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第1章 一般経済の動向
2024年の我が国の経済をみると、賃金と物価がともに上昇する中で、名目GDPは初めて600兆円を超え、実質GDPは4年連続のプラス成長となった。また、第Ⅱ四半期(4-6月期)には企業の経常利益及び名目設備投資額は過去最高を更新した。名目GDPの5割強を占める個人消費は、消費者物価の高い伸びが継続している中、持ち直しの動きがみられた。
本章では、GDPの動向、企業部門の動向、家計部門の動向について概観する。
第1節 GDPの動向
名目GDPは600兆円を超え、実質GDPは4年連続プラス成長
名目GDPの推移をみると、名目GDPは1973年に初めて100兆円を超えた後、1983年に300兆円を超え、1992年には500兆円を超える水準となった(第1-(1)-1図(1))。その後、それまで高騰していた株価や地価が一転して低下に転じたことなどをきっかけとして 、1990年代のGDP成長率は大きく落ち込み、2000年代まで500兆円前後が続いた。2010年代以降は、2019年まで年平均1.2%で名目GDPは増加し、2019年には約558兆円となった。2020年は、新型コロナウイルス感染症(以下「感染症」という。)拡大により名目GDPは大きく落ち込んだが、2022年には、感染症拡大前の水準まで回復した。2024年は、経済の自律的な回復が続いたことにより、第Ⅱ四半期(4-6月期)には年換算で600兆円を超え、第Ⅳ四半期(10-12月期)には約620兆円と過去最高となった(第1-(1)-1図(2))。2024年全体でみると、名目GDPは前年比3.1%増加し、約609兆円となった。
実質GDPは2020年から4年連続で増加したが、物価上昇の影響により、2024年の実質GDPは前年比0.2%成長し、名目GDPと実質GDPの成長率の差は2.9%ポイントであった。その要因について、GDPデフレーターの推移をみると、2021~2022年は円安の影響により輸入デフレーターがGDPデフレーターを大幅に押し下げたが、2023年以降は物価上昇が影響し内需デフレーターがけん引する形でGDPデフレーターが伸び、名目GDPと実質GDPの成長率の乖離が広がったことが分かる(第1-(1)-2図(1))。
また、経済全体の需給の過不足を示すGDPギャップの推移をみると、2020年の感染症拡大による急速な悪化はあったが、マイナス幅は縮小傾向にあり、2024年にはマイナス幅が0.6%となった。GDPギャップのマイナス幅が縮小傾向であるため、物価が低下していく環境にはないと考えられる(第1-(1)-2図(2))。
実質GDP成長率の需要項目別の寄与度をみると、2024年の第Ⅰ四半期(1-3月期)は、自動車認証不正問題1に伴う工場操業停止や令和6年能登半島地震の影響といった要因が重なり、個人消費や設備投資が落ち込んだことから、前期比0.3%の低下となった(第1-(1)-2図(3))。第Ⅱ四半期(4-6月期)は、堅調な夏のボーナスや、定額減税による可処分所得の押上げもあり、民間最終消費支出がプラスに転じたことから、前期比1.0%の上昇となった。第Ⅲ四半期(7-9月期)は、物価高が継続する中、台風による一部工場の稼働停止や巨大地震への警戒感などが経済活動を下押し2したが、所得環境の改善を背景に民間最終消費支出の回復が続いたことから、前期比0.2%の上昇となった。第Ⅳ四半期(10-12月期)は、設備投資の増加や輸入の減少により純輸出が3四半期ぶりに増加したことなどから、前期比0.6%の上昇となった。
第2節 企業部門の動向
企業の業況は改善が続く
企業の業況判断D.I. 3をみると、2024年は業況感の改善が続いており、日本の全企業数の大半4を占める中小企業については、年後半にかけて改善した(第1-(1)-3図(1))。企業の業況を産業別にみると、雇用者数の約8割を占める非製造業については、企業規模にかかわらず、インバウンド需要の回復等を背景に、1990年代以降で最高水準となった(第1-(1)-3図(2))。製造業については、第Ⅰ四半期(1-3月期)において、自動車認証不正問題による工場操業停止により、業況が4期ぶりに悪化したが、その後の自動車生産の反動増に加えて、世界的に半導体需要が回復したことから、業況の改善が続き、2024年第Ⅳ四半期(10-12月期)の業況は、2023年第Ⅳ四半期(10-12月期)より改善した。
企業の経常利益は過去最高を更新
企業の経常利益の推移をみると、企業規模にかかわらず経常利益は2021年以降増加し、2024年第Ⅱ四半期(4-6月期)に年換算で143兆円と、過去最高を更新した。2024年全体では前年差10.4兆円増加の114.9兆円で4年連続増加し、年単位でも過去最高を更新した(第1-(1)-4図(1))。企業の経常利益を産業別にみると、製造業については、一時的な円高の動きがみられた第Ⅲ四半期(7-9月期)は経常利益が減少したが、1年を通じてみると、円安を背景に高い水準で推移し、前年差4.1兆円増加した(第1-(1)-4図(2))。非製造業については、インバウンド需要の増加を背景に宿泊や飲食などのサービス業が好調に推移し、前年差6.3兆円増加した。
経常利益の変動要因をみると、2024年の主な増益の要因は、2023年と同様に売上高の増加であった(第1-(1)-4図(3))。減益要因は、2023年と同様に人件費要因であり、人手不足感の高まりや33年ぶりの高水準となった春季労使交渉の賃上げなどを背景に、多くの企業で賃上げの動きがみられたことが影響したと考えられる。この動きについて、人手不足が続いている中小企業の非製造業に着目すると、人件費要因が、減益要因として大企業より大きく寄与していることが分かる5(第1-(1)-4図(4))。
鉱工業生産指数は2024年全体ではほぼ横ばいで推移
鉱工業生産指数をみると、2024年は自動車認証不正問題の影響による工場操業停止の影響で、1月及び2月は弱含みとなった(第1-(1)-5図)。3月以降は工場停止が徐々に解除されたことや、世界的なシリコンサイクルの回復により、半導体製造装置を中心に、生産に持ち直しの動きがみられた。その結果、鉱工業生産指数は、2024年全体ではほぼ横ばいで推移した。過去10年間の推移をみると、2018年までは上昇傾向にあったが、2020年に大きく落ち込んだ。2021年は回復の動きがみられたが、半導体不足による供給制約などからその後再び低下に転じ、2024年は2020年と同水準であった。鉱工業生産指数の先行きについては、半導体需要は生成AI向けを中心として引き続き旺盛とみられるため、半導体製造装置の生産を中心に基調としては底堅く推移することが期待される。
設備投資額は過去最高を更新
設備投資額をみると、名目では、2024年は前年差4.7兆円増加の105.7兆円と過去最高となった(第1-(1)-6図(1))。四半期でみても、2024年第Ⅱ四半期(4-6月期)に105.8兆円となり、33年ぶりに過去最高を更新した。その後、2024年第Ⅳ四半期(10-12月期)には年換算で107.5兆円まで増加した。物価変動を除いた実質でみても、増加傾向が続いており、2024年は過去最高の92.5兆円となった。
名目設備投資額の形態別の推移をみると、生成AI等の急速な技術進展に伴い、ソフトウェアや研究開発等の知的財産生産物が急速に増加し、設備投資全体の増加基調をけん引している(第1-(1)-6図(2))。機械設備等については、半導体製造装置が好調であったことなどから、2024年第Ⅱ四半期(4-6月期)以降は伸びがみられた。
設備投資の動向の先行指標である機械受注額(船舶・電力を除く民需)の推移をみると、2023年以降、持ち直しの動きに足踏みがみられる状況が続いたが、2024 年第Ⅳ四半期(10-12月期)は製造業で持ち直しの動きがみられた(第1-(1)-6図(3))。
また、2024年9月調査時点の日本銀行「全国企業短期経済観測調査」に基づく 2024 年度設備投資計画(前年度比)と、財務省「法人企業統計調査」に基づく2024年度上半期の設備投資実績(前年度同期比)を比較すると、近年は、実績が計画の伸びを下回る状況が続いてきたが、2024年度については、非製造業の設備投資が堅調であったことから、上半期時点では、計画の10.1%に対し実績が7.8%と、計画と比べて遜色のない実績となっている(第1-(1)-6図(4))。設備投資計画は、2024年12月調査時点でも前年度比10.0%上昇と、9月調査時点と同様の水準であり、前年度比9.4%上昇と高い伸びだった2023年度から更に上昇する計画となっている。
企業の倒産件数は3年連続で増加
企業の倒産件数をみると、2019年までは8,000件台で推移していたが、感染症拡大時の急速な業績悪化への金融支援策であった「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」の効果により、2021年は6,030件まで減少した(第1-(1)-7図(1))。その後、経済社会活動の正常化が進み、ゼロ・ゼロ融資の民間返済が2023年7月から本格化する中で倒産件数は増加に転じ、2024年は倒産件数が前年差1,316件増の10,006件となり、11年ぶりに倒産件数が10,000件を超えた。その内訳をみると、負債総額が1千万以上1億円未満の倒産件数が前年差985件増であり、増加件数の大半を占めていたことが分かる。
また、人手不足関連倒産件数は過去10年間でみると増加傾向であり、人手不足関連倒産が倒産件数全体に占める割合については2023年に低下したが、再び上昇に転じている(第1-(1)-7図(2))。人手不足関連倒産の内訳をみると、「後継者難型」が最も多いが、「人件費高騰型」及び「求人難型」の件数が2022年から大きく増加している。
第3節 家計部門の動向
個人消費は持ち直しの動き
国内家計最終消費支出(以下「個人消費」という。)は名目GDPの5割強を占め、その動向は国内経済に大きな影響を及ぼす。個人消費の推移をみると、現金給与総額が増加する中、2024年の名目個人消費は前年差9.0兆円増加の326.9兆円と前年比2.8%増加し、持ち直しの動きがみられた(第1-(1)-8図(1))。
実質個人消費の伸び率の寄与度分解をみると、2024年は、第Ⅰ四半期(1-3月期)は自動車認証不正問題による工場操業停止や令和6年能登半島地震の影響により、自動車の販売等を含む耐久財の落ち込みがみられたが、第Ⅱ四半期(4-6月期)はその反動があり、耐久財が増加した。第Ⅲ四半期(7-9月期)は防災関連の備蓄需要から飲料等の非耐久財が増加したが、第Ⅳ四半期(10-12月期)は、パソコンや白物家電等を中心に持ち直しの動きがみられたことから耐久財が増加した(第1-(1)-8図(2))。2024年全体を通してみると、耐久財の増減は相殺されておおむねゼロであったが、サービス及び食料品等非耐久財が増加した。
消費者マインドを示す消費者態度指数は、2021年以降横ばい圏内で推移している(第1-(1)-9図(1))。2024年の月次の動きをみると、消費者態度指数は低下傾向となっている。消費者マインドのうち「家計が今後1年間の支出を考えるにあたって特に重視する要素」についてみると、過去10年間で、「今後の物価の動向」と回答した割合は2022年以降、約7割まで上昇している(第1-(1)-9図(2))。その背景として、物価が2%以上上昇すると予想した世帯の割合は2022年以降、約8割で推移しており、足下では物価の動向が消費者マインドの動向により大きな影響を与えていることが分かる。
個人消費は、マクロでみた賃金・所得環境の影響を受けるため、総雇用者所得6をみると、33年ぶりの高水準となった春季労使交渉の賃上げの影響や、ボーナスの増加、さらには雇用者数が緩やかに増加したことから、2024年の名目総雇用者所得は4年連続増加した(第1-(1)-9図(3))。実質総雇用者所得についてはプラス傾向で推移しており、賃金・所得環境の改善が個人消費の下支えに寄与することが期待される。
消費者物価指数は3年連続2%以上の上昇
消費者物価指数(総合)についてみると、2022年以降、伸び率が前年比でおおむね2%台で推移しているが、2024年11月以降は生鮮食品の伸び率が大きかったため、消費者物価指数(総合)は消費者物価指数(コア)及び消費者物価指数(コアコア)7よりも大きい3%前後の伸び率となっている(第1-(1)-10図(1))。生鮮食品の伸び率が平年を大きく上回って推移している理由については、冬物野菜を中心に、夏場の高い気温等の影響による生育不良が主な要因として考えられる。2010年代以降は猛暑日の急増や肥料価格の高騰などにより、生鮮食品の価格上昇率が他の財・サービスを上回る傾向にあり、今後も動向に注視する必要がある(第1-(1)-10図(2))。
生鮮食品以外の動向について、2024年の財・サービス分類による消費者物価指数(総合)の寄与度分解をみると、「電気・都市ガス・水道」は、原油価格がほぼ横ばいで推移していたものの、5月の「再生可能エネルギー発電促進賦課金」の単価の引上げに伴いプラスに転じ、その後、電気・ガスの激変緩和措置の終了等により上昇幅は拡大したが、8~10月まで電気・ガス料金の補助が行われたことから、9~11月にかけて上昇幅は縮小した(第1-(1)-11図(1))。「食料工業製品」は、円安傾向が落ち着いたことに伴い輸入物価指数がほぼ横ばいで推移したことにより、9月までは価格上昇幅が縮小してきたが、10月以降価格上昇幅が拡大に転じた。こうした動きや販売価格への転嫁が前年より進んだ8ことなどから、2024年の消費者物価指数(総合)の伸び率は前年比2.7%上昇し、1989~1991年以来の、3年連続前年比2%以上の上昇となった。(第1-(1)-11図(2))。
コラム1–1 サービス収支における「デジタル関連サービス」について
一定期間における海外との財・サービスの受払(貿易・サービス収支)や海外への投資に伴う受払(第1次所得収支)等で構成される経常収支は、我が国では長期的に黒字で推移しているが、その内訳は大きく変化してきた。経常収支は、財貨(物)の輸出入の収支を表す「貿易収支」、サービス取引の収支を表す「サービス収支」、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を表す「第一次所得収支」及び居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を表す「第二次所得収支」により構成される。黒字を長らくけん引してきた貿易収支は、2000年代後半、リーマンショック頃を境に構造が変化しており、2022年以降は赤字基調となるなど、常態的な黒字ではなくなっている(コラム1-(1)-1図)。
また、サービス収支については、2019年以前は1兆円前後で推移していた赤字が、2020年以降は年平均で▲3.9兆円の赤字となっており、2024年についても▲2.8兆円の赤字と、2010年代と比較すると赤字が拡大する傾向にある。サービス収支については、国際貨物、旅客運賃等の「輸送」、訪日外国人旅行者の宿泊費、飲食費等の「旅行」、証券売買等に係る手数料の「金融」及び特許権、著作権等の使用料の「知的財産権等使用料」等から構成される。ここで、日本政策投資銀行のレポート9を参考に、サービス収支の項目のうち、「著作権等使用料」「通信・コンピューター・情報サービス」、「専門・経営コンサルティングサービス」を「デジタル関連サービス」と定義し10、その動向を確認すると、サービス収支の赤字幅の主な要因が「デジタル関連サービス」の赤字幅によるものであることが分かる(コラム1-(1)-2図)。
「デジタル関連サービス」の収支をみると、2019年は▲3.9兆円だった赤字幅が、2024年には▲6.8兆円に達し、大幅に赤字幅が拡大している。AIの進展やDX化に伴い、クラウドサービス等のデジタル関連サービスの利用は進んでいるが、そのプラットフォームの多くが、外資系巨大IT企業等により提供されていることや、「専門・経営コンサルティングサービス」に区分されるインターネット広告の外資系企業のシェアが拡大していることなどを背景に、「デジタル関連サービス」の赤字幅が拡大している11と考えられる。
注釈
- 1一部自動車メーカーにおいて、国の認証を得ていない試験方法を用いるなどの不適切な行為が判明し、2024年初頭、対象車種の出荷停止や工場操業の一時停止が実施された。
- 22024年8月の日向灘地震を受けて、南海トラフ地震に関する臨時情報が気象庁から発表されたことで、旅行や外出などを控える動きがみられた。
- 3ここでいう業況とは、「回答企業の収益を中心とした、業況についての全般的な判断」をいい、選択肢として「良い」「さほど良くない」「悪い」がある。業況判断D.I.は、「良い」の回答社数構成比から「悪い」の回答社数構成比を差し引いて算出しており、例えば、業況判断D.I.が0を超えていれば、企業の収益等の業況が「良い」と感じている企業の方が「悪い」と感じている企業よりも多いことを示している。
- 4経済産業省「中小企業白書(2024年版)」によると、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」における中小企業の定義と異なることに留意が必要であるものの、中小企業は全企業の約99.7%を占める(2021年時点)。
- 5大企業の非製造業の経常利益の変動要因については、付1-(1)-1図を参照。
- 6「名目総雇用者所得」は、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の一人当たり現金給与総額に、総務省「労働力調査」の非農林業雇用者数を乗じて算出したもの。「実質総雇用者所得」は、「名目総雇用者所得」を物価要因で除して算出している。物価要因は、内閣府「国民経済計算」の家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化している。
- 7消費者物価指数において、「コア」とは「生鮮食品を除く総合」を指し、「コアコア」とは「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」を指す。
- 82024年の仕入価格D.I.と販売価格D.I.の差は縮小している(付1-(1)-2図)。
- 9日本政策投資銀行「拡大するサービス貿易と日本のデジタル赤字」(2024)。
- 10「著作権等使用料」にはスマートフォン等のOSやアプリケーションのライセンス料が、「通信・コンピューター・情報サービス」にはクラウドサービス料が、「専門・経営コンサルティングサービス」にはウェブサイト広告の広告料が含まれる。
- 11日本銀行「国際収支統計からみたサービス取引のグローバール化」(2023)。

