IDESコラムvol.86

「調べる力」からはじまった私の物語

2025年10月10日

IDES養成プログラム11期生:髙橋秀徳

「調べる力」からはじまった私の物語

 皆さん初めまして。IDES第11期生として感染症危機管理を学んでおります、髙橋秀徳と申します。私は呼吸器内科・感染症内科の臨床医として勤務してきましたが、研修医の頃から論文を探し、読み、要点を整理することが好きでした。目標(患者の治療)を達成するために情報を収集する・評価する・共有するという営みが自分の原点であり、のちに感染症インテリジェンスへと関心が広がった理由でもあります。
 2020年2月、横浜で開催された学会に参加した際、会場の窓外にダイヤモンド・プリンセス号が見えていました。都内での報告は当時まだ渡航者関連が中心で、どこか遠い出来事のように受け止めていたことを覚えています。しかしその後、国内での報告は急速に増え、私自身もまもなく診療の最前線に立つことになりました。パンデミック下で私は、最新の論文や公的資料を日々確認し、その知見を患者の診療、院内の感染対策、行政機関との連携に活かしてきました。未知の疾患の病態が日ごとに解明され、治療の手段が確立していく、その有り様は世界の英知が結集して世界的なパンデミックに立ち向かっているように私には感じられ、その営みの一端を担いたいと考えるようになりました。
 パンデミックでの最前線となる医療現場での経験を経て、現場からの視点だけでなく政策側の視座も学びたいと意識するようになり、IDESに応募しました。
現在は厚生労働省での業務に携わりつつ、関係機関での実地研修や定期の研修会にも参加しています。臨床の現場から、政策文書や統計、国内外の公的情報を読み解く日々へ、電子カルテ中心の環境から、Microsoft 365 や Outlook などの業務システムへと道具立ては変わりましたが、「探し、読み、要点を整理する」という本質は変わっていません。研修では、ダイヤモンド・プリンセス号の対応に携わったDMATの医師(映画『フロントライン』(2025)のモデルとされる方)から当時の判断と連携について講義を受け、意思決定の重みを改めて学びました。加えて国際感染症インテリジェンスに関する講義にも参加し、国内外の情報を運用へ接続する実務を体験しています。その講義の中で、CIAのインテリジェンス・サイクル(方針設定→収集→処理→分析→提供)が一例として取り上げられており、IDES第3期・神代さんがコラムで示した“スパイ映画になぞらえたインテリジェンス”の比喩(当時2018年、COVID-19パンデミック前!)の意味を、時を経て実感しました。インテリジェンス業務で重要なのは収集そのものではなく、虫の目(現場の細部)、鳥の目(全体像)、魚の目(時流を読む)で問いを組み立て、角度を変えて検証し続ける姿勢、最終的に意思決定に資する形へ磨き上げることだと理解しました。
 最後に、スパイ映画の中でも『グッド・シェパード』(2006)の主人公は、沈黙と忠誠の狭間で情報の重みに耐える孤独な存在として描かれます。IDESは対照的に、多様な分野の人材とつながることができ、世界へ開かれた前向きで心強い学びの場だと実感しています。ここで得た仲間と視座を携え、次にパンデミックが起きた際には再び最前線で戦いたいと思います。

参考:
・IDESコラム vol. 27「健康危機を探知する」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/column27.html