IDESコラム vol. 25「【派遣先からのレター編】バングラデシュの避難民キャンプより3」

感染症エクスプレス@厚労省 2018年10月26日

IDES養成プログラム 2期生:井手 一彦

IDES2期の井手一彦です。バングラデシュ活動に関して最後のコラムを書かせていただきます。
石川啄木の有名な短歌に「ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく」があります。やはり自分の慣れ親しんだ言葉には、ついつい引き寄せられてしまいます。フィールドワークにおいても、国籍に関係なく活動するとはいったものの、やはりふと日本語を耳にすると手を携え合いたくなるのが人情。今回の活動においては日本赤十字さんやPeace Winds Japanさんとお目にかかる機会があり、話し込んでしまいました。そして各キャンプでの健康に関する情報や避難キャンプ全体で実施されているプログラムなどの情報を共有していたところ、活動されているキャンプエリアにおいてワクチン接種を強化することが望まれる状況であることが判明しました。
そこで、それぞれが所属する組織の特徴や余力を持ち寄って何をどこまでできるか話し合い、関係者に相談に乗ってもらった結果、それぞれの団体で避難民の方々へ予防接種を実施するという話にまで持って行くことができました。ちょっとした出会いから始まったものですが、ここでもコミュニケーションの継続によって、多くの方々に関わる公衆衛生の改善にたどり着きました。日々多忙ななか、各団体の皆様には本当にお世話になりました。この場を借りて、ますますのご活躍を祈念するとともに、絶え間ないご協力に感謝申し上げたいと存じます。もちろん日本の皆さんから寄付していただいたものが、キャンプ内の生活を支える物資等として届いていることを申し添えておきます。
大量の避難民の急激な流入が始まって1年以上が経過し、初期に造設されたキャンプ地には個人経営のお店が軒を連ねた通りができています。一方で、新たなキャンプ地が造設されてもいます。多くの問題が複雑に絡まり合っており、避難民の方々のご帰国も含め、まだまだ解決すべき課題が山積しています。コラムを読んでくださった皆様が遠い国ではあるものの、このような問題が発生しているということを、話題にし続けてくださるとありがたいです。
最初の石川啄木の短歌は「一握の砂」に掲載されていますが、続く歌は「やまひある獣のごとき わがこころ ふるさとのこと聞けばおとなし」となっています。やはり誰にとっても生まれた地に思い入れがあるもの。心安まるふるさとに避難民の方々が早く帰れることを願いつつ、日本政府職員の一人として彼らの健康を支えていければと思い活動しておりました。

(編集:成瀨浩史)


●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。