「昭和100年企画」第1回 社会保障 ― 皆で作り、皆で使う「セーフティネット」

ー 昭和100年企画 全8回 ー



 

我が国は国民が主権を持つ民主主義国家であり、私たち国民は自由意思で職業など生計手段を選択することができます。国はそのために、経済や社会の安定、保健衛生の確保などの条件整備に務めます。しかしながら、私たち一人ひとりの国民生活には、山あり谷ありがつきものです。病気になったり、けがを負ったり、仕事を失ったり、事業に失敗したり、様々な事情で生活の安定が脅かされることがあります。家族、親戚、知人、隣人で助け合おうにも、どうにもならない苦境があることでしょう。

そんなときでも、暮らしが破綻したり生活困窮に陥ったりすることがないように、社会全体で行われる“助け合いの仕組み”があります。これを「社会保障」といいます。あるいは、社会の「セーフティネット」(安全網)という言い方をすることもあります。
 

利害を越えて合意形成、時代にあわせてアップデート

社会保障の仕組みは、大雑把にいえば、「こういう状況に陥った人には、こういう手助けをしよう」というルールを決めておいて、条件に当てはまれば、必要な支援が速やかに発動されるというものです。体系のあり方は国ごとに異なりますが、我が国の社会保障は大きく分けて次のような特徴があると考えます。
 
①国民の誰もが経験する可能性のある共通の危機や生活課題に対して、皆であらかじめお金を出し合っておくなどして必要な財源を用意し、何かあればそこから支出して、必要な支援を受けられるようにする

②それでも生活困窮を免れない国民に対して、国の責任として健康で文化的な最低限度の生活を維持する方策を講じる


ただ、制度をどう仕組むか、またそのための財源を誰がどう負担し合うか、支援のお金やサービス(仕組みのうえでは「給付」といいます)をどう割り振るかなどは、様々な年齢層や人によって考えが異なるところでもあり、簡単にまとまる話ではありません。今日の社会保障制度の成り立ちに当たっては、国会などで熟慮を重ねてできるだけ多くの国民が納得できるように仕組みを設計し、時代に合わせて必要なアップデートを重ねてきた、これまでの経緯があります。
もちろん、完全な制度というものはありませんし、社会保障もたくさんの課題を抱えています。
 

昭和100年の社会保障制度

2025年は「昭和100年」に当たります。振り返れば、今日の社会保障のベースは主に昭和初期に作られました。そこで、本連載ではこの100年を5つの時代に区切って、時代の変遷とともに社会保障がどう形作られてきたか、どう見直されてきたかを振り返ることとします。それによって「揺りかごから墓場まで」と言われる社会保障制度を、次の100年、さらにそのまた次の100年へとつないでいくためには何が必要なのかを考える参考になることと思います。
 

※本記事は、厚生労働省が中央法規出版(株)に委託し、中高生から高齢者まで幅広い層向けに作成したものです。