材確保が非社会インフラ関連職に比べて難しい状況にあったことが示唆される。
また、男女別に就業者数の推移をみてみると、非社会インフラ関連職の就業者数は男性、女性ともに増加傾向にあり、特に女性の増加が顕著となっている(第2-(2)-5図(2))。社会インフラ関連職の就業者数は、女性が増加している一方、男性は緩やかに減少している。ただし、女性の増加幅は非社会インフラ関連職に比べて顕著ではなく、これが社会インフラ関連職の就業者数の伸び悩みに影響している。このことは、女性の就業者数が全体として増加しているなかで、社会インフラ関連職における女性の参画が相対的に進んでいないことを示している。
さらに、三つのグループに分けて就業者数の推移をみると、性別構成の偏りがより明確に表れる。「医療・保健・福祉グループ」の就業者数は、2024年で女性が男性の約2.5倍となっており、男女ともに緩やかな増加が続いている(第2-(2)-6図(1))。「保安・運輸・建設グループ」の就業者は、2024年で男性が女性の約8倍と大きく偏りがみられるものの、女性就業者数は緩やかに増加傾向であり、男性就業者数は2020年以降減少傾向となっている(第2-(2)-6図(2))。「接客・販売・調理グループ」の就業者数は、2024年で女性が男性の約1.7倍となっているほか、男性、女性の就業者数ともに、2020年に大きく減少している(第2-(2)-6図(3))。特に、女性就業者数の落ち込みが大きく、現在も2019年の水準を大きく下回っている。以上から、社会インフラ関連職はグループごとに性別構成に偏りがみられ、「保安・運輸・建設グループ」では男性就業者数の減少が顕著であることが分かる。
社会インフラ関連職は、非社会インフラ関連職と比較して正規雇用労働者比率が低い
雇用形態の違いに注目すると、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の間に、正規雇用労働者及び非正規雇用労働者の動向に違いがみられる。社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の雇用形態別にみた雇用者数の動向をみると、社会インフラ関連職では、正規雇用労働者数、非正規雇用労働者数ともに横ばいとなっており、正規雇用労働者比率も景気変動に左右されながらもおおむね横ばいで推移している(第2-(2)-7図(1))。非社会インフラ関連職の非正規雇用労働者数はおおむね横ばいで推移し、正規雇用労働者数は増加しており、正規雇用労働者比率の高まりがみられる(第2-(2)-7図(2))。これらの傾向から、非社会インフラ関連職では正規雇用労働者の確保によって労働力を確保してきたことが分かる。以上から、社会インフラ関連職では非社会インフラ関連職と比べて、正規雇用労働者数による労働力の確保が十分にできていないことがうかがえる。
三つのグループに分けて確認すると、各グループにおいて異なる傾向がみられる。「医療・保健・福祉グループ」では、正規雇用労働者数、非正規雇用労働者数ともに増加しているが、正規雇用労働者数の増加が非正規雇用労働者数の増加を上回り、近年では正規雇用労働者比率も緩やかに上昇している(第2-(2)-8図(1))。「保安・運輸・建設グループ」では、正規雇用労働者数、非正規雇用労働者数のいずれも近年緩やかに減少しており、正規雇用労働者比率はほぼ横ばいとなっている(第2-(2)-8図(2))。「接客・販売・調理グループ」では、正規雇用労働者数より非正規雇用労働者数が多く、正規雇用労働者比率は低くなっている。また、正規雇用労働者数はおおむね横ばいで推移する一方、非正規雇用労働者数は2020年に減少した後、増加傾向にある(第2-(2)-8図(3))。
以上のように、社会インフラ関連職は、非社会インフラ関連職と比較して正規雇用労働者比率が低く、特に「接客・販売・調理グループ」では正規雇用労働者比率が低くなっていることが分かる。今後、必要な人材を確保していくためには、希望する労働者の正規雇用化を進めるなど、必要に応じた雇用形態における処遇の改善が重要である。
全年齢に占める25~34歳の割合は、社会インフラ関連職では低下傾向
今後高齢化がより一層進むことを踏まえると、若年層の参入が進んでいない職種を中心に人手不足が顕著になることが想定される。そこで社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職における年齢構成比の変化に着目すると、社会インフラ関連職、非社会インフラ関連職ともに、おおむね45歳以上の年齢階級で、全年齢に占める割合が上昇しており、高齢化が進展していることが分かる(第2-(2)-9図)。
両方の職種で異なる動きを示す年齢層に注目すると、全年齢に占める25~34歳の割合は、社会インフラ関連職では低下傾向がみられる一方、非社会インフラ関連職ではおおむね横ばいで推移している。この背景には、若年層において、システムエンジニアやプログラマーを含む技術者の就業者数が増加していることも一因として考えられる9。また、全年齢に占める65歳以上の割合は、社会インフラ関連職、非社会インフラ関連職ともに上昇している。全年齢に占める65歳以上の割合は、2015年には社会インフラ関連職で約11%、非社会インフラ関連職で約12%であったが、2024年にはそれぞれ約14%へと上昇しており、社会インフラ関連職における高齢化が、相対的にやや進行していることがうかがえる。
三つのグループに着目すると、それぞれで異なる年齢構成の変化がみられる。「医療・保健・福祉グループ」の就業者の年齢構成の変化をみると、他のグループと比較して、全年齢に占める65歳以上の割合は低いものの、上昇傾向がみられており、これにより、同グループにおける就業者の高齢化が進行していることがうかがえる(第2-(2)-10図(1))。次に、「保安・運輸・建設グループ」の就業者の年齢構成に着目すると、他のグループと比較して、全年齢に占める65歳以上の割合は高くなっており、2024年には約17%に達している(第2-(2)-10図(2))。最後に、「接客・販売・調理グループ」の就業者の年齢構成をみると、65歳以上の割合が年々上昇している一方で、2015年に最も割合が高かった35~44歳の層を、若年層である15~24歳の割合が徐々に上回り、2024年にはこの15~24歳が最も高い割合を占めるようになっている(第2-(2)-10図(3))。
第2節 社会インフラを支える職業の特徴
社会インフラ関連職の月額賃金は、非社会インフラ関連職より約5万円低い
本節では、社会インフラ関連職の特徴について整理を行う。まずは、処遇面の一つである賃金10に注目する。社会インフラ関連職のきまって支給する現金給与額11(以下「月額賃金」という。)は約32万円であり、非社会インフラ関連職の約36万円と比べて約5万円低くなっている(第2-(2)-11図(1))。月額賃金を三つのグループ別にみると、「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」は、それぞれ約33万円で、非社会インフラ関連職よりも低い水準となっており、「接客・販売・調理グループ」は、約27万円と最も低い水準となっている(第2-(2)-11図(2))。
また、年間賞与その他特別給与額12(以下「年間特別給与」という。)にも差がみられており、非社会インフラ関連職が約107万円であるのに対し、社会インフラ関連職は約57万円にとどまっている。年間特別給与を三つのグループ別にみると、「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」「接客・販売・調理グループ」の順に低くなっており、「接客・販売・調理グループ」は約41万円と、最も低い水準となっている。
年間所得13は、非社会インフラ関連職が約541万円、社会インフラ関連職は約436万円と、約104万円の開きがある。年間所得を三つのグループ別でみると、「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」「接客・販売・調理グループ」の順に低くなっており、「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」は、非社会インフラ関連職とは100万円未満の差にとどまっている一方、「接客・販売・調理グループ」では非社会インフラ関連職とは約174万円と大きな開きがある。
賃金を平均でみたとき、一部の高所得者によって平均が押し上げられている可能性があるため、賃金の実態を正確に把握するには賃金分布をみることも重要である。このため、社会インフラ関連職の比較対象として、労働力供給が労働力需要を上回っており14、相対的に人手不足が深刻でない事務職15を取り上げ、社会インフラ関連職の月額賃金の分布を確認する。事務職と社会インフラ関連職の月額賃金の分布を比較し、中央値をみると、三つのグループよりも事務職の方が高い傾向がみられた(第2-(2)-12図)。また、事務職の月額賃金の分布の方が社会インフラ関連職の三つのグループよりも、高所得者層への裾野が広がっており、高所得者層への賃金の広がりが相対的に大きいことが確認された。これは、事務職が多様な業務内容を含むうえ、スキルや経験の蓄積に応じて賃金が上昇する仕組みとなっていることなどが背景にあり、全体の賃金が押し上げられていることが考えられる。なお、月額賃金の下位30%層においては、一部のグループを除き、三つのグループと事務職の間で大きな差はみられなかった。具体的には、「医療・保健・福祉グループ」と事務職の下位30%の月額賃金の水準は同程度であり、この傾向は医師などの高所得専門職を除いた場合でも大きくは変わらなかった。「保安・運輸・建設グループ」との比較でも同様に下位30%でみると、月額賃金の水準に顕著な差は生じていない。しかし「接客・販売・調理グループ」については、月額賃金の分布が事務職よりも低所得者層側に偏っており、相対的に賃金水準が低くなる傾向がみられている。
以上のように月額賃金の分布を確認すると、社会インフラ関連職の各グループと事務職を比較した場合、事務職は経験などによって高所得を得る人が一定数存在するため、月額賃金の分布が相対的に高所得側に偏った形状となっている一方で、社会インフラ関連職にはそのような高所得層への広がりはみられなかった。こうした違いには、スキルや経験の蓄積に応じ、処遇が段階的に改善される「キャリアラダー」の有無やその運用の違いが影響している可能性があり、「キャリアラダー」の詳細については第3節で分析を行う。
社会インフラ関連職は「立ち作業」「病気、感染症のリスク」「他者の健康・安全への責任」の性質が相対的に高い傾向
賃金に加えて社会インフラ関連職の「仕事の性質」に着目する。ここでの「仕事の性質」は厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト(job tag)」(以下「job tag」という。)の「仕事の性質」に関わるスコアのことを指す16。社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の「仕事の性質」を比較すると、社会インフラ関連職の方が「立ち作業」「病気、感染症のリスク」「他者の健康・安全への責任」などのスコアが高くなっており、社会インフラ関連職では、日々の業務の中で、立ち作業による身体的な負担が大きいほか、対人サービスを担う場面が多いことから、健康へのリスクが高く、他者の健康・安全への責任が大きいことが分かる(第2-(2)-13図(1))。また、「機械やコンピュータによる仕事の自動化」に関するスコアに着目すると、社会インフラ関連職では自動化があまり進んでおらず、人的対応への依存度が高いことが示されている。
三つのグループごとに確認すると、それぞれ異なる特徴がある。「医療・保健・福祉グループ」では、多くの項目でスコアが高い傾向にあり、特に、「病気、感染症のリスク」「他者との身体的近接」「立ち作業」のスコアが高く、身体的負担に加え、一定程度の健康リスクがある職業と考えられる(第2-(2)-13図(2))。「保安・運輸・建設グループ」では、「ミスの影響度」「立ち作業」のスコアが高く、身体的負担とともに、ミスの影響が大きいことが特徴となっている。「接客・販売・調理グループ」では、「立ち作業」「他者との身体的近接」「他者と調整し、リードする」のスコアが高く、長時間の立ち作業や他者との連携が特徴となっている。
以上から、社会インフラ関連職は、非社会インフラ関連職と比較し、相対的に身体的・健康的負担や、他者の健康・安全への責任が大きく、社会インフラ関連職は賃金水準の低さだけでは捉えきれない人材確保の難しさも生じている可能性がある。
社会インフラ関連職の月間総労働時間は約211時間と非社会インフラ関連職よりも約2時間長い
賃金や仕事の性質に加えて、社会インフラ関連職における「働き方」の特徴について確認する。はじめに労働時間に着目し、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の「働き方」を比較していく。
まず、所定内労働時間17についてみると、社会インフラ関連職が約167時間、非社会インフラ関連職が約165時間となっており、社会インフラ関連職の方が長い傾向がみられる。社会インフラ関連職の三つのグループをみると、「医療・保健・福祉グループ」が約163時間と非社会インフラ関連職よりも短い一方、「接客・販売・調理グループ」「保安・運輸・建設グループ」はそれぞれ約167時間、約171時間となっており、非社会インフラ関連職よりも長くなっている。このことから、一部の社会インフラ関連職では所定内労働時間が長く、働き方の面で一定の負担があることがうかがえる(第2-(2)-14図(1))。
超過労働時間18をみると、社会インフラ関連職及び非社会インフラ関連職はいずれも約44時間で、おおむね同水準となっている。ただし、社会インフラ関連職の三つのグループ別にみると、「接客・販売・調理グループ」「医療・保健・福祉グループ」は、非社会インフラ関連職を下回っている一方で、「保安・運輸・建設グループ」は約47時間と、非社会インフラ関連職の平均より約4時間長くなっている(第2-(2)-14図(2))。
結果として、月間総労働時間19は、社会インフラ関連職が約211時間、非社会インフラ関連職が約209時間となっており、社会インフラ関連職の方が約2時間長い(第2-(2)-14図(3))。特に、社会インフラ関連職の三つのグループのうち、「保安・運輸・建設グループ」は約218時間と、他のグループと比べて長くなっている。なお、建設業やドライバー等の職業については、これまで労働基準法における時間外労働の上限規制の対象外とされていたが、2024年4月からは規制の対象に含まれるようになった。これにより、今後「保安・運輸・建設グループ」における労働時間の更なる改善が期待される。
仕事の柔軟性については、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職での大きな違いはみられないが、テレワークの活用状況には差がみられる
労働者の「働き方」を考える上で、働き方の柔軟性について確認する。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2024」(以下「JPSED」という。)のスコアを活用しながら、各職業における働き方の違いを確認していく。JPSEDでは、仕事の柔軟性に関するスコアとして、「勤務日を選ぶことができた」「勤務時間を選ぶことができた」「働く場所を選ぶことができた」「就業時間中に自分の都合で中抜けすることができた」といった設問項目に対するスコアが設定されている。当該設問項目のスコアを、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職で比較すると、「勤務日を選ぶことができた」といった項目で、非社会インフラ関連職が社会インフラ関連職をやや上回っていたものの、その他の項目では大きな違いはみられなかった(第2-(2)-15図(1))。社会インフラ関連職の三つのグループに着目した時にも、いずれの設問項目においてスコアの大きな違いはみられておらず、勤務日や勤務時間の融通といった点においては、差はみられていない(第2-(2)-15図(2))。
また、JPSEDデータをもとに、社会インフラ関連職のテレワークの活用状況について分析を行う。テレワークの活用状況の設問で、「制度として導入されていて、自分自身に適用されていた」と回答した者の割合をみると、非社会インフラ関連職の約20%がテレワークを活用できる状況にあった一方、社会インフラ関連職の割合は5%に満たない水準となっている(第2-(2)-16図(1))。
さらに、三つのグループに着目すると、テレワークの活用状況の設問で、「制度として導入されていて、自分自身に適用されていた」と回答した者の割合は、「医療・保健・福祉グループ」が約3%、「保安・運輸・建設グループ」が約8%、「接客・販売・調理グループ」が約2%と、いずれのグループにおいても、非社会インフラ関連職と比べて低い割合となっている(第2-(2)-16図(2))。以上のように、社会インフラ関連職は非社会インフラ関連職と比較しテレワークの活用状況に差があるが、社会インフラ関連職は顧客等との対面でのやりとりが求められるなどテレワークの活用が難しいと考えられる業務が多いことに留意が必要である。
仕事の価値観において、社会インフラ関連職では非社会インフラ関連職と比較して「奉仕・社会貢献」「良好な対人関係」「達成感」「自律性」といった項目で高い傾向
ここでは、「職場の状況」「仕事への満足度」「仕事の価値観」という三つの観点から、社会インフラ関連職の内在的な魅力や働きがいについて確認する。
まず、「職場の状況」についてJPSEDの職場の状況に関する設問をみると、「新卒入社か中途入社かに関係なく活躍できる職場である」「女性・シニア・障がい者・外国籍など多様な人が活躍できている」といった設問があり、それぞれの項目にスコアがつけられている(第2-(2)-17図(1))。各項目について、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職のスコアをみると、大きな違いはみられず、三つのグループにおいても大きな違いはみられない(第2-(2)-17図(2))。
次に、「仕事への満足度」についてみていく。JPSEDでは、「仕事そのものに満足していた」「職場の人間関係に満足していた」「仕事を通じて成長しているという実感を持っていた」といった項目について質問が行われている。これらの項目に基づくスコアを、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職で比較したところ、大きな差はみられなかった(第2-(2)-18図(1))。また、三つのグループでスコアを確認しても、各グループ間で顕著な違いはみられなかった(第2-(2)-18図(2))。
最後に、「仕事の価値観」についてみていく。ここでは、job tagの仕事の価値観に関わるスコアのうち、一部項目のデータを活用する20。社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の比較を行うと、「奉仕・社会貢献」「良好な対人関係」「達成感」「自律性」といった項目のスコアが、非社会インフラ関連職よりも社会インフラ関連職の方が高い傾向にあることが分かる(第2-(2)-19図(1))。三つのグループに分けて確認すると、「医療・保健・福祉グループ」では「奉仕・社会貢献」「達成感」、「保安・運輸・建設グループ」では「達成感」「自律性」、「接客・販売・調理グループ」では「良好な対人関係」「達成感」で高いスコアが示されている(第2-(2)-19図(2))。
第3節 社会インフラを支える職業の人材確保に向けて
事務職と比較し、社会インフラ関連職が人材確保において著しく不利な求人賃金条件にあるとまではいえない
人手不足の状況に対応するためには、新規人材の確保、既存人材の定着及び長期的なキャリアを支える制度への対応が重要である。本節では、これら三つの観点に基づき、社会インフラ関連職における人材確保に向けた課題について分析を行う。社会インフラ関連職が人材確保をするには、人手不足が相対的に深刻でない職種と比較しつつ、処遇を改善して職業としての魅力を高めることが重要である。このため、引き続き、事務職との比較により、社会インフラ関連職の処遇や労働条件の課題を明らかにする。
一つ目の観点である新規人材の確保を考えるにあたり、求職者が勤め先を選ぶ際に重視する条件の一つである求人賃金に注目する。特に社会インフラ関連職においては、新規人材の確保が十分に進んでいない現状があることから、その要因として求人賃金の水準が影響している可能性について検証を行う。なお、本分析では、ハローワークの有効求人数のデータと有効求職者数のデータを用い、社会インフラ関連職と事務職における求人賃金及び求職者の希望収入の推移を比較する21。ハローワークでは、求人に際して上限求人賃金及び下限求人賃金の設定が求められており、本分析ではその平均値をそれぞれ「上限求人賃金」「下限求人賃金」として扱う。また、求職者に対しては、自身が希望する収入を求職者票に記載することが求められており、本分析では当該収入を「希望収入」として扱う。
社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職における上限求人賃金、下限求人賃金、及び希望収入の推移をみると、いずれも上昇傾向となっている(第2-(2)-20図)。次に求人賃金の水準を比較すると、上限求人賃金については、非社会インフラ関連職の方が高い傾向にあるものの、下限求人賃金及び希望収入については大きな差はなく、ほぼ同水準で推移している。これらの結果から、社会インフラ関連職の求人において、下限求人賃金が特段低いわけではなく、また希望収入に関しても非社会インフラ関連職との差は小さいことが示唆される。
次に、社会インフラ関連職の三つのグループと事務職との間にみられる求人賃金等の違いに着目していく。「医療・保健・福祉グループ」では、下限求人賃金、上限求人賃金ともに上昇傾向で推移しており、足下では、下限求人賃金は約22万円、上限求人賃金は約27万円となっている(第2-(2)-21図(1))。希望収入と下限求人賃金が近接している点が特徴となっており、仮に求人が充足しない場合には、賃金水準の見直しに加えて、勤務時間や職場環境など、その他の労働条件についても改善が求められる可能性がある。「保安・運輸・建設グループ」では、下限求人賃金、上限求人賃金ともに上昇傾向で推移しており、足下では、下限求人賃金が約22万円、上限求人賃金が約29万円となっており、他のグループと比べて求人賃金の幅が広くなっている。また、求職者の希望収入は約24万円で、他のグループと比べてやや高い水準にあることも確認できる(第2-(2)-21図(2))。「接客・販売・調理グループ」では、下限求人賃金、上限求人賃金ともに上昇傾向で推移しており、足下では、下限求人賃金が約22万円、上限求人賃金が約27万円となっており、「医療・保健・福祉グループ」と同様に、希望収入と下限求人賃金の水準が接近している(第2-(2)-21図(3))。最後に、比較対象となる事務職についてみると、こちらも下限求人賃金、上限求人賃金ともに上昇傾向で推移している。足下では、下限求人賃金が約20万円、上限求人賃金が約25万円となっており、下限求人賃金、上限求人賃金ともに社会インフラ関連職と比較して相対的に低い水準にとどまっている。また、求職者の希望収入も足下で約21万円となっており、相対的に低水準にあるといえる(第2-(2)-21図(4))。
以上から、相対的に人手不足が深刻でない事務職であっても、必ずしも社会インフラ関連職と比べて高い求人賃金が提示されているとは限らないことが確認された。これにより、事務職と比較し、社会インフラ関連職が人材確保において著しく不利な求人賃金条件にあるとまではいえない可能性がある。
「賃金への不満」や「労働条件・勤務地への不満」を退職理由としてあげた割合は、社会インフラ関連職の方が非社会インフラ関連職よりも高い
社会インフラ関連職の人材を安定的に確保するためには、新規人材の確保に加え、既存労働者の退職を防ぐ取組が重要である。そこで、二つ目の観点として、既存人材の定着に向けた課題と対応策について検討していく。ここでは、JPSEDのデータに基づき、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の退職理由22を比較してみていく。「賃金への不満」や「労働条件・勤務地への不満」を退職理由としてあげた割合は、社会インフラ関連職の方が非社会インフラ関連職よりも高くなっており、これらの要因が定着の妨げとなっている可能性が示唆される(第2-(2)-22図)。一方で、「会社の将来性や雇用の安定性への不安」を退職理由としてあげた割合は、非社会インフラ関連職と社会インフラ関連職で大きな差はみられなかった。これらの結果から、社会インフラ関連職においては、雇用の安定への不安が高いという傾向はみられないものの、日々の労働条件や待遇面への不満が退職要因となっていることがうかがえる。したがって、賃金制度の見直しや勤務環境の改善など、日常的な就労条件に対する対応が、退職防止と人材定着に向けて重要となることが想定される。
また、社会インフラ関連職を三つのグループに分けてみると、それぞれに異なる特徴がみられる。「医療・保健・福祉グループ」では、「会社の将来性や雇用安定性への不安」を退職理由としてあげた割合は高い傾向はみられないものの、「賃金への不満」「労働条件や勤務地への不満」を退職理由としてあげた割合は、非社会インフラ関連職よりもやや高くなっている。「保安・運輸・建設グループ」では、「会社の将来性や雇用の安定性への不満」「賃金への不満」「労働環境や勤務地への不満」等いずれの項目においても、それらを理由に退職した人の割合が高い傾向にある。 さらに、非社会インフラ関連職や他の社会インフラ関連職のグループと比較しても、これらの不満を理由に退職する割合が高く、職場環境や待遇面に関する課題がより深刻であることが示唆される。「接客・販売・調理グループ」では、「会社の将来性や雇用の安定性」に関する不安を退職理由とする割合は、非社会インフラ関連職や他の社会インフラ関連職のグループと比較しても低いが、「労働条件や勤務地への不満」「賃金への不満」を理由とする割合は、非社会インフラ関連職や「医療・保健・福祉グループ」よりも高くなっている。
以上から、同じ社会インフラ関連職であっても、三つのグループごとに退職の要因が異なることが分かる。このため、人材の定着を図るには、業種ごとの特性に応じた課題を的確に把握し、それぞれに適した改善策を講じることが重要である。具体的には、「医療・保健・福祉グループ」では、社会インフラ関連職の他のグループと比較して、「賃金への不満」「労働条件・勤務地への不満」を退職理由としてあげた割合は低いものの、非社会インフラ関連職全体の平均と比べると高く、一定程度の処遇改善が重要であると考えられる。一方で、「保安・運輸・建設グループ」では、「会社の将来性や雇用の安定性への不安」「賃金への不満」「労働条件や勤務地への不満」のいずれの項目でも、他の社会インフラ関連職グループよりも高い割合を示している。このため、労働条件や賃金に対する不満の解消に取り組むとともに、雇用の安定性や将来性に対する不安を軽減するための情報提供や制度の整備を進め、全体的な処遇の底上げを図ることが重要である。また、「接客・販売・調理グループ」においては、「賃金への不満」「労働条件や勤務地への不満」を退職理由とする割合が一定程度高いことから、賃金水準の見直しや労働環境の改善といった処遇面の対応が、退職防止に向けた有効な施策となると考えられる。
社会インフラ関連職では、経験に対する賃金の伸びが限定的
三つ目の観点である長期的なキャリアを支える制度の構築について検討する。これまでの分析では、採用段階における求人賃金が事務職と遜色のない水準である一方で、働き方の改善が必要である点を指摘し、新規人材の獲得や退職防止に向けた対応策を検討してきた。こうした対応に加え、今後は労働者のスキルを継続的に向上させ、それに応じた処遇改善が図られるような、長期的に安心して働ける仕組みの構築が重要となる。特に、労働者が安定した長期的キャリアを構築していくためには、新たに獲得したスキルや経験が適切に処遇へ反映されるような賃金プロファイルの整備が重要である。このような観点から、現状の課題を明らかにするためには、社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の賃金プロファイルを比較・分析することが有効となる。
社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職の賃金プロファイルを比較すると、非社会インフラ関連職では、若年期から55~59歳にかけて賃金が年齢とともに上昇し、賃金カーブは山なりの形状を示している(第2-(2)-23図(1))。これは、年齢をスキルや経験の代理変数と捉えた場合、年齢の上昇に伴ってスキルや経験が蓄積され、それによって労働生産性が向上し、結果としてより高い賃金が得られるという構造が成り立っていることを示している23。一方、社会インフラ関連職では、年齢とともに賃金が上昇する傾向はあるものの、賃金カーブの傾きは緩やかであり、経験に対する賃金の伸びが限定的である。また、三つのグループに分けて賃金プロファイルを確認すると、「医療・保健・福祉グループ」では一定の年齢上昇に伴う賃金上昇がみられるが、「保安・運輸・建設グループ」及び「接客・販売・調理グループ」では、年齢の上昇に伴う賃金上昇が相対的に小さい傾向が確認される(第2-(2)-23図(2))。
続いて、賃金プロファイルの職種別の違いを詳細に確認するため、学歴別に賃金プロファイルを分析する。まず、大学卒以上についてみていく。大学卒以上でみた事務職では、年齢とともに賃金が上昇し、いわゆる山型のカーブを描く傾向がみられる(第2-(2)-24図(1))。この背景には、スキルや経験の蓄積に応じ、処遇が段階的に改善される「キャリアラダー」が存在しており、教育への投資や職務経験が賃金に反映されやすい構造があると考えられる。一方、大学卒以上でみた社会インフラ関連職の三つのグループ24では、賃金の上昇は事務職と比較して緩やかであり、年齢による賃金の伸びは限定的である。このため、長期的なキャリア形成を重視する場合、事務職を選択する可能性がある。次に、専門学校・高専・短大卒をみると、事務職における賃金プロファイルは、大学卒と比べて賃金水準や上昇幅は低いものの、年齢に応じて段階的に上昇する傾向がみられる(第2-(2)-24図(2))。一方で、「保安・運輸・建設グループ」では、若年層において事務職を上回る賃金水準が見られ、当該層にとっては初期キャリア段階における有力な就業選択肢となっている可能性がある。また、「医療・保健・福祉グループ」でも、年齢とともに緩やかに賃金が上昇する傾向が確認されており、一定の処遇水準が見込まれる構造となっている。最後に高校卒についてみていく。「医療・保健・福祉グループ」及び「接客・販売・調理グループ」では、全体として事務職よりも賃金水準が低い水準で推移している。一方で、「保安・運輸・建設グループ」では、若年層では事務職よりも高い賃金水準となっているが、40代後半以降は賃金の伸びが緩やかになり、50代前半以降、事務職を下回る傾向がみられる(第2-(2)-24図(3))。
以上を踏まえると、社会インフラ関連職では、スキルや経験の蓄積が賃金に十分反映されていない仕組みとなっており、その傾向は学歴別にみたときにより顕著となる。長期的に安心して働くためには、社会インフラ関連職においても、スキルや経験の蓄積に応じて賃金が段階的に上昇する仕組み、すなわちキャリアラダーの構築を進めることが、人材の長期的な確保と育成において重要な要素となる。
社会インフラ関連職の賃金プロファイルには職種ごとの違いがみられるものの、賃金水準全体では10年前と比べて着実な改善傾向
社会インフラ関連職における長期的なキャリアに関わる賃金プロファイルの変化を把握するため、2013年と2023年のデータを、職業分類を可能な限りそろえた形で比較し、その推移を検証する25。なお、職業分類の改訂による影響を踏まえ、賃金プロファイルの変化については一定の幅をもってみる必要がある。
「介護・看護」関係職種26に注目して2023年の賃金プロファイルをみると、20代中盤まではおおむね全職種平均と同程度、あるいはそれを上回る水準で賃金が推移している(第2-(2)-25図(1))。その後は年齢とともに賃金の伸びが緩やかになり、全職種平均と比べてフラットな賃金プロファイルを描いている。この傾向は10年前と比較し、大きな変化は見られない。一方で、こうした賃金プロファイルの特徴はあるものの、10年前との比較では全体として賃金水準の改善が進んでいる。
「接客・販売・調理」関係職種に注目して2023年の賃金プロファイルをみると、若年層を含めた全ての年齢層で、全職種平均を十分上回る水準は確認されていない。このことから、賃金面での課題が浮き彫りとなっている(第2-(2)-25図(2))。それに加えて、賃金プロファイルもフラットな形状をしており、経験を積むことで賃金が上昇していく形状とはなっていない。しかし、10年前と比較すると、全ての年齢層において賃金水準は改善傾向にあり、全体の賃上げの流れに取り残されていないことが分かる。
「運輸」関係職種27に注目して2023年の賃金プロファイルをみると、全職種平均に比べてフラットな形状になっていることが分かる(第2-(2)-25図(3))。また、若年層の賃金水準が全職種平均を上回っている特徴もみられている。さらに、賃金プロファイルの推移に注目すると、2013年時点では全職種平均の賃金が「運輸」の賃金水準を上回るのは20代後半であったが、2023年にはそのタイミングが30代前半へとやや後ろ倒しになっており、相対的な賃金プロファイルの改善がみられる。また、2013年と比較し、全体的な賃金水準の改善もみられている。
「建設」関係職種28に注目して2023年の賃金プロファイルをみると、山なりの形状となっていることが分かる(第2-(2)-25図(4))。2013年との比較では、全体的な賃金水準の改善に加え、賃金プロファイルの形状にも変化がみられる。具体的には、2023年は2013年に比べて、年齢に伴う賃金の伸びがやや大きくなっており、全職種平均に追い抜かれる時期も20代中盤から30代前半へと後ろ倒しになっている。これにより、相対的な賃金プロファイルの改善が進んでいることが示唆される。建設業においては、建設技能労働者の経験や技能を賃金等処遇につなげることを目的とする「建設キャリアアップシステム」(以下「CCUS」という。)という取組が行われている。CCUSでは、経験や技能を「見える化」する仕組みとして、4段階のレベル別に評価する能力評価を実施するとともに、経験や技能に応じた賃金について目指すべきイメージを業界全体で共有することを目的に、賃金の実態を踏まえ、国土交通省では、能力評価レベルに応じた「CCUSレベル別年収」を公表している。こうした官民での取組が建設業におけるキャリアラダーを構築し、賃金プロファイルの改善の一助となっていることが考えられる。
以上のように、社会インフラ関連職の賃金プロファイルには職種ごとの違いがみられるものの、賃金水準全体では10年前と比べて着実な改善傾向が確認されている。また、「建設」関連職種においては、賃金プロファイルそのものの改善も示唆されている。こうした傾向を一過性のものにとどめず、安定的な人材確保につなげていくためには、キャリアラダーの構築を進め、スキルや経験に応じて着実に処遇が改善される仕組みを整えることが重要である。
社会インフラ関連職の持続可能な人材確保に向けた課題と対応策
本章の分析から、同じ社会インフラ関連職であっても、「医療・保健・福祉グループ」「保安・運輸・建設グループ」「接客・販売・調理グループ」といったグループごとに特徴があることが分かった。人材確保を図るには、グループごとの課題を把握することが重要である。このため、本章の最後にグループごとに特徴や課題等をまとめる。
「医療・保健・福祉グループ」における労働力面では、男女ともに就業者が増加し、正規雇用者の伸びが顕著であるなど、一定の人材確保が進んでいるものの、高齢化の進展により労働力需要は依然として高く、人手不足は深刻化している。処遇面では、年間所得が約467万円と非社会インフラ関連職に比べて低水準にあり、昇給の伸びも緩やかであるため、スキルや経験に応じた昇進・昇給制度の整備が必要である。業務面では、身体的近接や感染症リスク、他者の健康・安全に対する責任など負担が大きい一方、達成感や社会貢献意識が高い傾向がある。これらを踏まえた対応策として、長時間労働対策、ロボット・ I C T 機器の導入による負担の軽減、キャリアラダーの構築など、多面的な取組が重要である。
「保安・運輸・建設グループ」における労働力面では、男性就業者が女性の約8倍と性別偏重が顕著であり、特に社会インフラ関連職の三つのグループのなかでも、65歳以上の高齢者の割合が高く、男性就業者の減少がみられている。若年層の参入促進と女性の労働参加の拡大が重要な課題である。処遇面では、年間所得が約447万円と非社会インフラ関連職に比べて低水準にあり、賃金プロファイルもフラットである一方、18~44歳の若年・中堅層の高卒者においては事務職よりも高い賃金水準がみられるなどの特徴がある。業務面では立ち作業や長時間労働が多いため身体的負担が大きい。これらを踏まえた対応策としては、2024年4月からの時間外労働上限規制の適用を契機に、働き方改革を一層推進することが重要である。また、若年層や女性の参入促進、労働環境の改善による定着支援に加え、賃金プロファイルの明確化やキャリア形成を支える仕組みの整備も必要である。特に建設業では、建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用したキャリアラダーの構築が進み、改善の兆しがみられており、今後もこうした取組みを継続的に推進していくことが重要である。
「接客・販売・調理グループ」における労働力面では、女性の就業者が多く、若年層の割合が高いことが特徴であり、特に15~24歳の若年層は増加傾向にある一方で、25~34歳、35~44歳の中堅層の割合は減少している。また、非正規雇用労働者に依った構造であることも特徴である。処遇面では、年間所得が約367万円と非社会インフラ関連職に比べて低水準にあり、賃金プロファイルもフラットである。業務面では、他者と身体的に近接する機会が多く、立ち作業を中心とした身体的負担の大きい業務も多いものの、対人関係の満足度は高い特徴がある。長期的に働き続けられる環境の整備が課題であり、これらを踏まえた対応策としては、賃金水準の改善に加え、例えば自動レジの導入等省力化投資の推進による身体的負担の軽減につながる職場環境づくりが重要である。
注釈
- 1介護分野では、「介護保険事業計画」に基づき将来の人材需要が推計されており、2022年度に約215万人だった介護職員は、2040年度には約272万人が必要とされている。物流分野においても同様の懸念があり、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、ドライバー数の減少により、今後34.1%の輸送能力が不足するとの試算が示されている。
- 2ILO(2023)を参照。
- 3U.S. Department of Homeland Security(2021)を参照。
- 4「保健医療従事者」「社会福祉専門職業従事者」「介護サービス職業従事者」「保健医療サービス職業従事者」を含む。
- 5「保安職業従事者」「輸送・機械運転従事者」「建設・採掘従事者」「運搬従事者」を含む。
- 6「商品販売従事者」「飲食物調理従事者」「接客・給仕職業従事者」を含む。
- 7分析に使用する統計に応じて職種の定義・職業分類の粒度等が異なるため、「社会インフラ関連職」の就業者数の割合は参考値であることに留意。
- 8建設業は、他産業と比較して縁故採用が多い傾向にあり、有効求人倍率といった統計における人手不足の現れ方が他産業とは異なる点に留意が必要である。なお、国土交通省「建設労働需給調査」においては、8職種(「型わく工(土木)」「型わく工(建築)」「左官」「とび工」「鉄筋工(土木)」「鉄筋工(建築)」「電工」「配管工」)全体の過不足率が2024年平均で1.3%となっており、直近では100人の人手が必要とされる場面において、一人程度の不足にとどまっている。
- 9総務省統計局「労働力調査」(基本集計)によると、25~34歳の「技術者」の就業者数は2015年の69万人から、2024年の110万人となり、41万人増加している。
- 10分析対象は一般労働者に限定している。なお、一般労働者には、短時間労働者は含まれていないものの、短時間労働者ではない「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」はともに含まれている。
- 11労働契約、労働協約あるいは事業所の就業規則などによってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって6月分として支給された現金給与額をいう。手取り額でなく、所得税、社会保険料などを控除する前の額。現金給与額には、基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか、超過労働給与額も含まれる。現金給与のみであり、現物給与は含んでいない。
- 12調査実施年の前年1年間(原則として1~12月までの1年間)における賞与、期末手当等特別給与額(いわゆるボーナス)をいう。
- 13月額賃金を12倍した額に年間特別給与を加算した額を用いて試算。
- 14労働市場において有効求人倍率が1を下回る状況を指す。
- 15事務職に含まれる職業分類は「庶務・人事事務員」「企画事務員」「受付・案内事務員」「秘書、電話応接事務員」「総合事務員」「その他の一般事務従事者」「会計事務従事者」「生産関連事務従事者」「営業・販売事務従事者」「外勤事務従事者」「運輸・郵便事務従事者」「事務用機器操作員」である。
- 16職業情報提供サイト(job tag)で提供される「職業情報データベース」では仕事の性質に関わる39項目のスコアがある。今回の分析においては、対人サービスに関わる項目、仕事の責任や仕事の自動化に関係する一部の項目を活用している。
- 17「所定内労働時間」とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)により、原則週40時間以内、かつ、1日8時間以内とされている就業規則等により定められている労働時間を指す。なお、本分析では、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」の「所定内実労働時間」の値を活用している。
- 18「超過労働時間」は、早出、残業、臨時の呼出、休日出勤等の実労働時間数。なお、本分析では、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」の「超過実労働時間」の値を活用している。
- 19「月間総労働時間」は「所定内労働時間」と「超過労働時間」を足し合わせたものを指す。
- 20job tagでは仕事価値観に関わる10項目(「達成感」「自律性」「社会的認知・地位」「良好な対人関係」「労働条件(雇用や報酬の安定性)」「労働安全衛生」「組織的な支援体制」「専門性」「奉仕・社会貢献」「私生活との両立」)のスコアがあり、各項目について満足感の充足しやすさに関するスコアが計測されている。
- 21本分析では、データベースから入手可能な、2022年1月から2024年12月までのデータを活用する。
- 22直近2年間に退職した者に限定した回答を集計している。
- 23詳細は、佐野(2015)などを参照。
- 24大学卒以上の「接客・販売・調理グループ」では、サンプル数が少ない点に留意が必要。
- 252013年と2023年には、それぞれ職業分類の改訂が行われている。今回の分析では、両年の職業分類において、おおむね同様の職種と考えられる小分類をもとに、各社会インフラ関連職のグループを再構成している。したがって、各年におけるグループに含まれる小分類の職業には一部差異がある点に留意が必要である。
- 262013年の「看護・介護」関係職種には「看護師」「准看護師」「看護補助者」「介護支援専門員(ケアマネージャー)」「福祉施設介護員」「ホームヘルパー」を含む。2023年の「看護・介護」関係職種には「看護師」「准看護師」「看護助手」「介護支援専門員(ケアマネージャー)」「介護職員(医療・福祉施設等)」「訪問介護従事者」を含む。
- 272013年の「運輸」関係職種には「自家用乗用自動車運転者」「自家用貨物自動車運転者」「営業用バス運転者」「タクシー運転者」「営業用大型貨物自動車運転者」「営業用普通・小型貨物自動車運転者」を含む。2023年の「運輸」関係職種には「乗用自動車運転者(タクシー運転者を除く)」「自家用貨物自動車運転者」「バス運転者」「タクシー運転者」「営業用大型貨物自動車運転者」「営業用貨物自動車運転者(大型車を除く)」を含む。
- 282013年の「建設」関係職種には「クレーン運転工」「建設機械運転工」「玉掛け作業員」「発電・変電工」「電気工」「掘削・発破工」「型枠大工」「とび工」「鉄筋工」「大工」「左官」「配管工」「はつり工」「土工」を含む。2023年の「建設」関係職種には「クレーン・ウインチ運転従事者」「建設・さく井機械運転従事者」「その他の定置・建設機械運転従事者」「建設躯体工事従事者」「大工」「配管従事者」「その他の建設従事者」「電気工事従事者」「土木従事者,鉄道線路工事従事者」「ダム・トンネル掘削従事者,採掘従事者」を含む。

