庁内外との連携を活かしたフレイル予防の推進と
医療専門職の効果的なアプローチ

千葉県柏市

【柏市の概要】

人口:424,920人(高齢化率:25.7%)(平成31年4月1日時点)

後期高齢者被保険者数:108,431人(平成31年4月1日時点)

後期高齢者1人あたり医療費:322,173円/年(平成28年度)

後期高齢者健診受診率:41.7%(平成30年度)

千葉県柏市

かしわインフォメーションセンター
公式キャラクター「カシワニ」
(フレイル予防バージョン)

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取組概要

庁内関係課のみならず、大学・独立行政法人とも連携した地域の健康づくりの推進

地域住民を主体としたフレイルチェック事業の展開

通いの場への専門職の積極的な関わりと、医療専門職の育成

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取組の経緯

柏市では、平成22年度に、柏市・東京大学・UR都市機構三者で「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」を設置し、地域包括ケアのあり方について検討を開始した。当時、①在宅医療の推進、②生きがい就労(高齢者の就労と社会参加)を2本柱としており、介護予防は検討対象ではなかったものの、首長をはじめ、庁内の関係する全ての課が参加した形での検討が始まった。

並行して東京大学が実施主体となり、平成24年度から2000人規模の追跡健康調査である「柏スタディ」が始まった。この健康調査の結果をもとに、フレイル予防プログラムが開発され、平成27年度からフレイルチェック事業を展開することになった。

また、柏市は平成27年度末より「柏フレイル予防プロジェクト2025」として、フレイル予防を主テーマとして市内外の関係者が参画する推進委員会を立ち上げた。事務局は、介護予防部門だけでなく、国保部門、衛生部門等、各部門が連携して推進している。

<柏市豊四季台地域高齢者社会総合研究会(三者研)これまでの取組>

(資料)柏市より提供。

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千葉県柏市における保健事業に関わる現状

庁内の体制

平成27年度末より開始した柏フレイル予防プロジェクト2025の体制図は下図の通りである。

保健福祉部内では、主に福祉政策課(保健・医療・福祉施策の推進担当)と地域包括支援課(介護保険制度の地域支援事業を所管)で協議および事業を推進している。福祉政策課は、各関係課の総合調整の役割を担っており、制度や支援の分断が生じないようにしている。

<柏フレイル予防プロジェクト2025 体制図>

(資料)柏市より提供。

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フレイル予防に向けた支援の状況

フレイルチェックの展開

柏市は、平成24年度に開始した「柏スタディ」の成果を踏まえて、平成28年度からフレイルチェック事業を開始した。

フレイルチェック[1]では、高齢者がフレイルを「自分事化(じぶんごとか)」し「気づき」を促進するために、①指輪っかテスト+イレブンチェック、②総合チェック[2]を行う。①では、ふくらはぎ周囲長のセルフチェックと栄養・運動・社会性に関するチェック項目に回答する。②では、口腔・運動・社会性など総合的観点から評価を行う。

フレイルチェックの実施場所は、介護予防センターや地域包括支援センターの他、サロン等の出前講座等であり、実績は年々増加している。

フレイルチェックの実施に際しては、地域住民自身が主体的にフレイル予防事業に関わってもらうことも意図して、一定の研修を受けた地域住民を「フレイルサポーター」として、健康づくりの担い手として活動してもらっている。

<フレイルチェックの実績とフレイルサポーターの養成実績>

(資料)柏市より提供。

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高リスク者のスクリーニングとアウトリーチ

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた試行的取組として、東京大学が実施する老人保健健康増進等事業「集いの場/通いの場における包括的フレイル総合評価による段階別アウトリーチ体制構築に向けての調査研究事業」の予算を活用し、高リスク者を抽出してアウトリーチ支援を行うプログラムを実施している。

<ハイリスク者のスクリーニングとアウトリーチの流れ>

(資料)柏市より提供。

フレイルチェックの結果を用いて、ハイリスク者を抽出する。抽出基準は、「イレブンチェックで赤シール8つ以上」かつ「『立ち上がり』『握力』『滑舌』に赤シール」としている。

初回は地域包括支援センターの保健師が訪問してアセスメントをおこなう。アセスメントの結果ならびにKDBシステムのデータから得られた健診・医療などの情報をもとに保健師が支援方針を作成し、医療介護多職種連携を目的に運用している情報共有システム(クラウドサービス)を用いて、関係する専門職(管理栄養士・歯科衛生士等)と情報共有を行う。

その後、管理栄養士等の医療専門職が支援方針(計画)に基づいて、専門的な視点でのアセスメントを行い、本人への動機づけと具体的な支援を行う。3か月後に地域包括支援センターの保健師が訪問して、事後のアセスメントを行う。

年間64回・合計で1000人ほどが実施しているフレイルチェックでは、毎回30人程度が参加するが、そのうちプログラムの対象者となるのは毎回1~2人程度である。

本プログラムにより、要支援となってからの支援ではなく、その前の段階からフレイル状態の人を発見できるような仕組みづくりを目指している。また、従来はフレイルチェックの中で健康状態に不安がある高齢者を把握しても、地域包括支援センターとの連携はフレイルサポーターの判断に委ねられ、体系立った支援は出来ていなかったが、本事業でハイリスク者に直接アプローチできるようになった。

管理栄養士・歯科衛生士等の専門職に関して、各職能団体と連携して派遣を依頼している。具体的には、栄養ケア・ステーション、市歯科医師会等と連携を取っている。在宅医療介護連携の取組の段階から各関係団体と関係性は出来ており、本プログラムの開始に際しても、スムーズに依頼することができた。

本事業は地域包括支援センターの保健師が中心として取組むこととしている。その理由として、①地域リハビリテーション支援事業を通して、専門職能団体と協働で地域活動展開を図っている基盤があること、②ハイリスク者の掘り起こしと地域活動へのマッチング、地域関係者との継続した見守り・支援体制構築等の観点から、適任であること、③地域づくりの担い手としての人材育成のねらい、がある。

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通いの場への関与

通いの場への専門職の関わり

柏市では、平成10年度から各町会・自治会を単位とした支えあい活動(サロン活動)の立ち上げを進めていた。各地域のサロンへ市や職能団体の専門職が出向き、健康づくり・介護予防活動に取り組んでおり、地域ぐるみでの展開の基盤ができていた。成果として、平成26年度末までに市内に170か所の通いの場が作られた。

通いの場への医療専門職の関与も既に実施しており、平成27年度から、2か所で試行的な取組を開始した。具体的には、地域包括支援センターの保健師等が通いの場に出向いて、ワンポイントアドバイスを行っている。また、通いの場からは、年に2回ほどミニ講座等の講師の派遣依頼を受けることもあり、職能団体から講師を派遣できるような連携・仕組みづくりを行っている。

これらの通いの場への関与により、地域住民と専門職は顔が見える関係になっており、日頃の関係性づくりができてきている。

また、医療専門職と民生委員とのネットワークもできており、各地域で様々なつながりを活かした連携体制が構築されている。

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医療専門職の育成について

地域包括支援センターの保健師の定例会議を実施しており、施策や情報共有を行っている。講師を呼んで研修を行うこともある。また、医療介護連携の取組の中でも研修を実施している。

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その他の取組

フレイル予防啓発広報活動

フレイル予防プロジェクト2025推進委員会にて、市民の認知度向上が課題であるとの意見があったことを踏まえて、様々な場面で「フレイル」を目にする工夫をおこなっている。

具体的には、柏駅前にフラッグや横断幕を掲出するほか、大型ショッピングモールなどでイベントを実施する、ウォーキングイベントでの広報活動を行う等に取り組んでいる。

<フレイル予防啓発広報活動>

(資料)柏市より提供。

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柏市フレイル予防ポイントの実施

市民の間でフレイルについて意識してもらい具体的な行動をとってもらうために、フレイル予防に資する活動やボランティア活動に参加した場合、事業者のポイントに交換して使えるような事業を計画している。

利用しやすさを考慮して、地域ポイントではなく、民間ポイントの導入を目指している。

<柏市フレイル予防ポイント スキーム図>

(資料)柏市より提供。

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取組の成果

フレイルチェックの実績増加や柏スタディなどの追跡調査の結果などを基盤として、フレイル予防ポイントやハイリスク者へのアプローチなど具体的な取組に結びついている。今後は、これらの取組を継続していくとともに、成果についてさらに検証していく予定である。

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取組の課題・今後の展望

一体的実施に向けた体制づくり・KDBシステムの活用

広域連合からの委託契約に向けての庁内準備に関しては、各課(介護部門・国保部門・衛生部門)の活動内容を共有している段階である。

国保部門における、医療データの分析と介護給付データとの連結、分析結果を踏まえたアウトリーチの取組等は現状不十分であると認識している。

柏市は、東京大学等と連携してデータ分析を行うなど、外部機関との連携が進んでいる。自治体の職員だけですべてのデータを集計・分析するのは難しいため、今後は、県や広域連合のバックアップにも期待している。

1^ 東京大学高齢社会総合研究機構が開発したフレイルの兆候をチェックするプログラムで、筋肉量や栄養・口腔機能等について、指輪っかテストや質問紙で測定する。

2^ 口腔機能、運動機能、社会性について、より詳細なチェック項目に回答してもらい、高齢者の状態を総合的に把握する。