復興に向けた取組と並行した
一体的実施に向けた役割分担と事業の整理

福島県南相馬市

【南相馬市の概要】

人口:60,077人(高齢化率:34.8%)(平成31年3月31日時点)

後期高齢者被保険者数:10,780人(平成31年3月31日時点)

後期高齢者1人あたり医療費:646,236円/年(平成30年度)

後期高齢者健診受診率:15.7 %(平成30年度)

福島県南相馬市

ページの先頭へ戻る

体制の特徴

庁内関係者の目線合わせのための研修の実施

復興過程における関係各課の役割分担と事業の整理

既存事業の拡充による一体的実施

ページの先頭へ戻る

体制整備に至る経緯

南相馬市では、平成23年の東日本大震災により住民の生活は一変した。依然として住民登録を残したまま市外に居住している人が多くいる。

そうした中、市では「100年のまちづくり~家族や友人とともに暮らし続けるために~」を施策目標とした復興総合計画を策定し、健康づくり・介護予防も含め、市一丸となって復興に取り組んでいる。

復興総合計画の後期基本計画(2019~2022年度)においては、重点戦略の一つとして「健康づくりが盛んなまち」が掲げられており、かつその戦略を実現するための方向性として、以下の2点を掲げられた。

子ども、働く世代、高齢者の全世代を通じ、食事、運動、健康診査の実施体制を確立し、市民総ぐるみの健康づくり運動を展開

市民が主体的に取り組む健康づくりを地域や職場で支えるための支援等に取り組み、健康寿命を延伸

<南相馬市復興総合計画 後期基本計画>

(資料)南相馬市より提供。

ページの先頭へ戻る

現行の体制

市内の体制

南相馬市では、高齢者の保健事業・介護予防に関する取組は、健康福祉部の健康づくり課と長寿福祉課が担当している。

後期高齢者医療制度の給付事務や広域連合との窓口については、市民生活部の市民課保険年金係が担当している。

健康づくり課は、特定健診・保健指導、がん検診、母子保健、放射線健康対策等の事業を行うために総勢35人の職員で対応し、介護予防等については、介護保険の給付も含めて長寿福祉課(19人)が担当している。

後期高齢者医療制度の健診・保健指導に関する実務は、健康づくり課が担当しており、健診結果等については、市民課保険年金係と健康づくり課の両者に平成26年4月より設置されているKDBシステムの端末で閲覧できる。

なお、後期高齢者医療広域連合からの連絡は市民課保険年金係に入り、必要な情報は随時健康づくり課・長寿福祉課と共有されるようになっている。

<南相馬市 体制図>

(資料)南相馬市より提供。

ページの先頭へ戻る

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の取組を推進する上での課題

南相馬市は、復興総合計画後期基本計画に位置付けられた重点戦略「健康づくりが盛んなまち」の推進にあたり、以下のような点を課題として感じていた。

庁内関係課において、実施している事業の全体像や一連の流れが共有できていない。

それぞれの担当部署が持っているデータが共有できていない。

他の部署が実施している事業や制度がわからないことが多い。

サービスを受ける住民は一緒でありながら類似の事業で重複している可能性がある。

これらは、高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた取組の推進にとっても共通する課題であった。

ページの先頭へ戻る

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた体制整備

庁内関係者の目線合わせのための研修

南相馬市では、長寿福祉課長が、厚生労働省の「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の推進に向けたプログラム検討のための実務者検討班」の構成員であり、国の最新動向を入手することができていた。

国の動向を踏まえて庁内での一体的実施に向けた検討を進めるために、長寿福祉課長を講師とした研修を実施した。衛生部門である健康づくり課と介護部門である長寿福祉課、さらには後期高齢者医療制度の担当部署である市民課保険年金係の担当者が、部署横断的に参加し、関係者間の目線を合わせるように努めた。

ページの先頭へ戻る

復興過程における関係各課の役割分担と事業の整理

市は復興総合計画の推進にあたり、全体方針に基づいて庁内の事業の棚卸と整理に努めた。

生活習慣病の予防と介護予防は、健康寿命の延伸と生活の質の向上につながるものであり、総合的な推進が必要とされるものである。そのため、各課で実施している既存事業を生活習慣病対策と介護予防に分類し、一次・二次・三次予防の軸で整理した。

また、対象者の年代別にも事業の整理を行い、国保の被保険者から後期高齢者医療制度の被保険者へのつなぎとして、どのようなことが実施されているのか、不足している点は何かについて庁内で意識合わせがされた。

このような整理により、後期高齢者に対して保健指導等の事業は実施されていないものの、国保の被保険者に対しては生活習慣病重症化予防事業や糖尿病性腎症重症化予防事業を実施していたり、介護予防の面で週1サロンや運動教室等を実施していることが視覚化された。

<南相馬市で実施している各種事業の体系図>
クリックすると大きな画像をご覧いただけます。
復興過程における関係各課の役割分担と事業の整理
クリックすると大きな画像をご覧いただけます。
復興過程における関係各課の役割分担と事業の整理

(資料)南相馬市より提供。

ページの先頭へ戻る

KDBシステム等の活用

従来から南相馬市では、市民生活部市民課国保年金係と健康づくり課健康推進係で閲覧することができている。しかし、一体的実施に伴い、介護予防部門である健康福祉部長寿福祉課では、KDBシステムの閲覧はできていないため、長寿福祉課との情報共有が課題である。

これからは国保の保健事業を中心として個人別のデータも見ながら、後期高齢者を含め集団についての分析も行い事業に活かしていく予定である。

ページの先頭へ戻る

医療専門職の確保

一体的実施にあたっては、企画調整を担ったり、地域で活躍する保健師等の医療専門職が必要となる。現状の体制は、既存の事業を実施するために必要な人員であるため、別途人員を確保する必要があり、新規採用に向けて募集をかけている。

ページの先頭へ戻る

広域連合・県・国保連合会による支援

福島県では、広域連合と福島県が一体的実施に向けて、共同で研修会を開催していた。南相馬市も、当該研修会の情報は市民課保険年金係から、関係する健康づくり課、長寿福祉課にも共有され、日程の都合のついた職員が参加した。

その他、広域連合からは令和2年度以降の一体的実施に向けた意向に係る調査が来ており、関係各課で回答内容について協議を進めている。

<南相馬市における一体的実施に関する体制イメージ>

(資料)南相馬市提供資料より作成。

ページの先頭へ戻る

体制整備における課題・今後の事業展望

健診受診率向上に向けた取組

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の中では、健診結果より事業の対象者を抽出することが想定されている。しかし、南相馬市では震災後、健診受診数がいまだに震災前の水準にまで戻っていない。国保の特定健診も含め、健診受診率を向上させることが課題となっている。

ページの先頭へ戻る

医療機関との連携

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に関しては、医療機関との連携は欠かせないものの、南相馬市が位置する相双地区では、医療機関数も十分とは言えない。

健診結果から保健事業につなげるという動きを拡大したいものの、特定健診や後期高齢者の健診は現在ほぼ集団での実施であり、健診をはじめとした予防において個別の医療機関との関わりはほとんどない。今後予防という点において医療機関との連携体制をどのように構築していくかは課題である。

ページの先頭へ戻る

既存事業の拡充による一体的実施の具体的な事業予定

南相馬市では、既存の事業の中で、すでに一体的実施の核となる事業等は展開されている。ハイリスクアプローチに関しても、国保の被保険者に実施している糖尿病性腎症重症化予防の取組を後期高齢者へと対象を拡大する等の応用が可能である。

通いの場への医療専門職の関与

南相馬市では、住民サポーターの手を借りながら、地域住民主体による「週1サロン」が運営されている。

サロンの主な活動内容は、DVDを使った体操・体力測定・医療専門職等によるミニ講話となっている。体力測定や質問紙調査を年1回実施し、参加者の各種データの収集を継続的に行っている。

より多くの地区で週1サロンを実施をしてもらうため、市は未実施地区への働きかけとして体験会を実施したり、医療専門職が関わる等の活動支援を行っている。

運営支援をしてくれるサポーターの養成も市で行っている。

なお、体力測定の結果、体重が急に減少している等心配な人については、市の保健師が個別に声を掛け、市で実施している健康教室等への参加を促している。

糖尿病性腎症重症化予防の取組

南相馬市では、福島県の糖尿病性腎症重症化予防プログラムに準じて、南相馬市糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定し、令和元年度から地区担当保健師による訪問活動を開始した。

まずは国保の被保険者を対象としているが、中には治療中であってもHbA1cが10%を超える人もおり、訪問により適切な治療や良好な生活習慣につなげることの必要性を感じている。

健康状態不明者へのアプローチ

福島県では、平成30年度、広域連合がKDBシステムより健康状態不明者のリストを作成し、それに基づいて状況確認のはがきを送付している。

各市町村には、作成された対象者リストについて照会がかけられる。市では、住民基本台帳等を確認し、状況が把握できている場合には、はがきの送付対象から外すようにしてもらっている。