第1章 一般経済の動向

2022年の我が国の経済についてみると、感染防止策と経済活動の両立が図られる中で、個人消費の持ち直しや堅調な設備投資に牽引され、実質GDPは小幅ながらも前年より増加した。企業の業況は非製造業を中心に持ち直し、経常利益が高水準で推移する中で、設備投資は活発化した。一方で企業の倒産は3年ぶりに前年を上回っている。
 本章では、GDPや企業の利益や投資、倒産状況等についての各種経済指標を通じて、一般経済の動向を概観する。

第1節 一般経済の動向

GDPは小幅ながらも前年より増加した

第1-(1)-1図により名目・実質GDPの推移をみると、2020年第Ⅱ四半期(4-6月期)の感染拡大を受けた緊急事態宣言等により、GDPは名目・実質ともに大幅に落ち込んだものの、解除後の経済活動の再開で、名目・実質ともに反転し、2020年第Ⅳ四半期(10-12月期)には、大幅な落ち込みはおおむね解消したことが分かる。2021年以降は、GDPは名目・実質ともに緩やかな回復傾向となり、2022年においては、名目GDPはいずれの期においても、実質GDPは第Ⅰ四半期(1-3月期)を除き、感染拡大前の2019年第Ⅳ四半期(10-12月期)の水準を上回って推移した。
 第1-(1)-2図により実質GDPの成長率について需要項目別の寄与度をみてみよう。2022年の動きを四半期ごとにみると、第Ⅰ四半期(1-3月期)は、感染拡大によって一部の地域1にまん延防止等重点措置が発出され、飲食店等に営業時間短縮等が要請されていたこともあり、民間消費が抑制された結果、マイナス成長となった。第Ⅱ四半期(4-6月期)は、3月下旬にまん延防止等重点措置が解除され、3年ぶりに行動制限のない大型連休を迎えたことで、個人消費の回復がみられた。これにより、民間最終消費支出がプラスに寄与し、実質GDPは前年同期比でプラス成長となった。第Ⅲ四半期(7-9月期)、第Ⅳ四半期(10-12月期)は、前年のような全国的な行動制限が求められなかったことで、消費の大幅な落ち込みには至らず、おおむね横ばいとなった。
 2022年を通じてみると、感染防止策と経済活動の両立に取り組んだ結果、個人消費が大幅に落ち込むことが避けられ、先延ばしされてきた企業の設備投資も通期でみると堅調であったことから、民間最終消費支出や民間総資本形成がプラスに寄与し、実質GDPは小幅ながらもプラスとなった。

第2節 企業の動向

企業の業況は、製造業では厳しさがみられた一方で、非製造業では好調な状況がうかがえた

次に、企業活動の動向について、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(以下「短観」という。)から、企業の業況判断をみていく。
 第1-(1)-3図(1)により製造業・非製造業別に業況判断D.I.の推移をみると、いずれも2017年末~2018年をピークに低下傾向となり、2020年の感染拡大下では急速に悪化したものの、2021年にかけては持ち直しの傾向が続いた。2022年においては、「製造業」では前年よりも悪化した一方で、「非製造業」では景況感が改善し、「良い」超幅が拡大した。
 2022年の動きをより詳細にみると、「製造業」では、中国のロックダウン2に伴う半導体等の部品供給の停滞や、円安の加速による原材料価格の高騰等を背景に、9月調査まで3四半期連続で景況感の悪化が続いた。一方で、円安の進行による輸出の増加や国内での設備投資需要の回復を背景に、12月調査では僅かに改善した。「非製造業」では、3月下旬に、まん延防止等重点措置が解除されたことに加え、10月には外国人個人観光客の受入れ等の水際対策の緩和や全国旅行支援3等の需要喚起策が打ち出されたことなどにより、高い伸びとなった。
 同図(2)により企業規模別に2022年の業況判断D.I.をみると、「大企業製造業」は年間を通じて「良い」超で推移したものの、3月調査から4四半期連続で悪化した。「中小企業製造業」でも3月調査で悪化し、その後は横ばいが続いた後、12月調査では改善となったが、年間を通じて「悪い」超で推移した。非製造業では「大企業非製造業」「中小企業非製造業」ともに改善がみられ、特に「中小企業非製造業」では9月調査で11四半期ぶりの「良い」超となった。
 次に、第1-(1)-4図により鉱工業生産指数及び第3次産業活動指数の動きをみていく。鉱工業生産指数は、2020年の感染拡大による大幅な水準の低下後、2020年半ば以降は回復傾向となったが、2021年には持ち直しの動きに足踏みがみられた。2022年は、4~5月にかけて中国からの半導体等の部品供給が滞ったため、自動車工業等を中心に低下したが、その後は供給の改善によって上昇し、10~12月は横ばいで推移している。総じてみると、2022年の鉱工業生産指数は、一時的な上昇がみられたものの、いずれの月も感染拡大前の2019年の水準を下回って推移した。同図より第3次産業活動指数の動きをみていくと、2021年は引き続き社会活動の抑制から低水準で推移していたが、2022年は3月に国内全ての地域でまん延防止等重点措置が解除され、外出機会等が増加したことを背景に、年間を通じて緩やかな上昇傾向となった。

経常利益が高水準で推移する中、設備投資は活発化した

続いて第1-(1)-5図4により企業の経常利益の推移をみていく。2022年は、製造業・非製造業ともに「全規模」では増加傾向となった。特に製造業では部品等の供給制約の緩和や、円安による輸出拡大の影響等から収益が増大し、比較可能な1954年以降で過去最高額を上回った。他方で非製造業では、2021年を上回って推移したものの、第Ⅲ四半期(7-9月期)~第Ⅳ四半期(10-12月期)は原油高や円安による原材料価格の高まりが収益を下押しした結果、伸びが鈍化した。
 資本金規模別にみると、製造業の資本金「10億円以上」の企業では、感染拡大前の水準を大きく上回って推移し、全体の伸びを牽引した。一方、製造業のうち、資本金「1億円以上10億円未満」及び「1千万円以上1億円未満」の企業では、いずれも横ばいの動きとなったが、資本金「1億円以上10億円未満」の企業では感染拡大前の水準を上回り、資本金「1千万円以上1億円未満」の企業では感染拡大前の水準を僅かに下回った。非製造業についてみると、資本金「10億円以上」及び「1億円以上10億円未満」の企業では前年に引き続き増加傾向で推移し、資本金「1億円以上10億円未満」の企業では感染拡大前の水準を上回った。一方、資本金「1千万円以上1億円未満」の企業では減少傾向となった。
 次に、企業の設備投資の変化をみていく。第1-(1)-6図(1)により設備投資額の推移をみると、「製造業」「非製造業」ともに2019~2020年にかけて減少傾向で推移したが、2021年は企業収益の回復に支えられ、増加傾向となった。2022年は「製造業」において、第Ⅲ四半期(7-9月期)に減少がみられたものの、年間でみると高水準が続いた。「非製造業」においては、第Ⅲ四半期(7-9月期)に増加しており、「製造業」「非製造業」ともに感染拡大期に先送りされていた設備投資が再開されたことがうかがえる。
 同図(2)により生産・営業用設備判断D.I.をみると、「全産業」では感染拡大期の2020年において過剰感が急激に高まったものの、2021年には「過剰」超幅が縮小し、「過剰」と「不足」が均衡した後、2022年9月調査において「不足」超に転じた。「製造業」では、2022年は横ばいとなったが、「非製造業」では「不足」超幅が拡大した。
 同図(3)により設備投資計画をみると、2022年度はいずれの調査時点においても2021年度から上振れしており、設備投資に対する企業の積極的な姿勢がうかがえる。

企業の倒産件数は3年ぶりに前年を上回った

第1-(1)-7図(1)によると、企業の倒産件数は2009年以降、減少傾向で推移していたが、2022年は、引き続き低水準ながらも、3年ぶりに前年の件数を上回った。この背景としては、後述の人手不足関連倒産や物価高倒産に加え、感染症の影響により業績悪化した企業や、感染拡大時の支援策である「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」の元金返済期限が迫っている企業等の倒産が考えられる。
 次に、同図(2)より要因別にみた人手不足関連倒産件数の推移をみると、近年は倒産件数全体に占める割合が上昇傾向で推移し、件数も増加傾向となっている。2021年も倒産件数全体に占める割合は上昇したものの、件数は前年を下回った。2022年は、割合は引き続き上昇し、件数も増加に転じていることから、経済活動が回復し、企業の人手不足感が高まっていることがうかがえる。内訳をみていくと、「後継者難型」の件数が最も多く、次いで、「従業員退職型」「求人難型」が多い。また、「求人難型」「従業員退職型」は低水準ながらも2021年を上回ったが、「求人難型」「従業員退職型」「人件費高騰型」は2019年をピークに減少傾向で推移しており、全体に占める割合も低下傾向となっている。このことから、経営者の高齢化を背景として、事業の継承がままならなかった企業が倒産に至るケースが増加している可能性が示唆される。
  第1-(1)-8図(1)により物価高倒産件数の推移をみると、原油や燃料、原材料などの「仕入れ価格上昇」や、取引先からの値下げ圧力等で価格転嫁できなかった「値上げ難」などにより収益が維持できずに倒産した企業は、2022年に急増し、前年比2倍超となった。同図(2)により業種別にみると、建設資材の価格高騰や、ガソリン等エネルギー価格の上昇の影響により、「建設業」が最も多く、次いで「運輸・通信業」が多くなっている。

注釈

  1. 1北海道、青森県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、島根県、岡山県、広島県、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県。
  2. 22022年3~5月にかけて中国上海市において感染拡大に伴うロックダウンが行われ、中国国内の多くの工場が稼働を停止した。
  3. 32022年10月より観光庁が実施している旅行代金の割引を中心とした需要喚起策。
  4. 4本図は原数値の後方4四半期移動平均を算出したものである。