第Ⅰ部 労働経済の推移と特徴

2020年から続く感染症の影響が長期化する中で、2021年の日本経済は、感染状況を受けて一進一退の動きとなった。ワクチン接種の進展等の感染症対策に加え、感染症を踏まえた人々の暮らしや働き方、企業の事業活動が定着してきたことから、9月末の緊急事態宣言等の解除以降は、徐々に経済社会活動が活発化し、個人消費や企業収益に持ち直しの動きがみられた。しかし、経済社会活動の抑制措置が集中的に行われた「宿泊業,飲食サービス業」などの対人サービス業では厳しい状況が続き、産業ごとにみると様相が異なっている。
 2021年の雇用情勢は、緊急事態宣言等の発出が長期にわたって続いたことから、停滞した期間もみられたが、経済社会活動が徐々に活発化していく中で、就業者数や求人数に回復傾向がみられ、完全失業率は年平均で2020年から横ばいの2.8%、有効求人倍率は年平均で前年差0.05ポイント低下の1.13倍と底堅さがみられた。雇用情勢が徐々に持ち直していく中で、感染拡大前から続く人手不足の状況を背景に、多くの産業では再び人手不足の状況に転じており、新規求人も緩やかな回復傾向にある。一方、2020年に引き続いて転職者数の減少がみられたほか、長期失業者の増加や高年齢層での非労働力人口の増加といった感染症の影響もみられた。
 労働時間・賃金の動向をみると、感染症を踏まえた働き方や事業活動が広がる中で、労働時間や賃金は持ち直しがみられたが、現金給与総額の水準としては2019年の水準には戻っておらず、長期にわたって続いた経済社会活動の抑制措置の対象となった産業では厳しい状況がみられた。また、年次有給休暇の取得率の上昇や長時間労働者の割合の低下、いわゆる「同一労働同一賃金」によるパートタイム労働者の待遇改善など、「働き方改革」による取組の進展もうかがわれた。
 第Ⅰ部では、感染症の影響が長引いたものの、経済社会活動が徐々に活発化していく中で持ち直しの傾向もみられた2021年の一般経済、雇用・失業情勢、労働時間・賃金、消費・物価の動向について概観する。