データに基づく健康状態不明者の把握や
サロンへの医療専門職の関わり

愛知県蒲郡市

【蒲郡市の概要】

人口:80,430人(高齢化率:29.1%)(平成31年4月1日現在)

後期高齢者被保険者数:12,638人(平成31年4月1日現在)

後期高齢者1人あたり医療費:927,439円/年(平成30年度)

後期高齢者健診受診率:27.8%(平成30年度)

蒲郡市

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取組概要

戦略的な人事異動や統括保健師の配置による一体的実施に向けた体制整備

地域の通いの場への医療専門職の関わり

KDBシステムを活用した健康状態不明者の把握とアンケートを通じた対象者のフォロー

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取組の経緯

蒲郡市では、「健康がまごおり21第2次計画」の策定にあたり、平成25年度に、市の健康データを収集したところ、平成23年度の国民健康保険被保険者の特定健診の結果から、「メタボリックシンドローム該当率が県内1位」「特定保健指導終了率が県内最下位」など健康課題につながるデータが明らかになった。また、「人工透析者数(人口1万人比)が県内4位」や年々厚生医療費が増加している状況もあり、市民の健康状態が市の財政面へ影響するという危機感をもった。このような市民の健康に関するデータの分析を市長や幹部に示し、健康づくりの重要性について理解を求めてきた。その結果、平成25年度から健康づくりが市の重点施策に位置付けられ、全庁的に健康づくりを進めてきた。

国保特定健診の結果、HbA1cが高い者の割合が高く、人工透析者の人数も多いといった状況もあり、平成28年度から国保担当部署である保険年金課と衛生担当部署である健康推進課が連携して糖尿病性腎症重症化予防事業を展開している。

<蒲郡市の高齢化率>

(資料)蒲郡市より提供。

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庁内の体制

高齢者の保健事業と介護予防等の一体的実施に関連する主な部局は、健康推進課、保険年金課、長寿課で、同じ市民福祉部に組織される。

保険年金課と長寿課は市役所本庁舎内、健康推進課は建物の離れた保健センター内にあるが、連携体制をとっている。

保健師は健康推進課と長寿課に配置されており、保険年金課の保健師は健康推進課を兼務している。健康推進課長でもある統括保健師が組織横断的な連携や一体的実施に関する事業の企画に関わっている。

管理栄養士は健康推進課と保険年金課に配置されているが、保険年金課の管理栄養士は健康推進課にも席をもち、国保の保健指導等の業務を健康推進課と連携して実施している。

<蒲郡市の組織図>

(資料)蒲郡市提供資料より作成。

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KDBシステムの活用

KDBシステムを活用したデータ分析は、健康推進課及び保険年金課の保健師、管理栄養士が行っている。

蒲郡市では広域連合・国保連合会との契約により、健康推進課において医療・介護データの閲覧が可能であり、市が実施する75歳以上の後期高齢者の健診データを閲覧することも可能である。また、健康推進課の高齢者保健担当保健師は東三河広域連合 介護保険課 蒲郡窓口担当を兼務しているため、広域連合が保有する医療データも閲覧可能である。そのため、国保被保険者及び75歳以上の後期高齢者医療制度の被保険者の医療・介護・健診データの一体的な分析が可能となっている。KDBシステムから帳票CSVを作成し、集計することによって、健診の受診状況と医療の受療状況、さらには要介護認定の有無についても確認を行い、市内の後期高齢者の全体像を把握するよう努めている。

KDBシステム以外に、市の健康管理システム「健康カルテ」があり、世帯情報の確認も可能である。

一体的実施の地域の健康課題の分析にあたり、「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版」に基づき、KDBシステムを活用して、特定健診受診の有無と医療レセプトの有無を確認して健康状態不明者の把握を実施した。その結果、【健診なし×医療レセプトなし】は4.8%を占め、さらに、介護データも突合して分析したところ、【健診なし×医療レセプトあり】の人のうち約4割が要介護認定を受けていることも確認できた。

<KDBシステム帳票「後期高齢者の健診状況」>

(資料)蒲郡市提供資料より作成。

<KDBシステムからの保健事業対象者抽出・健診・医療・介護レセプトから見た状況>

(資料)蒲郡市より提供。

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高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた体制整備

医療専門職の配置

蒲郡市では、一体的実施と国保からの一貫した重症化予防の取組を踏まえ、平成31年4月に、これまで長寿課で地域支援事業で一般介護予防事業を担当していた保健師1人を健康推進課に異動とした。この体制整備により高齢者に対する保健事業と介護予防の一体的な実施に取り組みやすくなった。

令和元年度から実施している高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施は、健康推進課の保健師1名、管理栄養士1名(いずれも正職員)が担当し、地区の担当保健師も関わっている。また、健康状態不明者の家庭訪問については、健康推進課の常勤保健師に加えて臨時職員の保健師2名と一緒に行い、一人ひとりの健康状態の把握を行い、支援が必要な人については、内部で対応方法を検討をした。

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統括保健師を中心とした部署横断的な連携の推進

健康推進課の課長は統括保健師を担っており、組織横断的な連携や一体的実施に関する事業の組立を担っている。また、介護担当部署である長寿課や保険年金課の業務経験を活かしながら、事業を推進している。

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医師会をはじめとした関係者との事前調整

令和元年度に、高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施を始めるにあたり、蒲郡市医師会長と保健事業担当理事に事業概要について説明をするとともに、協力のお願いをした。

具体的には、通いの場において行う健康教育や健康相談、健康状態不明者への家庭訪問などの際、医療受診の必要があると思われる者がいた場合は、受診勧奨を行うこと、またかかりつけ医がいる場合については、連絡票を用いて情報連携を行うことを説明した。蒲郡市では、これまで糖尿病性腎症重症化予防事業やCKD対策において、保健指導連絡票を活用した医師会との連携が定着していたという基盤があったため、本事業においての理解は得られやすかった。

通いの場の決定にあたり、令和元年5月に、「蒲郡市地域包括支援センター長会議」に出席し、一体化実施についての事前の説明、一体的実施を行う通いの場の選定を行った。通いの場のリーダーへの取り次ぎ等の協力を求め、その後随時取組の進捗報告を行い連携を図った。

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高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施に向けた事業の具体的概要

高齢者の医療・介護・保健のデータを一体的に分析し、蒲郡市の高齢者の健康状況と健康課題を明確化し、高齢者の健康の保持増進と健康寿命の延伸を目的に以下の①~③の支援を実施した。

① KDBデータの分析から地域全体の健康課題を把握する。また健康状態不明者を把握し、必要なサービスに接続する。

② 専門職による介護予防教室などの通いの場での保健事業を一体化し、健康教育、健康相談、受診勧奨や保健指導等を実施する。

③ 地域全体で推進するための人材育成、連携づくりに努める。

これらを実現するための具体的な事業内容は以下の通りとなる。

1 KDBシステムを活用・分析し健康課題の抽出及び健康状態不明者への個別支援の介入

2 通いの場を活用した健康教育・個別相談

3 地域連携

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通いの場を活用した健康教育・相談

一体的な実施に向けた事業として、蒲郡市では、通いの場に保健師・管理栄養士・歯科衛生士等が出向きフレイル予防を中心とした内容で、令和元年10月~令和2年3月の期間中各5回(1回あたり1時間30分)健康教育と個別健康相談を行った。
1回目(10月):事業説明・問診、個別健康相談(全員)
2回目(10~11月):健康教育(栄養)、個別健康相談(個別相談対象者)
3回目(10~11月):健康教育(運動)、個別健康相談(個別相談対象者)
4回目(12月):健康教育(口腔)、個別健康相談(個別相談対象者)
5回目(3月):アンケート・質問票、個別健康相談(全員)

<通いの場の様子>

通いの場の様子
通いの場の様子

(資料)蒲郡市より提供。

長寿課および市内5か所の地域包括支援センターが把握している通いの場は120か所ほどあるが、まずは協力が得られやすいところから始めた。まず、地域包括支援センター長会議で関与場所の選定を話したが、初めての取組であるために実施場所がなかなか決まらず、最終的に担当する保健師が関わったことがある4か所に決定した。それぞれの通いの場のリーダーに事業趣旨の説明を行い、協力を求めたところ、計80名の参加者の協力が得られることとなった。

各サロンでの実施内容は共通とし、比較分析を実施することとしている。評価は、初回と最終回に参加者全員に行う後期高齢者の質問票と栄養に関するアンケート調査の回答結果、次年度の健診結果や医療レセプトの分析により実施する。

参加者の状態把握

通いの場の参加者の状態把握のために、名簿を作成し、健診結果(最新の受診年度と各種検査値、服薬の有無等)、世帯情報(独居、同居あり等)を確認し、関わる保健師、管理栄養士でカンファレンスを実施した。

通いの場に参加している者は健康への意識が高く、健康状態に問題がない人達だと予測していたが、質問票の回答内容や健診結果、レセプトデータなどを確認すると、健診未受診者や1年以上歯科受診をしていない者、質問票からも急激に体重が減少したり、硬いものが食べにくくなったという者もいた。フォローが必要と思われる参加者には、個別相談対象者とし、毎回個別相談で指導を行うなどの対応をしている。

他サービスへの接続

参加者名簿に登録されているにも関わらず一度も通いの場への参加がない人については、入院や施設入所等がないかなど、KDBシステムにて確認した。それでも状況が確認できない場合は地域包括支援センターで把握しているかを確認し、把握している場合は状況確認をしてもらうようにしている。

通いの場での関わりを通じて医療受診の必要があると判断される場合には、医療機関に連携することを考えているが、現在のところそのような参加者はいない。

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健康状態不明者へのアプローチ

地域の健康課題の把握のためにKDBシステムを活用することで、健康状態不明者が一定数存在することが明らかとなった。

そこで、健診・医療の受診状況を踏まえ、健診受診の有無及びレセプトの有無によって、それぞれ以下の対応をすることとした。対応方針は、優先度を考慮し、【健診なし×レセプトなし】の健康状態不明者への状況把握とアプローチに重点を置くこととした。要支援以上の要介護認定を受けている人は対象外とし、個人ごとに健康カルテで世帯情報や生存情報も確認したうえで、最終的に約190人にアプローチすることとした。

<4つの区分に応じた取組内容>

(資料)蒲郡市より提供。

健康状態不明者約190人に対しては、まずはアンケート調査(郵送)を実施した。「元気に人生を送るためのアンケート調査」と前向きなイメージで関心を引くようなタイトルとし、内容は「気になる自覚症状の有無」「病気の経験・治療中の病気」「かかりつけ医の有無」「自分の健康に関する相談をしたいか」といった設問に加え、後期高齢者の質問票をつけている。

アンケート調査の返信の方法は、郵送での提出のほか、健康相談会場や保健センターへの持参・提出も受け付けることとし、持参の場合は健康相談を行いながら、書面もしくは対面で健康状態を把握できるようにした。

その結果、約190人中53人から回答があり、健康状態等について確認した。

アンケート未回答者には、訪問健康相談、アンケート回答者のうち「自分の健康に関して相談することについて『相談したい』と回答した者」には、電話相談を実施する。

<蒲郡市 元気に人生を送るためのアンケート>

蒲郡市 元気に人生を送るためのアンケート
蒲郡市 元気に人生を送るためのアンケート

(資料)蒲郡市より提供。

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取組の成果

データに基づく関わり

これまで通いの場に保健師等が出向くことはあったが、健診やレセプトデータについての確認はしておらず、健康相談も単発での相談で終了することが多かったが、今回の一体的実施における通いの場の関与については、事前に参加者の状態を把握した上で関わることができるため、これまでと大きな違いがある。

保健師、管理栄養士等が関わることにより、健診未受診者への受診勧奨、健診結果の説明、生活習慣の改善を個別で実施することができ、参加者の健康づくりの推進につながるとともに、必要な人を医療機関や地域包括支援センター等につなぐことができるようになった。

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健康状態不明者への健診受診勧奨

健康状態不明者に対してアンケート調査を実施し、状況把握に努め、健康相談会場で調査票の提出を受け付けたところ、8会場で計7人から回答を得ることができた。この7人については健康相談会場で健康相談を実施し、健診受診票を再発行したところ、早速健診受診につながった事例もあった。

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取組の課題・今後の展望

通いの場の開拓と地域における継続的な取組への移行支援

現在実施している4か所の通いの場への関与は今年度で終了するが、関与した4か所の通いの場のフォロー体制として一定期間継続的に関与する場合は、関与する回数や内容を今後検討する必要があると考えている。市内には120か所の通いの場があることからも、取組を広げるためには、自主運営の状況に配慮しながら保健師、管理栄養士等が介入し、新たな通いの場への支援を開拓していくことを検討している。

今後、事業の実施結果や評価結果を取りまとめ、医師会や地域包括支援センターに報告する予定である。これらの情報を活用しながら事業の改善や関係者とのさらなる連携、通いの場の開拓を進めていきたいと考えている。

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糖尿病性腎症重症化予防事業による後期高齢者への効果

蒲郡市では国保事業において糖尿病性腎症重症化予防事業の取組を進めているが、後期高齢者の健診結果データをみると、国保保健事業において重症化予防事業に参加した者は、後期高齢者医療の対象になってからも重症化せずに状態が維持できている者が一定数おり、国保から75歳以降における継続的な支援の効果を実感している。

現在、蒲郡市で実施している糖尿病性腎症重症化予防事業は国民健康保険の被保険者である74歳までを対象としており、希望者のみ継続的な支援を実施しているが、今後は国保で重症化予防事業において保健指導を受けていた人については75歳以上になっても継続して対応していきたい。

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健康状態不明者への支援

今回、健康状態不明者に対してのアプローチを実施し、今まで把握していない対象者に対して介入を実施することができた。健康状態不明者の中には継続支援が必要となり、他の機関へつなげる必要があるケースが3割弱いる状態であり、なかには治療中断者もいる。治療中断者は重症化のリスクが高いため、医師と連携をとれる体制をつくり、支援していきたい。