IDESコラム vol. 21「【派遣先からのレター編】バングラディシュの避難民キャンプより」

感染症エクスプレス@厚労省 2018年8月10日

IDES養成プログラム 2期生:井手 一彦

IDES2期の井手一彦です。バングラデシュ南東部のコックスバザールにはミャンマーから避難されている方々のキャンプが点在していますが、IOM(国際移住機関)の報告によると2018年8月2日時点でおよそ92万人の方が避難民として確認されています※1。7月1日より厚生労働省とWHO(世界保健機関)の協力の下、避難民キャンプでの疫学調査を含めた公衆衛生上の対応を支援するため、Global Outbreak Alert & Response Network(GOARN)チームの疫学調査班の一員として活動させていただいております。

公衆衛生の分野においては、人口密集、不衛生な生活環境、栄養問題等が重なり、キャンプ地で多くの感染症や疾病が蔓延しています※2。バングラデシュ政府、NGO、医療機関、国際機関が協力して医療サービスの提供、重症患者の救急搬送、現地医療機関の受け入れ能力向上といった「治療」、診断のための検体検査の協力体制構築、コックスバザールでの新たなフィールドラボの設立といった「診断」、ワクチンプログラム(キャンペーン、定期接種)や手洗い推進といった「予防」活動を継続すると同時に安全な水の確保、トイレの設置もすすめられています※3。

疫学調査班としては、現場の医療施設からパソコンや携帯端末を使ってEarly Warning, Alert and Response System (EWARS)を通して送られてくる患者さんの情報を解析して、結果をフィードバックする他に、各施設の医療スタッフやキャンプリーダーと連絡をとりあいながら、現場の課題対応のサポートやワクチンやWASH(水と衛生) といった専門部隊との橋渡しを行うなどのリエゾン業務を中心に活動しています。広範囲に広がって点在するキャンプに、大小多くの機関が活動しているとともに、幅広い課題を覚知、検討、対応しないといけないことから、情報収集、共有は非常に大切あると同時に、非常に複雑な作業でもあります。そのため、様々なキャリアやバックグラウンドをもった班員で構成されており、私自身も学ぶことが多い現場です。上記活動に加えて、ウイルス学の研究経験もあることから、現場に入ったのちに、ラボ設立チームのお手伝いもさせていただくことになり、ラボ運営上の課題や現地スタッフからの相談案件を解決するための活動もしています。

現在現地はモンスーンシーズンのため大雨に見舞われる日があります。避難キャンプの土壌は水はけが悪いのに加えて、避難民の居住施設は丘の斜面に立っていることが多く、洪水や土砂崩れも頻発しています。人的・物的被害はもちろんですがその後の蚊の増加といった問題もあがっています。
数日ごとに状況が変化していくのに合わせて、組織や部隊の異なるパートナーとそれぞれの長所を生かしながら協力して活動する日々ですが、長期化している避難民の方々の生活には多くの課題が山積しているのが現実です。HelloやHow are you ?と満面の笑みで言葉をかけてくれる子供。水たまりで遊ぶ幼児。大きな荷物を黙々と運ぶ子供。キャンプ内を移動していると様々な子供たちとすれ違います。先日一緒に歩いていたバングラデシュ人スタッフが語った「避難生活が長期化しているので、この子たちが生きていくためには公衆衛生や食事も大事だけど、教育も必要だよね。そうはいってもバングラデシュ人の子だって勉強して仕事を手に入れるのは簡単ではないからなぁ。」という言葉には返答に窮してしまいました。バングラデシュ側にも課題は山積しているのですが、日々対応してくださる、政府や国民の皆さんにも感謝する日々です。

※1:IOM Bangladesh: Rohingya Humanitarian Crisis Response EXTERNAL UPDATE, 27 July - 2 August 2018
※2:Early Warning, Alert and Response System (EWARS), Weekly Epidemiological Bulletin - Volume 30
※3:Rohingya Crisis in Cox’s Bazar, Bangladesh: Health Sector Bulletin: Number 05

(編集:成瀨浩史)

●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。