第2章 我が国の労働移動の動向

前章においては、労働力需給の展望を踏まえつつ、労働移動が我が国の経済成長や生産性の向上に資する可能性があることをみてきた。本章では、次章以降における、労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動を促進する上での課題についての分析の前提として、我が国の外部労働市場を通じた労働移動の動向や転職者の実態について概観していく。

第1節 労働移動の概況

転職入職率は2005年以降おおむね横ばいで推移しており転職者数は長期的に増加傾向、離職者数は近年横ばいとなっている。離転職者数は女性で増加している

まず、我が国の外部労働市場を通じた、労働移動の概況をみる上での基本的な指標として、離転職や入職の動向についてみていこう。
 第2-(2)-1図の(1)により、常用労働者数に対する転職入職者数を示す転職入職率の推移をみると、2005年以降、10%前後をおおむね横ばいで推移している。男女別にみると、男性よりも女性の方が高い割合で推移している。同図の(2)及び(3)により、転職者数、離職者数の推移をみると、転職者数は長期的に増加傾向が続いているが、離職者数は近年横ばいとなっている。男女別にみると、いずれも女性で長期的に増加傾向がみられる。また、感染症の影響下の2020年は、転職入職率、転職者数、離職者数いずれも大幅に低下又は減少となっている1

パートタイム労働者の転職入職率は長期的に上昇傾向にある一方で、一般労働者の転職入職率は横ばいとなっている。離職率はパートタイム労働者では横ばい、一般労働者では、近年やや低下傾向がみられる

第2-(2)-2図の(1)及び(2)により、就業形態別に転職入職率、離職率をみると、いずれも一般労働者よりもパートタイム労働者の方が高い。長期的にみると、パートタイム労働者の転職入職率は上昇傾向にある一方で、一般労働者の転職入職率は横ばいとなっている。離職率は、パートタイム労働者では横ばいとなっており、一般労働者では、近年、やや低下傾向がみられる。同図の(3)及び(4)により、就業形態別に転職入職者数、離職者数の推移をみると、いずれもパートタイム労働者では増加傾向がみられるが、一般労働者は横ばいで推移している。
 第2-(2)-1図と併せると、全体的な離転職の動きは、近年、主に女性やパートタイム労働者において活発化している傾向がみられるものの、男性や一般労働者を含めた労働市場全体では大きく活発化している傾向はみられない。

入職者に占める転職入職者の割合は6割程度で推移している。企業規模が小さいほど高い傾向にあるが、近年は大企業においても上昇傾向がみられている

次に、景気の変動等による入職者数全体の変動を考慮し、入職者に占める転職入職者の割合の動向についてみていく。
 第2-(2)-3図により、入職者に占める転職入職者の割合をみると、企業規模計では、1991年~2006年にかけてやや上昇した後、6割程度を横ばいに推移している。企業規模別でみると、規模が小さいほど入職者に占める転職入職者の割合が高い傾向にあるが、長期的に、企業規模1,000人以上の企業において上昇傾向がみられており、2020年時点ではいずれの企業規模においても、入職者のうちの半数以上を転職入職者が占めていることが分かる。

女性の中高年層を中心に入職者に占める転職入職者の割合が上昇傾向

第2-(2)-4図により、入職者に占める新規学卒者、新規学卒者以外の未就業者2及び転職入職者の割合の推移をみると、転職入職者は近年は横ばいであるが長期的に緩やかに上昇傾向にある一方、新規学卒者はおおむね横ばい傾向、新規学卒者以外の未就業者はやや低下傾向となっている。
 第2-(2)-5図により、年齢階級別に入職者の職歴別割合の推移をみると、入職者に占める転職入職者の割合は、「60歳以上」の年齢階級では長期的な上昇傾向にある一方、「35~59歳」ではおおむね横ばい傾向、「34歳以下」の年齢階級では2007年以降緩やかに低下している。入職者に占める新規学卒者以外の未就業者の割合は、35歳以上の年齢層では横ばい、「34歳以下」の年齢階級では長期的に緩やかな低下傾向で推移している。
 入職者に占める転職入職者の割合の年齢階級による違いは、転職行動の変化に加え、少子高齢化による年齢階級別の人口構成の変化による影響等も考えられる。このため、付2-(2)-1図により、各年齢階級別の入職者に占める転職入職者の割合の推移をみると、35歳以上の年齢層において、男女ともに上昇傾向にあり、特に、女性で大きく上昇している一方、「34歳以下」の年齢階級では男女ともにやや低下傾向にある。「34歳以下」の年齢階級では、景気の変動等による新規学卒者の採用動向の影響も受けることに留意が必要だが、おおむね、女性の35歳以上の年齢層を中心に労働移動の動きが活発化している中、「34歳以下」の若年層ではそれほど大きく活発化している傾向はみられない。

2020年の感染症の影響下においては、対人サービス業を中心に労働移動者が減少したが、「情報通信業」「社会保険,社会福祉,介護事業」「運輸業,郵便業」では入職者の増加もみられた

続いて、産業別の離入職の動きについてみてみる。第2-(2)-6図により、一般労働者について産業別の延べ労働移動者数(入職者数及び離職者数の合計をいう。以下本節において同じ。)をみると、「製造業」「小売業」「生活関連サービス業,娯楽業」といった業種では近年やや減少傾向がみられる。また、2020年の感染症の影響下においては、「小売業」「生活関連サービス業,娯楽業」などの産業で延べ労働移動者数の減少がみられたが、「情報通信業」「社会保険,社会福祉,介護事業」では、女性の入職者の増加といった動きがみられた。
 第2-(2)-7図により、パートタイム労働者について産業別の延べ労働移動者数をみると、一般労働者と比較して、全体的にその変動が大きい産業が多い。近年、「運輸業,郵便業」「社会保険,社会福祉,介護事業」で労働移動の動きが活発化している一方、「製造業」「建設業」「生活関連サービス業,娯楽業」では延べ労働移動者数がやや減少傾向にある。2020年の感染症の影響下においては、「小売業」「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」などで延べ労働移動者数の減少がみられたが、「情報通信業」では女性の、「運輸業,郵便業」では男性の入職者が大幅に増加したほか、「社会保険,社会福祉,介護事業」では、女性の離職者の増加がみられた。

平均勤続年数は、定年年齢の引上げ等の影響から高年齢層で上昇しているが、2000年代以降、男性では54歳以下、女性では39歳以下の年齢層で緩やかに低下

次に、労働者の勤続年数の動向についてみていく。
 第2-(2)-8図により、一般労働者について男女ごとに年齢階級別の平均勤続年数の推移をみると、男性において、1990年代半ばまでは「55~59歳」、1990年代以降は60歳以上の年齢層において大幅な上昇がみられる。これは1980年代以降、定年年齢が段階的に引き上げられてきた3ことが影響していると考えられる。一方、2000年代以降、男性では54歳以下の年齢層で、女性では39歳以下の年齢層で、緩やかな低下傾向で推移している。

産業別の平均勤続年数は、「製造業」では女性を中心に上昇傾向、「サービス業」では近年横ばい傾向となっている

第2-(2)-9図により、産業別に平均勤続年数の推移をみてみる。「製造業」では、1990年代までは男女ともに上昇傾向が続いていたが、2000年代以降は、女性では上昇傾向が続いている一方で、男性では横ばい傾向となっている。「サービス業」では、男女ともに、1990年代まで緩やかな上昇傾向が続いていたが、2000年代はやや低下した後、2010年代以降は横ばい傾向となっている。

我が国の雇用者の勤続年数は、国際的にみて比較的長期間となる傾向となっている

第2-(2)-10図は、勤続年数別の雇用者割合の国際比較である。これによると、我が国では、勤続年数1年未満の雇用者の割合が国際的にみて低くなっている。一方、勤続年数10年以上の雇用者の割合は、アメリカ、カナダ、イギリス、北欧諸国等と比較すると高く、イタリア、フランス等と同程度の水準となっている。
 これまでみてきたように、我が国の労働者の勤続年数の状況は、近年、男性では54歳以下、女性では39歳以下の年齢層において、平均勤続年数の緩やかな低下傾向がみられるものの、国際的にみると我が国の雇用者の勤続年数は比較的長期間となっている。

中途採用実績がある企業割合は2018年頃まで緩やかに上昇していたが、それ以降は感染症の影響もあり、やや停滞している

転職者を受け入れる企業側の動向についてもみてみよう。
 第2-(2)-11図は、対象期間中に中途採用実績がある企業割合の推移を産業別にみたものである。これによると、中途採用実績がある企業割合は、2012年以降、産業計では5割~6割程度で推移している。2018年までは緩やかな上昇傾向がみられていたが、それ以降は停滞し、2020年以降は感染症の影響により低下がみられた。産業別の水準をみると、「医療,福祉」では比較的高い水準で推移している一方で、「建設業」では比較的低い水準となっている。また、「製造業」「情報通信業」で2018年までは比較的大きく上昇しており、「製造業」では2019年以降低下したものの、「情報通信業」では2020年以降の感染症の影響下においても大幅な低下はみられない。「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」では感染症の影響により、2020年に大幅な低下がみられた。
 このように、近年は全般的に企業の中途採用は活発化の傾向がみられるものの、感染症の影響により2020年以降はやや停滞している。また、感染症の影響下において、多くの産業で中途採用が停滞傾向にある中、「情報通信業」のように大きな変動がみられない産業もあり、中途採用についても感染症の影響は産業により異なっている。

コラム2–3 企業における中途採用の活性化等に向けた取組について

本コラムでは、中途採用の活性化に向けた取組を推進されている企業として、森永乳業株式会社及び東京海上日動株式会社の取組について紹介していく。

森永乳業株式会社

日本有数の乳業メーカーである森永乳業株式会社(従業員数3,377名(単体)、6,871名(連結)(2021年3月現在))は、近年キャリア採用を積極的に行うとともに、同社を離職した方々の再雇用の取組を拡充している。
 同社は2016年より、新卒採用に加え、キャリア採用を本格的に開始している。キャリア採用の本格始動の理由は、多様な価値観を尊重する社内風土の醸成を図ること、また当時工場での新たなライン増設・新設備の投資を控えており、様々な部門での専門人材や即戦力となる人材を確保する必要があったためである。
 キャリア採用は、新規採用と同様に5年の人員計画をたてて、計画的に採用しており、2020年度において中途採用比率は2割を超えている。採用する人材について、キャリア採用を開始した当初は、同社と近い業界の経験者を優先的に採用していたが、現在は配属先の事業所においても多様性を受け入れ、育成する風土が築かれてきたこともあり、異なる業界で経験を積んできた方の採用も増やしてきているという。
 同社の再雇用制度は、2007年5月より、出産・育児、配偶者の転勤等の理由により退職した社員に限定した制度として始まった。その後、2008年10月より、「リターンジョブ制度」として対象者を大幅に拡大した。具体的には、同社で過去3年以上の勤務実績があれば、原則として退職時の理由を問わないものとしている。対象者拡大の目的は、①社外で培った技術や知識なども森永乳業での業務にいかしてもらい、社内の活性化に繋げること、②森永乳業での経験からノウハウ、文化を熟知している退職者を再雇用することで、即戦力となる人材の確保を図ること、③様々なライフプラン、キャリアプランによって森永乳業を退職した人材を再雇用することで、多様な価値観を尊重する社内風土の醸成を図ること、とのことである。
 リターンジョブ制度による再雇用者は、30歳台後半~40歳台が多い。キャリア採用は年次によって多少の増減はあるが、20~30名で推移しており、応募者は、食品や消費財メーカー等の近しい業界の経験者が多く、20歳台後半~30歳台が多い。
 両制度利用による採用者に対して、上司や周りの従業員からの評価は比較的高く、同社の文化が挑戦・貢献の風土へ向かい変化するにあたって良い影響を及ぼしているという。また、キャリア採用の導入により、各事業所で多様な人材を育成していこうという雰囲気が醸成されたことで、同社が採用する人材像が少しずつ変化しているといい、以前は新卒採用者の一定数が「森永乳業に多いタイプ」(柔和かつ真面目な性格で、協調性がある)であったが、最近はその割合が少し低下し、より多様性のある人材が増えた印象があるという。
 今後は、リターンジョブ制度に登録している方に定期的に連絡をとることや、キャリア採用についても求人情報を通年提示することなどを通じて、両制度を活用して中途採用比率を徐々に伸ばしていきたいと同社人事担当者は述べている。中途採用を積極的に進めることが、組織の変革や活性化につながっている好事例であるとともに、育児・介護等により職場を離れても、元の職場に戻ることができるという同社の取組は、今後の日本における働き方の選択肢を増やしていく上でも参考となる取組であるといえよう。

東京海上日動株式会社

東京海上日動株式会社は創業142年の損害保険会社であり、従業員数は約17,000人、代理店数は約45,000店である(2022年3月現在)。
 同社では、自然災害の激甚化やテクノロジーの発達など、目まぐるしく変化する事業環境に柔軟に対応するため、中途採用(キャリア採用)や退職者の再雇用制度を通じた人材の多様化を進めている。
 まず、会社の外部から多様な経験を有する人材を獲得することを目的として、2019年に本格的な中途採用(キャリア採用)を導入した。同社において、営業や損害サービスといった第一線を担う職種における中途採用の本格的な導入は創業以来初めてである。キャリア採用によって累計約50名(2022年3月現在)が採用されている。
 キャリア採用者は、これまでの仕事の成果に加え、会社の文化、使命等に共感しているかといった人物重視で選考を行っており、同社では出身の業界や経歴は問わず、多様な人材の確保を目指している。
 キャリア採用者には入社後に研修等を行うことで定着支援を図っている。従来は数日程度であった研修を1か月程度にまで拡大し、基幹商品やビジネスフロー等についてキャリア採用者専用のカリキュラムを設定した。このほか、配属先の全ての上司と人事担当者でキャリア採用者の背景や育成のポイントについて事前に対話をすることで、現場のフォローを行っている。また、職場に育成役を付けることもあり、キャリア採用者が配属後1年程度で独り立ちできるようにOJT体制を整えている。
 保険事業は複雑な業務でもあるため、周囲からのフォローも必要である。このため、入社当初のキャリア採用者は職場内での関係性やこれまでの経験を踏まえて役職や担う役割も柔軟に決定し、これまでのキャリアで培った強みを発揮できるよう運用している。
 人事担当者によると、配属先の上司に対するアンケートでは「定性的な側面、文化や社内の風土に対してプラスの影響をもたらしてくれた」について90%、「成果とか成長に資するような取組となっているか」について85%が肯定しており、実際に社内の慣習や顧客への保険販売の提案方法についても、キャリア採用者からの声を取り入れ、職場の活性化につなげているとのことであった。
 今後は、キャリア採用のうち転勤を伴う採用区分のグローバルコースは新卒対比で3割程度まで増やすとともに、転勤・転居を伴わない採用区分のエリアコースでもその割合を拡大し、全国の職場でキャリア採用社員が働いていることが当たり前の組織づくりを目指している。
 また、同社では従来から設けていた退職者再雇用制度を2020年に大幅に見直した。
 同制度は退職した社員を再雇用する復職制度であるが、勤務地を限定したエリアコースで働いていた社員が配偶者の転勤等の家庭の事情により退職し、再雇用として応募する場合が多かった。退職時の勤務年数、退職後の年数の要件を緩和するとともに、従来は復職可能な採用区分を特定の勤務地で働くエリアコースに限定していたが、転居を伴う異動があるグローバルコースについても復職を可能とした。加えて管理職への復職も可能とし、再雇用時の等級についても、個別に判断して格付けする手法に改めた。
 創業から140年目で初めて本格的な中途採用の実施に踏み切り、様々な試行錯誤を重ねている同社の取組は、同様に今後積極的に中途採用を進めていこうとする企業にとって貴重なモデルケースとなるとともに、中途採用制度に加え、退職者再雇用制度の見直しによっても、より多様な人材の確保が期待される。

第2節 キャリアチェンジを伴う労働移動の動向

前節では我が国の労働移動の動向について概観してきた。第1章で我が国の労働力需給の展望についてみたが、介護・福祉分野やIT分野における労働力需要の増大をはじめとして、今後の労働力需要の変化に対応していくためには、産業や職業といった分野間をまたぐ労働移動を促進していくことが重要である。本稿では、産業や職業が変わる労働移動を「キャリアチェンジ」を伴う労働移動として捉え、その動向をみていくこととする。

男性では大学・大学院卒かつ若年層、女性では大学・大学院卒の35歳以上の層を中心に産業間移動が活発化している傾向がみられる

まず、産業間労働移動の動向についてみていこう。
 第2-(2)-12図は、男女別・学歴別・年齢階級別に、雇用者のうちで産業(大分類)の移動を伴う転職を行った者の割合(以下本節において「産業間移動者割合」という。)の推移をみたものである。これによると、長期的にみて、男性では大学・大学院卒の「25~34歳」の層で産業間移動者割合の高まりが目立つ。女性では大学・大学院卒の35歳以上の年齢層において産業間移動者割合が近年高まっている傾向がみられる。
 産業間の労働移動は男女ともに大学・大学院卒以上の学歴が高い層でやや活発化している可能性がある。

転職が産業間の労働力配分に及ぼす影響は横ばい傾向。その相対的な寄与は2012年から2017年にかけて小さくなっている

続いて、転職による産業間の労働移動が産業間の労働力配分の変化に及ぼす影響についてみてみよう。労働移動が活発に行われている状況であっても、同一産業内・職種内における移動が多い場合や、他産業・職種からの流入と同程度の流出がある場合には、産業間・職種間における就業構造の変化は小さくなる。また、産業間・職種間における就業構造は、新規入職者の参入や労働市場からの引退による退出によっても変化する。そこで、各産業(職種)での新規入職・引退に伴う就業者数の増減の絶対値の総和(以下「新規入職・引退の労働力配分数」という。)が、新規入職者数と引退者数の総数の合計に占める割合を「新規入職・引退の労働力配分係数」、各産業(職種)での転職に伴う就業者数の増減の絶対値の和(以下「転職の労働力配分数」という。)が、転職者数の総数に占める割合を「転職の労働力配分係数」とすることで、新規入職・引退、転職がそれぞれ就業構造の変化に及ぼしている影響をみることができる。さらに、新規入職・引退の労働力配分数と転職の労働力配分数の総和のうち、転職の労働力配分数が占める割合を「転職の労働力配分ウェイト」とし、労働移動によってもたらされた就業構造の変化の推移を確認していく。
 第2-(2)-13図は、総務省統計局「就業構造基本調査」により産業間の新規入職・引退の労働力配分係数、転職の労働力配分係数、転職の労働力配分ウェイトをそれぞれ算出したものである。産業分類の区分変更により、変更前後の比較を行うことはできないが、2012年~2017年にかけて、転職の労働力配分係数は横ばい傾向となっており、転職による産業間の労働力配分への影響が大きくなっている傾向はみられない。また、転職の労働力配分ウェイトは新規入職・引退の労働力配分数が大きく増加したことで、低下しており、新規入職・引退と比較した転職の産業間労働力配分への相対的な寄与は小さくなっている。

同一産業内の労働移動性向は一般的に高く、「情報通信業」「建設業」「運輸業,郵便業」で特に高くなっている

次に、産業間の労働移動の動向について詳細にみていこう。産業間の労働移動の動向をみる指標として、ここでは労働移動性向を用いる。労働移動性向とは、ある産業(以下、A産業とする。)から別の産業(以下、B産業とする。)への移動確率と、転職者全体からみたB産業への移動確率の比をとることで、A産業からB産業へどの程度移動しやすいか(又は移動しにくいか)を示す指標であり、1を超えているとA産業からB産業への移動が相対的に行われやすいことを示す。
 第2-(2)-14図により、産業ごとに、同一産業内への労働移動性向をみると、同一産業内での労働移動は他産業への労働移動と比較すると行われやすく、いずれの産業においても1を超える水準となっている。とりわけ「情報通信業」でその水準が顕著に高く、「建設業」「運輸業,郵便業」においても比較的高い水準となっており、これらの産業においては同一産業内における労働移動が特に行われやすい傾向にあることが分かる。また、感染症の影響下の2020年以降の動きをみると、「情報通信業」「生活関連サービス業,娯楽業」では、2020年に大きく低下したものの、2021年には再び上昇している。

感染症の影響下においても、「卸売業,小売業」や対人サービス業の間で労働移動性向の水準は比較的高く、各産業から「情報通信業」「医療,福祉」への労働移動性向の顕著な高まりはみられない

続いて、各産業間での労働移動の行われやすさをみていく。
 第2-(2)-15図は、感染症の影響下において特に雇用者数の減少が大きかった産業として、「製造業」「卸売業,小売業」「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」のそれぞれから各産業への労働移動性向を示している。これをみると、「卸売業,小売業」や「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」といった対人サービス業の相互の労働移動性向は2019年以前から比較的高く、感染症の影響下の2020年以降についても「卸売業,小売業」から「生活関連サービス業,娯楽業」への移動を除き、おおむね1を超えた水準となっている。一方、「製造業」から各産業への労働移動性向をみると、おおむね1を下回る水準であり、2019年以前から「建設業」「運輸業,郵便業」「サービス業」への労働移動性向が比較的高かったが、感染症の影響下の2020年以降はこれらの産業のほか、「宿泊業,飲食サービス業」への労働移動性向の高まりもみられる。
 また、第2-(2)-16図は、感染症の影響下において雇用者数の増加がみられた「情報通信業」「医療,福祉」について、他の各産業からそれぞれの産業への労働移動性向を示したものである。各産業から「情報通信業」「医療,福祉」への労働移動性向はおおむね1を下回っており、2019年以前から低水準で推移している。感染症の影響下の2020年以降についてみても、いずれの産業からの労働移動性向も大きく高まってはおらず、感染症の影響下でこれらの産業への他産業からの労働移動が行われやすくなった傾向はみられない。

職種間の労働移動は、大学・大学院卒の者でやや活発となっている傾向がみられる

産業間の移動に続いて、職種間の労働移動の動向についてみていく。
 第2-(2)-17図は、男女別・学歴別・年齢階級別に、雇用者のうち職種(大分類)の移動を伴う転職を行った者の割合(以下本節において「職種間移動者割合」という。)の推移をみたものである。男性では産業間移動の場合と同様、大学・大学院卒の「25~34歳」で職種間移動者割合の高まりが目立つ。一方、女性では大学・大学院卒で「25~34歳」も含め、幅広い年齢層で職種間移動者割合が高まっている傾向がみられる。全体としては、職種間の労働移動は、産業間移動と同様、男女ともに大学・大学院卒の学歴が高い層でやや活発化している可能性がある。

転職が職種間の労働力配分に及ぼす影響は長期的に大きくなっている可能性がある

第2-(2)-18図は、産業間移動と同様の手法により、職種間の新規入職・引退の労働力配分係数、転職の労働力配分係数、転職の労働力配分ウェイトをそれぞれ示したものである。2012年以降の就業構造基本調査における職業分類の区分変更により、変更前後の比較を行うことはできないが、1987年~2007年にかけて転職の労働力配分係数はおおむね上昇しており、2012年~2017年にかけても上昇している。転職の労働力配分ウェイトをみると、2012年~2017年にかけては、新規入職・引退の労働力配分係数が大きく上昇していることから、転職の労働力配分ウェイトはやや低下している。転職の労働力配分係数が長期的に高まっている傾向がみられることから、職種間の労働力配分における転職による労働移動の影響が大きくなっている可能性がある。

同一職種内の労働移動は「専門的・技術的職業従事者」「生産工程従事者」「運搬・清掃・包装等従事者」で比較的行われやすい傾向にある

次に、労働移動性向を用いて、職種間の労働移動の動向を詳細にみていく。
 第2-(2)-19図により、同一職種内への労働移動性向を職種ごとにみると、いずれの職種も同一職種内での労働移動は他の職種への労働移動よりも行われやすい傾向にあり、労働移動性向は1を超えている。とりわけ、「専門的・技術的職業従事者」「生産工程従事者」「運搬・清掃・包装等従事者」では比較的同一職種内での労働移動が行われやすい傾向にある。また、同一職種内での労働移動性向は「専門的・技術的職業従事者」で低下傾向がみられるほか、2020年以降の感染症の影響下において、「生産工程従事者」では上昇傾向がみられているが、「事務従事者」「販売従事者」「サービス職業従事者」では大きな変化はみられていない。

職種間の労働移動性向は、「販売従事者」と「サービス職業従事者」の間や、「生産工程従事者」と「運搬・清掃・包装等従事者」の間で比較的高い

第2-(2)-20図により、主な職種ごとに他の職種への労働移動性向をみると、職種間では、「販売従事者」と「サービス職業従事者」の間や、「生産工程従事者」と「運搬・清掃・包装等従事者」の間で高いほか、「事務従事者」と「販売従事者」の間でも高くなっている。他方、「専門的・技術的職業従事者」と他職種との間の労働移動性向はおおむね低くなっている。2020年以降の感染症の影響下においては、「サービス職業従事者」から「販売従事者」「運搬・清掃・包装等従事者」への労働移動性向がやや高まっている傾向がみられ、感染症の影響下で雇用が大きく影響を受けたサービス職からこれらの職種に移動した者が増えた可能性がある。

介護・福祉職の労働移動の活発さはやや高まっているが、2020年の感染症の影響下では停滞がみられた

今後の労働力需要の高まりが予測されている介護・福祉分野における労働移動の状況をみていこう。
 第2-(2)-21図により、介護・福祉職における労働移動の状況をみると、介護・福祉職への転職者数及び介護・福祉職からの転職者数は、近年やや増加傾向にあるものの、2020年の感染症の影響下には停滞がみられた。一方、介護・福祉職と他職種の間の転職者数はいずれも横ばいで推移しているが、他職種から介護・福祉職への転職者数(流入者数)の方が他職種への転職者数(流出者数)よりもやや高い水準で推移しており、おおむね流入超過で推移している。2020年の感染症の影響下では、他職種から介護・福祉職への転職者数は減少となったものの、介護・福祉職から他職種への転職者数にはやや増加がみられた。
 このように、介護・福祉職においては、労働移動の活発さがやや高まっており、流入超過となっているものの、感染症の影響下ではその傾向に停滞がみられている。

第3節 転職者の実態

ここでは、よりミクロな視点から、労働移動をする転職者の実態についてみていくこととする。

転職経験者の割合は、男女別では男性より女性の方が高く、就業形態別では正規雇用労働者より非正規雇用労働者の方が高い傾向にある

まず、転職経験がある者の状況について概観する。第2-(2)-22図は、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2021」のデータを用いて、労働者の転職経験について男女別、就業形態別、就業経験年数別にみたものである。就業形態別にみると、正規雇用労働者よりも非正規雇用労働者の方が転職経験者の割合が高く、男女別にみると、正規雇用労働者の「5年未満」では男女の差は無いが、それ以外は、就業形態、就業経験年数にかかわらず、女性の方が男性よりも転職経験者の割合は高い傾向にある。正規雇用労働者についてみると、女性では就業経験年数が長くなるにつれて、転職経験者の割合も上昇しているのに対し、男性では就業経験年数が「10~14年」と「15~19年」の間、「20~24年」と「25年以上」の間で段階的に転職経験者の割合が比較的大きく上昇している。非正規雇用労働者についても、正規雇用労働者ほど明確ではないものの、女性は就業経験年数が長くなるにつれて転職経験者の割合が上昇しているが、男性では一定の就業経験年数を経て段階的な転職経験者の割合の上昇がみられる。

初職の企業規模が大きいほど転職経験者の割合は低い傾向にあるが、年齢層が高くなるにつれてその差は縮小する

第2-(2)-23図は、各年齢階級における初職の企業規模別にみた転職経験者の割合を示したものである。初職が企業規模10人以上の場合、いずれの年齢階級においても、企業規模が大きいほど転職経験者の割合が低い傾向にあるが、年齢層が高くなるにつれてその割合の差は縮小していく傾向にあり、「55~64歳」では初職の企業規模にかかわらず、転職経験者の割合はおおむね8割前後まで上昇する。「55~64歳」の年齢階級での転職経験者は、初職の企業規模が「公務(官公庁)」「9人以下」「1000人以上」の順に低いが、最も低い「公務(官公庁)」でも6割程度、「9人以下」「1000人以上」では7~8割程度である。若年層においては、大企業に就職する者では転職をしにくい傾向があるが、就業経験を重ねるにつれて、初職の企業規模の影響は徐々に薄れていくことがうかがえる。

性別・雇用形態にかかわらず、前職の離職理由が会社都合である転職者の割合は低下傾向にあり、収入や労働条件を理由とする割合がやや上昇している

続いて、転職者の前職の離職理由や現職への転職理由の動向をみていく。
 第2-(2)-24図により、前職が正規雇用の転職者4について、男女別に離職理由の推移をみると、男女ともに「会社都合」が低下し、2012年~2017年にかけては「収入が少なかったため」「労働条件が悪かったため」がやや上昇している5
 第2-(2)-25図により、前職が非正規雇用の転職者についてみると、正規雇用と同様、男女ともに「会社都合」の割合がおおむね低下した一方、「収入が少なかったため」「労働条件が悪かったため」の割合が近年やや上昇している。
 これらの状況から、感染症の影響を受ける前までではあるものの、正規雇用労働者・非正規雇用労働者ともに、会社都合による非自発的な転職はおおむね低下傾向にあり、賃金やその他の労働条件の向上を目的とする前向きな転職が上昇していたことがうかがえる。

男性は「自分の技能・能力が活かせるから」という、能力発揮を目的として転職先を選ぶ者の割合が高く、女性は働き方や労働環境を意識した理由で転職先を選ぶ者の割合が高い

第2-(2)-26図は、転職者が現在の勤め先を選んだ理由を年齢階級ごとにみたものである。これによると、男性は、女性より「自分の技能・能力が活かせるから」という、能力発揮を目的として転職先を選ぶ者の割合が高い傾向にある一方で、女性は、「労働条件(賃金以外)がよいから」「転勤が少ない、通勤が便利だから」といった、働き方や労働環境を意識した理由で転職先を選ぶ者の割合が男性より高い傾向にある。また、年齢階級別にみると、「55~64歳」の年齢階級においては「自分の技能・能力が活かせるから」といった自身のキャリアをいかせるどうかで転職先を選ぶ者の割合が比較的高く、54歳以下の年齢層では「仕事の内容・職種に満足がいくから」といった仕事の満足度を理由に転職先を選ぶ者の割合が比較的高い。このほか、44歳以下の年齢層の女性においては、「労働条件(賃金以外)がよいから」といった労働環境を踏まえて転職先を選ぶ者の割合が比較的高い。

雇用形態の変化を伴わない転職をする者が多い一方で、パートタイム労働者から一般労働者への転職は、男性は「34歳以下」、女性は54歳以下の年齢層で増加傾向がみられる

ここからは、転職による役職や雇用形態及び賃金変動の状況についてみていく。
 第2-(2)-27図により、男女別・年齢階級別に転職前後の雇用形態ごとの転職者数をみると、男性では全ての年齢階級で一般労働者から一般労働者、女性は35歳以上の年齢層でパートタイム労働者からパートタイム労働者、「34歳以下」の年齢階級で一般労働者から一般労働者といった、雇用形態の変化を伴わない転職をする者が比較的多い。また、一般労働者から一般労働者への転職は、男女とも全ての年齢階級において増加傾向で推移していたが、2020年の感染症の影響下においては停滞がみられた。
 雇用形態の変化を伴う転職者数についてみると、一般労働者からパートタイム労働者への転職は、女性の35歳以上の年齢層で増加傾向がみられるものの、その他の年齢階級においてはおおむね横ばいで推移している。また、パートタイム労働者から一般労働者への転職は、男女ともに幅広い年齢層で増加傾向がみられており、特に、男性の「34歳以下」の年齢階級、女性の54歳以下の年齢層では増加幅が大きくなっている。

男性の方が女性よりも転職後に役職が上がった者の割合が高い傾向にある

第2-(2)-28図により、転職による役職の変化の状況をみると、転職前の役職別・年齢階級別のいずれでみても、おおむね男性の方が女性よりも転職後に「役職のアップ」となった者の割合が高い傾向にある。2020年においては、2015年と比較して、「役職のアップ」となった者の割合が低下しており、男性よりも女性においてその傾向がみられる。

雇用形態の変化を伴う転職の場合、賃金も変動しやすいほか、年齢が低いほど転職後の賃金が増加しやすい傾向がみられる

第2-(2)-29図により、雇用形態の変化の状況別に転職前後の賃金の変動の状況をみてみる。正社員から正社員、非正社員から非正社員といった雇用形態の変化を伴わない転職をした場合と比べて、雇用形態の変化を伴う転職をした場合には、正社員から非正社員に転職した場合では賃金が減少した者の割合が高く、非正社員から正社員に転職した場合では賃金が増加した者の割合が高い傾向にある。非正社員から非正社員に転職した場合では、男性よりも女性の方が、転職後に賃金が増加した者の割合がやや高く、おおむね5割程度で賃金の増加がみられている。年齢階級別にみると、男女とも、「15~34歳」の方が「35~59歳」よりも賃金が増加する者の割合が高い傾向がみられるが、男性の方がその差がやや大きくなっている。これらについては、2015年、2020年のいずれにおいても大きな変化はみられない。

就業経験が長くなるほど、転職時にタスク距離が近い職種を選ぶ傾向にある

ここからは、キャリアチェンジをする者の実態についてみていく。
 キャリアチェンジをする場合、転職者は全く経験が無い仕事に転職をするよりも、前職の経験をいかせる仕事への転職を志向する可能性が高いと考えられる。ここでは、職種間を移動する転職をする者について、前職の経験がどう転職先の選択に影響するのかについて、転職者の前職と新職における仕事内容の変化を定量的に表す「タスク距離」を用いて分析を行っていく。タスク距離は、厚生労働省及び(独)労働政策研究・研修機構が運営する「日本版0-NET」のデータを用いて、各職種間の仕事の内容の類似性を算出したものである6
 第2-(2)-30図により、職業経験年数別に転職時の前職と新職のタスク距離の分布をみると、いずれの経験年数においても、同一職種(タスク距離0)に転職する者が最も多く、他職種へ転職する場合には、就業経験年数が長くなるほど、タスク距離が近い職に転職する者が多い傾向がみられる。このことから、労働者が就業経験を重ねるにつれて、経験を通じて把握した自らの適性に応じた仕事を見つけるようになるため、タスク距離が近い職種への転職を志向するようになるという傾向がうかがえる7

雇用形態の変化を伴わない転職では、同一職種やタスク距離の近い職種に転職する傾向がみられる

第2-(2)-31図により、雇用形態の変化の状況別に転職時の前職と新職のタスク距離の分布をみると、雇用形態の変化を伴わない(正規雇用から正規雇用又は非正規雇用から非正規雇用)転職の場合では、同一職種へ転職する者が多く、他職種へ転職する場合には、タスク距離が近い職種間で転職する者が多い。
 一方、雇用形態の変化を伴う転職の場合(正規雇用から非正規雇用又は非正規雇用から正規雇用)では、雇用形態の変化を伴わない場合と比べて、他職種へ転職することが多く、比較的タスク距離が遠い職種間での転職もみられる。これらから、雇用形態の変化を伴わない転職を行う場合、キャリアの継続性を重視して職種を維持する傾向も強いことがうかがえる。

前職が「専門職・技術職」では同一職種、「事務系職種」「営業販売職」ではタスク距離が比較的近い職種、「サービス職」ではタスク距離が比較的遠い職種への転職が多い傾向にある

続いて、前職の仕事の内容により、職業経験が転職先の選択に及ぼす影響の違いをみる。第2-(2)-32図により、前職の職種別に転職時の前職と新職のタスク距離の分布をみると、前職が「専門職・技術職」である場合、同一職種(小分類)への転職が多くなっており、「サービス職」「営業販売職」では同一職種(小分類)への転職が比較的少ない傾向がみられる。また、他職種へ転職する場合、前職が「事務系職種」「営業販売職」ではタスク距離が比較的近い職種への転職が、「サービス職」ではタスク距離が比較的遠い職種への転職が多い傾向がある。
 前職が「専門職・技術職」である者は、過去のキャリアにおいて可視化・差別化できる形で蓄積した専門知識やスキルをいかして働きたいと考える者が多く、8前職が「事務系職種」や「営業販売職」である者は、専門性を可視化・差別化しづらい分、前職での経験をいかせるよう、類似の仕事への転職を行う者が多い可能性が考えられる。

「事務系職種」では同じ「事務系職種」の範囲の中での移動が多い一方、「営業販売職」は比較的タスク距離が近いサービス職との間の移動が多いなど、前職の職業経験により職種間移動の態様は異なっている

第2-(2)-32図でみた、前職と新職のタスク距離の分布の分析に続いて、労働移動が行われやすいのはどのような職種間かみてみよう。第2-(2)-33図は、前職の職種別に、頻度の高い職種間移動の状況をみたものである。これによると、前職がいずれの職種であっても、「事務系職種」への転職は比較的多くみられる。第2-(2)-32図において、前職が「サービス職」である者は比較的タスク距離が遠い職種に移動する者も多いことをみたが、これはサービス職から比較的タスク距離が大きい「事務系職種」へ転職する者が多いことを反映していると考えられる。また、前職が「事務系職種」である者の場合は、新職も「事務系職種」に転職する者が多い一方、「営業販売職」と「サービス職」は事務職への移動のほか、相互の転職もよくみられる。
 第2-(2)-32図においては「事務系職種」や「営業販売職」でタスク距離が比較的近い職種間での移動が多いことをみたが、「事務系職種」では、「事務系職種」の中での移動が多い一方、「営業販売職」は比較的タスク距離が近いサービス職との間の移動が多いなど、移動の態様は前職の職業経験により異なることがうかがえる。

第4節 小括

本章では、我が国の外部労働市場における労働移動の概況や転職者の実態についてみてきた。
 我が国の労働移動の動向を、転職入職率や転職者数、離職者数といった基本的な指標でみると、女性やパートタイム労働者で離転職者が増加している傾向もみられるものの、男性や一般労働者を含めた労働者全体では顕著に労働移動が活発化している傾向はみられない。また、諸外国と比較すると、我が国では勤続年数が10年以上の雇用者の割合が比較的高く、一つの職場で長く働く雇用者が多い傾向にある。
 産業間や職種間などのキャリアチェンジを伴う労働移動については、男女ともに学歴の高い層で活発化している可能性がある。職種間の労働移動においては、就業構造の変化への寄与度が高まっている傾向がみられ、第1章でみたような就業構造の変化に対して、外部労働市場を通じた労働移動の役割が高まっている可能性がある。産業間や職種間の労働移動性向をみると、対人サービス業間や、販売従事者とサービス職業従事者の間といった、類似する分野への労働移動をしやすい傾向があることがうかがえる。また、感染症の影響下において、労働力需要が高まっている介護・福祉分野やIT分野への労働移動の状況をみると、「医療・福祉」「情報通信業」といった産業へ他産業から転職する者が増加している傾向はあまりみられず、介護・福祉職についても、他分野からの労働移動が大きく増加している傾向はみられない。
 一方、転職経験者は雇用形態を問わず女性の方が多くなっている。女性では労働条件や家庭の事情等を理由に転職する者が多い傾向があり、パートタイム労働者からパートタイム労働者への転職が多い。パートタイム労働者から一般労働者へと転職をしている者の増加もみられるものの、役職がアップする者は男性と比較して少ない傾向がある。
 キャリアチェンジを伴う転職をする者について、前職と新職のタスク距離を用いて、前職の職業経験が転職先の選択に及ぼす影響について分析した。これによると、就業経験年数が長いほどタスク距離が小さい職種への移動をする傾向があり、就業経験を重ねるにつれて、就業経験から把握した適職に類似する職種に転職を行うようになる傾向がうかがえる。特に、専門職の者は、専門知識を活用して同一又は類似の職種間での移動を行う傾向が強い。他方、タスク距離が近い職種への転職をする傾向がある場合でも、事務職については事務職の範囲内で移動をする傾向が強いのに対し、営業販売職とサービス職では相互の移動が多いなど、前職の職業経験に応じて、職種間移動の態様が異なる傾向もうかがえる。

注釈

  1. 1第1-(2)-26図でもみたように、「より良い条件の仕事を探すため」といった、前向きな理由での転職者が大きく減少したことが影響していると考えられる。
  2. 2厚生労働省「雇用動向調査」では、入職前1年間における就業経験の有無により職歴の区分を未就業入職者と転職入職者に分けているため、1年以上の離職期間を経て再就職した場合も未就業者に分類されていることに留意。
  3. 31986年に高年齢者等の雇用の安定等に関する法律が改正され、60歳定年が企業の努力義務となり、1994年の改正により60歳未満定年が禁止(1998年施行)された。また、2000年には企業に対して65歳までの雇用確保措置を努力義務化するとともに、2004年には65歳までの雇用確保措置の段階的義務化(2006年施行)がされ、2012年には企業に対して、希望する労働者全員を65歳まで継続雇用することが義務化された(2013年施行)。
  4. 4第2-(2)-24図及び第2-(2)-25図は総務省統計局「就業構造基本調査」のデータを用いており、転職者について、過去5年以内に前職を離職した有業者(就業者)としている。
  5. 52017年までの推移であり、感染症の影響下では状況が大きく変わっている可能性もあることに留意が必要。
  6. 6詳細なタスク距離の算出方法は付注2を参照。
  7. 7勇上(2011)では、職業大分類ベースでみたキャリア内転職率は労働市場経験にかかわらず一貫して高い一方、労働市場経験年数が長いほど、より狭い範囲のキャリア内転職率が有意に上昇することを明らかにしており、適職探しは関連の深い仕事の中で行われながら、次第に固定的なキャリアが選び取られていく傾向があることを指摘している。
  8. 8勇上・牧坂(2021)でも、(独)労働政策研究・研修機構が実施したアンケート調査の結果を用いて、労働者個人が実際に遂行している個別のタスク情報に基づきタスク距離を計測して分析を行っており、その結果、専門職・技術職においては他の職業に比べてタスクが類似した職業間を転職する傾向が強いことを明らかにしている。