高等植物:スイセン類

スイセン類

一般名

スイセン類

分類

ユリ目 Liliales、ヒガンバナ科 Amaryllidaceae、スイセン属 Narcissus
(APG分類体系ではキジカクシ目、ヒガンバナ科、スイセン属)

学名 Narcissus spp.
ラッパスイセン(N. pseudonarcissus L.)、ニホンスイセン( N. tazetta L. var. chinensis Roemer)など
生育地

地中海沿岸からアフリカ北部の原産で、園芸品として色や形の異なる多くの種類がある。多年草で、冬から春にかけて白や黄の花を咲かせるものが多い。ニホンスイセンは観賞用に全国で栽培されるほか、関東地方以西の本州の暖地海岸に野生状態で生育するが自生ではない。

形態 典型的な球根植物

(1)ニホンスイセン 日本で一般にスイセン(水仙)といえば本種を指す。花期は12~2月。鱗茎は卵球型。葉は帯状でやや厚く粉緑色で、円頭またははなはだ鈍頭となり、幅 0.8~1.5cm、長さ 20~40cm、包は乾膜質、長さ 3~5cm。花は数個ありやや不同長の小梗上につき、白色である。花冠筒部は淡緑色で長さ約 2cm、花被裂片は平開し、卵円形または広楕円形で、微凸頭、長さ 1.5cm。副花冠は黄色、杯状をなし、径約 1cm。

(2)ラッパスイセン 南西ヨーロッパ原産。葉は直立し長さ36cmまでで幅は 0.6~1.3cm。花茎は葉とほぼ同長。 1花茎に1花をつけ、副花冠は花被片と同長かそれより長い。花期は 3~4月で、花壇、切り花用として栽培される。ニホンスイセンに対して、大型の花をつける本種などを西洋スイセンと呼ぶこともある

ニホンスイセンの花の写真
ニホンスイセンの花
ニホンスイセンの芽の写真
ニホンスイセンの芽
ラッパスイセンの花の写真
ラッパスイセンの花
ニホンスイセンの鱗茎の写真
ニホンスイセンの鱗茎
 スイセンとニラ (左:ニラ、右:スイセン)の写真
スイセンとニラ (左:ニラ、右:スイセン)
 
(写真提供:磯田 進、御影雅幸)
毒性成分 リコリン lycorine、タゼチン tazettineなどのアルカロイド
化学式
中毒症状 悪心、嘔吐、下痢、流涎、発汗、頭痛、昏睡,低体温など
発病時期 30分以内の短い潜伏期間の後に発症
発生事例

(症例1)
2009年4月29日に兵庫県豊岡市の施設において、ニラと間違って食事に入れられたスイセンの葉を食べた 36~60歳の男女計 8人が、嘔吐や下痢などの食中毒症状を訴えた。うち 5人が病院で手当てを受けたが症状は軽く、回復した。施設の職員が自宅の畑で栽培していたスイセンの葉をニラと勘違いして施設に持ち込み、28日の昼食として卵と一緒に調理し施設利用者らに提供。12人が食べ、8人が間もなく発症した。

(症例2)
2008年12月5日に茨城県潮来市の小学校で、調理実習で作ったみそ汁を食べた児童 5人が吐き気や嘔吐の症状を訴えたと発表した。全員軽症。みそ汁に、校庭の菜園で栽培していたスイセンの球根をタマネギと間違えて入れた。5日午前、みそ汁に入れて 3年生と4年生の児童11人と教諭 1人が食べた。

(症例3)
2007年5月9日青森県上十三地方の30代と60代の女性 2人がスイセンをニラと間違えて食べて食中毒になった。2人は4月19日、十和田市の道の駅直売所でニラとして販売されていたスイセンを購入。5月7日に酢味噌和えにして食べ、吐き気を訴えて病院の治療を受けた。スイセンは販売者が山でニラと間違えて採取し、販売していた。

(症例4)
2008年4月岩手県盛岡の老人福祉施設の利用者と職員計 5人がスイセンを誤って食べ、嘔吐や下痢などの食中毒症状を訴えた。2人が通院したが、全員回復。同施設の職員、利用者らは 27日夕、散策の最中に食用のノビルと間違えてスイセンを採取。施設に帰り自分たちで調理し、10人がみそ汁に入れて食べた。食べた 10人のうち、職員 1人と利用者 4人が下痢や嘔吐などの食中毒症状を訴えた。

(症例5)
2006年5月16日北海道美瑛町で、スイセンをニラと間違えて食べた女性 9人が、嘔吐や頭痛などの食中毒症状を訴え一時入院した。

患者数
(過去8年間)

年  発生件数 患者総数 摂食者総数
2015年 6件 14人 14人
2014年 7件 23人 23人
2013年 0件 0人 0人
2012年 3件 7人 7人
2011年 4件 18人 28人
2010年 2件  6人 6人
2009年 2件 12人 15人
2008年 6件 15人 22人
(2015年12月31日現在)
厚生労働省発表
 
直近10年間の有毒植物による食中毒発生状況は、こちらのページ
中毒対策 一般にヒガンバナ科植物にはヒガンバナアルカロイドが含まれており、それらが有毒成分となる。Narcissus属には有毒成分はリコリン(lycorine )、ガランタミン(galanthamin)、タゼチン(tazettine)とシュウ酸カルシウム( calcium oxalate ) などである。全草が有毒だが、鱗茎に特に毒成分が多い。食中毒症状と接触性皮膚炎症状を起こす。不溶性のシュウ酸カルシウムを含んでいて,接触性皮膚炎を起こす。
葉が細いタイプのスイセンは、ニラに似ているため、花が咲いていないと間違える例が多い。鱗茎はタマネギに似ている。葉を揉んだ後のにおいで判断できる。

毒性成分の
分析法

(観 公子ら、東京健安研セ年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst.P.H., 57 , 289-292, 2006による薄層クロマトグラフィーによる方法)球根を0.1 mol/L 塩酸で抽出した溶液について薄層クロマトグラフィーを行う。展開溶媒はエタノール/ベンゼン/水混液(4:2:1)、発色はドラーゲンドルフ試薬を用いる。Rf 0.71にリコリンの標品と一致するスポットを認める。

諸外国での
状況

ラッパスイセン( daffodil )は、西ヨーロッパに野生し、西、中央ヨーロッパでは 3 ~4 月に開花し自生の他栽培もされる。中毒は主にヨーロッパでは鱗茎を食することにより起こる。鱗茎はタマネギに似るので台所に置かないように警告している。文献によれば、 (1) daffodil の葉を食した子供2人が中毒を起こし、 (2) 85 歳の女性が daffodil の束を食し(理由は不明)、その 2 日後に死亡した。彼女は気管、細気管支に吐瀉物を詰まらせ肝臓には小さな壊死部分が認められた。これらは daffodil の摂食と関連があると思われた。 (3) ドイツの TV 番組で "flowering-bulb-eating contest" というコンテストに出場した女性2名が中毒症状を起こし、胃洗浄を受けた。これは TV 局が間違えたかあるいは無知により Narcissus の鱗茎を出したことが原因であった。

'daffodil itch','lily rash'と呼ばれる皮膚炎は、接触による炎症であるが、アレルギー反応はまれである。ほとんどの患者はdaffodil を商業的に扱う人たちであり、茎や鱗茎から滲出してくる液をさわることで引き起こされる。アルカロイド <(masonin, homolycorineなど)はおそらくは原因物質であるが、シュウ酸の束晶(oxalate raphides)によるmicrotraumatizationが合わさった結果の可能性もある。

(以上Dietrich Frohne, Hans Jurgen Pfander,; Poisonous Plants, 2nd ed. A Handbook for Doctors, Pharmacists, Toxicologists, Biologists and Veterinarian. MANSON Publishingより抜粋)

間違えやすい
植物

細い葉のタイプのスイセンはニラによく似ているため間違えやすい。また、ノビルも過去にスイセンとの誤食の例がある。鱗茎はタマネギと間違えやすい。葉を揉むと(または切ると)ニラはニンニクのような強い刺激臭(ニラ臭)があるが、スイセンの臭いは弱く青臭い。
  作成:渕野裕之(医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センター)