カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)

(作成:平成19年3月5日 最終改正:平成28年6月2日)

カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)

 わが国で発生している食中毒の中で、発生件数が多いカンピロバクター食中毒について、正しい知識、現状及び予防方法等について理解を深めていただきたく、Q&Aを作成しました。
 今後も本件に関する知見の進展等に対応して、逐次、本Q&Aを更新することとしています。
 
A1
 カンピロバクター食中毒は、わが国で発生している細菌性食中毒の中で、近年、発生件数が最も多く、年間300件、患者数2,000人程度で推移しています。
 最近では、屋外で飲食店が食肉を調理し提供するイベントで加熱不十分な鶏肉(イベントのホームページでは、「新鮮だからこそできる鶏ささみ寿司」などとアピール)を提供し、500名を超える患者が発生した事案がありました。
 この事案からも鶏肉を取り扱う事業者は、中心部までの加熱が必要なことを十分に認識する必要があります。

(カンピロバクター食中毒の発生状況)

  事件数(件) 患者数(人) 死者数(人)
平成18年 416 2297 0
平成19年 416 2396 0
平成20年 509 3071 0
平成21年 345 2206 0
平成22年 361 2092 0
平成23年 336 2341 0
平成24年 266 1834 0
平成25年 227 1551 0
平成26年 306 1893 0
平成27年 318 2089 0
平成28年 339 3272 0
平成29年 320 2315 0
平成30年 319 1995 0
令和元年 286 1937 0
令和2年 182 901 0
令和3年 154 764 0
令和4年 185 822 0
令和5年 211 2089 0

 

A2
 カンピロバクターは、家畜の流産、胃腸炎、肝炎等の原因菌として獣医学分野で注目されていた菌で、ニワトリ、ウシ等の家きんや家畜をはじめ、ペット、野鳥、野生動物など多くの動物が保菌しています。1970年代に下痢患者から本菌が検出され、ヒトに対する下痢原性が証明されましたが、特に1978年に米国において飲料水を介して約2,000人が感染した事例が発生し、世界的に注目されるようになりました。
 カンピロバクター属は、17菌種6亜種3生物型(2005年現在)に分類されていますが、このうち、カンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリが食中毒患者から分離される菌種の多くを占めています。カンピロバクターはヒトや動物の腸管内でしか増殖しない、乾燥に弱い、通常の加熱調理で死滅するなどの特性を持っています。 また、数百個程度と比較的少ない菌量を摂取することによりヒトへの感染が成立することが知られています。
A3
 症状については、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似します。多くの患者は1週間ほどで治癒します。死亡例や重篤例はまれですが、乳幼児・高齢者、その他抵抗力の弱い方では重症化する危険性もあり、注意が必要です。また、潜伏時間が一般に1~7日間とやや長いことが特徴です。また、カンピロバクターに感染した数週間後に、手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症する場合があることが指摘されています。
A4
 カンピロバクター食中毒における患者の喫食調査及び施設等の疫学調査結果からは、主な推定原因食品又は感染源として、生の状態や加熱不足の鶏肉、調理中の取扱い不備による二次汚染等が強く示唆されています。平成27年に国内で発生したカンピロバクター食中毒のうち、原因食品として鶏肉が疑われるもの(鶏レバーやささみなどの刺身、鶏肉のタタキ、鶏わさなどの半生製品、加熱不足の調理品など)が92件認められています。
 また、厚生労働科学研究食品安全確保研究事業「食品製造の高度衛生管理に関する研究」主任研究者:品川邦汎(岩手大学教授)において、健康な牛の肝臓及び胆汁中のカンピロバクター汚染調査を行ったところ、カンピロバクターは、従来、胆汁には存在しないと考えられていましたが、胆嚢内胆汁236検体中60検体(25.4%)、胆管内胆汁142検体中31検体(21.8%)、肝臓では236検体中27検体(11.4%)が陽性であることが示されています。厚生労働省において、平成23年に生食用食肉(牛肉)の規格基準の策定及び平成24年に牛の肝臓を生食用として販売することを禁止したところ、規制の前後でカンピロバクターによる食中毒件数を比較すると、規制前の平成22年では牛の肝臓を原因とする食中毒は16件でしたが規制後の平成25年から平成27年までは1件でした。
 なお、欧米では生乳の飲用による事例も多く発生していますが、わが国で、生乳は加熱殺菌されて流通しており、生乳による発生例はみられていません。その他、わが国では、不十分な殺菌による井戸水、湧水及び簡易水道水を感染源とした水系感染事例が発生しています。
A5
 鶏肉のカンピロバクターによる汚染率について、これまでの研究で得られた結果は以下のとおりです。これらの汚染率の違いは生産農場や食鳥処理場による違いや検査方法による検出率の違いが反映されていると考えられます。
 

 

●厚生労働科学研究食品安全確保研究事業
「食品製造の高度衛生管理に関する研究」平成14~16年度報告
主任研究者:品川邦汎(岩手大学教授)
 
カンピロバクター汚染調査(カンピロバクター・ジェジュニ)
○市販鶏肉
検体 鶏レバー 砂肝 鶏肉
汚染率 37/56検体(66.1%) 6/9検体(66.7%) 9/9検体(100%)
○大規模食鳥処理場併設食鳥処理施設で採取されたカット鶏肉
試験内容 定性試験 定量試験
陽性率 91/135検体(67.4%) 86/135検体(63.7%)

 

 

 

●厚生労働科学研究食品安全確保研究事業
「細菌性食中毒の予防に関する研究」平成18年度報告
主任研究者:高鳥浩介(国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部長)
 
○カンピロバクター汚染調査
市販鶏肉での汚染率 20~40%
ブロイラー農場での汚染率 2003年 2005年
26/45鶏群(57.8%) 9/44鶏群(20.5%)

 

 

 

●厚生労働科学研究(食品安全確保推進研究事業)
「と畜・食鳥検査における疾病診断の標準化とカンピロバクター等の制御に関する研究」平成26年度報告
主任研究者:朝倉宏(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部第一室長)
 
○市販鶏肉のカンピロバクター汚染率
検体 鶏モモ肉 鶏ムネ肉
汚染率 11/26検体(42%) 12/30検体(40%)

 

 

 

農場で陽性を示す鶏群から製造された鶏肉の汚染率
246/270検体(91%)
農場で陰性を示す鶏群から製造された鶏肉の汚染率
8/30検体(27%)

 

 

A6
 カンピロバクター食中毒の原因食品の一つである鶏肉に対する、食中毒菌汚染の防止等の観点から、食鳥処理場の構造設備基準や衛生的管理の基準を定めた「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」が施行されています。
 また、「食鳥処理場におけるHACCP方式による衛生管理指針」やカンピロバクター等の微生物による汚染防止対策を盛り込んだ「一般的な食鳥処理場に於ける衛生管理総括表」に基づき、食鳥処理業者に対する周知及び指導を行っています。 さらに、平成26年4月に「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」の施行規則の一部を改正し、新たにHACCPを用いて衛生管理を行う場合の基準を追加しました。これにより、食鳥処理場の衛生管理について、事業者は、従来の衛生管理基準、またはHACCPによる衛生管理を選択することが可能となりました。
A7
 健康な家きんであっても、腸管内などにカンピロバクターやサルモネラ属菌などの食中毒菌を保有している場合があります。現在、食鳥処理の技術ではこれらの食中毒菌を100%除去することは困難であり、鶏肉や内臓からカンピロバクターが高頻度で検出されます。(Q5参照)したがって、食中毒予防の観点から、生や十分に加熱されていない鶏肉を食べないよう、食べさせないようにしましょう。
A8
 カンピロバクター食中毒の予防方法は、(1)食肉を十分に加熱調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)することが重要です。具体的には未加熱又は加熱不十分な鶏肉料理を避けることが最も効果的です。また、二次汚染防止のために、(2)食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行う、(3)食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱う、(4)食肉に触れた調理器具等は使用後洗浄・殺菌を行うことが重要です。
A9
 厚生労働科学研究において、鶏肉のカンピロバクター汚染を低減する衛生管理の方法について科学的な知見を集積しているところです。
 また、平成28年度より、先進的に鶏肉のカンピロバクター対策に取り組む地方自治体と連携して、「食鳥肉における微生物汚染低減策の有効性実証事業」を実施しているところです。
 カンピロバクター汚染の低減に有効な衛生管理方法について食鳥処理場等への普及を進めていく予定としています。

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