「昭和100年企画」第8回 100年先までつなぐバトン―みんなで支える社会保障

ー 昭和100年企画 全8回 ー


暮らしの安心・安定を支えてきた社会保障

ここまで駆け足で、社会保障「昭和100年」の歩みを振り返ってきました。戦前~戦時中に礎が築かれ、終戦後の混乱期に体系を確立させてきた我が国の社会保障制度は、高度成長期、成熟期と社会が移り変わる中、不断の見直しを繰り返し、国民の暮らしの安心・安定に寄与してきたことを概観しました。
 

次世代やまだ見ぬ世代に責任をもって引き継ぐ「安心のインフラ」

少子高齢化は想定を超えたスピードで進んできました。それは、様々な制度に大きな影響を与えます。したがって、給付と負担のバランスを適宜見直して、安定財源を確保することが必須でした。

しかし、それは国民的な議論が必要な問題で、社会的合意に至るのが難しく、実施までに相当の時間を経ることとなりました。

少子化の趨勢を反転させることのできる「ラストチャンス」は、昭和105(2030)年まで、あと5年。団塊ジュニア世代が65歳に達する昭和115(2040)年まで、あと15年。「暮らしの安心・安定をもたらすインフラ」をバージョンアップして、将来世代に責任をもって引き継ぐ上で、私たちに残された時間は限られています。
 

つながりを再興して、地域共生社会を実現

もう一つの顕著になった課題として、「地域、職場、家庭での“つながり”の希薄化」が挙げられます。国民皆保険や国民皆年金に代表される我が国の社会保障の有り様は、(1)家族によるケア、(2)地域のつながり、(3)長期雇用慣行による企業による雇用保障を前提として、その足らざる部分を補完・代替する役割を担ってきました。考えうるリスクを想定して対象者を定め(高齢者、障害者、子育て家庭、低所得者など)、典型的なサービスを準備して制度的に対応してきました。しかし、「つながりの希薄化」によって生活課題が複雑化・複合化し、社会的孤立が進み、従来の社会保障制度ではすくい取ることのできない課題も顕著となってきています。

これらに真正面から向き合うため、

・生活における人と人とのつながりを再構築し、誰もが役割と生きがいを持ち、互いに支えたり、支えられたりする関係が循環する地域社会

・社会・経済活動の基盤として、人と資源が循環し、地域での生活を構成する幅広い関係者による参加と協働により、持続的発展が期待できる地域社会

の2つの視点からなる、「地域共生社会」の実現に向けた取組が進められています。
 

オープンな熟慮と議論、不確実性への備え

社会保障に完成型はありません。これからも人口構造をはじめ社会が変化すれば、それに適合するように、柔軟に形を変えていく必要があります。そうした見直しは、国民的議論が必要になることもあります。民主主義社会における政策決定として、変化の予兆を捉えて早期に検討を開始するとともに、わかりやすく情報発信し、オープンな環境の下で正しいプロセスを経て議論する必要があります。

また、昨今の世界情勢をみても分かるとおり、不確実性が高まっており、世の中何が起こるかわかりません。一つ留意するべきことは、社会保障は平和の上に存立するものであるということです。平和な時代が80年間続いたからこそ、課題こそあれ、国民の安心と安定を支える社会保障制度が、今日も機能し続けています。

また、巨大地震などの大災害や未知の感染症によって、再び我が国が困難に直面する日が、来るかもしれません。国民の安心のためには、非常時の自助・共助・公助を我が事として捉え、今、自分にできる備えを万全にしておくことが求められます。
 

※本記事は、厚生労働省が中央法規出版(株)に委託し、中高生から高齢者まで幅広い層向けに作成したものです。

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