「昭和100年企画」第7回 全世代型社会保障、地域共生、こどもまんなか社会 昭和81-100年(2006-2025)

ー 昭和100年企画 全8回 ー


どんな時代だったか

デフレ経済と相次ぐ“危機”

経済活動が停滞して企業の売上も従業員の賃金が伸びない「デフレ」が定着する中、昭和83(2008)年には世界的な経済危機「リーマンショック」(1)が発生しました。
生産ラインの停止を余儀なくされた企業が派遣労働者を一斉に雇い止めとする、いわゆる“派遣切り”が社会問題化しました。
昭和86(2011)年には東日本大震災が起こり、地震と津波で東北地方を中心に壊滅的な被害が生じ、原発事故に伴う 電力不足もあいまって、日本経済は大打撃を受けました。さらに昭和95(2020)年からは新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、感染拡大防止のために経済活動の人為的な抑制を余儀なくされ、急激かつ大幅な景気後退にさいなまれました。

また、名目GDPは昭和85(2010)年に中国に抜かれて世界第3位に、昭和98(2023)年にはドイツに抜かれて世界第4位へとランキングを落とすこととなりました。
 
  • ( 1 )米国の投資銀行大手リーマン・ブラザーズが負債総額6000億ドル超となる史上最大級の規模で倒産したことを契機として発生した世界的な金融・経済危機。
 

年齢による「支える側/支えられる側」という考えからの転換

少子化はさらに進み、我が国の総人口は、昭和83(2008)年の1億2,808万人をピークに、減少に転じました。
一方で長寿化は更に進み、平成25(2013)年には男女ともに平均寿命が80歳を超えて、人口構造の高齢化が加速しています。
昭和82(2007)年には総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)が21%を突破し、世界で初めて「超高齢社会」に達した国となりました。昭和100(2025)年には30%を突破する見込みです。

これからも続く超高齢社会に備え、社会保障制度を持続可能なものにしていくには、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心となっているこれまでの社会保障の構造を見直し、年齢に関わりなく、全ての国民が、能力に応じて社会保障を支えていくことが求められていると言えます。

 

単身世帯の増加、地域のつながりの希薄化、孤独・孤立

高齢化と並行する形で、単身世帯が拡大しています。死別、生涯にわたり結婚しない人の増加、祖父母世代・親世代・子といった三世代同居の減少等が背景にあるとみられていますが、既に世帯総数の約4割に上り、今後も更なる拡大が予測されています。

折しも、1990年代以降のインターネットや携帯端末の普及により、対面せずともコミュニケーションがとれ、買い物や娯楽、更に仕事もネットを介して行える時代となりました。また、雇用の流動化で会社や仕事を通じたつながりは希薄化し、地域住民同士のつながり、交流の機会も乏しくなっています。結果として、関係づくりが個人に委ねられた、極めて「孤立しやすい環境」の下に、私たちは置かれています(2)

新型コロナウイルス感染症の拡大により、人と人との接触機会を抑えざるを得ない時期を私たちは経験しましたが、それにより、社会で進行していた「孤独・孤立」の問題が顕在化することとなりました。
 

  • ( 2 )昭和97(2022)年度の内閣府の調査によれば、15歳~64歳の生産年齢人口のうち推計146万人、50人に1人がひきこもり状態であるとされています。
     

この時期の社会保障

社会保障と税の一体改革

国民皆保険・皆年金を堅持し、将来にわたって社会保障制度を持続可能なものとしつつ、時代の変化の中で顕在化してきた新たな課題に対応するために、昭和85(2010)年から「社会保障・税の一体改革」の検討が開始されました。
「社会保障・税の一体改革」は、社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指したもので、改革のメニューは年金、医療、介護、少子化対策の4分野に及び、厚生年金保険の加入対象の拡大、低所得の年金受給権者に対する「年金生活者支援給付金」の創設、地域包括ケアの推進、医療における病床機能の分化及び連携、子ども・子育て支援新制度の実施――など、多岐に渡ります。

また、安定財源の確保のため、消費税率の引き上げが2回に分けて実施され(昭和89(2014)年4月に5%→8%、昭和94(2019)年10月に8%→10%)、消費税率の引き上げによる増収分は、すべて社会保障の財源に充てることとなりました。

 

全世代型社会保障の構築

その後、消費税の引き上げも含めて「社会保障と税の一体改革」のメニューが着実に実施されました。一方、人口減少は国難ともいうべき課題であり、今後若年人口が急激に減少する昭和105(2030)年までの間が「ラストチャンス」であるとの位置づけで、昭和95(2020)年以後も更なる改革が継続されることとなりました。

まず、「未来への投資」として、所得保障とサービスの両面で「子育て・若者世代への“前例のない規模”の支援」が講じられました。
これまでに▽児童手当の拡充▽出産育児一時金の引き上げ▽0歳6か月から満3歳未満までで保育所等に通っていないこどもを受け入れる「こども誰でも通園制度」の創設▽妊娠・出産時からの経済的支援と伴走型相談支援の制度化▽育児で時短勤務した場合の新たな給付の創設などが実施されています。
これにより、我が国の対GDP比でのこども1人当たりの家族関係社会支出は16%程度に拡大し、一気にOECD(経済協力開発機構)トップのスウェーデンと肩を並べる水準に達することとなります。

あわせて、年齢に関わりなく全ての国民が能力に応じて負担し支え合い、必要な社会保障サービスが必要な方に提供される「全世代型社会保障」を構築するため(3、医療・介護制度の改革(4)などを行うこととしています。
また、人生100年時代の到来を踏まえて、高齢になっても、あるいは子育てや介護などの事情を抱えていても、可能な範囲で就労や地域活動などを通じて「支え手」として社会参加し、かつ必要な保障を受けられるように、働き方や社会保障の在り方を見直すこととしています(5)
 

  • ( 3 )実施済(実施中)の施策としては、▽一定以上の所得を有する後期高齢者の医療費の窓口負担割合の見直し▽後期高齢者医療制度の財源構成にかかる高齢世代・現役世代のバランスの見直し▽高齢層の所得格差に応じた介護保険料負担への見直しと介護従事者の処遇改善――など。
  • ( 4 )実施済(実施中)の施策としては、▽オンライン診療の活用やタスク・シフト/シェアの推進▽長期収載品の処方等にかかる保険給付の在り方の見直し(選定療養化)▽リフィル処方箋の活用拡大▽ロボット・ICT活用による効率化――など。
  • ( 5 )実施済(実施中)の施策としては、▽60~64歳の在職老齢年金にかかる支給停止基準額の引き上げ▽リ・スキリングによる能力向上支援▽同一労働同一賃金の推進――など。
 

こども家庭庁と「こどもまんなか社会」

少子化の加速、こどもの貧困、いじめや虐待、不登校、ひとり親世帯を含む子育て家庭の負担など、こどもをめぐる諸課題に一元的に対処するため、複数の省庁に担当が分かれていた組織構造を改め、“常にこどもの視点に立った政策を推進する新たな行政機関”として「こども家庭庁」が昭和98(2023)年4月に創設されました。
こども家庭庁では、常にこどもや若者の最善の利益を第一に考え、こども・若者・子育て支援に関する取組・政策を我が国社会のまんなかに据える「こどもまんなか社会」の実現に向けて、司令塔の役割を発揮することとしています。

 

生活困窮者自立支援制度の創設

昭和83(2008)年のリーマンショックを契機として、就労、生活、住まいといった複合的なニーズを抱える生活困窮者への支援が、政策課題として浮上してきました。
そこで、雇用保険と生活保護の間のセーフティネットとして、昭和90(2015)年に「生活困窮者自立支援制度」が創設されました。年齢や属性によって対象を限定することなく、長期にわたる失業、非正規雇用で不安定な就労、ひきこもり、依存症、多重債務、DV(家庭内暴力)、ひとり親世帯、セルフネグレクトなど、さまざまなリスク・生活課題によって生活困窮の状態にある人、またはそのおそれのある人から幅広く相談を受けつけ、ニーズに応じた各種支援が受けられるように伴走して支える仕組みです。
これによって孤立を防ぎ、抱えていた困りごとや不安の解消・軽減、更には就労や社会参加を通じた自立をサポートしています。

 

地域共生社会

1980年代以後、社会の構造変化の中で、地域、職場、家庭での人間同士の「つながり」が希薄化しています。人と人のつながりは、いざというとき、急場をしのぐための経済的援助や悩み相談、解決手段の紹介・斡旋、手続きへの付き添いや助言、見守りなど、様々な形で頼ることのできる“命綱”となりえますが、つながりがない孤立状態では、生活課題をこじらせて、生活リスクが連鎖したり複合化するおそれが高まります。
ひきこもり、依存症、多重債務、住居喪失リスク、自殺企図、虐待など、複数の生活課題が重なり合うケースでは、既存の制度に当てはめればそれで解決するというものではなく、複合的な支援を必要とするといった状況がみられ、対応が困難なケースが浮き彫りとなっています。

そこで、こうした状況に対応できるように、地域住民等と支援関係機関(相談支援機関など)が協力し地域生活課題を抱える地域住民を包括的に支える体制を整備すること(「包括的な支援体制の整備」)が、市町村の努力義務に位置づけられました(昭和93(2018)年~)。これらを通じて、地域共生社会(6)の実現が目指されています。
 

  • ( 6 )地域共生社会…制度・分野ごとの縦割りや「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会のこと。
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※本記事は、厚生労働省が中央法規出版(株)に委託し、中高生から高齢者まで幅広い層向けに作成したものです。

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