第4章 消費・物価の動向

2021年の家計の消費は、感染症の影響による経済社会活動の抑制によって2020年に続き弱い動きが続いたが、緊急事態宣言等の発出が長引く中で消費者マインドが変化し、経済社会活動が徐々に活発化した年後半にかけては活発な動きもみられた。また、2021年の物価は、4月以降の携帯電話通信料の引下げを中心に一般サービスが押下げ要因となったが、年後半にかけて原油高を背景に石油製品価格やエネルギー価格の上昇がみられた。
 本章では、このように感染状況やそれに伴う経済社会活動の抑制等により変動した2021年の消費・物価の動向を概観する。

第1節 消費・物価の動向

2021年の消費の動向は、実質総雇用者所得が感染拡大前と同程度の水準まで回復した中、緊急事態宣言の発出等が長期間にわたったことから低調な動きとなったが、年後半の経済社会活動の活発化に従って上昇傾向となった

消費の動向は所得の動向の影響を大きく受けることから、第1-(4)-1図により、実質総雇用者所得の推移をみてみる。実質総雇用者所得は、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月~7月に大幅に減少した後、年後半は回復傾向で推移しており、2021年は、おおむね堅調に推移したことから、感染拡大前の2019年と同程度の水準となった。
 一方、消費総合指数は、後方3か月移動平均でみると、2020年4月を中心に大幅に低下し、6月に底を打った後は回復傾向が続いていた。2021年は、半導体不足に伴う供給面からの制約等により耐久財の消費が年後半に落ち込んだことに加え、感染症の影響による緊急事態宣言等の発出によって経済社会活動の抑制措置が繰り返されたことから、サービス消費が特に冷え込み、2020年に続き、低調な動きとなった。その後、緊急事態宣言等が解除され、経済社会活動が活発化した10月以降は上昇傾向がみられた。

2021年の消費者態度指数は、上下に変動しながらも持ち直しの動きがみられた

消費の動向は、所得以外の要因として消費者マインドの影響を受けることから、第1-(4)-2図により、消費者態度指数の推移をみていく。
 消費者態度指数の推移をみると、2017年後半から緩やかな低下傾向で推移しており、2019年10月には消費税率の引上げによる反動減がみられ、2019年末~2020年当初にかけて持ち直しがみられたものの、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月を中心に大幅な下落となった。その後は上昇傾向となったものの、2021年は、緊急事態宣言下であった1月~9月の間では、年初に落ち込んだ後、持ち直しの動きがみられる中で上昇と低下を繰り返し、長期間にわたった緊急事態宣言下での消費者マインドの変動がうかがわれる。緊急事態宣言が解除された2021年10月以降は、「雇用環境」の大幅な改善から堅調に推移し、感染拡大前の2019年と同程度の水準となった。
 項目別にみると、2021年はいずれの項目でも上昇と低下を繰り返しながら持ち直しの動きが続き、「耐久消費財の買い時判断」は、供給面からの制約等により2021年7月以降で足踏みがみられたが、「雇用環境」では年後半にかけて高い伸びがみられた。2021年12月時点においては、ほぼ全ての項目で2019年と同程度の水準まで回復しており、消費者のマインドは持ち直していることがうかがえた。

勤労者世帯の消費支出は2021年前半には一時的な回復はみられたものの、その後は低調な動きとなり、年後半にかけて持ち直しがみられた

次に、勤労者世帯の消費の動向をみてみる。
 第1-(4)-3図の(1)により、二人以上世帯のうち勤労者世帯の消費支出の推移をみると、2021年の勤労者世帯における消費支出は、年初には感染状況の悪化やそれに伴う緊急事態宣言の発出等を受けて落ち込み、2月~5月にかけては消費マインドが改善する中で一時的な回復もみられたが、その後は8月まで減少傾向で推移した。緊急事態宣言解除後の10月以降は持ち直しもみられたが、年平均でみると、2020年に続き2019年の水準を下回って推移した。
 一方、同図の(2)により、勤労者世帯の実収入の状況を確認すると、2021年は、2020年の水準を下回る月もみられたものの、ほとんどの月で2019年を上回る水準で推移しており、低調な消費の動きが実収入の減少によって生じている様子はうかがえなかった。

消費性向はほぼ全ての年齢階級で上昇したものの、依然として低水準となっている

第1-(4)-4図により、勤労者世帯の平均消費性向(消費支出/可処分所得)を世帯主の年齢階級別にみると、2019年まではいずれの年齢階級においても低下傾向で推移していた。2020年は感染拡大に伴う経済社会活動の抑制等の影響により消費支出が減少し、他方で特別定額給付金の支給等の影響により可処分所得が増加したため、平均消費性向は大幅に低下した。
 2021年は、2020年と比較して全ての年齢階級で可処分所得が減少し、他方で消費支出が増加又は微減となったため、ほぼ全ての年齢階級において平均消費性向は上昇したが、34歳以下では可処分所得よりも消費支出が大きく減少し、平均消費性向は低下した。一方、感染拡大前の2019年の水準と比較すると、いずれの年齢階級においても可処分所得は増加したものの、消費支出は減少しており、平均消費性向は引き続き低水準にある。

2021年は、経済社会活動の抑制が断続的に行われる中、消費者物価指数(総合)は特に「一般サービス」が押下げ要因となり、マイナスで推移したが、年後半は原油価格の高騰を背景にプラスに転じた

第1-(4)-5図により消費者物価指数(総合)の推移を財・サービス分類別の寄与度とともにみていく。消費者物価指数(総合)は、2017年以降上昇傾向で推移していたが、2020年は感染症の影響による経済社会活動の停滞を背景に、幅広い商品で価格が低下し、2020年後半は原油価格の低下等の影響によりマイナスに転じた。2021年1月~3月は、2020年から続く「電気・都市ガス・水道」「石油製品」等のマイナス寄与により、消費者物価指数は低下傾向で推移したものの、前年同月比でみた低下幅は縮小傾向であった。
 2021年4月以降では携帯電話各社の携帯電話の低料金プランの提供開始によって携帯電話通信料が引下げられたことから「一般サービス」がマイナスに寄与し、消費者物価指数が大幅に低下した。その後、8月まで弱い動きが続いたが、9月以降は原油高を背景に原材料価格が上昇し、「石油製品」をはじめとする様々な製品の価格にプラスに寄与したため、消費者物価指数(総合)はプラスに転じた。