市民サポーターを核とした
地域でのフレイル予防の取組

東京都西東京市

【西東京市の概要】

人口:205,040人(高齢化率:23.8%)(令和元年12月31日時点)

後期高齢者被保険者数:25,477人(令和元年12月31日時点)

後期高齢者1人あたり医療費:800,447円/年(令和元年度)

後期高齢者健診受診率:54.44%(令和元年度)

西東京市

西東京市マスコットキャラクター「いこいーな」

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取組概要

市トップも交えての健康づくり・予防の推進

市民サポーターによるフレイルチェックの実施

フレイルチェックの結果を踏まえたハイリスク者へのアプローチ

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取組の経緯

西東京市では、平成23年に「健康都市」を宣言し、平成26年7月にはWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局の呼びかけにより創設された「健康都市連合[1]」に加盟する等、従来より健康づくりに力を入れていることをPRしてきた。

「健康都市」の実現を目指し様々な取組を進める中、市医師会長より西東京市における「予防」事業とはどのようなものかという投げかけがあった。

これを受け、平成28年5月に市の関係部局(健康課・高齢者支援課)が集まり、事業の洗い出し等を行うプロジェクトチームを発足させ、「予防」の推進には何が必要かについて検討を行った。

チームでは「男性高齢者など、これまで地域の集まりに参加していない人を対象とした事業が必要」との共通認識がもたれ、その解決策を探るために各地で情報収集を行ったところ、千葉県柏市で東京大学高齢社会総合研究機構が提唱するフレイルチェック[2]の現場を見学する機会を得た。

フレイルチェックの取組は、市の予防対策を強化するという目的に合致するものであったため、同大学と連携協定を締結し、フレイルチェックにより市民の健康状態を把握するとともに、市民参加の場を設けることとした。

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西東京市における保健事業に関わる現状

市内の体制

西東京市では、後期高齢者医療制度の保険給付等を担当し、後期高齢者医療広域連合との窓口となっている市民部保険年金課(田無庁舎)と母子・成人の保健衛生・健康、予防接種、健康診査等を担当する健康福祉部健康課(保谷庁舎)、高齢者の各種サービスや介護保険等を担当する同部高齢者支援課(田無庁舎)とが物理的に離れている。

従来、これら担当課の間では、定期的な意見交換を行う機会はなかったが、高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施にあたり、平成31年4月の時点で健康福祉部長が各課長や係長等を集め、一体的実施が本格化することについて情報共有がされた。

それ以降、一体的実施に関して国から発出される情報や研修の案内等は、随時保険年金課から健康課、高齢者支援課にも共有されるようになった。

<組織図>

(資料)西東京市より提供。

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高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた体制整備

市トップも交えての健康づくり・予防の推進

西東京市では「健康づくり・予防の推進」の観点から、健康都市を宣言したり、東京大学高齢社会総合研究機構との連携協定を締結してきた。

市の方向性を市民に示すために、フレイル予防に関して市民向け講演会を開催し、市長、市医師会長、市歯科医師会長、市薬剤師会長にも登壇してもらった。これらの動きを通じて、市長をはじめとした幹部にもフレイル予防の重要性に関する理解が進んでいる。

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医療専門職の確保

企画調整を担当する保健師等の人員配置を含めた一体的実施に向けた体制に関しては、健康福祉部において検討が進められている。

人員配置について何パターンか検討している。実際に体制を組む場合には、増員が必要であるが、新規募集の時期を経過していた。そのため、令和2年度に関しては既存の職員体制で臨み、KDBシステムを活用した分析も行いながら企画調整を担う人材の確保は令和3年度以降に対応する予定である。

なお、日常生活圏域で活躍する医療専門職については、健診をはじめとした既存の事業等に携わり地域で活動している管理栄養士や歯科衛生士等がおり、確保の目途は立っている。

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KDBシステムの活用状況

西東京市のKDB システムの端末は、田無庁舎にある市民部保険年金課に設置されているだけでなく、高齢者支援課と物理的に離れた保谷庁舎にある健康福祉部健康課にも用意されている。

ただし、各課に付与されているIDで閲覧できる情報の範囲が異なっている。

この点については、令和2年4月以降の法施行により個人情報の取扱いが整理されるため、介護予防担当部署である高齢者支援課でもKDBシステムで個人単位での疾病情報が閲覧できるようになることで、より効果的な事業展開が可能になると考えられるため、今後の活用方法についても検討中である。

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高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた取組の具体的内容

市民サポーターを核としたフレイルチェックの実施

西東京市では高齢者の介護予防を推進するために、平成28年度の東京大学高齢社会総合研究機構との連携協定締結を皮切りに、市内全域でフレイルチェックを行う仕組みづくりを進めてきた。

<フレイル予防プロジェクト関係図>

(資料)西東京市より提供。

市がフレイルチェックを導入した大きなねらいは、「自分の状態について早めの気づき・自分事化(じぶんごとか)」することではあるが、それと同時に「元気高齢者を運営者として養成することによる活躍の場の提供」も目指していた。

そこで平成29年4月から、市内でフレイルチェックの運営を支援する市民サポーター(市内における呼称:フレイルサポーター)の養成を開始した。希望する市民に、市が開催する2日間コースに参加してもらい、専門職であるフレイルトレーナーより、フレイルとは何か、またフレイルチェックの仕方を学んでもらう形式で行っている。令和元年12月時点で、養成された市民サポーターは約120人に上っている。

<市民サポーターの養成状況>

(資料)西東京市より提供。

市民サポーターはフレイルチェックの運営の中で、自ら様々な気づきを得て、各種工夫をしたり、インターネット等を活用して、互いの情報共有を図っている。

このように、市民サポーターに運営をゆだねた結果、市民サポーター自身の地域活動の拡大や身体状況の改善につながるという声も聴かれるようになった。

<市民サポーターによる運営の工夫>
クリックすると大きな画像をご覧いただけます。
<インターネット上での情報共有>
クリックすると大きな画像をご覧いただけます。

(資料)西東京市より提供。

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フレイルチェックの結果を踏まえたハイリスク者へのアプローチ<モデル事業の実施>

フレイルチェック実施の中で浮かび上がった課題

西東京市でこれまで実施してきたフレイルチェックでは、数多くの参加者が複数回にわたって参加してくれているものの、下記のようなことが課題となっていた。

参加者はあくまで自ら参加希望をした人であり、地域包括支援センター等が参加してもらいたいと思う人が必ずしも参加につながっていない

ハイリスクであると思われる人がいた場合でも、専門職が継続的にフォローする等の体制がとれていない

これらを解決するために、西東京市では令和元年度の東京大学高齢社会総合研究機構が実施する老人保健健康増進等事業「集いの場/通いの場における包括的フレイル総合評価による段階別アウトリーチ体制構築に向けての調査研究事業」の中で、モデル事業を実施することとした。

自治会の協力を仰いでのモデル事業の展開

モデル事業では、一つの団地をフィールドとして、従来市で開催しているフレイルチェックには参加していない高齢者にフレイルチェックへの参加を促し、フレイルチェックにより明らかとなったハイリスク者に対して、医療専門職による専門的助言を行うこととした。

<フレイル予防事業実施フロー図>
クリックすると大きな画像をご覧いただけます。

(資料)西東京市より提供。

令和元年8月から庁内での事業検討、9月上旬に事業予定の団地を管轄する地域包括支援センターと打ち合わせを行った。9月中旬には団地の自治会との打ち合わせを行い、初回フレイルチェックの日程を決めた後、1か月の間に4回程度の打ち合わせを実施した。

モデル事業の周知には自治会が協力的で、団地に居住する70歳以上の高齢者がいる世帯すべて(100世帯程度)にチラシを配布してくれた。特にハイリスクが疑われる人(市が実施した生活状況調査のハイリスク者)30数人程度には、チラシとは別途、地域包括支援センターが直接電話や訪問によりフレイルチェックへの参加を勧奨した。

フレイルチェックとミニ講座・個別事業のセット展開

初回のフレイルチェックは、高齢者支援課、地域包括支援センター職員、フレイルサポーターも参加し、10月中旬に実施した(参加者は30人)。それを受け、11月上旬に、同じ団地の集会場で管理栄養士・歯科衛生士等による集団支援と個別相談を行うミニ講座を開催した。

ミニ講座はフレイルチェック当日に参加者全員に案内した他、フレイルリスクの高い(フレイルチェックでの赤シール8つ以上等)人に、保健師(高齢者支援課)が電話で勧奨を行った。電話勧奨の際には、本人の困りごとやニーズを聞き出すことも行った。

ミニ講座では管理栄養士・歯科衛生士等の専門職が参加者のフレイルチェックの結果等を共有し、栄養・口腔・運動それぞれの内容に関する講話を行い、その後に個別相談の場を設けた。個別相談の内容は市と地域包括支援センターに報告され、必要な人については医療機関受診のフォローや他の介護予防事業への誘導等、保健師(高齢者支援課)と看護師(地域包括支援センター)等がフォローすることとした。

モデル事業では、参加者を継続的にフォローするために初回のフレイルチェックから6か月後に再度フレイルチェックへ参加を勧奨することとしている。

<モデル事業の手順>

(資料)西東京市提供資料より作成。

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取組の成果

自治会の協力を得ながら団地の集会場で実施したことにより、市の広報等だけでは参加しなかったであろう人がフレイルチェックに参加した。このことにより、認知症の疑いのある人の掘り起こしにもなり、地域包括支援センターの見守り活動へとつなげることができた。

また、モデル事業実施団地では、住民の自主グループが行ういきいき百歳体操[3]が実施されていなかったが、モデル事業をきっかけに自治会代表者がいきいき百歳体操の実施を開始し、新たな通いの場の創出にもつながった。

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取組の課題・今後の展望

フレイルチェックを中心とした事業展開

令和元年度の他の市主催フレイルチェックでもモデル事業とほぼ同じ枠組みで実施しており、ハイリスク者の支援につなげている。

令和2年度以降も、フレイルチェックを活用した枠組みで事業を展開することを予定している。

高齢者に身近な立場であり、これまで養成を進めてきた市民サポーターに活躍いただきながら、実事業の推進には医療専門職が関わることを予定している。

1^ 「健康都市とは、継続して都市の物的・社会的環境の改善を行い、人々が互いに助け合い、生活のあらゆる局面で自身の最高の状態を達成するために、都市にある様々な資源を幅広く活用し、さらに発展させていく都市である」と定義されており、健康都市連合とは都市住民の健康を守り、増進することを目的とした国際的なネットワークをさしている。

2^ 東京大学高齢社会総合研究機構が開発した、フレイルに関する簡易チェックシートと詳細チェックシートを実施するもの。同じ指標でチェックすることにより「自分の状態について早めの気づき・自分事化」を狙いとしたもの。

3^ いきいき百歳体操は,米国国立老化研究所が推奨する運動プログラムを参考に,平成14年に高知市が開発した重りを使った筋力運動の体操で、地域住民が主体となり、地域の身近な場所で実施されている。